ウクライナのネオナチが自国のトップ「言語ナショナリスト」を殺す理由(抄訳)
2024/07/26のアンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。少しだけ補足した。2024/07/19、ロシア語を話すアゾフ大隊の隊員は本物のウクライナ人ではないと発言したファシストのイリーナ・ファリオン元国会議員が、同じファシスト仲間に殺害されたが、彼女はウクライナ西部のウクライナ語話者のナチスの感情を代弁したに過ぎない。
Why’d A Ukrainian Neo-Nazi Just Kill Their Country’s Top “Linguistic Nationalist”?
ウクライナのファシストがファシスト仲間に殺害される
2024/07/19、「ウクライナ自治革命的人種主義者(Ukrainian Autonomous Revolutionary Racist/UARR)」と名乗るネオナチ組織が、同じくファシストであるイリーナ・ファリオンを暗殺したと主張した。
ファリオンは元国会議員であり、悪名高い「言語ナショナリスト」であり、2023年11月に、アゾフ大隊のロシア語話者の隊員は本物のウクライナ人ではないと発言したことが国軍を中傷したことに当たるとしてSBU(ウクライナ保安庁。つまりウクライナ秘密警察)の捜査を受けていた。
犯行組織の声明はウクライナのメディアによって報道されているが、声明動画はファリオンを「破壊者且つ人種的裏切り者」と呼んでいる。「破壊者」と云うのは恐らく図らずもウクライナ軍の分断を招いたスキャンダルを指しているが、「人種的裏切り者」と云うのは、彼女がアフリカ人にウクライナ語を教えていたことを指していた。彼等はまた「マイダン(・クーデター)後に国を売った者全員を処罰する」ことを誓っており、彼女がこの点で有罪と判断されたことを仄めかした。
UARR は「国家社会主義/ホワイトパワー」グループと関係が有ると言われているが、先述のウクライナ・メディアは、それがロシア諜報機関によって運営されていると云う陰謀論的な推測を行っている。
だが、こんな説は頭がおかしい。これはウクライナのファシスト達が自分達の著名人の一人を殺害したと云う事実から目を逸らす為に言われているだけだろう。
またキリル・ブダノフGUR長官は、犯人達が何等かの形でロシアと関係が有ることを強く仄めかした。ロシアは「我が国を分断する為にあらゆる手段を使おうとする」のだそうだ。
ウクライナ分断の現実
だが現実にウクライナを分断したのは、2014年に西洋が支援した一連の都市テロとそれに関連したクーデター(所謂「ユーロマイダン」)であり、これらはウクライナを修復不可能なまでに分断した。これによりロシアを敵視するファシスト勢力が台頭したが、その結果クリミア人はウクライナから離脱してロシアとの再統一を望む様になり、その後ドンバスに住むロシア系住民も同じ様な流れを辿った(彼等はミンスク合意によってウクライナに留まる代わりに自治領としての地位を約束されたものの、結局これは空約束だった)。その後キエフの支配下に置かれたロシア人少数派は多くの権利を剝奪され、二級市民として扱われた。
2023/11/09と11/20、キエフ当局はウクライナ国内にロシア人少数派など存在せず、その権利は侵害されるべきだと主張したが、実際には依然として多数のロシア人が国内に存在している。2024/07/12の報道ではキエフの公用語保護委員が、多くの学童が未だにロシア語を話していると嘆いているし、2024/02/26にはル・モンドが、前線の兵士達もロシア語を話しており、軍は現在、彼等にウクライナ語を教えてこの状況を変えようとしていると報じている。
これらの部隊の大部分は自らの意志に反して強制的に徴兵された者達だが、一部には志願兵も居る。そして改宗者の熱意は生まれながらの信者に比べて、自分の信仰を証明する為に強くなりがちだと云うことを覚えておこう。言い換えれば、ウクライナ国内でロシア人としてのアイデンティティを維持するのではなく、ウクライナ人としてアイデンティティを確立することを決めたロシア人は、元々のウクライナ語話者に比べて過激化し易い。
従って、ファリオンの攻撃に深く腹を立てた者が居たとしても不思議ではない。彼女は彼等のアイデンティティを否定したのだ。
犯人はロシア語話者のナチスか?
