イラク侵攻20周年:イラクのホロコーストで500万人が死亡(要点と補足)
ギデオン・ポリア博士の記事。ユダヤ人のホロコースト(510万〜580万人が死亡)と比べても遜色の無い、私達の目の前で起こってはいるが殆どの人が気が付いてはいない、イラクのホロコーストについての解説。
Iraq Invasion 20th Anniversary: 5 Million Dead In Iraqi Holocaust
この要約記事を書いた後で、ラテンアメリカの革命的大衆闘争さんが全訳を出して下さっていたのを見付けたので、そちらも紹介しておく。
イラク侵略20周年:イラクでのホロコーストで500万人の死者
米英豪によるイラク侵略(第二次イラク戦争)の開始は2003/03/20と云うことになる。だが1990年以降、米国がイラクに引き起こしたジェノサイドでは、合計で約500万から550万人が死亡したと推計される。
「ジェノサイド」は、国連ジェノサイド条約によって定義されている。
「ジェノサイドとは、国民、民族、人種、または宗教グループを全体的または部分的に破壊することを意図して行われる次の行為の何れかを指す:
1)特定集団構成員を殺害すること。
b)特定集団構成員に深刻な身体的または精神的危害を与えること。
c)全体的または部分的に物理的な破壊を齎すと計算された生活条件を特定集団に対して故意に課すこと。
d)特定集団内での出産を防止する為の措置を課すこと。
e)特定集団の子供達を強制的に別の集団へ移すこと。
戦争と占領による死亡は、暴力によって引き起こされたものと、暴力の結果としての欠乏によって引き起こされたものの双方を含む。子供が暴力(爆弾、銃弾、殴打)によって死のうが、生命を維持する為の必需品(食べ物、飲料水、薬)が欠乏した為に死のうが、加害者はその死に対して同等に責任を問われる。
暴力による戦争中の死亡は往々にして評価が困難だが、欠乏による回避可能だった筈の死亡は、比較人口統計データから推定することが出来る。
引き起こされた欠乏による回避可能だった死の責任は、第4ジュネーヴ条約(戦時に於ける民間人の保護に関するジュネーヴ条約)の第55条と56条で規定されている。占領国は被占領者に対して、生命を維持する為の食糧と医療の必需品を「利用可能な全ての手段を用いて」提供する義務を負っている。これは特に9.11後、米英仏とイスラエルによって度々違反されて来た。
イラク人に対する西洋のジェノサイドは、厳密に言えば1914年に大英帝国が石油と帝国の覇権が目的でイラクに侵攻したことによって始まっている。以来109年間に及ぶホロコースト(暴力と欠乏による殺害)の概要を以下に列挙する。
a)英国の支配または覇権(1914〜1950年):400万人。
大英帝国によるイラク侵略の野心は、1908年に隣国イランで石油が発見されたことに端を発している。チャーチルは、既に支払いが済んでいた筈の英国の戦艦を押収することで、オスマン帝国をを第一次世界大戦に追い込んだ。大英帝国統治下のイラク人の超過死亡率をインド人のそれと同等と仮定すると、剝奪による回避可能な死は合計で約400万と推計出来る。
b)湾岸戦争(1990〜1991年)と制裁期間(1990〜2003年):190万人。
湾岸戦争(1990〜1991年)と制裁期間(1990〜2003年)の暴力的な死と、暴力によって引き起こされた欠乏による回避可能な死の合計は、それぞれ20万人と170人。制裁期間中、米英とイスラエルの空軍はイラクのインフラを爆撃し、欠乏による大量死を引き起こした。1996/05/02のインタビューで、マデレーン・オルブライト国連大使は制裁によって50万人の子供が死亡したことについて問われて、「やる価値は有った」と答えたが、これは米国がジェノサイドを認めた稀有な事例だ。
Remembering the legacy of Madeleine Albright in Iraq
c)イラク戦争(2003〜2011年):270万人。
イラク戦争(2003〜2011年)に於ける暴力による死亡者数は150万人と推定されている。国連人口局のデータは同期間の戦争に起因する欠乏により、更に120万人のイラク人が避けられたはずの死を遂げたことを示してる。これらを合計すると270万人になる。
ここまでで、1990年から2011年までの間の暴力(170万人)と戦争に起因する欠乏(290万人)によるイラク人の死亡者数は合計460万人に上る。
d)イラク戦争以降(2011年〜):40万人。
米軍は2011年に表向き撤退したが、翌年には直ぐ戻って来て、約10万人のイラク人を暴力によって殺害した。国連のデータでは、2011〜2020年の間に欠乏によって約30万人のイラク人が死亡した。これはシリアでの展開と連動しており、米国はイラクとシリアのイスラム過激派ISISを支援することで、それを口実に軍隊を違法に駐留させ、両国のバルカン化を行った。
e)イラクのホロコースト:合計500万人(1990年〜)または900万人(1914年〜)。
