jugement:メール削除が証拠隠滅とされた事例
証拠隠滅罪とか偽証罪で有罪とされるのは珍しいのだが、特に電子メールの消去が証拠隠滅とされた事例が報じられていた。
朝日.com:長女殺した罪に問われた妻からのメール削除、夫に有罪
1歳3カ月の長女を殺害したとして起訴された妻からの「殺した 首しめた」との携帯電話メールを削除したことについて、夫が証拠隠滅の罪に問われ、2011年3月2日、東京地裁は懲役1年執行猶予3年の判決を言い渡した。
大善文男裁判長は「メールは事件の経緯や動機を示す重要な証拠で、責任は軽視できない」と述べた。
この被告人は、妻の公判前証人尋問での偽証も訴追され、それが合わさって上記の判決となったものである。
関係する刑法の規定は以下の通りである。
(証拠隠滅等)
第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(偽証)
第百六十九条 法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。
しかし、法学部で学んで法的センスを身につけた人々は、なんか変だなぁと思うところだろう。たしか、家族の間では犯罪を見逃してもいいんじゃなかったか、家族の間の情というものに対して厳格な法律遵守を求めるのはおかしいんじゃなかったかと。
こういうセンスをそれぞれの常識の中に付け加えるのが市民教育としての法学教育の意義でもある。
そういう目で上記法条の周辺を見てみると、以下のような条文が見つかる。
(親族による犯罪に関する特例)
第百五条 前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。
前2条というのは、105条の前にある2ヶ条のことで、上記の104条が対象となる。要するに妻が犯人とされる犯罪の証拠を夫が妻のために隠滅しても、105条によれば「刑を免除することができる」ことになっている。
同旨の規定は盗品譲受に関する256条についても257条で規定されている。
しかし、偽証罪については規定がない。妻のために偽証しても免除はされないのである。その代わり、証言拒絶権があるので、ウソをついてはいけない、ウソをつくくらいなら証言しなくて良いというのが法律の姿勢だ。
刑事訴訟法第147条 何人も、左に掲げる者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。
一 自己の配偶者、三親等内の血族若しくは二親等内の姻族又は自己とこれらの親族関係があつた者
(以下略)
そういう法律の規定を頭に入れて、もう一度冒頭の記事を読み直すと、よく分からないところがある。
夫は、証拠隠滅と偽証で訴追され、執行猶予付き懲役刑を言い渡されたのだが、証拠隠滅の罪は免除されて偽証だけであの量刑となったのか、それとも刑法105条は「刑を免除することができる」とあるので、免除するかしないかは裁量に委ねられ、結局このケースでは免除されなかったのか、いずれかは記事からは明らかでない。
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