07/25になって、ドニプロペトロウシク出身のヴャチェスラフ・ジンチェンコと云う18歳の男性が逮捕された。声明を書いたのが彼なのか、彼が単独で行動したのかは、また彼がその出身地から推測される様にロシア語を母語とするのかは現時点では不明だ。
この分析では、ファリオン殺害の背後に居るのは、ロシア語を話すウクライナ人、或いは自分達をウクライナ人だと認識しているロシア系住民だと云う説を提示しているが、この点をもう少し深く解説しよう。
SBUは、この過激化した少数派に妄想を楽しませておくことの戦略的重要性を理解している。何故ならそうすることによって、「ウクライナではロシア人は抑圧されていない」と云うメッセージを送ることが出来るからだ。ウクライナ人になると決めてしまえば、それらのロシア人はそもそも存在しなくなる。それどころか彼等の中には、ロシア人を殺す選択した人も居る。彼等は大義を信じて戦場に放り込まれる使い勝手の良い捨て駒になる。
だからこそSBUは、ロシア語を話すアゾフの隊員は本物のウクライナ人ではないと言ったことについて、ファリオンを調査することにした。このカラクリについて外部に秘密が漏れてはまずいことになるからだ。
平均的なウクライナのファシストは、民族的・言語的アイデンティティについて排他的な見解を持っているので、ファリオンの発言に同意するだろうが、ウクライナ人に改宗したロシア人はウクライナ人とは誰であるかについて比較的包括的な見解を持っている為、同意しないだろう。
彼等の憎悪に満ちたイデオロギーを詳しく説明することはこの分析の範囲を超えているが、簡単に言うと、2014年以来、ウクライナのロシア人達は、ウクライナ人こそが「真のロシア人」であると吹き込まれて来た。つまり現代のウクライナの住民こそが旧キエフ大公国の真の相続人であり、モスクワの指導の下、何世紀にも亘って失われて来た国家の領土を再集結させることに成功した同胞の東スラブ人はそうではないと云うのだ。そしてウクライナのウルトラ・ナショナリスト達は自分達が「純粋なスラブ人」であると主張する一方、ロシア人(彼等は軽蔑的に “Muscovites”と呼ぶ)は、フィンランド人、タタール人、その他の集団との混血が多過ぎて、スラブ人とは言えないと主張する。
ファリオンは(ウクライナ西部のガリツィアの田舎に住む)ファシスト仲間達が信じていることを代弁したに過ぎない。彼等は(主にウクライナ東部の工業地帯に住む)ロシア人やロシア語を話すウクライナ人、更には自分達をウクライナ人だと思っているロシア語話者さえ見下している。
従って、ウクライナ語話者の誰かがファリオンを殺害した可能性は低く、犯人は彼女が見下していた人々の誰かである可能性の方がずっと高い。18歳のジンチェンコは単なるカモだ。彼等は「ウクライナ人よりもウクライナ人らしく」なろうとしているが、ウクライナ西部のファシスト達にとっては、彼等はロシアと戦わせる為の捨て駒に過ぎない。
Why’d A Ukrainian Neo-Nazi Just Kill Their Country’s Top “Linguistic Nationalist”?
ウクライナのファシストがファシスト仲間に殺害される
2024/07/19、「ウクライナ自治革命的人種主義者(Ukrainian Autonomous Revolutionary Racist/UARR)」と名乗るネオナチ組織が、同じくファシストであるイリーナ・ファリオンを暗殺したと主張した。
ファリオンは元国会議員であり、悪名高い「言語ナショナリスト」であり、2023年11月に、アゾフ大隊のロシア語話者の隊員は本物のウクライナ人ではないと発言したことが国軍を中傷したことに当たるとしてSBU(ウクライナ保安庁。つまりウクライナ秘密警察)の捜査を受けていた。
犯行組織の声明はウクライナのメディアによって報道されているが、声明動画はファリオンを「破壊者且つ人種的裏切り者」と呼んでいる。「破壊者」と云うのは恐らく図らずもウクライナ軍の分断を招いたスキャンダルを指しているが、「人種的裏切り者」と云うのは、彼女がアフリカ人にウクライナ語を教えていたことを指していた。彼等はまた「マイダン(・クーデター)後に国を売った者全員を処罰する」ことを誓っており、彼女がこの点で有罪と判断されたことを仄めかした。
UARR は「国家社会主義/ホワイトパワー」グループと関係が有ると言われているが、先述のウクライナ・メディアは、それがロシア諜報機関によって運営されていると云う陰謀論的な推測を行っている。
だが、こんな説は頭がおかしい。これはウクライナのファシスト達が自分達の著名人の一人を殺害したと云う事実から目を逸らす為に言われているだけだろう。
またキリル・ブダノフGUR長官は、犯人達が何等かの形でロシアと関係が有ることを強く仄めかした。ロシアは「我が国を分断する為にあらゆる手段を使おうとする」のだそうだ。
ウクライナ分断の現実
