decision:外国法人に対する発信者情報開示請求の仮処分
弁護士法人港国際グループのウェブサイトにて、以下のような告知がされていた。
当事務所の最所弁護士がFC2.Incに対する発信者情報開示の仮処分決定を得ました。 FC2.Incは,日本国内でのブログサービスシェア上位を占める「FC2ブログ」等のサービスを行っているインターネットサービスプロバイダですが,本社が米国ネバダ州にあり,同社サービスの利用者が名誉毀損等を行った場合,管轄の問題で裁判手続を行うことが困難でした。 今般,平成23年に新設された民事訴訟法3条の3第5号の規定(同24年より施行)に基づき,東京地方裁判所に対して発信者情報開示の仮処分を申立て,裁判所より仮処分命令を得たことで,FC2に発信者情報開示を行わせることができました。
上記で引用されている民事訴訟法3条の3第5号とは、以下のような内容だ。
(契約上の債務に関する訴え等の管轄権) 第三条の三 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。 (中略) 五 日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法 (平成十七年法律第八十六号)第二条第二号 に規定する外国会社をいう。)を含む。)に対する訴え 当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるとき。
表記が分かりにくいので、パラフレーズすると、日本において事業を行う外国の会社に対しては、その会社の日本における業務に関して訴えを提起しようとする限り、日本の裁判所に管轄権があるということだ。
日本において事業を行う外国会社といっても、多くの著名な会社は日本国内に事務所を有している。日本国内に事務所や営業所があれば、その事務所や営業所の業務に関する限り、日本の裁判所の管轄は認められる。これは民訴法3条の3第4号に規定されているもので、明文化される前から承認された考え方だった。
しかし本件で問題となっているFc2は、日本国内に事務所・営業所を持っていなかったので、これでは日本の裁判所に訴えを提起できなかった。
そこで、上記の5号が明文化されたことで、今回、日本の裁判所に管轄権が認められたわけである。
Fc2が日本語サイトで日本人向けのホスティングサービスを実施し、多数の顧客を継続的に掴んでいることなどから、日本において事業を行なっていると評価することは当然だと解される。
議論の余地があるとすれば、発信者情報開示請求訴訟が、Fc2の日本における業務に関する訴えといえるかどうかだが、通常想定されている「業務に関する訴え」は、Fc2の業務に関して生じた債務の履行を求めたり、債務不履行責任を追及したりといったことである。この意味では、特殊な法定の請求権である発信者情報開示請求権が、Fc2の業務に関する訴えとはいえないと解する余地もある。
しかし、別の意味で、発信者情報開示請求権はまさにFc2のホスティングサービス業務に付随して生じた権利義務であり、業務起因性の意味を当該業務に特有の事情から発生した法定の請求権も含むと解すれば、5号の管轄原因が認められるといえよう。
後者の解釈の方が分かりやすく素直だと思われる。
なお、仮処分の管轄は本案訴訟の管轄権に従うので、その点では問題がない。仮処分要件の、特に保全の必要性がどう基礎づけられたかは興味があるところだが、不明である。
本件は仮処分命令により、任意に開示がされたということなので、執行が困難という点も問題とはならなかった。
そういうわけで、とことん争われれば、依然として困難な道であろうが、ともかく管轄という入り口の困難は突破できたということである。
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