(前回の続きである)
Mitochondrial enhancers ミトコンドリア・エンハンサー
Mitochondrial enhancers ミトコンドリア・エンハンサー
ミトンコンドリアの機能異常が双極性障害、うつ病、パニック障害で36例報告されている。さらに、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生異常が双極性障害や統合失調症で報告されている。脳では、特に、ミトコンドリアは高酸素状態で活動している。ミトコンドリアのエネルギー代謝の阻害は、アポトーシスの前段階のシグナル伝達のトリガーとなり、酸化ストレスや興奮性毒性を示し、ミトコンドリアDNAの修復を阻害する。ハロペリドールやフルフェナジンはミトコンドリアの活性を阻害する。一方、リチウムやパロキセチンなどの抗うつ剤はミトコンドリアのエネルギー産生を増加させる。ミトコンドリアの機能を増強する物質は精神疾患における神経保護作用を発揮するかもしれない。ミトコンドリア・エンハンサーを他の共役因子と併用投与する方法が考えらている。1年以内にオーストラリアで臨床試験が始まる予定である。
Melatonin メラトニン
メラトニンは気分障害や統合失調症で減少しているという報告がある。メラトニンはサーカディアンリズムの調整だけでなく、強力な抗炎症作用、抗酸化作用、内因性抗酸化物質の誘導、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を増加させる。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%9A%84%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8C%96)
メラトニンはある種の抗精神病薬で、特に、オランザピンにおいて減少する。メラトニンの減少が抗精神病薬や気分安定化剤によって生じる代謝障害や体重増加に関与しているかもしれないと推測されている。バルプロ酸はアストロサイトのメラトニン受容体を劇的に増加させるという1つの研究データがある。この所見からは、気分安定化剤へのメラトニンの補完が効果を有するであろうと推測される。なお、メラトニンは国内では発売されておらず、サプリメントとして海外から個人輸入で入手可能である。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%9A%84%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8C%96)
メラトニンはある種の抗精神病薬で、特に、オランザピンにおいて減少する。メラトニンの減少が抗精神病薬や気分安定化剤によって生じる代謝障害や体重増加に関与しているかもしれないと推測されている。バルプロ酸はアストロサイトのメラトニン受容体を劇的に増加させるという1つの研究データがある。この所見からは、気分安定化剤へのメラトニンの補完が効果を有するであろうと推測される。なお、メラトニンは国内では発売されておらず、サプリメントとして海外から個人輸入で入手可能である。
(メラトニンの神経保護作用に関する可能性)
Leptin レプチン
レプチンは脂肪細胞から放出されるペプチドホルモンであり、食欲調整(食欲抑制)や交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大などに関与している。この論文では、抗精神病薬や気分安定化剤による代謝障害や肥満はレプチンの上昇と、上昇したレプチンへの抵抗性の獲得が関与している、などが紹介され、多くの紙面を割いてレプチンの神経保護作用に関する分子生物学的メカニズムが解説されている。しかし、レプチン製剤自体もまだないし、コラーゲン同様に経口からいくら摂取してもアミノ酸に分解されるだけでそのまま体内に吸収されることはなく無意味なため、注射製剤でも開発されない限りは臨床として使用可能な物質にはなり得ないだろう。
(抗精神病薬や気分安定化剤による肥満とレプチンとの関連性)
(レプチンの神経保護作用に関するレビュー)
Omega-3 polyunsaturated fatty acid オメガ3多不飽和脂肪酸 ω-3 PUFAs