だが現実にウクライナを分断したのは、2014年に西洋が支援した一連の都市テロとそれに関連したクーデター(所謂「ユーロマイダン」)であり、これらはウクライナを修復不可能なまでに分断した。これによりロシアを敵視するファシスト勢力が台頭したが、その結果クリミア人はウクライナから離脱してロシアとの再統一を望む様になり、その後ドンバスに住むロシア系住民も同じ様な流れを辿った(彼等はミンスク合意によってウクライナに留まる代わりに自治領としての地位を約束されたものの、結局これは空約束だった)。その後キエフの支配下に置かれたロシア人少数派は多くの権利を剝奪され、二級市民として扱われた。
2023/11/09と11/20、キエフ当局はウクライナ国内にロシア人少数派など存在せず、その権利は侵害されるべきだと主張したが、実際には依然として多数のロシア人が国内に存在している。2024/07/12の報道ではキエフの公用語保護委員が、多くの学童が未だにロシア語を話していると嘆いているし、2024/02/26にはル・モンドが、前線の兵士達もロシア語を話しており、軍は現在、彼等にウクライナ語を教えてこの状況を変えようとしていると報じている。
これらの部隊の大部分は自らの意志に反して強制的に徴兵された者達だが、一部には志願兵も居る。そして改宗者の熱意は生まれながらの信者に比べて、自分の信仰を証明する為に強くなりがちだと云うことを覚えておこう。言い換えれば、ウクライナ国内でロシア人としてのアイデンティティを維持するのではなく、ウクライナ人としてアイデンティティを確立することを決めたロシア人は、元々のウクライナ語話者に比べて過激化し易い。
従って、ファリオンの攻撃に深く腹を立てた者が居たとしても不思議ではない。彼女は彼等のアイデンティティを否定したのだ。
犯人はロシア語話者のナチスか?
07/25になって、ドニプロペトロウシク出身のヴャチェスラフ・ジンチェンコと云う18歳の男性が逮捕された。声明を書いたのが彼なのか、彼が単独で行動したのかは、また彼がその出身地から推測される様にロシア語を母語とするのかは現時点では不明だ。
この分析では、ファリオン殺害の背後に居るのは、ロシア語を話すウクライナ人、或いは自分達をウクライナ人だと認識しているロシア系住民だと云う説を提示しているが、この点をもう少し深く解説しよう。
SBUは、この過激化した少数派に妄想を楽しませておくことの戦略的重要性を理解している。何故ならそうすることによって、「ウクライナではロシア人は抑圧されていない」と云うメッセージを送ることが出来るからだ。ウクライナ人になると決めてしまえば、それらのロシア人はそもそも存在しなくなる。それどころか彼等の中には、ロシア人を殺す選択した人も居る。彼等は大義を信じて戦場に放り込まれる使い勝手の良い捨て駒になる。
だからこそSBUは、ロシア語を話すアゾフの隊員は本物のウクライナ人ではないと言ったことについて、ファリオンを調査することにした。このカラクリについて外部に秘密が漏れてはまずいことになるからだ。
平均的なウクライナのファシストは、民族的・言語的アイデンティティについて排他的な見解を持っているので、ファリオンの発言に同意するだろうが、ウクライナ人に改宗したロシア人はウクライナ人とは誰であるかについて比較的包括的な見解を持っている為、同意しないだろう。
彼等の憎悪に満ちたイデオロギーを詳しく説明することはこの分析の範囲を超えているが、簡単に言うと、2014年以来、ウクライナのロシア人達は、ウクライナ人こそが「真のロシア人」であると吹き込まれて来た。つまり現代のウクライナの住民こそが旧キエフ大公国の真の相続人であり、モスクワの指導の下、何世紀にも亘って失われて来た国家の領土を再集結させることに成功した同胞の東スラブ人はそうではないと云うのだ。そしてウクライナのウルトラ・ナショナリスト達は自分達が「純粋なスラブ人」であると主張する一方、ロシア人(彼等は軽蔑的に “Muscovites”と呼ぶ)は、フィンランド人、タタール人、その他の集団との混血が多過ぎて、スラブ人とは言えないと主張する。
ファリオンは(ウクライナ西部のガリツィアの田舎に住む)ファシスト仲間達が信じていることを代弁したに過ぎない。彼等は(主にウクライナ東部の工業地帯に住む)ロシア人やロシア語を話すウクライナ人、更には自分達をウクライナ人だと思っているロシア語話者さえ見下している。
従って、ウクライナ語話者の誰かがファリオンを殺害した可能性は低く、犯人は彼女が見下していた人々の誰かである可能性の方がずっと高い。18歳のジンチェンコは単なるカモだ。彼等は「ウクライナ人よりもウクライナ人らしく」なろうとしているが、ウクライナ西部のファシスト達にとっては、彼等はロシアと戦わせる為の捨て駒に過ぎない。
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