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イエメンのフーシとは何者か? 彼等は何故紅海でイスラエル関連の船舶を攻撃するのか?(抄訳)

2024/01/08のベン・ノートン氏の解説動画の要点を纏めてみた。フーシ派についてだけでなく、2015年以来続くイエメン戦争や湾岸地域全体の状況を理解する上でも参考になる。日本語圏ではシリア同様、これを「内戦」などと呼んで、侵略者の加害者責任を曖昧にする無責任で恥知らずな解説しか出回っていないので、少しでも参考になればと思う。
Who are Yemen's 'Houthis'? Why are they attacking Israel-bound ships in Red Sea?




紅海封鎖の背景

 西洋大手メディアはフーシ(フーシ派、フーシ運動)のことを完全に歪めて描写しているので、誤解を正しておかねばならない。

 先ず背景として、イエメンの人口の80%は、北イエメンの革命政府の支配下で生活している。

 フーシは正式名称をアンサララ(アンサール・アッラー/Anṣār Allāh)運動と言い、革命政府の主要な政治勢力だが、他の派閥も存在する。

 イスラエルは西洋諸国の支援を受けてパレスチナ人に対するジェノサイドを実行しているが(厳密に言えばこれは2023/10/07から始まった訳ではないが、再び飛躍的に激化した)、イエメンの革命政府はパレスチナ人への連帯の意を示す為に、イスラエルに対して海上封鎖を課そうとしている。紅海を通ってイスラエルに補給を計画している船舶にはどんなものであれ攻撃を加えると警告し、実際に度々攻撃を繰り返しているのだ。

 これは経済的に甚大な影響を齎す。紅海が使えないとなれば、地中海へ抜けてヨーロッパへ行きたい船舶は南アフリカの喜望峰まで遠回りしなければならない。革命政府軍がバブ・エル=マンダブ海峡を封鎖すれば、自動的に紅海の反対側のスエズ運河も使えないことになるが、世界の輸送コンテナの約30%はこの運河を通過する。これは世界の全商品の貿易総額の12%に相当する。
The Bab el-Mandeb Strait

 12/19に米軍がこれに慌てて、封鎖を打ち破る為の海軍連合を創設すると発表したのはこの所為だ。


フーシとは何者か?

 西洋大手メディアはフーシを、民兵組織でありイランの代理勢力であると説明しているが、これは真っ赤な嘘だ。
 
 先ず「フーシ」と云うのは西洋での名称であって、指導者にフーシ族の出身者が多かったことからこの名が付けられたが、先に述べた様に正式名称はアンサララ運動だ。

 アンサララ運動を担っているのはイラン人ではなくイエメンに元々住んでいるイエメン人であり、ペルシャ語ではなくアラビア語を話す。

 そしてこの運動は、イランが仕掛けたものではなく、米国のドローン戦争、米軍のイラク侵略、西アジアに対する米国の数々の介入に対抗する目的で、自発的に発生したものだ。
 
 ワシントンの主流シンクタンク、ブルッキングス研究所の説明(著者は元CIA分析官)に拠ると、アンサララ運動の起源は地元の人民運動であり、部分的には2003年の米軍にイラク侵略により、イエメン北部に拠点を置く文化的・宗教的グループが政治的な関与を深めることになったことに端を発している。

 そしてこの記事は「イエメン人が最も憎む隣国(サウジアラビアのこと)」を米国が6年以上に亘って支援しており、これにより「空爆、封鎖、意図的な大量飢餓」が引き起こされて来たと述べているが、この結果、アンサララに対するイエメンの人々の支持が高まることになった。

 この記事またはフーシが「他のグループの代表達を含む」「機能する政府を樹立した」こと、そして「イエメン人の約70~80%がフーシの支配下で暮らしている」ことを認めている。


 西洋大手メディアはフーシは圧政を布いていると主張しているが、実際には彼等は人民から多大な支持を受けている。2014/09/21に彼等は首都サナアを掌握して政権を樹立したが、この日は毎年祝われている。また度々開かれている大規模なパレスチナ連帯デモの光景を見ても、非常に多くのイエメン人が政府のパレスチナ連帯政策を支持していることは明らかだ。
Big Breaking: Huge Massive Houthi Rally in Yemen: Aerial Views of Solidarity for Palestinians |News9


 アンサララは単なる民兵組織などではなく、事実上の北イエメン政府だ。そしてイエメン人民の大多数から支持を受けており、社会主義者やナセル主義やナショナリストの政党とも連携していて、専制政治を行っている訳ではない。そして各省庁を運営し、社会サーヴィスを提供し、軍を保有している(彼等の多くは政府樹立後に加わった)。イエメン人の大多数の生活を維持し守っているのは彼等なのだ。



分断されているイエメン国家

 現在のイエメンは事実上、2つの国に分断されている。北イエメンと南イエメン(地図を見れば判る様に、実際には北と南と云うより西と東に分けた方が判り易いので紛らわしい)は1990年に統一されたが、現代の政治的分断線は殆どその時の国境線に近い。地図を見れば南イエメンの方が遙かに広い様だが、この領土の殆どは無人地帯で、イエメン人口の約3/4は北イエメンに住んでいる。


