decision:取り調べDVDの開示命令
被疑者の取り調べ状況を記録したDVDの開示命令である。
面白いのは主文で、開示に付けられた様々な条件である。
1 検察官に対し,平成20年1月25日及び同年4月28日撮影に係る被告人の取調状況を撮影したDVD各1枚を弁護人が謄写する機会を与えることを命じる。
2 謄写について以下の条件を付する。
(1) 謄写枚数は各1枚とする。
(2) 謄写に係るDVDのデータを複写して更にDVDを作成し,又は,パソコンのハードディスクに複写して記録するなどの一切の複写をしてはならない。
(3) 謄写に係るDVDを再生するに際しては,インターネット等により外部に接続したパソコンを使用してはならない
(4) 弁護人において,被告人甲に対する本件被告事件の弁護活動が終了し,かつ,謄写に係るDVDを後任の弁護人に引き継がないときには,速やかに,謄写に係るDVDのデータを消去しなければならない。
このうち特に争いがあったのは、(4)であり、検察官は後任の弁護人に引き継ぐ場合も一旦消去せよと主張し、弁護人は再審請求のことも考えて消去しないで保管させるべきだとした。
裁判所は、事件が強姦致傷で被害者の氏名も述べられていること、調書にくらべてビデオはインパクトが大きいことから、その内容が外部に流出した場合は被告人や事件関係者らのプライバシーが著しく侵害されるし回復も困難だと指摘し、またデジタルデータであることから流出の可能性も大きいことを指摘し、主文の通り、弁護活動終了後で他の弁護士が引き継がない場合の消去義務を設定した。
特に流出の危険については以下のように述べられている。
ところで,昨今,公的機関や一般企業等の保有するデータ情報がインターネット等を通じて外部に流出する事態が多数発生し,大きな社会問題となっていることは公知の事実であり,しかも,ひとたび電子データがインターネット等を通じて外部に流出した場合,その影響が短時間に拡大する可能性が大きいことはいうまでもない。このような事態は,何者かが意図的に外部に流出させる場合に限らず,いわゆるスパイウェアやWinnyなどのファイル交換ソフト等により,使用者の意図しないままに外部に流出する場合にも多く見られるところである。
そうすると,本件DVDは,その性質上,インターネット等を通じてその内容が外部に流出したり,影響が拡大する危険性が,供述調書等に比べても格段に大きいということができる。
この認識は極めて常識的で是認できる。
情報セキュリティのCIAになぞらえていうならば、機密性と可用性との調和点というところである。
ただし、それでも問題があるのは、将来の検証に必要な資料を廃棄してしまうという点だ。
訴訟記録の類についても、ナショナルアーカイブ制度が是非とも必要なのである。デジタル情報が法廷に現れるようになり、ますます必要性が高まってきたと思う。
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