神経保護作用

神経保護作用を有すると推測される物質 その3(メラトニン、ω3脂肪酸、Nアセチルシステイン、など)

(前回の続きである)

Mitochondrial enhancers ミトコンドリア・エンハンサー
 ミトンコンドリアの機能異常が双極性障害、うつ病、パニック障害で36例報告されている。さらに、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生異常が双極性障害や統合失調症で報告されている。脳では、特に、ミトコンドリアは高酸素状態で活動している。ミトコンドリアのエネルギー代謝の阻害は、アポトーシスの前段階のシグナル伝達のトリガーとなり、酸化ストレスや興奮性毒性を示し、ミトコンドリアDNAの修復を阻害する。ハロペリドールやフルフェナジンはミトコンドリアの活性を阻害する。一方、リチウムやパロキセチンなどの抗うつ剤はミトコンドリアのエネルギー産生を増加させる。ミトコンドリアの機能を増強する物質は精神疾患における神経保護作用を発揮するかもしれない。ミトコンドリア・エンハンサーを他の共役因子と併用投与する方法が考えらている。1年以内にオーストラリアで臨床試験が始まる予定である。

Melatonin メラトニン
 メラトニンは気分障害や統合失調症で減少しているという報告がある。メラトニンはサーカディアンリズムの調整だけでなく、強力な抗炎症作用、抗酸化作用、内因性抗酸化物質の誘導、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を増加させる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%9A%84%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8C%96
メラトニンはある種の抗精神病薬で、特に、オランザピンにおいて減少する。メラトニンの減少が抗精神病薬や気分安定化剤によって生じる代謝障害や体重増加に関与しているかもしれないと推測されている。バルプロ酸はアストロサイトのメラトニン受容体を劇的に増加させるという1つの研究データがある。この所見からは、気分安定化剤へのメラトニンの補完が効果を有するであろうと推測される。なお、メラトニンは国内では発売されておらず、サプリメントとして海外から個人輸入で入手可能である。
(メラトニンの神経保護作用に関する可能性)

メラトニン













Leptin レプチン
 レプチンは脂肪細胞から放出されるペプチドホルモンであり、食欲調整(食欲抑制)や交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大などに関与している。この論文では、抗精神病薬や気分安定化剤による代謝障害や肥満はレプチンの上昇と、上昇したレプチンへの抵抗性の獲得が関与している、などが紹介され、多くの紙面を割いてレプチンの神経保護作用に関する分子生物学的メカニズムが解説されている。しかし、レプチン製剤自体もまだないし、コラーゲン同様に経口からいくら摂取してもアミノ酸に分解されるだけでそのまま体内に吸収されることはなく無意味なため、注射製剤でも開発されない限りは臨床として使用可能な物質にはなり得ないだろう。
(抗精神病薬や気分安定化剤による肥満とレプチンとの関連性)
(レプチンの神経保護作用に関するレビュー)

Omega-3 polyunsaturated fatty acid オメガ3多不飽和脂肪酸 ω-3 PUFAs
 ω3不飽和脂肪酸ω-3 PUFAに属するドコサヘキサエン酸DHAは、脳のリン脂質および網膜の膜成分の主成分である。リノレン酸やDHAは脳虚血やカイニン酸による神経毒性から神経を保護する。そのメカニズムは、直列ポアドメインカリウムチャネル(神経の膜電位を負に保つ働きに関与)であるTREK-1とTRAAKを調節することに由来している。TREK-1とTRAAKは機械的刺激や温度刺激を痛覚として伝えることに関与している。猿の研究では、エイコサペンタエン酸 EPAやDHAはミクログリアの炎症性反応を抑制した。そして、脳虚血やリポ多糖類よって誘導されるIL-6、IL-1α、IL-β、TNF-αを減少させた。ω-3 PUFAは強力な抗炎症と抗アポトーシス作用を有する。PUFAsは、気分障害、特に双極性障害のうつ病相への治療効果が報告されている。さらに統合失調症、認知症、ADHD、ASDなどの多くの精神疾患への治療効果が期待されている。最近の調査では、ω-3 PUFAの統合失調症に対する短期的な効果は証明されなかったが、長期的な効果として超ハイリスクultra-high risk (UHR)な人の統合失調症への発病を防止できる可能性が示唆された。そしてネルボン酸Nervonic acidの低下が統合失調症の前駆症状と関連していることなども推測された。

注; なお、ω-3 PUFAの文献としては、他にも、
 酸化ストレスに晒された時にドコサヘキサエン酸由来のneuroprotectin D1というが形成され、強力な抗炎症作用、神経保護作用を発揮する
 健常な成人におけるω-3 PUFAの摂取量はMRI検査にて前帯状皮質、右海馬、右扁桃体の容積と正の相関を示していた。この皮質辺縁系回路corticolimbic circuitryは記憶、覚醒、気分や感情の調整などに関連している。MRI検査にてω-3 PUFAの神経保護作用を直接的に示した論文だと言えよう。
 ω-3 PUFAの抗うつ効果(分子生物学的メカニズムなど)に関する詳しいレビュー。
 DHAに関する詳細なレビュー。脳の成熟とドコサヘキサエン酸の関連性。胎児の時のDHAの不足は脳の発育が阻害され、出生後の様々な精神疾患に関連する。ω-3 PUFAの神経保護的なMRI所見に関する項目もある。
 長鎖ω-3 PUFAは慢性だけでなく、急性の神経変性状態にも効果を発揮する。
 赤血球膜のネルボン酸低下はUHRの精神病への変換を予測するマーカーとなり得る。
 ω-3 PUFAの発病予防効果はintracellular phospholipase A2活性の正常化などが関与している。
 ω-3 PUFAは小児から老人までの幅広い効果が期待されている。小児時代の脳の発達から、成人期のうつ病や自殺の防止、老化による神経変性を遅延させるというあらゆる年代に必須の栄養素である。ω-3 PUFAの各年代やいろいろな疾患に対する効果に関する詳しいレビュー。
 双極性障害に関するω-3 PUFAの効果に関するレビュー。
 高齢者におけるω-3 PUFAの摂取量は、脳の灰白質の容積と認知機能に相関していた。
 血中のEPAの濃度の高さは、右の海馬・海馬傍領域の下灰白質の萎縮の減少と右扁桃体の萎縮の減少に相関していた。

 などの論文がある。ω-3脂肪酸の神経保護作用はほぼ確実と思われる。ただし、ω-3脂肪酸は、早期の効果を期待するものではなく、長期に使用することで、うつ病、統合失調症、双極性障害、認知症などの精神疾患の発病予防進行予防が期待できると言えよう。なお、ω-3脂肪酸は、精神疾患だけでなく、冠動脈や脳動脈疾患の予防、肥満や糖尿病の予防効果なども報告されている。飲んでいて損はないサプリメントである。

omega3












Erythropoietin エリスロポエチン EPO
 エリスロポエチンは忍容性が髙くBBBを通過する。マウスの実験ではハロペリドールによって誘導される細胞死を減少させ、認知機能を高める。EPOはBDNFを↑する。神経毒であるtrimethyltinによる海馬の細胞死を減少させる。統合失調症における治療効果から、EPOの神経新生作用、神経保護作用、炎症調節作用、抗酸化作用などが推測された。しかし、EPOは血栓症や癌の発生率を高め、高血圧や脳虚血を誘発するおそれがある。長期的な使用には耐えれないだろう。(注; 腎性貧血などにてEPO製剤は臨床で既に使用されているが、非常に高価な薬剤であり、精神疾患の保険適応もなく、EPOの精神疾患への応用は現時点では対象外であろう)