1914年の英国によるイラク侵攻以来、英米の暴力と欠乏によって死亡したイラク人は合計900万人。1990年以降に限れば500万人となる。これには米国が支援したイラン・イラク戦争のイラク側の死亡者は入っていない。これは国連で定められているジェノサイドの要件を満たしている。
f)別の推計:360万人(2003年〜)、550万人(1990年〜)、950万人(1914年〜)。
直接世論調査に基付く別の推計では、2003〜2011年の暴力による死亡者数は150万人。ISISの反乱に対応して起こった2011年以降の暴力では10万人。合計160万人が暴力によって死亡している。他方国連人口局の人口統計データに基付くと、制裁による欠乏で2003〜2023年の間に約200万人が死亡している。この数字に従って計算し直すと、合計死亡死者数は2003年以降は360万、1990年以降は550万、1914年以降は950万と云う数字が導かれる。
イラクのホロコーストの主要な加害者(米英豪)は、全て国際ホロコースト記念同盟(IHRA)の加盟国だが、この同盟の35のメンバーについては以下のことが言える:
1)全て欧州人である。
2)欧州以外の5ヵ国(アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、イスラエル、米国)は全て、先住民族のジェノサイドに基付いて建国された。
3)9ヵ国は第二次大戦中、ナチスドイツの同盟国だった。
4)4ヵ国(米英仏+イスラエル)は核保有国。
5)28ヵ国はNATO加盟国。
6)14ヵ国は5世紀以上に亘って先住民族の残忍な征服とジェノサイドに関与していた。
7) 核兵器禁止条約を批准しているのは2ヵ国(オーストラリアとアイルランド)だけ。
8)4ヵ国以外全加盟国が、2022年の国連総会の反ナチ決議に反対票を投じた。
IHRAが定義する「反ユダヤ主義」の中には、例えばイスラエルのアパルトヘイト政策を批判する等、寧ろ反差別的と言えるもの含まれており、世界中の学者やユダヤ人組織から批判を受けている。「ホロコーストを忘れない」と言いつつも、自分達が犯したジェノサイドを都合良く忘れ去ることは偽善以外の何物でもない。
戦争が終わっても殺戮は続いている。例えば2020年には、イラクの5歳未満の乳幼児の死亡率は、日本の52倍、貧しく制裁を受けてはいるが平和なキューバの14倍だった。こうした事実は卑劣なイラク侵略を喧伝した西洋の大手メディアでは一切触れられない。政治家や研究者、解説者等も同じだ。
何千何万と云う無辜の人々の死と身体損壊、拷問、クラスター爆弾、劣化ウラン弾、無差別殺人、悲惨、衰退、そして死。これらが「中東に自由と民主主義」を齎した結果だ。だがブッシュやブレアの様な大量殺戮者や戦争犯罪者達は国際刑事裁判所の被告席には立ってはいない。
Iraq Invasion 20th Anniversary: 5 Million Dead In Iraqi Holocaust
この要約記事を書いた後で、ラテンアメリカの革命的大衆闘争さんが全訳を出して下さっていたのを見付けたので、そちらも紹介しておく。
イラク侵略20周年:イラクでのホロコーストで500万人の死者
米英豪によるイラク侵略(第二次イラク戦争)の開始は2003/03/20と云うことになる。だが1990年以降、米国がイラクに引き起こしたジェノサイドでは、合計で約500万から550万人が死亡したと推計される。
「ジェノサイド」は、国連ジェノサイド条約によって定義されている。
「ジェノサイドとは、国民、民族、人種、または宗教グループを全体的または部分的に破壊することを意図して行われる次の行為の何れかを指す:
1)特定集団構成員を殺害すること。
b)特定集団構成員に深刻な身体的または精神的危害を与えること。
c)全体的または部分的に物理的な破壊を齎すと計算された生活条件を特定集団に対して故意に課すこと。
d)特定集団内での出産を防止する為の措置を課すこと。
e)特定集団の子供達を強制的に別の集団へ移すこと。
戦争と占領による死亡は、暴力によって引き起こされたものと、暴力の結果としての欠乏によって引き起こされたものの双方を含む。子供が暴力(爆弾、銃弾、殴打)によって死のうが、生命を維持する為の必需品(食べ物、飲料水、薬)が欠乏した為に死のうが、加害者はその死に対して同等に責任を問われる。
暴力による戦争中の死亡は往々にして評価が困難だが、欠乏による回避可能だった筈の死亡は、比較人口統計データから推定することが出来る。
引き起こされた欠乏による回避可能だった死の責任は、第4ジュネーヴ条約(戦時に於ける民間人の保護に関するジュネーヴ条約)の第55条と56条で規定されている。占領国は被占領者に対して、生命を維持する為の食糧と医療の必需品を「利用可能な全ての手段を用いて」提供する義務を負っている。これは特に9.11後、米英仏とイスラエルによって度々違反されて来た。
イラク人に対する西洋のジェノサイドは、厳密に言えば1914年に大英帝国が石油と帝国の覇権が目的でイラクに侵攻したことによって始まっている。以来109年間に及ぶホロコースト(暴力と欠乏による殺害)の概要を以下に列挙する。
a)英国の支配または覇権(1914〜1950年):400万人。