 国連が現在イエメンの代表と認めているのは、形式的には南イエメン政府なのだが、これは西洋諸国がそう押し付けた結果であって、国連を牛耳っている米国は如何なる変更も許そうとしない。「国際的に認められた南イエメン政府」なるものの実態はサウジアラビアの傀儡政権であって、前大統領を務めた独裁者アブド・ラボ・マンスール・ハディはサウジアラビアに住んでいて、南イエメンには住んでいない。彼はイエメン人からも屢々「サウジの傀儡」と呼ばれており、正統性の非常に疑わしい人物だ。

 2022年に彼を権力の座から引き摺り下ろし、別の傀儡を任命したのもサウジだ。この件を報じたウォール・ストリート・ジャーナルの記事はハディのことを「選挙で選ばれた大統領」と説明しているが、2012年の大統領選挙の時、候補者は彼だけだった。有権者達には彼以外の選択肢が与えられていなかった訳で、これは「国民に選ばれた大統領」などと自慢出来る様なものではない。

 現指導部の面々はサウジとUEAに居住しているが、両国はそれぞれ南イエメンの政治家・民兵・部族等を買収して影響力を競っている。

 南イエメン政府は主にUAEと米国から支援を受けている分離主義勢力である南部暫定評議会に支配されている。彼等はサラフィー主義の過激派だが、イスラエルを支持し、イスラエルからも支持されている(イスラエルはハマスも支援して来たので、イスラエルはイスラム過激派とは不倶戴天の敵同士であると信じている人は認識を改める必要が有る。)。そして北イエメンと戦う為にイスラエルの支援を求めているが、先にも指摘した様に、これはイエメン全体の人口の僅か20%を代表しているに過ぎないので、全くのお笑い草だ。

 米国政府や西洋大手メディアがフーシをイランの傀儡だと主張するのは、つまり自分達のことを相手に投影しているのだ。自分達が傀儡である「国際的に認められた」南イエメン政府を操ってイエメン全土を支配しようとしているのに、実は寧ろ敵の方に正統性が有るなんてことになれば、非常に困った立場に置かれることになる。だから盛んに、敵には正統性が無いと言い立てるのだ(朝鮮半島の南半分に傀儡政権を押し付けた米国が、選挙で成立したDPRK(北朝鮮)をソ連の傀儡だと言い張った様なものだ)。



『イエメンの為の戦い』

 フーシについては、サウジのジャーナリストによる『イエメンの為の戦い』と云うドキュメンタリーが参考になる。これは革命委員会の指導者達にインタビューを行ったものだが、それに拠ると、フーシが人民から篤く支持されているのは、彼等が反腐敗キャンペーンを行って腐敗した当局者達と戦っているからだ。

 またフーシはアル=カイダや他のスンニ派過激組織(ムスリム同胞団等)の攻撃の標的にされているが、アル=カイダはフーシを異端だとして敵対視している。

 フーシはザイド派に基盤を置いており、これはシーア派の分派なので、サウジや西洋がこれがフーシがイランの傀儡である証拠だと主張している。が、これは党派的プロパガンダによってフーシに対する偏見を強めようとする試みでしかない。実際にはザイド派はシーア派の中でも最も主流のスンニ派に近い。フーシは宗派的にはイランとは少し立場が違うのだ。

 アンサララの指導者達に拠ると、「ザイド派の信仰の中核には、不正な支配者には反抗すると云う原則が存在する。」(第2次)イラク侵略の後、彼等は「ザイド復興主義と反帝国主義、反米アジェンダを結合した急進的理論」を普及させ始めた。

 アンサララはイランから支援を受けていると西洋では主張されている。それは事実だが、指導者の一人の証言に拠れば、支援は精神的(政治的・道徳的)な性格のものであって、財政的支援や軍事的支援は受けていない。彼は「道徳的支援を受けられるなら、私はヴェネズエラのチャベスも支持するだろう」と発言している。米国やシオニストがイランからの支援にしつこく拘るのは、この闘争を党派間のものだと見せ掛けたいからに他ならない。

 従って、アンサララ運動は確かに宗教によって鼓舞されてはいるが、そのベースには圧政者から自国を解放することを目指すナショナリズム、反帝国主義が有るのであって、これはラテンアメリカ諸国の抵抗運動が解放の神学によって鼓舞されたのと同じことだ。彼等は宗教的原理だけに基付いて闘争を行っている訳ではなく、根本的にはイスラエルの植民地主義、米国の帝国主義、そして西アジア地域で度々繰り返される侵略に抵抗しているのだ。