N-acetylcysteine Nアセチルシステイン NAC
 Nアセチルシステインは、ニューロトロフィン、グルタミン酸神経伝達、グルタチオン、アポトーシス、ミトコンドリアの機能、炎症伝達経路をなどの多くの経路に作用する分子である。これらの経路は精神神経疾患に密接に関連している。システインは、シスチンをグルタミン酸と交換することで、細胞内と細胞外のグルタミン酸の交換に関与する(cystine-glutamate antiporterシスチン/グルタミン酸アンチポーターと呼ばれる)。グルタチオンはグルタミン酸へのMNDA受容体の応答を増強する。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%81%E3%82%AA%E3%83%B3)
NACは、ドーパミン神経伝達を調節し、ドーパミンによって誘導された反応性を有する酸化物質の形成をブロックする。システインをブーストするとグルタチオンの産生ステップが増強され、NACは酸化還元反応の防御因子として利用されるグルタチオンを増加させる。NACは神経の分化を促し、神経の発芽や新生を促進する。NACは、ミトコンドリアへの毒性に拮抗し、乳酸やピルビン酸などのミトコンドリア関連因子を正常化する。NACは抗酸化作用を介して神経保護作用を発揮する。NACの精神神経疾患(自閉症、コカイン乱用、大麻乱用、統合失調症、うつ病、双極性障害、等)への治療効果を認めた臨床試験が報告されている。認知症へのパイロットスタディや救急医療での臨床試験でNACには神経保護作用があることが推測された。NACは忍容性に優れ、多くの経路に作用する。

 グルタチオンは肝庇護剤として臨床ではよく使用されているが、神経保護作用も期待できるようである。ただし、グルタチオンは経口から摂取しても殆ど血液中に移行しないらしい。内服したグルタチオンが脳神経細胞に利用されるかは不明である(アミノ酸に分解されてしまいグルタチオンのままでは消化管から吸収しないのか、または、吸収しても肝臓が全てトラップしてしまうのかも)。グルタチオンを増やそうと思うならば構成要素である3つのアミノ酸を摂取する必要がある(L-システイン、L-グルタミン酸、グリシン)。NACは、美白、美容の用途や二日酔い防止のサプリメントとして注目されているが、神経保護作用や精神疾患への補完療法的な目的での内服もあり得るかもしれない。しかし、MRI検査にてNACの神経保護作用を直接示すような報告はまだない。なお、NACは海外からサプリメントとして個人輸入が可能である。
(統合失調症の重症度と脳内の抗酸化物質グルタチオンの濃度には相関関係がある)
(NACは、コカイン依存症患者のグルタミン酸レベルを正常化した)
(双極性障害への補助療法としてのNACの効果)
(NACと抗うつ剤の相互作用について)
(NACの精神神経疾患への効果)
(グルタチオンは酸化ストレスから神経を保護できる。レビュー。)
http://www.boxingscene.com/supplements/1170.php

NAC1
































Haematopeitic neuroprotective cytokines 造血性・神経保護的サイトカイン
 Stem cell factor(SCF)やgranulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)といった造血因子が齧歯類の脳虚血モデル実験にて神経保護作用を有することが示された。さらに、抗アポトーシス作用や、Akt、ERKなどを介する遺伝子の転写を活性化する。SCFやG-CSFはBBBを通過する。統合失調症などへの応用が示唆されている。

その他、この論文では提示されていないが、神経保護作用を有すると思われるものとしては、

抑肝散 (中国語ではYi Gan San)
 抑肝散の認知症における周辺症状への効果は広く知られており、認知症の臨床で幅広く使用されている。抑肝散も神経保護作用を有するとものと推測されている。
(抑肝散は、アストロサイトの機能不全の改善ではなく、グルタミン酸興奮毒性に対する直接的な神経保護作用を有する)
(抑肝散の効果に関するレビュー。台湾では認知症だけでなく、神経症やうつ状態にも使用されている。)
(抑肝散も含めた漢方薬の認知症疾患への効果に関するレビュー)
(薬物療法が困難なことが多い前頭側頭型認知症に対する抑肝散の効果)
(治療抵抗性の統合失調症に対する抑肝散の効果)
(境界型パーソナリティ障害への抑肝散の効果)

抑肝散













ニコチン及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)
 タバコに含まれるニコチンは、α4及びα7アセチルコリン受容体AChRを介してグルタミン酸神経毒性を防御することで神経保護作用を発揮する。同様に、認知症治療薬であるドネペジル、リバスミグミン、ガランタミンも同じメカニズムを介して神経保護作用を発揮する。
(ニコチンとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の神経保護作用のメカニズム)
(ニコチンはAChRを介しアミロイドβの蓄積を阻害する。アミロイドβ毒性から神経を保護できる。AChR作動薬の詳しいレビュー。)

nicotine






メマンチン
 メマンチンはNMDA受容体に直接作用する臨床上使用できる数少ない薬剤である。メマンチンはNMDAの興奮毒性による神経細胞死を防ぎ、神経保護作用を有するものと推測されている。NMDA受容体を完全に遮断してしまうような薬剤は非生理的であり臨床には使用できないが、メマンチンは非競合的に低親和性にNMDA受容体のイオンチャンネルを阻害するため、PCPのようなNMDA受容体阻害剤としての幻覚などの有害事象は生じないとされる。メマンチンは認知症だけでなく、統合失調症、強迫性障害、ギャンブル依存症などの精神疾患への補完療法としての効果が期待され、効果があったという報告もなされているが、効果はなかったという報告もある。認知症以外に関しての効果はまだ不確実である。私は高齢化し認知症に移行しつつあるのではと思えるような微妙な段階にある統合失調症のケースにも使用しているが(アルツハイマー病というレセプト病名を付けなければならないが)、確かにメマンチンの効果はあるように思える。
(統合失調症への神経保護としてのメマンチン)
(クロザピンへの補完としての治療抵抗性統合失調症へのメマンチンの効果)
(統合失調症の残存症状への補完療法としての効果)
(統合失調症への補完療法としてのメマンチンの効果はなかった。)
(慢性統合失調症患者へメマンチンは有意な効果を与えなかった)
(↑への批判。効果はあるかもしれない。)

メマンチン2





 他にも、神経保護作用を有するであろうと報告されているものとしては、葉酸トピラマート(この薬は様々な精神疾患に効果を発揮する。作用機序はグルタミン酸受容体阻害、抑制性神経伝達物質GABAの効果を高める、電位依存性のNa及びCaチャネルの活性を低下させる、等)、ラモトリギン(双極性障害のラピッドサイクラーなタイプへの効果は頼もしい。しかし薬疹が出やすいので要注意である。)、フェルラ酸(フェルガードという認知症へのサプリメントの主成分。認知症にはかなりの効果を発揮することが多々ある。海外の論文も多く出ている。当院でも前頭側頭型認知症に著効したケースを数例経験している。)、アマンタジンなどがあるが、紙面の都合にて省略する。

