振り込め詐欺救済法の余剰金38億円
民事的な権利回復を刑事手続や行政手続を通じて実現する制度の一つの典型ともいえる振り込め詐欺救済法だが、それによって確保された被害金が半分しか分配されないでいる。
asahi.com:振り込め被害者に38億円戻らぬまま 凍結の口座から
金融庁によると、口座を使った詐欺などの被害を回復させる「振り込め詐欺救済法」が施行された2008年6月以降、金融機関が凍結した預金口座は約16万件。返金の対象となる1千円以上の残高があった口座は5万件で、残高の総額は約73億円だった。そのうち被害者から返金の申し出があったのは約35億円にとどまる。返金手続きが始まって2カ月以内に被害者から申し出がなかった場合、残額は預金保険機構に納付され、犯罪被害者の支援に使われる。8月末時点で約38億円が預保に納付されているという。
この振り込め詐欺救済法、基本的な構造はこちらのサイトに概要図があるが、単純化してまとめると、以下のような手順である。
被害者の振込
↓
被害者が銀行や警察に被害を届け出る
↓
銀行が振り込まれた口座の払い出しを凍結
↓
預金保険機構が口座の失権を公告
(60日以上の期間経過後に失権)
↓
預金保険機構が被害者への分配を公告
(30日以上の期間で分配手続開始)
↓
被害者の債権届出(分配金支払申請)
↓
分配案の確定
↓
分配金支払い
振り込め詐欺により振り込まれた口座の名義人がこれに異議を述べれば、さらにその異議が正当かどうか、問題となるし、分配金支払申請が口座の残高を超えれば、被害者に全額支払うことはできず、按分比例となりうる。
そういう方面の心配に基づいて制度を作ったのだが、ふたを開けてみれば口座残高の平均半分しか被害者が名乗り出なかったというわけである。
ちなみに、被害者に対する公告は、こちらのページで行われている。
公告スケジュール
公告
この公告のページにスケジュールのように書いてある四角をクリックすると、公告が現れる。
一番下の方から新しい情報になっているが、今年度の第12回、第11回、第10回はいずれも被害者の支払申請がなく、全額が預金保険機構に納付予定となっている口座と、被害者の支払申請に全額分配して余剰が出る口座とがある。
今年度の第10回では、8500万円の口座残高に対して5300万円の被害者への分配が公告されており、それなりに役立っているが、それでも2000万円以上が余剰金となって預金保険機構へ納付することになっている。
また、第8回では、多くの口座名義人から権利行使の届出、すなわちこの口座は自分の口座で正当なものだという届出があり、これに基づいて犯罪に利用された口座ではないという公告がなされている。(その後の支払手続にもある)
こうしてみると、振り込め詐欺救済法の複雑な仕組みもそれなりに役立っている。
問題は、公告の仕方だ。
振り込め詐欺に引っかかって振り込んでしまうという人の属性、傾向をプロファイルして、その行動様式に適合的な通知の仕方をしなければならないのではないか?
単にホームページに情報を載せる、それも上記のリンク先にあるような、ちょっと見ただけではどれを見たらよいか分からない、中を見ても被害者が自分に関係あると認識できるとは思えない情報が載っているだけでは、被害者救済にはつながらない。
余剰金は、被害者の個人個人に伝わる情報伝達の方法を研究し、実践するのに用いるのがよい。
| 固定リンク
「法律・裁判」カテゴリの記事
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- 民事裁判IT化:“ウェブ上でやり取り” 民事裁判デジタル化への取り組み公開(2023.11.09)
- BOOK:弁論の世紀〜古代ギリシアのもう一つの戦場(2023.02.11)
- court:裁判官弾劾裁判の傍聴(2023.02.10)
- Book:平成司法制度改革の研究:理論なき改革はいかに挫折したのか(2023.02.02)
コメント