 アンサララはイランの傀儡などではなく、イランから確かに精神的支援は受けているが、これは新植民地主義に対して自発的に発生したナショナリズム的抵抗解放運動だ(傀儡と言うなら寧ろイスラエルが西洋の傀儡だ)。宗教は彼等のアイデンティティーの一部ではあるがその全てではなく、圧政者に対する闘争に人々を駆り立てる要素として偶々宗教が機能しているに過ぎない。だから宗教とは全く関係無い社会主義を掲げるチャベスから触発されることも有る。イエメンでもレバノンでもパレスチナでも、根本的には起こっていることは同じなのだ。



イエメン戦争の真相
 
 だからこそ米国や西洋の大国諸国はサウジやUAEを支援して、ジェノサイド戦争を起こさせてイエメン人を殺しているのだ。その目的は、北イエメンの革命政府を転覆させて、傀儡政権に置き換えることだ。

 国連の報告では、2015〜2021年の間に、イエメンでは377,000人が殺害されているが、何故これ程の殺戮が必要とされたのか。

 先にも述べた様にこの戦争が始まる前の2014/09/21、アンサララはサウジの傀儡独裁者ハディを打倒して新たな政府を作った。

 これに対する対応として、2015年3月、サウジは米英仏の支援を受けて、故意に民間目標を狙った残忍な爆撃キャンペーンを開始した。焦土作戦によって人為的に飢餓が引き起こされ、何十万人もが殺害された。

 だが英国の主流メディアのガーディアンは、「サウジは我々抜きではやれなかった」とする記事で、この戦争は米英仏がサウジとUAEを支援したからこそ可能になった事実を認めている。戦争の目的は、アンサララ革命運動が西洋の新植民地主義にとって脅威となるので、これを取り除いてイエメンを再植民地化し(イエメンが地政学的に世界で最も重要な場所のひとつに位置していることを思い出そう)、革命が地域の他の国々にも広まることを防ぐことだ(サウジ国内にすら、迫害を受けている少数派のシーア派が存在する)。つまりこれはサウジとUAEを代理に使った西洋によるイエメン侵略戦争なのだ。

 イエメン戦争は米国では超党派で支持されている。これを始めたのは戦争屋のオバマだが、その後のトランプもバイデンも戦争支援を継続させている。中でもトランプは米国史上最も親サウジ的な指導者で、彼は2019年に支援の中止を求める決議が議会で可決された時、拒否権を発動してこの決議を無効化させた。この時この決議に従って米国がサウジ支援を止めていれば、戦争は継続不能になっていただろう(ウクライナやガザの場合と同じだ)。MAGA支持者の中にはトランプは戦争に反対する大統領だと信じている人も居るが、彼はこのジェノサイド犯罪に最大の責任を負っているし、その上彼はその後イランとイラクの平和の使者達を暗殺し、シリアを不法占領している米軍による石油等の資産強奪を強化している。この3人はどれも非人道的な戦争屋だ。

 2018年、国連はイエメンが地球上で最悪の人道危機に陥ったと発表した。それに拠ると、イエメン人口の約3/4(2,200万人以上)が緊急に人道支援と保護を必要としており、この内1,130 万人が子供で、イエメンの略全ての子供達がこの危機の影響を受けている。これは間違い無く、西洋政府の手による、恐るべき人道に対する罪だ。



反帝国主義の希望

 紅海封鎖を始めてから、フーシに対する支持は地域全体に広まりつつある。NYタイムズの記事に拠ると、ガザでの戦争によって西アジア地域の市民達の間でイスラエルと米国に対する怒りが湧き起こっており、怒りの矛先は米国の支援を受けたそれぞれの国の政府にまで及んでいる。そして人々はイスラエルに挑戦する数少ない地域勢力のひとつとして、フーシに声援を送っている。他の勢力は厳しい言葉で批判はするが、それ以上の行動に出てパレスチナ人を支援したりジェノサイドを止めようとはしていない。

 イエメン人の或る医療支援要員はこう語った:「アンサララは我々に尊厳を齎してくれました。彼等は西洋の植民地主義に対して反撃しているからです。」

 フーシは自らを「イエメン軍(Yemen armed forces)」と呼んでいるが、実際、彼等はイエメン軍だ。その事情は上で説明した通りだが、NYタイムズを含め西洋のプロパガンダ・メディアは、フーシこそがイエメンの事実上の政府であることを読者に知らせない。

 国際危機グループもまた西洋のプロパガンダ機関のひとつだが、このイエメン人のアナリストでさえ、フーシが非常に人気が有ることは認めざるを得ない。「人々は私がイエメン出身だと知ると非常に興奮し、直ぐにフーシについて、彼等が如何に勇敢かについて話し始めます。」 そして「フーシの様なアクターは、彼等が西洋の覇権と見做すものに挑戦する唯一の希望」なのだ。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
2022年3月に検閲を受けてTwitterとFBのアカウントを停止された為、それ以降は情報発信の拠点をブログに変更。基本はテーマ毎のオープンスレッド形式。検閲によって検索ではヒットし難くなっているので、気に入った記事や発言が有れば拡散して頂けると助かります。
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