今回紹介したミトコンドリアエンハンサー以下の物質は、あくまで精神精神の治療のメインの薬剤としてではなく、メインの薬剤との補助的な併用によって神経保護作用が期待できるものと思われる。

まとめ(神経保護のために推奨されるサプリメントと薬剤): Li、VPA、ミノサイクリン、BBBを通過するようなNSAIDs、 メラトニン、ω3脂肪酸(DHA・EPA)、NAC、抑肝散、ニコチンガム、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン、葉酸、トピラマート、フェルガードといったところになろう。 

神経保護作用を有すると推測される物質 その2(ミノサイクリン、スタチン、アスピリン)

前回の続きである

Minocycline ミノサイクリン

 ミノサイクリンは脳血液関門BBBを容易に通過する抗生物質である。ミノサイクリンは、様々な細胞内のカスケードに作用することで、抗酸化作用、抗炎症作用、抗アポトーシス作用を有することが示されており、神経保護作用を有するものと考えられている。ミノサイクリンの神経保護作用に関しては数多くの論文がある。ミノサイクリンは、グルタミン酸誘導性アポトーシスを防ぐ。脂質過酸化反応Lipid peroxidationによって誘導されるDNAの損傷をも防ぎ、(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%82%E8%B3%AA%E9%81%8E%E9%85%B8%E5%8C%96%E5%8F%8D%E5%BF%9C)、リポ多糖類によって誘発されるNOのなどのニトロソ化物質の産生を減少させる。さらに、サイトカインにも直接作用し、TNF-α、IL-1β、PGE2、COX-2を減少させる。神経新生をアシストすることで炎症や酸化ストレスによって誘発されるアポトーシスから神経細胞を防御できる。ミクログリアの増殖や活性化を抑制する。サバイビンsurvivin(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%93%E3%83%B3)、Bcl-2をリストアすることでアポトーシスを減少させる。

 さらに、臨床的にもミノサイクリンの効果が示されており、ミノサイクリンの補完によってうつ病などの精神疾患の症状が改善される(
■関連ブログ2013年3月12日ミノマイシンの抗うつ効果)。統合失調症での臨床研究でミノサイクリン150mg/dayを他の抗精神病薬の補完として4週間投与したところ、陽性症状、陰性症状は伴に著明に軽減した。その効果は投与終了後も4週間続いた。

 さらに統合失調症の初期患者における抗精神病薬への補完としてのプラセーボとの比較では(200mg/day、22週間の投与)、陰性症状、Clinical Global Impression、認知機能、遂行機能の改善を認めた。この所見が正しければは、ミノサイクリンは抗精神病薬では効果が期待できないような陰性症状などの精神症状への治療薬として期待が持てよう。
http://www.ariel.ac.il/images/stories/site/personalSites/YoramBraw/Research_articles/Levkovitz_2010-_A_Double-Blind.pdf

 ミノマイシンは中脳ドーパミン系ニューロンを防御できる可能性がある
。別の見方をすれば、抗精神病薬によって惹起された中脳皮質系ドーパミン神経への負の効果をミノサイクリンが防御することで陰性症状が改善したのかもしれない。非定型抗精神病薬のようにセロトニン系を介した間接系な作用による回避よりも、直接的に中脳皮質系ドーパミン神経への負の影響を回避できるかもしれない。さらに、もし、抗精神病薬の神経系への負の効果によって脳の容積の減少も生じるのであれば、ミノサイクリンで脳の容積の減少も防止できるかもしれない(あくまで私の勝手な推測に過ぎないが)。ミノマイシンを試す価値はあるかもしれない。ただし、抗生物質を毎日内服すれば、菌交代現象、腸内細菌への影響、耐性菌出現などの有害事象も発生するため長期間毎日内服する訳にはいかない。3~4か月といった定期的な周期で2~4週間ほどミノサイクリンを内服するという方法はあり得るかもしれない。

DA系









 他にも、精神病性うつ病への抗うつ剤での補完(150mg/day、6週間)では、うつ症状、精神病症状が伴に改善した。強迫性障害へのSSRIへの補完療法(200mg/day)としての使用でも効果を認めている。

 なお、論文では触れられていないが、脳外傷、脳卒中、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症を含む神経変性疾患の実験モデルにおいてミノサイクリンは神経保護作用を示した。その結果から神経疾患への実際の治療にも試みられ、ミノサイクリンの神経疾患への効果が報告されている。
(この↓論文は、ミノサイクリンの神経保護作用に関する分子生物学のメカニズムや、神経疾患への応用などに関する詳しいレビューである。ある種の条件下では、ミノサイクリンは逆に神経には有害な作用を示すことも述べられている。ミノサイクリンは慎重に使用する必要があろう。)
(ミノマイシンは中脳ドーパミンニューロンを保護することができると言える。)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC64739/ 
(ミノサイクリンはニューロンに対する直接的な保護作用を有する)
(ミノサイクリンの抗酸化活性は、神経損傷における神経保護効果に貢献するだろう)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1471-4159.2005.03219.x/full



ミノマイシン神経保護作用








ミノマイシン神経保護作用2









Statins スタチン

 スタチンは高脂血症の治療薬である。スタチンには、lovastatin、mevastatin、pravastatin、simvastatin、atorvastatinなどいろいろな種類があるが、神経保護作用を有すると推測される分子生物学的所見は薬剤別に異なっており、スタチンとしての共通の所見はまだないようだ。しかし、血液脳関門BBBの浸透性への効果、神経細胞内を低コレステロールに導く作用(注;神経細胞の低コレステロールは逆に有害に働くこともある)、炎症反応を調節する作用などから神経保護作用を発揮するだろうと推測されている。この論文では神経保護作用に結びつくと思われるような分子生物学的所見、すなわち、抗炎症作用、抗アポトーシス作用、抗酸化作用、などが数多く列記されているが、それらは省略する。

 スタチンに関しては、アルツハイマー病やうつ病への効果は報告されているが(効果はないという報告もある)、逆に、スタチンによる精神疾患への有害事象が報告されていることを付け加えておく。スタチンは脳動脈硬化の予防薬には十分になろうが(それだけでも価値はあろうが)、スタチンの神経保護作用に関しては臨床における所見では効果と有害事象という相反する結果も出ており、現段階では不確実である(なお、既に神経疾患へのスタチンの臨床試験は行われているようである)。
(スタチンの神経保護作用に関するレビュー)
(スタチンの気分や不安などへの影響に関する調査結果のレビュー)
(スタチンによる、記憶障害、うつ病、錯乱、攻撃的行動の誘発など)
(スタチンによる睡眠障害)
(スタチンによって、イライラし、短気になり、攻撃的となる)
(リスペリドン+スタチンによって横紋筋融解症を誘発)
(スタチンは、うつ病や自殺のリスクを増加させない。逆に、スタチン使用者では、うつ病や自殺の発生率は低下していた)
(スタチンの認知症の予防効果はない)
(スタチンはproBDNFのタンパク質の切断を高めることでBDNFを増加させ、大うつ病の治療において重要な役割を果たすだろう)

