2013年08月

精神疾患を予防するために感染症を予防せよ(インフルエンザ編 その2)

(前回の続き)

実験手順

(概略のみ示す)
 この研究の目的は、妊娠7日目(E7)(ラットでの妊娠中期の最初の時期)におけるウイルス感染の結果による、胎盤、海馬、前頭前皮質における遺伝子の発現の変化と形態学的変化を検証することにある。CNSへの毒性が高いA/WSN/33株(H1N1)などを妊娠したC57BL6JマウスのE7の時期に鼻腔内に投与して感染させた。E16(妊娠16日目)で胎盤を回収しマイクロアレイ解析を行い、マイクロアレイのデータセットから、興味のある遺伝子の定量的RT-PCRを行った。さらに、DTIとMRスキャン、光学顕微鏡で脳の形態的変化を調査した。

結果

胎盤での遺伝子発現の変化

マイクロアレイを用いた結果、77遺伝子のアップレギュレーションと、93遺伝子のダウンレギュレーションを検出した。

 ダウンレギュレーションした遺伝子の中で最も重要な遺伝子は、グルタミン酸受容体、イオンチャネル、AMPA1(alpha 1) (Gria1)、カテニン(カドヘリン関連タンパク質)、デルタ1(Ctnn1)、フォークヘッドボックスO3(fox03)、ジスフェリン(Dysf)であった(表1)。

 アップレギュレーションした遺伝子の中で最も重要な遺伝子は、ホスホジエステラーゼ10A(PDE10A)、Fynプロト癌遺伝子(Fyn)、プログラム細胞死2(Pdcd2)、クェーキング(Qk)であった(表1)。(注; なお、PDE10Aは、CFG分析にて、統合失調症、双極性障害、不安障害の3つの疾患に共通して関与していることが示された遺伝子である
関連ブログ2013年6月12日

 QRT-PCRを用い胎盤における以下の11遺伝子の変化の大きさと方向性を調べた。Fyn、GPIアンカー型HDL-結合タンパク質1(Gpihbp1)、グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)、ガンマ12(Gng12)、インスリン様成長因子結合タンパク質3(IGFBP3)、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、筋細胞エンハンサー因子2C(MEF2C)、リボヌクレアーゼL(2′, 5′-oligoisoadenylate synthetase-dependent)(RNASEL)、ラント関連転写因子1(RUNX1)、TAF1 RNAポリメラーゼII、TATAボックス結合タンパク質(TBP)関連因子(TAF1)、T細胞特異的GTPアーゼT-cell specific GTPase(Tgtp)、非アクティブX特定転写産物inactive X specific transcripts(XIST)である。表1にQRT-PCRの結果を示した。

子の海馬および前頭皮質における遺伝子発現の変化

 マイクロアレイを用いた結果、子の前頭皮質では、P0時期:6遺伝子のアップレギュレーションと、24遺伝子のダウンレギュレーション。P56時期:5遺伝子のアップレギュレーションと、14遺伝子のダウンレギュレーション。を認めた。子の海馬では、P0時期:4遺伝子のアップレギュレーションと、6遺伝子のダウンレギュレーション。P56時期:6遺伝子のアップレギュレーションと、13遺伝子のダウンレギュレーション。を認めた。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3156896/bin/NIHMS268940-supplement-02.doc

 qRT-PCRによってマイクロアレイデータセットから選択した前頭前皮質と海馬における遺伝子の大きさと方向性の著明な変化を認めた(表1)。mRNA中の大きな変化が確認された遺伝子は、前頭前野では、グルタミン酸受容体相互作用タンパク質I(GRIP1)(アップレギュレーション)、血小板第4因子(PF4)、コンタクチン1(Cntn1)と神経栄養チロシンキナーゼ受容体、タイプ3( Ntrk3)であった。海馬では、paralemmin 2(Palm2)およびプロテインチロシンキナーゼ2ベータ(Ptk2b)であった(表1)。

 注: ここで、他の論文のデータを補足して付け加えておく。他の感染実験(E17時期での感染)では、以下のような海馬における遺伝子発現の変化がこれまでに得られている。Aqp4, Mbp, Nts, Foxp2, Nrcam, and Gabrg1といった統合失調症や自閉症との関連遺伝子。Mag, Mog, Mobp, Mal, and Plp1といった髄鞘形成に関連する遺伝子が変化していた。特に、細胞接着因子Nrcam遺伝子やミエリン塩基性タンパク質Mbp遺伝子など、CFG分析で統合失調症や双極性障害との関連性の高さが示されている遺伝子(関連ブログ2013年6月12日)がダウンレギュレーションしていることが分かる(下表)。また自閉症との関連が指摘されているFoxp2遺伝子なども変化していた。Foxp2はポリグルタミン管とフォーク・ヘッドDN 結合ドメインを含む転写調節因子であり、言語障害という自閉症で見られる症状に関連付けられている。以前このブログで触れた水中毒に関連しているApq4遺伝子もダウンレギュレーションしている。Aqp4 は自閉症の小脳で減少していることが示されている。なお、これらの所見の中でGABA受容体遺伝子もダウンレギュレーションしていることに注目すべきである。この所見がグルタミン酸系の神経伝達系と複雑に絡み合い、ストレスに対して脆弱となり、将来の統合失調症の発症の原因になるものと推測されている(この点に関しては別の機会に触れる予定である)。
(E17時期の感染での子の海馬遺伝子の変化)

