trial:被災地の裁判員裁判はムリ、じゃどうする?
刑事裁判は専門外だが、訴訟制度には違いがない。
常識的に言って、被災地で司法機能が麻痺すれば、停止するか、移送すれば良い。
裁判員裁判が始まってから初めての広域的な大災害だが、これで裁判員法を一時停止するなどの発想が出てくるというのは、もともと裁判員裁判はやりたくないという本音の発露だろう。
大震災の影響で、東北地方で裁判員裁判の再開のめどが立っていない。裁判員候補者の中には家を失った人や、東京電力福島第1原発事故で県外に避難した人も多い。新たに選任するにも、呼び出し状が候補者に届かないケースが考えられるためだ。検察からは「裁判員法の一時停止も検討すべきでは」との声が上がっている。 各地裁への取材によると、公判が延期となったのは、仙台で3件、青森で1件、福島と郡山支部で3件、水戸で2件の計9件。盛岡、秋田、山形の3地裁では、裁判員裁判の予定がなかった。水戸は6月に再開する。
何も無理に被災地での裁判にこだわることはない。迅速な裁判を受ける権利は、被告人にとっても保障されるべきことなので、何時までも停止しておくことはできない。そこで刑事訴訟法には以下のような規定がある。
第17条 検察官は、左の場合には、直近上級の裁判所に管轄移転の請求をしなければならない。 一 管轄裁判所が法律上の理由又は特別の事情により裁判権を行うことができないとき。 二 地方の民心、訴訟の状況その他の事情により裁判の公平を維持することができない虞があるとき。 2 前項各号の場合には、被告人も管轄移転の請求をすることができる。
刑事訴訟法には馴染みがなく、手元に資料もないのでこれが正しい条文かどうか、今ひとつ自信がないが、おそらく「特別の事情」に震災による事件処理困難が該当するだろう。
裁判員裁判制度の一時停止などといった極端なやり方の前に、こちらが筋である。
ちなみに民事訴訟法にも、不定期間の障碍による中止(130条、131条)のほか、17条移送は可能と考えられる。
(遅滞を避ける等のための移送) 第十七条 第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。
ただし、この規定は災害を想定したものではないので、当事者の利益を全く無視して良いということにはならない。
裁判所としては、当事者の管轄地に対する利益と、事件処理をすすめる利益とを勘案し、少なくとも当事者側に事件処理を中止させておくことに異議がなく、遠隔地での事件処理に不都合が大きいのであれば、移送は差し控えるべきだ。むしろ当事者から移送を申し立てられ、両当事者の衡平を大きく害さないと認められる場合に限って、移送すべきである。
刑事訴訟でも、被告人の裁判地に対する利益が観念できようが、印象としてはあまり重大な利益とは扱われていないようにも思う。重大事犯を対象とする裁判員裁判では、身柄事件が多いだろうから、なおのこと裁判地の変更は被告人の利益を大きく損なうことはなさそうである。
ただし、証人等の所在地は考慮しなければならないが。
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