ω3不飽和脂肪酸ω-3 PUFAに属するドコサヘキサエン酸DHAは、脳のリン脂質および網膜の膜成分の主成分である。リノレン酸やDHAは脳虚血やカイニン酸による神経毒性から神経を保護する。そのメカニズムは、直列ポアドメインカリウムチャネル(神経の膜電位を負に保つ働きに関与)であるTREK-1とTRAAKを調節することに由来している。TREK-1とTRAAKは機械的刺激や温度刺激を痛覚として伝えることに関与している。猿の研究では、エイコサペンタエン酸 EPAやDHAはミクログリアの炎症性反応を抑制した。そして、脳虚血やリポ多糖類よって誘導されるIL-6、IL-1α、IL-β、TNF-αを減少させた。ω-3 PUFAは強力な抗炎症と抗アポトーシス作用を有する。PUFAsは、気分障害、特に双極性障害のうつ病相への治療効果が報告されている。さらに統合失調症、認知症、ADHD、ASDなどの多くの精神疾患への治療効果が期待されている。最近の調査では、ω-3 PUFAの統合失調症に対する短期的な効果は証明されなかったが、長期的な効果として超ハイリスクultra-high risk (UHR)な人の統合失調症への発病を防止できる可能性が示唆された。そしてネルボン酸Nervonic acidの低下が統合失調症の前駆症状と関連していることなども推測された。
注; なお、ω-3 PUFAの文献としては、他にも、
酸化ストレスに晒された時にドコサヘキサエン酸由来のneuroprotectin D1というが形成され、強力な抗炎症作用、神経保護作用を発揮する
健常な成人におけるω-3 PUFAの摂取量はMRI検査にて前帯状皮質、右海馬、右扁桃体の容積と正の相関を示していた。この皮質辺縁系回路corticolimbic circuitryは記憶、覚醒、気分や感情の調整などに関連している。MRI検査にてω-3 PUFAの神経保護作用を直接的に示した論文だと言えよう。
ω-3 PUFAの抗うつ効果(分子生物学的メカニズムなど)に関する詳しいレビュー。
DHAに関する詳細なレビュー。脳の成熟とドコサヘキサエン酸の関連性。胎児の時のDHAの不足は脳の発育が阻害され、出生後の様々な精神疾患に関連する。ω-3 PUFAの神経保護的なMRI所見に関する項目もある。
長鎖ω-3 PUFAは慢性だけでなく、急性の神経変性状態にも効果を発揮する。
赤血球膜のネルボン酸低下はUHRの精神病への変換を予測するマーカーとなり得る。
ω-3 PUFAの発病予防効果はintracellular phospholipase A2活性の正常化などが関与している。
ω-3 PUFAは小児から老人までの幅広い効果が期待されている。小児時代の脳の発達から、成人期のうつ病や自殺の防止、老化による神経変性を遅延させるというあらゆる年代に必須の栄養素である。ω-3 PUFAの各年代やいろいろな疾患に対する効果に関する詳しいレビュー。
双極性障害に関するω-3 PUFAの効果に関するレビュー。
高齢者におけるω-3 PUFAの摂取量は、脳の灰白質の容積と認知機能に相関していた。
血中のEPAの濃度の高さは、右の海馬・海馬傍領域の下灰白質の萎縮の減少と右扁桃体の萎縮の減少に相関していた。
などの論文がある。ω-3脂肪酸の神経保護作用はほぼ確実と思われる。ただし、ω-3脂肪酸は、早期の効果を期待するものではなく、長期に使用することで、うつ病、統合失調症、双極性障害、認知症などの精神疾患の発病予防、進行予防が期待できると言えよう。なお、ω-3脂肪酸は、精神疾患だけでなく、冠動脈や脳動脈疾患の予防、肥満や糖尿病の予防効果なども報告されている。飲んでいて損はないサプリメントである。
他にも、神経保護作用を有するであろうと報告されているものとしては、葉酸、トピラマート(この薬は様々な精神疾患に効果を発揮する。作用機序はグルタミン酸受容体阻害、抑制性神経伝達物質GABAの効果を高める、電位依存性のNa及びCaチャネルの活性を低下させる、等)、ラモトリギン(双極性障害のラピッドサイクラーなタイプへの効果は頼もしい。しかし薬疹が出やすいので要注意である。)、フェルラ酸(フェルガードという認知症へのサプリメントの主成分。認知症にはかなりの効果を発揮することが多々ある。海外の論文も多く出ている。当院でも前頭側頭型認知症に著効したケースを数例経験している。)、アマンタジンなどがあるが、紙面の都合にて省略する。
今回紹介したミトコンドリアエンハンサー以下の物質は、あくまで精神精神の治療のメインの薬剤としてではなく、メインの薬剤との補助的な併用によって神経保護作用が期待できるものと思われる。
まとめ(神経保護のために推奨されるサプリメントと薬剤): Li、VPA、ミノサイクリン、BBBを通過するようなNSAIDs、 メラトニン、ω3脂肪酸(DHA・EPA)、NAC、抑肝散、ニコチンガム、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン、葉酸、トピラマート、フェルガードといったところになろう。
Erythropoietin エリスロポエチン EPO