スタチン神経保護作用









Aspirin アスピリン

 アスピリンは抗炎症剤である。シクロオキシゲナーゼの経路を抑制し、トロンボキサンやプロスタグランディンの産生を抑制することで、抗炎症作用を発揮する。さらに、抗酸化作用や、抗ニトロソ化作用などの分子生物学的所見も示されている。うつ病患者におけるfluoxetineとの併用療法では、fluoxetine単剤の場合よりも酸化ストレスの指標となるパラメーターの著明な減少を認めた。齧歯類の脳虚血モデルでのアスピリンとsulfasalazineとの併用療法は神経保護効果を認めた。リポ多糖類によって誘発されるミクログリアの炎症性反応を抑制した。なお、アスピリンはBBBを通過しない。神経への作用は間接的に、メカニズムとしてはカスケードの下流に作用して神経保護作用を発揮するのであろう。

 さらに、アスピリン以外のNSAIDsも、ミクログリアの活性化を抑えることでなどで神経保護作用を有するものと推測されている↓。

 他にも、うつ病は炎症性疾患であり、アスピリンやスタチンの炎症抑制作用は抗うつ剤として期待ができるという意見がある。
(双極性障害のうつ病相へのミノサイクリンとアスピリンの無作為化、二重盲検、プラセボ対照、2×2の臨床試験をするという報告。はたしてどのような結果が出るのか)
http://bmjopen.bmj.com/content/2/1/e000643.short
 また、COX-2阻害剤であるcelecoxibの統合失調症やうつ病への精神疾患への効果も報告されている。
 アルツハイマー病へのNSAIDsの効果(アミロイドβタンパク質の沈着を抑制、アルツハイマー病の発病予防、初期の状態への治療効果など)を提示した論文もある。
 一方、NSAIDsは抗うつ効果を弱めてしまうとも報告されている(■関連ブログ2013年3月8日)

アスピリンも含めた消炎鎮痛剤の精神疾患への効果はまだ不確実な段階にあると言えよう。

 スタチンやアスピリンは共に中枢神経系に対しては抗炎症作用を発揮するようであり、もし、統合失調症、双極性障害、大うつ病といった精神疾患は、ストレスによって誘発された炎症性物質が疾患遺伝子にも作用してしまうことで発病し、その後も炎症が治まらない限りは進行していく疾患であるならば、スタチンやアスピリンは炎症反応をブロックし、炎症反応による疾患遺伝子の動きもブロックすることになり、精神疾患においては神経保護作用を発揮することができると言えよう。しかし、スタチンやアスピリンはMRI検査などで直接的に神経保護作用が証明された訳ではない。スタチンやアスピリンを神経保護作用を目的として長期間内服する意味があるかどうかはまだ不明である。アスピリンは脳卒中後や冠動脈疾患で長期間低用量を内服することは多々あるが、あくまで抗血栓のためである。しかし、もし、それらの患者の脳のMRI検査で神経保護作用が将来証明されないとも限らない。胃炎に注意しながら低用量のアスピリンを神経保護作用を目的として内服し続けることはあり得る方法かもしれない。ただし、アスピリンはBBBを通過しないため、神経への直接的な抗炎症作用を期待して内服するのであれば、BBBを通過するようなタイプのNSAIDsを内服すべきかとは思う。

 私がなぜ、神経保護作用にこだわって論文を調べるのかと言えば、自分が認知症になるのを予防したいからである。子供の頃はADHDのようなところがあったが、幸いにも、統合失調症や双極性障害やうつ病にはならずに済んだ。しかし、まだ、それよりももっと怖い精神疾患があるのであった。それは、認知症である。臨床をしていると認知症にだけはなりたくないと何度も思う。愛する妻や我が子の顔も分からなくなるのは余りにも悲しい。神経保護作用を有すると思われるものは何でも飲んでみて、もしそれで認知症が予防できるのであれば、こんなラッキーなことはないではないか。とにかく自分で調べて実践するしかないのであった。

(次回に続く)

NSAIDs 

神経保護作用を有すると推測される物質 その1(リチウム、バルプロ酸、非定型抗精神病薬、抗うつ剤)

最近、神経保護作用を有すると推測される物質の詳しいレビューがあったので紹介する。

(なお、この論文は某製薬会社の当院を担当しているMRさんからの好意で入手した。こういった論文サービスは大いに利用しても倫理上の問題はないであろう。汗;)

この論文は全ての内容が自由に閲覧できるオープンアクセスのテキストではないため、著作権の問題が絡むので、要点だけの紹介に留める。

精神神経疾患に対して神経保護作用を有すると推測される物質
「Putative neuroprotective agents in neuropsychiatric disorders.」
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2013 Apr 5;42:135-45.

 統合失調症、双極性障害、うつ病といった精神疾患は進行性の疾患neuroprogressive illnessだと言えようすなわち、再発というエピソードを繰り返すことによって、進行性の脳の構造の変化をきたし、認知機能などのいろいろな機能低下、再発のリスクの増加といった慢性の経過をたどる疾患だと言える。さらに、neuroprogressionの結果、脳の形態学的変化、すなわち、脳の容積の減少や脳室の拡大などを示す。脳の形態学的変化は、統合失調症以外のうつ病や双極性障害でも示されている。そして、これらのプロセスは発症前から始まっていることも示されている。

 neuroprogressionの根底にある分子メカニズムとしては、ニューロトロフィン、神経新生、アポトーシスの制御、神経伝達物質、炎症、酸化ストレス、ニトロソ化ストレス(注;亜酸化窒素などの反応性の高い窒素含有化学物質の生産はタンパク質の変性を促す)、ミトコンドリアの機能障害、コルチゾールと視床下部-下垂体-副腎系の関与、および、エピジェネティックな影響などが推測されている。もし、ある物質が、これらの経路のどれかをブロックすることができれば、その物質は神経保護作用を有していると言えよう。この論文では、リチウム、既知の向精神薬、アスピリン、ミノサイクリン、スタチン、N-アセチルシステイン、レプチン、メラトニン、などの物質の神経保護作用の可能性を検討する。
 
(双極性障害のneuroprogressionの根底にある分子メカニズムについて)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0149763410001545

(以下の文章では、「↑」は、活性化、増加、アップレギュレイト。「↓」は、抑制、減少、ダウンレギュレイトを示す。人と明記されていない場合は、人かラットやマウスの人以外での所見かどうかは論文では明記されていなった。)

Lithium リチウム
 リチウムは人のMRI検査で証明されている数少ない神経保護作用を有すると思われる物質である。リチウムを内服していた双極性障害の患者群と未治療の群と対照(健常群)との比較で、未治療のでは前帯状皮質と後帯状皮質の著明な容積の減少を認めた。しかし、リチウム内服群では対照との差は認めなかった。他の調査では、リチウム内服群の方が、対照や未治療群よりも、灰白質の総容積は大きかった(もし事実であるとすれば、健常群よりもリチウムによって脳の容積が増えていたというのはすごい大発見である)。
lithium increases gray matter

注;その他のMRIに関する報告としては、
(リチウム内服の双極性障害の被験者は健常対照や未内服患者よりも海馬や扁桃体の容積の増加を認めた)
http://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/S0006-3223(10)00913-3/abstract
(健常者においてもリチウムの内服後に両側の背外側前頭前野と前帯状灰白質の容積の増加と総白質の容積の増加を認めた)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2693231/

