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2012/04/29

arret:消滅時効の進行に権利の認識が必要か?

一昨日の研究会では、時効の第一人者である松久先生が、このブログでも以前に紹介したことのある最高裁判決を題材に報告された。

arrets:関西興銀事件上告審判決

今読み返すと、事案はあのAIJ投資顧問のケースを想起させる。

信用協同組合が自らの経営破綻の危険を説明すべき義務に違反して出資の勧誘をしたことを理由とする出資者の信用協同組合に対する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効が,遅くとも同種の集団訴訟が提起された時点から進行するとされた事例

この事件、契約締結前の段階での説明義務違反は債務不履行とはならないとし、他方不法行為責任はあり得ても損害および加害者を知った時から3年が経過しているから消滅時効にかかるというのである。

騙された出資者はまことにいい面の皮というところだが、問題は時効の起算点で、最高裁は以下のように判示した。

民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味すると解するのが相当である

具体的事実としては、この信用協同組合に対して別の集団訴訟が平成13年には提起されている。またその年には、処分をした金融再生委員会委員長の談話や、金融整理管財人の報告書が明らかになっており、それらに照らして「実質的な債務超過の状態にありながら,経営破綻の現実的な危険があることを説明しないまま上記の勧誘をしたことが違法であると判断するに足りる事実」を、平成13年段階で認識していたという。従って遅くとも平成13年末には、「損害および加害者を知った」といえるというわけである。
 これに対して原審は、集団訴訟の中で、経営破綻を隠して投資を勧誘したことの刑事事件としての記録が提出されたのが平成16年であり、その時をもって「不法行為を構成することをも知った時」に当たるとして、時効は未完成だとした。

最高裁と原審とは一般論でも微妙に違う。
原審は「不法行為を構成することをも知った時」が起算点。
最高裁は「害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時」という。

松久先生の解説では、この一般論の違いはそれほど大きな結論の違いに結びついていないのではないか、いずれにしても一般人を基準とした認識可能性が認められたかどうかであり、そのための事実の評価が異なるということであった。

まあ何れにしても、AIJ投資顧問事件については既に消滅時効の進行が始まっているというべきであろう。被害者は適時に損害賠償を請求しなければならない。

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