エリスロポエチンは忍容性が髙くBBBを通過する。マウスの実験ではハロペリドールによって誘導される細胞死を減少させ、認知機能を高める。EPOはBDNFを↑する。神経毒であるtrimethyltinによる海馬の細胞死を減少させる。統合失調症における治療効果から、EPOの神経新生作用、神経保護作用、炎症調節作用、抗酸化作用などが推測された。しかし、EPOは血栓症や癌の発生率を高め、高血圧や脳虚血を誘発するおそれがある。長期的な使用には耐えれないだろう。(注; 腎性貧血などにてEPO製剤は臨床で既に使用されているが、非常に高価な薬剤であり、精神疾患の保険適応もなく、EPOの精神疾患への応用は現時点では対象外であろう)
N-acetylcysteine Nアセチルシステイン NAC
Nアセチルシステインは、ニューロトロフィン、グルタミン酸神経伝達、グルタチオン、アポトーシス、ミトコンドリアの機能、炎症伝達経路をなどの多くの経路に作用する分子である。これらの経路は精神神経疾患に密接に関連している。システインは、シスチンをグルタミン酸と交換することで、細胞内と細胞外のグルタミン酸の交換に関与する(cystine-glutamate antiporterシスチン/グルタミン酸アンチポーターと呼ばれる)。グルタチオンはグルタミン酸へのMNDA受容体の応答を増強する。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%81%E3%82%AA%E3%83%B3)
NACは、ドーパミン神経伝達を調節し、ドーパミンによって誘導された反応性を有する酸化物質の形成をブロックする。システインをブーストするとグルタチオンの産生ステップが増強され、NACは酸化還元反応の防御因子として利用されるグルタチオンを増加させる。NACは神経の分化を促し、神経の発芽や新生を促進する。NACは、ミトコンドリアへの毒性に拮抗し、乳酸やピルビン酸などのミトコンドリア関連因子を正常化する。NACは抗酸化作用を介して神経保護作用を発揮する。NACの精神神経疾患(自閉症、コカイン乱用、大麻乱用、統合失調症、うつ病、双極性障害、等)への治療効果を認めた臨床試験が報告されている。認知症へのパイロットスタディや救急医療での臨床試験でNACには神経保護作用があることが推測された。NACは忍容性に優れ、多くの経路に作用する。
グルタチオンは肝庇護剤として臨床ではよく使用されているが、神経保護作用も期待できるようである。ただし、グルタチオンは経口から摂取しても殆ど血液中に移行しないらしい。内服したグルタチオンが脳神経細胞に利用されるかは不明である(アミノ酸に分解されてしまいグルタチオンのままでは消化管から吸収しないのか、または、吸収しても肝臓が全てトラップしてしまうのかも)。グルタチオンを増やそうと思うならば構成要素である3つのアミノ酸を摂取する必要がある(L-システイン、L-グルタミン酸、グリシン)。NACは、美白、美容の用途や二日酔い防止のサプリメントとして注目されているが、神経保護作用や精神疾患への補完療法的な目的での内服もあり得るかもしれない。しかし、MRI検査にてNACの神経保護作用を直接示すような報告はまだない。なお、NACは海外からサプリメントとして個人輸入が可能である。
グルタチオンは肝庇護剤として臨床ではよく使用されているが、神経保護作用も期待できるようである。ただし、グルタチオンは経口から摂取しても殆ど血液中に移行しないらしい。内服したグルタチオンが脳神経細胞に利用されるかは不明である(アミノ酸に分解されてしまいグルタチオンのままでは消化管から吸収しないのか、または、吸収しても肝臓が全てトラップしてしまうのかも)。グルタチオンを増やそうと思うならば構成要素である3つのアミノ酸を摂取する必要がある(L-システイン、L-グルタミン酸、グリシン)。NACは、美白、美容の用途や二日酔い防止のサプリメントとして注目されているが、神経保護作用や精神疾患への補完療法的な目的での内服もあり得るかもしれない。しかし、MRI検査にてNACの神経保護作用を直接示すような報告はまだない。なお、NACは海外からサプリメントとして個人輸入が可能である。
(統合失調症の重症度と脳内の抗酸化物質グルタチオンの濃度には相関関係がある)
(NACは、コカイン依存症患者のグルタミン酸レベルを正常化した)
(双極性障害への補助療法としてのNACの効果)
(NACと抗うつ剤の相互作用について)
(NACの精神神経疾患への効果)
Haematopeitic neuroprotective cytokines 造血性・神経保護的サイトカイン