 リチウムの神経保護作用のメカニズムとしては以下のようなものが推測されている。Bcl-2を↑、GSK-3βを↓、BDNFを↑する。これらは脳の成長因子への直接的な作用であり、アポトーシスを抑制する。さらにラットでの実験では過酸化酸素H2O2による酸化ダメージを抑制して脳内のグルタチオンを増加させた。一方、人でサイトカインであるのIL-1βやIL-6を↓する(ILはインターロイキン)。逆に、IL-10、IL-1RA(インターロイキン1受容体アンタゴニストタンパク質)を↑する。さらに、IFNγ/IL-10の比率を低下させる。これらの所見は炎症を抑制することを意味しているのかもしない。人のMRI検査では、リチウムの4週間投与にて脳内のN-acetylaspartateは↑していた。リチウムは細胞増殖因子の1つであるEGFで活性化される細胞内のERKやMAPキナーゼの経路を活性化する。一方、バルプロ酸VPAと同様にリチウムは、BAG-1(bcl-2 associated athanogne 1)を↑する。BAG-1は抗ストレス作用がある。さらに、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)や多発性硬化症(MS)モデルの炎症を抑え神経保護作用を発揮する。
 
 なお、最近、低用量のリチウムは精神病に対して超ハイリスクの人における海馬の微細構造を保護することが示された。

リチウム1


 










 なお、この論文では提示されていないが、バルプロ酸Valproic Acid,VPAもリチウムと同じく様々なメカニズムによる神経保護作用が多くの論文によって提示されている薬物である。分子生物学的に神経新生作用も示されており、実際の臨床所見としてリチウムと同様にVPAでもMRI検査によって人の脳の容積の減少抑制効果が示されていることには注目すべきであろう。
(双極性障害における、VPA単剤、VPA+クエチアピン、未投薬との比較。MRI検査によるVPAの脳容積の減少抑制効果を認めた。VPA+クエチアピンでも同様であった。)
(感情精神病のおけるVPAとLiのMRIにおける脳容積の減少抑制効果。)
(VPAは線維芽細胞成長因子1FGF1の遺伝子のプロモーターを活性化し神経保護作用を発揮する。)
(VPAはhistone deacetylaseHDACを抑制して遺伝子の転写を活性化し神経保護作用を発揮する、など。VPAの神経保護作用に関する詳しいレビューである。)

VPA1











Atypical antipsychtics 非定型抗精神病薬


 非定型抗精神病薬では、神経保護作用に関しては、結果はまだ一定した所見は得られてはいないようだ。ある論文では、clozapineはolanzapine同様に海馬におけるBDNFの↑を認めたが、別の論文では、risperidoneでは血清のBDNFの上昇を認めたが、clozapineでのBDNFの上昇は示されなかったという結果が得られている。さらに、最近では統合失調症などに見られる脳の容積の減少は、ある種の抗精神病薬の影響ではないのかと疑問が提示され大きな問題となってきている。この問題はまだ決着はついておらず、今後さらに多くの研究や議論がなされることであろう。(■関連ブログ2013年4月13日 非定型抗精神病薬の神経保護作用は本当なのか)

(MRI、fMRI、PET、SPECTなどを組み合わせたマルチモーダルな解析にて、抗精神病薬によると思われる内側前頭/前帯状皮質や左島の灰白質の容積減少、島と前帯状皮質の接続性の異常などが示された。この論文は重要である。だだし抗精神病薬の具体的な薬剤名は論文内では記載されておらず、定型だったのか非定型抗精神病薬だったのかは不明である。)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S014976341200125X 

Clozapine クロザピン
 clozapineは統合失調症患者の、IL-1RA、IL-2R、CC16(Clara cell protein)、LIF-R(leukaemia inhibitory factor receptor)をそれぞれ↑する。CC16は内因性の抗炎症物質である。また、sIL-1RA(可溶性のインターロイキン1受容体アンタゴニストタンパク質)やsIL-2R(可溶性のインターロイキン2受容体)も増加させる。この所見は、炎症反応を抑制する所見かもしれない。さらに、Clozapineはリポ多糖類Lipopolysaccharideによって誘発される炎症性の神経変性作用を抑制した。最近、Clozapineは活性酸素種Reactive oxygen speciesの産生によって誘発されるミクログリアの活性化を減少させることで神経保護作用を有するものと推測された。

Aripiprazole アリピプラゾール
  aripiprazoleはラットの培養神経細胞でグルタミン酸によって誘導される神経毒性を減少させることが示された。なお、この実験では、risperidoneやolanzapineではこの作用は示されなかった。ラットの海馬へのストレス固定実験では、olanzapineと同様にBDNF、GSK-3β、β-cateninの減少に拮抗する作用を有し、ストレスが解除された後のBDNF、GSK-3β、β-cateninの上昇を認めた。
  初発の統合失調症におけるaripiprazoleによる血清中のBDNFの増加が日本の研究者によって示されている。
 この論文ではBDNFの上昇からaripiprazoleは神経保護作用を有するであろうと推測しているのだが、アルツハイマー病でBcl-2が上昇していたように、薬剤の神経毒性への拮抗反応としてもBDNFは上昇するかもやしれず、しかも、血清中の上昇であり、末梢神経由来のBDNFとの区別はできておらず、aripiprazoleによる血清中のBDNFの上昇=CNSへの神経保護作用を有するとまではまだ言い切れないであろう。意地悪な見方をすれば、BDNFの上昇はaripiprazoleの神経毒性への拮抗作用であるという解釈も否定はできまい。risperidoneとclozapineにおけるBDNFの相反する結果は、risperidoneの方が神経毒性を発揮したため、その拮抗作用としてBDNFが上昇したとも言えるのである。さらに、この研究では、aripiprazoleの用量とBDNFの上昇との相関関係はなかった。もし、aripiprazoleが人への神経保護作用を有していても、少量でも十分に神経保護作用が発揮されることを意味する。製薬会社が勧めるような高用量を長く内服する必要は全くないだろうと思われる。
  また、aripiprazoleは人の神経芽細胞腫の培養株SH-SY5YにおけるBDNFの↑、GSK-3βのリン酸化の↑、Bcl-2を↑示した。しかし、ハロペリドールでは示されなかった。(注; この実験は、人の神経芽細胞腫由来の培養癌細胞にラットのBDNFの遺伝子をわざわざトランスフェクトさせての合成実験系であるため、人での生理的な所見にも適応できるかは不明である。なぜ、このような回りくどい実験をしたのかは不明である)。

Olanzapine オランザピン
 olanzapineもaripiprazoleと同様にBDNF、GSK-3β、β-cateninを↑した。ある実験ではclozapineはでは示されなかったが、olanzapineでは細胞培養で細胞分裂促進作用があり、fluphenezaineやrisperidoneでは抑制されなかった細胞死をolanzapineは抑制した。しかし、ラットの脳の虚血実験では、olanzapineは低用量の場合にのみ神経保護作用が示され、高用量では神経保護作用はなくなり、逆に神経毒性を示した(注;このブログでも以前触れたように、olanzapineは高用量では神経保護作用はなくなるようであり、肥満や高脂血症にもなっていくし、急性期を過ぎたら可能な限り減薬すべきであろう。■関連ブログ2013年4月13日
 