大英帝国によるイラク侵略の野心は、1908年に隣国イランで石油が発見されたことに端を発している。チャーチルは、既に支払いが済んでいた筈の英国の戦艦を押収することで、オスマン帝国をを第一次世界大戦に追い込んだ。大英帝国統治下のイラク人の超過死亡率をインド人のそれと同等と仮定すると、剝奪による回避可能な死は合計で約400万と推計出来る。
b)湾岸戦争(1990〜1991年)と制裁期間(1990〜2003年):190万人。
湾岸戦争(1990〜1991年)と制裁期間(1990〜2003年)の暴力的な死と、暴力によって引き起こされた欠乏による回避可能な死の合計は、それぞれ20万人と170人。制裁期間中、米英とイスラエルの空軍はイラクのインフラを爆撃し、欠乏による大量死を引き起こした。1996/05/02のインタビューで、マデレーン・オルブライト国連大使は制裁によって50万人の子供が死亡したことについて問われて、「やる価値は有った」と答えたが、これは米国がジェノサイドを認めた稀有な事例だ。
Remembering the legacy of Madeleine Albright in Iraq
c)イラク戦争(2003〜2011年):270万人。
イラク戦争(2003〜2011年)に於ける暴力による死亡者数は150万人と推定されている。国連人口局のデータは同期間の戦争に起因する欠乏により、更に120万人のイラク人が避けられたはずの死を遂げたことを示してる。これらを合計すると270万人になる。
ここまでで、1990年から2011年までの間の暴力(170万人)と戦争に起因する欠乏(290万人)によるイラク人の死亡者数は合計460万人に上る。
d)イラク戦争以降(2011年〜):40万人。
米軍は2011年に表向き撤退したが、翌年には直ぐ戻って来て、約10万人のイラク人を暴力によって殺害した。国連のデータでは、2011〜2020年の間に欠乏によって約30万人のイラク人が死亡した。これはシリアでの展開と連動しており、米国はイラクとシリアのイスラム過激派ISISを支援することで、それを口実に軍隊を違法に駐留させ、両国のバルカン化を行った。
e)イラクのホロコースト:合計500万人(1990年〜)または900万人(1914年〜)。
1914年の英国によるイラク侵攻以来、英米の暴力と欠乏によって死亡したイラク人は合計900万人。1990年以降に限れば500万人となる。これには米国が支援したイラン・イラク戦争のイラク側の死亡者は入っていない。これは国連で定められているジェノサイドの要件を満たしている。
f)別の推計:360万人(2003年〜)、550万人(1990年〜)、950万人(1914年〜)。
直接世論調査に基付く別の推計では、2003〜2011年の暴力による死亡者数は150万人。ISISの反乱に対応して起こった2011年以降の暴力では10万人。合計160万人が暴力によって死亡している。他方国連人口局の人口統計データに基付くと、制裁による欠乏で2003〜2023年の間に約200万人が死亡している。この数字に従って計算し直すと、合計死亡死者数は2003年以降は360万、1990年以降は550万、1914年以降は950万と云う数字が導かれる。
イラクのホロコーストの主要な加害者(米英豪)は、全て国際ホロコースト記念同盟(IHRA)の加盟国だが、この同盟の35のメンバーについては以下のことが言える:
1)全て欧州人である。
2)欧州以外の5ヵ国(アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、イスラエル、米国)は全て、先住民族のジェノサイドに基付いて建国された。
3)9ヵ国は第二次大戦中、ナチスドイツの同盟国だった。
4)4ヵ国(米英仏+イスラエル)は核保有国。
5)28ヵ国はNATO加盟国。
6)14ヵ国は5世紀以上に亘って先住民族の残忍な征服とジェノサイドに関与していた。
7) 核兵器禁止条約を批准しているのは2ヵ国(オーストラリアとアイルランド)だけ。
8)4ヵ国以外全加盟国が、2022年の国連総会の反ナチ決議に反対票を投じた。
IHRAが定義する「反ユダヤ主義」の中には、例えばイスラエルのアパルトヘイト政策を批判する等、寧ろ反差別的と言えるもの含まれており、世界中の学者やユダヤ人組織から批判を受けている。「ホロコーストを忘れない」と言いつつも、自分達が犯したジェノサイドを都合良く忘れ去ることは偽善以外の何物でもない。
戦争が終わっても殺戮は続いている。例えば2020年には、イラクの5歳未満の乳幼児の死亡率は、日本の52倍、貧しく制裁を受けてはいるが平和なキューバの14倍だった。こうした事実は卑劣なイラク侵略を喧伝した西洋の大手メディアでは一切触れられない。政治家や研究者、解説者等も同じだ。
何千何万と云う無辜の人々の死と身体損壊、拷問、クラスター爆弾、劣化ウラン弾、無差別殺人、悲惨、衰退、そして死。これらが「中東に自由と民主主義」を齎した結果だ。だがブッシュやブレアの様な大量殺戮者や戦争犯罪者達は国際刑事裁判所の被告席には立ってはいない。
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