Stem cell factor(SCF)やgranulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)といった造血因子が齧歯類の脳虚血モデル実験にて神経保護作用を有することが示された。さらに、抗アポトーシス作用や、Akt、ERKなどを介する遺伝子の転写を活性化する。SCFやG-CSFはBBBを通過する。統合失調症などへの応用が示唆されている。
その他、この論文では提示されていないが、神経保護作用を有すると思われるものとしては、
抑肝散 (中国語ではYi Gan San)
抑肝散の認知症における周辺症状への効果は広く知られており、認知症の臨床で幅広く使用されている。抑肝散も神経保護作用を有するとものと推測されている。
(抑肝散は、アストロサイトの機能不全の改善ではなく、グルタミン酸興奮毒性に対する直接的な神経保護作用を有する)
(抑肝散の効果に関するレビュー。台湾では認知症だけでなく、神経症やうつ状態にも使用されている。)
(抑肝散も含めた漢方薬の認知症疾患への効果に関するレビュー)
(薬物療法が困難なことが多い前頭側頭型認知症に対する抑肝散の効果)
(治療抵抗性の統合失調症に対する抑肝散の効果)
(境界型パーソナリティ障害への抑肝散の効果)
ニコチン及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)
タバコに含まれるニコチンは、α4及びα7アセチルコリン受容体AChRを介してグルタミン酸神経毒性を防御することで神経保護作用を発揮する。同様に、認知症治療薬であるドネペジル、リバスミグミン、ガランタミンも同じメカニズムを介して神経保護作用を発揮する。
(ニコチンとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の神経保護作用のメカニズム)
(ニコチンはAChRを介しアミロイドβの蓄積を阻害する。アミロイドβ毒性から神経を保護できる。AChR作動薬の詳しいレビュー。)
メマンチン
メマンチンはNMDA受容体に直接作用する臨床上使用できる数少ない薬剤である。メマンチンはNMDAの興奮毒性による神経細胞死を防ぎ、神経保護作用を有するものと推測されている。NMDA受容体を完全に遮断してしまうような薬剤は非生理的であり臨床には使用できないが、メマンチンは非競合的に低親和性にNMDA受容体のイオンチャンネルを阻害するため、PCPのようなNMDA受容体阻害剤としての幻覚などの有害事象は生じないとされる。メマンチンは認知症だけでなく、統合失調症、強迫性障害、ギャンブル依存症などの精神疾患への補完療法としての効果が期待され、効果があったという報告もなされているが、効果はなかったという報告もある。認知症以外に関しての効果はまだ不確実である。私は高齢化し認知症に移行しつつあるのではと思えるような微妙な段階にある統合失調症のケースにも使用しているが(アルツハイマー病というレセプト病名を付けなければならないが)、確かにメマンチンの効果はあるように思える。
(統合失調症への神経保護としてのメマンチン)
(クロザピンへの補完としての治療抵抗性統合失調症へのメマンチンの効果)
(統合失調症の残存症状への補完療法としての効果)
(統合失調症への補完療法としてのメマンチンの効果はなかった。)
(慢性統合失調症患者へメマンチンは有意な効果を与えなかった)
(↑への批判。効果はあるかもしれない。)
他にも、神経保護作用を有するであろうと報告されているものとしては、葉酸、トピラマート(この薬は様々な精神疾患に効果を発揮する。作用機序はグルタミン酸受容体阻害、抑制性神経伝達物質GABAの効果を高める、電位依存性のNa及びCaチャネルの活性を低下させる、等)、ラモトリギン(双極性障害のラピッドサイクラーなタイプへの効果は頼もしい。しかし薬疹が出やすいので要注意である。)、フェルラ酸(フェルガードという認知症へのサプリメントの主成分。認知症にはかなりの効果を発揮することが多々ある。海外の論文も多く出ている。当院でも前頭側頭型認知症に著効したケースを数例経験している。)、アマンタジンなどがあるが、紙面の都合にて省略する。
今回紹介したミトコンドリアエンハンサー以下の物質は、あくまで精神精神の治療のメインの薬剤としてではなく、メインの薬剤との補助的な併用によって神経保護作用が期待できるものと思われる。
まとめ(神経保護のために推奨されるサプリメントと薬剤): Li、VPA、ミノサイクリン、BBBを通過するようなNSAIDs、 メラトニン、ω3脂肪酸(DHA・EPA)、NAC、抑肝散、ニコチンガム、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン、葉酸、トピラマート、フェルガードといったところになろう。