Paliperidone パリペリドン
 Paliperidoneはすぐれた抗酸化作用を有すると示された。さらに他の抗精神病薬(ハロペリドール、オランザピン、リスペリドン)よりも過酸化酸素H2O2による細胞死を抑制した。
 
Quetiapine、Ziprasidone、Lurasidone、Perospirone
 Quetiapine、Ziprasidone、Perospironeでは、インターフェロンγへの作用や酸素窒素の放出を抑制することによる抗炎症作用が報告されている。しかし、QuetiapineとPerospironeはTNF-αを抑制したが、Ziprasidoneは抑制しなかった。一方、Ziprasidoneは、GSK-3βを抑制することで酸化窒素NOやフリーラジカルの生成を抑え、アポトーシスやミトコンドリアの脱分極やミクログリアの活性化を抑え、BDNFやGDNFを↑するものと推測された。Lurasidoneはラットの前頭前皮質におけるBDNFの発現増加が示されている。

(抗精神病薬に関する神経保護作用についての非常に詳細なレビュー。第1世代は神経変性に導いてしまうであろうが、第2世代の抗精神病薬のある種は神経保護作用を有するであろう。など、詳しい解説がなされている。オープンアクセスでありフルテキストが見れる。)
http://pharmrev.aspetjournals.org/content/60/3/358.full 
 
antipsychotic-neuroprotection
















Antidepressants 抗うつ剤
 
 大うつ病では皮質(前頭前野、前帯状皮質など)-線条体-淡蒼球-視床(CSPT)回路の脳の容積の減少を認めるが、ある種の抗うつ剤ではその部位の容積の正常化を認めている(本文は有料のため見れない。抗うつ剤の種類は不明である。)

 fluvoxamine、reboxetine、imipramineはミクログリアの活性化を抑え、IL-6、酸化窒素NOの産生を抑制した。NOの産生抑制やGSK-3βの抑制、BDNFやGDNFの↑は抗うつ剤に共通のメカニズムであることが示された。duloxetineとnortriptylineはミトコンドリアの透過性を抑制した。imipramineはTNF-αを↓した。sertralineはBDNFを↑し、ハンチントン病のモデルマウスの神経新生を促した。paroxetineはアストログリアのmyeloperoxidaseの発現を抑制し、IL-1βやTNF-αを↓し、パーキンソン病のモデルマウスのNO産生の誘導を抑制した。fluvoxamineはシグマ1受容体のアゴニストとして作用することで神経保護作用を発揮する。さらに、NFκB、IL-1β、TNF-α、COX-2を抑制することで抗炎症作用を発揮する。desipramineやvelafaxineはBcl-2の発現を調整する。desipramineはリポ多糖類によるアポトーシスの誘導を抑制した。imipramineはBDNFを調整し、MAPキナーゼ、ERKの経路を活性化し、リポ多糖類によるアポトーシスの誘導を抑制した。paroxetine、sertraline、clomipramineはコンカナバリンAの活性を調整し、TNF-α、COX-2を抑制した。

要約すると次のようになる。
(1)抗うつ剤は、前炎症サイトカインであるM1マクロファージの活性化を抑制する
(2)抗うつ剤は、Th1様サイトカイン、例えば、INF-γの産生を抑制し、IL-10の産生を促進する。
(3)抗うつ剤は、抗O&NS作用を発揮して抗酸化作用を増強する。
(4)抗うつ剤は、O&NSによるミトコンドリアへのダメージを防御する
(5)抗うつ剤は、神経保護作用を有する(ストレスによって誘発される炎症反応を抑制する。)

 さらに、最近の論文では、抗うつ剤は、caspase-3の産生を抑制し、Bcl-2やBcl-X1を増加させることによってアポトーシスの経路を抑制することが示された。BDNFの受容体であるTrkBの発現を誘導することも示された
http://ja.wikipedia.org/wiki/TrkB
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278584610003465
 
これまでのことを要約すれば、リチウムとバルプロ酸においては、神経保護作用を有することについては、ほぼ確実である。

非定型抗精神病薬においては、神経保護作用があるのではと推測はされるものの、まだ不確実であろう。非定型抗精神病薬は化学式も薬剤ごとに大きく異なり、作用する受容体のプロフィールも薬剤ごとに様々であり、非定型抗精神病薬を一色単に扱うのではなく、薬剤ごとに別々に検討せねばならない。さらに投与量も検討せねばならない。用量によっては逆に作用する(オランザピンのように高用量では神経毒性を示す)こともありうる。さらなる調査がもっと必要である。

抗うつ剤についても非定型抗精神病薬と同様である。神経保護作用があるのではと推測はされるものの、非定型抗精神病薬よりは期待できるであろうが、抗うつ剤も、三環系、SSRI、SNRI、NaSSAというように、化学式も作用する受容体なども大きく異なる。薬剤ごとの検討が必要であろう。

(なお、妊娠中の抗うつ剤の使用は胎児への自閉症スペクトラム障害を誘発する可能性があるという報告が最近なされた。妊娠中の抗うつ剤の使用は控えるべきであろう。)
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f2059 

神経保護作用に関しては、分子生物学的な所見よりも、人のMRI検査所見などといった直接的に証明するようなデータが重要であろう。 

 (次回に続く)

神経保護1

非定型抗精神病薬の神経保護作用は本当なのか

精神疾患、特に、統合失調症や双極性障害の再発予防を目的として長期間内服するのならば何を内服すればいいのだろうか。自分自身が統合失調症や双極性障害を発症したとして考えてみたい。まずは、副作用ができるだけ少ない薬を飲みたい。次に、再発率が低くなる薬剤を飲みたい。

しかし、それだけでいいのだろうか。統合失調症や双極性障害は脳の神経組織が喪失する疾患だとも推測されている。これまでに報告された脳の部位はさまざまだが、脳の神経組織が冒され、冒された部位の脳容積が減少するという事象が報告されている。いったん減少した脳容積はそう簡単には二度と回復しないことだろう。特に統合失調症の社会機能の低下や人格水準の低下などの、薬剤では改善不可能な機能障害の原因はそういった脳容積の減少というマクロの変化によるものなのだろうか。(ただし、それは疾患遺伝子による変化なのか、他の因子、例えば薬剤による影響なのかは不明なままだが)。そして、このような現象は再発を繰り返すごとに進行していくように思える。再発を防止することは非常に重要である。

双極性障害でも再発を繰り返していくうちに、統合失調症ほどは目立たないかもしれないが、どう見てもいろんな機能が低下していっているのではと思えるケースがある。再発している病状は、疾患に関連している感受性遺伝子が絶対的に優位になっている状況と思われる。ある種の双極性障害は、統合失調症とは症状としての表現形態は違っていても、統合失調症と同じような感受性遺伝子(脳の容積低下に結びつくような感受性遺伝子。そのような遺伝子が関与しているのであればという仮定だが)が関与してるのかもしれない。もしそうであれば、再発を繰り返すたびに脳神経組織にはダメージが蓄積されていき脳の容積は減少していくことだろう。

そうならないためには脳容積の減少を防いでくれるような神経保護作用がある薬が飲みたい。私ならば、なるべく副作用のない薬、次に、再発率が少ない薬、そして、他の薬よりも神経保護作用がin vivoでもin vitroでも既に証明されているような薬を飲み続けたいと思う。

