FRAUD:児童ポルノで告発詐欺
毎日.jpに「告発詐欺:急増 「児童買春」と文書送付、現金を要求」という記事が載っている。
要するに、「児童ポルノを購入しただろう」と因縁をつけ、警察に言われたくなかったら金をよこせという、かなり古典的な恐喝行為だ。
ネタ元は国民生活センターということで、センターのウェブを見てみると、該当の話は5月2日付けで出てくる。
「アダルトDVDや児童ポルノ等の購入者を告発する」という手紙にご注意!
報道発表資料pdf
で、この報道発表資料に出てくる条文というのが、以下のようなものだ。
これと、実際の条文と比較してみよう。
児童ポルノ法第七条 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3項以下略
刑法第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。 2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
いずれも、児童ポルノまたはわいせつ文書等の「所持」で処罰されるのを、提供または有償頒布の目的で、という限定が付せられている。
これに対して上記の恐喝文書には、そうした文言が巧みに消されている。
児童ポルノ禁止法の方は、条文そのものの引用という体裁をとっていないが、刑法の方は、わざわざ目的限定のところを外して、条文を改変して、単純所持でも刑事罰が科されるかのように偽装しているのだ。
これは高度な法律知識の持ち主の仕業としか言い様がない。よくある詐欺の、笑っちゃう適当文言とは異なり、普通の人を騙すのには全く必要がないが、ある意味で正確性を追求する姿勢が見て取れる。
しかも、このように目的限定を外した単純所持を処罰するように改正すべきかどうかは、目下の検討課題であり、アグネス・チャンが前面に出た団体とか、諸外国の要人とかがしきりに主張している点だ。
こうした事情にも通じている者が、この告発ネタを書いたのだろう。そのようなことに手を染めそうな人を想像してみると、あまり好ましい事態にはたどり着かないので、これ以上の詮索はしないでおくが、嫌な予感はする。
さて、児童ポルノの単純所持が処罰されるようになると、この恐喝行為はまた一歩、信ぴょう性を増し、攻撃力を高めることになる。例えば「あなたの閲覧履歴をプロバイダのDPIにより解析した結果、あなたのPCには児童ボルノ画像が蔵置されている疑いが高まりました。このままでは強制捜索・逮捕の恐れがありまする。つきましては金よこせ」的なメールを送るとか。あるいはもっと確実な方法としては、あらかじめ児童ポルノ画像を迷惑メールで送りつけておいて、散々無料サンプルを見させた挙句、「警察にバラされたくなければ反省しろ、反省金をよこせ」的なメールを送るとか、そんな恐喝が現実のものとなろう。
立法がまだできる前から恐喝ネタにされる児童ボルノ単純所持の処罰化、立法されたらとても危なそうだ。
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コメント
俺の得意な訴訟を利用した恐喝よりマシだ。
投稿: 青木きわむ | 2012/06/03 11:55