しかし、ここで大きな問題がある。ラットやマウスでの証明ではダメだと思われるのである。あくまでヒトで証明された薬でないとダメだと思っている。ラットとヒトでは中枢神経系の機能や脳の容積に関与する遺伝子は絶対的に異なるはずだと思われるからである。ヒトの神経保護作用を直接証明するデータがほしいのである。一歩譲って、霊長類でもいい。ラットやマウス以外での神経保護作用を証明するデータがほしいのである。製薬会社もそういったヒトでの神経保護作用を証明するようなデータは喉から手が出るほどほしいに違いない。

市場に華々しく登場以来、さかんに言われている非定型抗精神病薬の神経保護作用。しかし、これには疑問もある。個々の薬剤ごとには神経保護作用に関する研究を行っているようであり、検索すれば多くの論文がヒットする。しかし、ラットやマウスのデータばかりである。ヒトの神経細胞でのデータがヒットしないのだ。

非定型抗精神病薬の御三家と言えるジプレキサ、エビリファイ、セロクエル。この3薬でさかんに言われている神経保護作用をヒトでも証明する論文はいったいどうしたのだろうか。ラットやマウスでの論文はもう十分だ。なぜヒトでのデータがほとんどないのだ。ヒトの神経細胞だって培養はできる。この私でも大学勤務時代はやっていたくらいだし(まあ、臨床しながらの片手間でもできる培養しやすい神経系の癌細胞由来の株でしたけど。汗;)。

癌細胞以外のヒトの正常な神経細胞のin vitroでの実験は現実的には不可能に近いため、それがヒトでのデータがない理由だろうか。しかも、正常のヒトの神経細胞で実験ができたとしても、そのデータが精神疾患の感受性遺伝子を有する神経細胞にも当てはまるかどうかは不明である。精神疾患の感受性遺伝子を有するヒトの神経細胞を使った実験。そのような実験は不可能なのであろうか。

しかし、あのiPS細胞を使えばできなくもないように思える。患者から直接得られたiPS細胞ならば精神疾患の感受性遺伝子が必ず含まれているであろうから、それを神経細胞にまで分化させて培養し、その神経細胞でも神経保護作用が証明できれば完璧である。

例えば、健常人から得られたiPS細胞由来の神経細胞と、双極性障害の患者から得られたiPS細胞由来の神経細胞を培養したところ、死滅していく細胞数は、健常由来の神経細胞よりも双極性障害由来の神経細胞の方が、早く、かつ、多く死滅していったとして、オランザピンを加えたら、その死滅のスピードや数は低下し、健常由来の場合と双極性障害由来との間に差がなくなったとなればどうであろうか。そのような実験が実際に可能なのかも不明だが(汗;)、もし、ここまで証明できれば、その薬のヒトへの神経保護作用のエビデンスは揺るぎないものとなろう。

とにかく、ラットやマウスではダメなのだ。

なぜならば、ラットとヒトの神経の遺伝子は大きく異なると思われるからである。例をあげれば、嗅覚に関連する遺伝子の場合は(↓)、既にラットとヒトでは関連する遺伝子の数の違いが分かっている。当然、認知機能や感情や脳容積に関与する遺伝子はラットとヒトでは大きく異なるだろう。統合失調症や双極性障害での脳容積の減少は、ラットでのアポトーシス(神経細胞の死)に関与する遺伝子以外のヒトのみで作用する未知の遺伝子も関連している可能性があるからである。ヒトの神経細胞での証明が必要不可欠である。
http://www.nikon.co.jp/channel/light/chap05/sec01/index.htm 

以下、非定型抗精神病薬の神経保護作用で検索してヒットした論文で重要と思われるものを少しだけ紹介します。残念ながらヒト以外のラットやマウスばかりの論文しかありません。オランザピンによってupされる遺伝子もあればdownする遺伝子があることが示されたという論文は、間接的な作用なのかもしれませんが、オランザピンが遺伝子にも影響を与えることを示唆する所見と言えるのですが、これがどんな事象に結びつくかの解釈はまだ不明です。もし、様々な遺伝子が良い方向に動くのならば、この所見は薬物療法による再発防止効果を間接的に証明することになるかもしれません。

(オランザピンの慢性投与によって、ラットの前頭葉において、統合失調症や気分障害の病因に関連していると考えられている遺伝子の中で、31種の遺伝子のダウンレギュレーションと38種の遺伝子のアップレギュレーションを認めた。それはコントロールよりも2倍以上の変化であった。)
(オランザピンのマウスにおける神経保護作用は2相性であり、神経保護作用は高用量となるとその効果がなくなる。高用量が良いとは限らないことになる。)

私が思うに、ヒトでの神経保護作用を証明するようなin vitroのデータが提示されていない理由は、実験ができないためではなくて、既に神経保護作用をヒト由来の神経細胞株を用いたin vitroの実験で証明しようと数多く試みられたのだが、実はネガティブデータ(=神経保護作用があるとは言えない)しか得られなかったせいなのかもしれないと怪しんでいるのである。

当然、私と同じように疑問に思う学者も出てくることだろう。(非定型)抗精神病薬のヒトにおける神経保護作用は本当なのかという論文が精神科ではメジャーな雑誌であるBritish Journal of Psychiatryに既に掲載されている。今回はその記事を紹介する


「神経保護」仮説への疑問。薬物療法は統合失調症や精神病に生じる脳のダメージを予防できるのか?

イギリスでは、1998年から48%も増加して、2008年に700万の抗精神病薬の院外処方箋が発行された。アメリカ合衆国でも同様であり、特に若い人達への劇的な抗精神病薬の処方数が増加している。精神病への早期の薬物療法は有益であるという考え方が、双極性障害の場合にも浸透し、抗精神病薬の処方が増えてきている。

早期に薬物療法を開始することの重要性、そして患者が薬物治療の終了を希望していても薬物療法を続けることの重要性、こういったことが重要だと考えることは、統合失調症や精神病は進行性の脳組織の喪失をきたすが、抗精神病薬によ治療で喪失を停止させることができるという確信(信仰?)が広まったことにより正当化されている。それ故、非定型抗精神病薬が神経保護作用(neuroprotecive)という特性を有しているとよく引用される。この確信(信仰?)は様々なエビデンスに基づいている。しかし、神経保護作用に関しては、議論の余地がまだ十分にあり、逆の解釈をすることも可能なのである。

脳画像研究
 
神経保護仮説を支持する中心となる研究分野は脳画像の研究である。それは、統合失調症や精神病の人達の進行性の脳容積の減少、脳室や脳脊髄液の拡大を示す所見である。しかし、そのような全ての研究には、長期間抗精神薬を内服した人々が含まれている。初発エピソードの精神病の大規模な調査で、ハロペリドールを内服したケースがオランザピンと比較して脳容積のより大きな減少を認めたという所見が得られたが、このことからオランザピンは神経保護作用を有するものと解釈された。しかし、この調査をした研究者らは、薬剤によって誘発された変化かもしれないという解釈もできると述べている。

後者の解釈を支持する研究として、マカク猿にオランザピンとハロペリドールを18か月投与した研究があるが、未投薬の猿と比べて、脳容積がオランザピン、ハロペリドール伴に8%~11%の減少を示した(この論文は霊長類でのデータであり重要である。下に本文へのリンクを示しておく。★)。

長期間にわたって薬物に一切暴露されなかった患者が含まれるような研究はわずか3つしかないが、未投薬のままか、または最少量の投与しか受けなかった患者の大部分研究で、薬物投与を受けた場合のような脳全体の容積の減少は示されていないという所見は重要である。精神病を発症する危険性が高いと思われる人達への2つの研究からは、脳組織の減少は、精神病の発症の前から、そして、発病初期の段階から既に存在すると信じられている。しかし、オーストラリアのコホート調査における多くの患者はフォローアップ期間中に抗精神病薬を内服していた。精神病が進行したと思われる人達へのエジンバラでの研究においても、進行がない人達と比べて、より大きな側頭葉容積の減少が示されたが、コントロールとの比較では差はなかった。従って、画像研究では未投薬の統合失調症の患者の進行性の脳組織の喪失の証拠はほとんど提示されていないと言える。すなわち、これは投薬を受けた患者に見られる脳組織の喪失は投薬による影響を除外できないということである。

 神経病理学的所見

統合失調症の死後脳研究では、神経の変性疾患を特徴付けるような大規模な神経の喪失とグリオーシスは発見できなかったが、局在的な神経細胞のサブグループの喪失と局在的な樹状突起の喪失とその長さの減少という所見がいくつか見つかっている。しかし、繰り返すが、長期間にわたって投薬を受けていた人達が全ての研究に含まれている。いくつかの研究で未投薬のままの患者でのBDNFの血中濃度の低下が見い出されたが、この所見は統合失調症に特異的な所見ではない。気分障害やストレスへの応答でもBDNF(の血中濃度の低下)が見い出されている。統合失調症ではBDNFの血中濃度の低下は異常なアポトーシス(神経細胞死)のせいではと示唆されたが、慢性統合失調症の死後脳の組織のいくつかの研究では、アルツハイマー病のような神経変性疾患におけるアポトーシスを示唆するようなマーカーは増加していないことが確認されている。そして、病状の早期におけるアポトーシスの役割は推測段階のままである。

精神病の未治療の期間
 
統合失調症の進行的な脳の病変が薬物療法によって阻止することができるという間接的な仮説は、未治療の期間とその帰結を調査したいくつかの研究所見に関連しており、その研究所見は頻回に引用されている。しかし、長く持続する潜伏期間を有する病態は、突然に発症する病態と比べて、より重度であると以前から認識されていた。治療していない精神病の期間は、発病様式に強く関連しており、精神病それ自体の他の特性と関係があろう。未治療の期間は、単に、より重度の潜在的な病態を代替的に表現しているだけなのかもしれない。未治療の精神病の期間とその帰結に関する調査は、発症様式や他の潜在的な交絡因子を適切に調整して調査されてはいない。早期介入の試みはいくつかはポジティブな結果を示した。しかし、早期介入における投薬の効果は他の介入手段と比べて優れているか同じかといった分析はまだ終わっていない。そして、長期間の結果では早期介入における薬物治療効果に関しては否定的な結果だった。精神病のハイリスクと思われる若い人達への発病前からの薬物療法の2つの試みは 精神病への変化率を減少させたと示唆されたが、統計学的な優位な減少は示されなかった。しかし、薬物療法が精神病の発症を減少できないという自然的な?(naturalistic)研究結果もまだない。 

神経保護に関するエビデンス

 いくつかの精神科の薬剤、特にリチウムが、神経病理学のレベルで、神経の成長と神経細胞の新生に関連するいくつかの伝達経路の活性を増加させたというエビデンスから、薬物療法は神経保護的であるという考え方が発展した。しかし、これらの所見が何の機能に結びつくかはまだ不明である。リチウムは、カイニン酸によって誘発された運動神経への興奮毒性作用による細胞死を減少させたが、生き延びた神経細胞はダメージを受けていなかったという1つの論文がある(注:リチウムはGSK-3βを抑制することで興奮毒性作用に拮抗する。リチウムはGSK-3αも抑制するが、ここではGSK-3β。)。しかし、どのようなケースでもこれらの一連の(リチウムのような)効果は抗精神病薬ではまだ示されていない。新しい非定型抗精神病薬が神経保護作用を有すると考えられる根拠は、オランザピンやクロザピンの動物実験で神経保護的に作用するBcl-2タンパク質を増加させたという所見に由来しているようだ。しかし、Bcl-2タンパク質は、アルツハイマー病などの神経変性疾患でも増加しており、それは、代償的な作用の証拠ともみなすことができる。他の研究では示されなかったが、動物実験で新旧の抗精神病薬でpro-apoptotic protease capase-3(注: アポトーシスの前段階につながる酵素?)活性が上昇しているという論文が1つある。抗精神病薬、特に非定型抗精神病薬の認知機能における効果は神経保護作用のエビデンスとしてよく引用されるが、あらゆる非定型抗精神病薬が認知機能を改善するかどうかはまだ不明である。CATIEスタディ(Clinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness study)の結果では、非定型抗精神病薬の認知機能の改善効果に関しては疑問である。 なぜならば、パーフェナジンの長期投与群(18か月投与)の方が有意な認知機能の改善(注:特に、リスペリドンやオランザピンよりも)が認められたためである。神経保護的効果に関する考えとは対照的に、既に述べたように、抗精神病薬が脳組織容積を減少させるいう示唆的なエビデンスがある。そして、脳組織容積の減少は遅発性ジスキネジアとして知られている病理学的な脳の症候群を引き起こすことが知られている。不随意運動と同様に、遅発性ジスキネジアは認知機能の全般的な低下に関係し、遅発性ジスキネジアは抗精神病薬によって誘発された全般的な脳の機能不全であることを示唆する研究がある。 

結論

抗精神病薬は精神病の症状を抑えるのに有益なことは疑いのない事実である。しかし、この論文で示された証拠は、抗精神病薬が統合失調症や精神病における神経変性のプロセスを逆にできると確信できるような根拠は何もはないとことを示唆する。神経病理学的研究では、非定型抗精神病薬を含めて抗精神病薬が神経保護的作用を有するという考えを支持しない。抗精神病薬が神経保護的作用を有しないということが、これらの疾患に見られる脳容積の減少にさらに寄与することになるかもしれない。抗精神病薬が長期的に投与された人達には遅発性ジスキネジアという形態の神経的なダメージを惹起させることも知られている。それ故、もし、他の考察によって抗精神病薬の長期使用が支持されないのならば、抗精神病薬を処方された人や継続処方された人達に対して、抗精神病薬が神経保護的作用を有するという考え方は、正当化されない。精神科医は抗精神病薬の使用に関しては、特に、早期(注:小児への使用ことであろうか)や発病前の段階の使用においては注意深くなければならない。抗精神病薬の使用が潜在的な危害を加える可能性があるからである。

★マカク猿での論文★
(ハロペリドール、オランザピンの長期暴露により8~11%に相当する猿の脳の容積低下が脳全体に認められ、2つの薬剤ともに前頭葉と頭頂葉で最も顕著であった。しかし、猿とヒトではこの2つ薬物の吸収率や代謝速度などが大きく異なり、ヒトにも同様な結果が生じるとは断定はできない)

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