胎盤や子の脳ではH1N1ウイルス遺伝子は検出しなかった

 マトリックスタンパク1/matrixタンパク質2(M1/M2)、ノイラミニダーゼ(NA)、非構造タンパク質1(NS1)の3つの遺伝子を定量RT-PCRにて検出を試みたが、胎盤、海馬、前頭前野とも3つのウイルス遺伝子は検出することができなかった。これは、ウイルスが胎盤を通過しなかったことを示唆する。
H1N1-2













子の脳の形態的変化

 海馬の容積、小脳の容積、脳全体の容積 脳室の容積には有意な変化は認められなかった表2)。しかし、35日目での海馬の容積が減少する傾向を認めた。脳のイメージングにて、生後35日目の子の右中小脳脚の白質における異方性比率fractional anisotropy (FA)の増加を認めた(表3)。子の生後14日目での海馬の白質のFAの減少傾向も認めた。

ウイルス感染による出生前の胎盤の構造異常

 感染した7日目の母親の胎盤の組織学的異常を認めた(図1)。胎盤の全てのセクションに迷宮ゾーンは消失していた。それは、迷宮ゾーンとして認識できないような組織の広範囲な崩壊であった。直径40~120ミクロンの大きさの血栓が、接合ゾーンを含む胎盤の様々な領域に存在していた(図1B、1D)。接合ゾーンでの炎症性細胞の増加を認めた(図1D)。
 胎盤1















 結果を要約すると、今回の我々の研究で、出生前のウイルス感染は胎盤や子の脳の変化をもたらしたことが分かった。我々は、出生前のウイルス感染のマウスモデルを使用して、母体に感染させた子の9、16、18日目の脳における遺伝子の発現異常や脳構造の異常を発見した。胎盤における77の遺伝子のアップレギュレーション、93の遺伝子の著しいダウンレギュレーションを観察した。妊娠7週目(E7)に感染した子マウスの脳では次の脳の部位での遺伝子発現の変化を認めた。前頭前野の皮質では、出生0日目(PO)での6遺伝子のアップレギュレートと24遺伝子のダウンレギュレート、出生56日目(P56)での5遺伝子のアップレギュレートと14遺伝子のダウンレギュレート、海馬では、出生0日目での4遺伝子のアップレギュレートと6遺伝子のダウンレギュレート、出生56日目(P56)での6遺伝子のアップレギュレートと13遺伝子のダウンレギュレートを認めた。QRT-PCRでは、低酸素症、炎症、統合失調症、自閉症に関連する多くの遺伝子の変化を確認した。しかし、コントロールと比較した場合、子の脳の形態学的分析では変化は最小限度のものであった。感染マウスの胎盤では、血栓形成などの形態異常を示し免疫細胞が増加していた。これは、感染した母の胎盤は、潜在的に胚に影響を与える可能性がある多くの構造的な異常があることを示している。さらに、我々は母体の胎盤や子の脳における、M1/M2、NA、NS1NAというH1N1ウイルスに特有の遺伝子の存在を調べたが検出されなかった。重要なことは、検証した組織のいずれにおいても3種のインフルエンザウイルス遺伝子のmRNAを検出しなかったことである。
 
議論

我々の研究は、妊娠中におけるインフルエンザ感染の胎盤への影響を調べた最初の研究である。

 興味深いことは、胎盤におけるマイクロアレイ分析の結果が、変化した遺伝子の20%がアポトーシスや抗アポトーシスの経路(すなわち、Atrx、Mef2c、Taf1、Pdcd2、Igfbp3)に関与していることである。さらに、10%が免疫応答(すなわち、Atg5、Dysf、Msln、Pias3、Plek2、Pus1、Tac4、Tgtp)、約11%が低酸素症(すなわち、Atg5、Foxo3、Smad4)、そして約11%は、炎症(すなわち、Rnasel、Gng12、Smad4、Tac4)に関連していることである(表4)。一方、9.4%が統合失調症を含む主要な精神疾患の関連遺伝子と関連していた(すなわち、Fyn、Gria1)。さらに、双極性障害(Fyn、Pura)、大うつ病(Pten、Zfp36)、自閉症(すなわち、Pten、Robo1)と関連する遺伝子の変化も認めた(表4)。

 炎症、免疫応答、低酸素症、に関連する遺伝子群は2つに共通するカテゴリー(すなわちATG5、Igfb3、Mif、PRNP、Tac4、F2R、Ptenの、Pdcd2、Tgtp、Dysf)、あるいは、全てに共通するカテゴリ(Foxo3、Smad4、Hes1、Mnt、Zfp36、Fyn)に分類される。これらの3つのプロセスは相互接続されているため、この重複した所見は想定外のことではなかった。これらの遺伝子の発現の変化は、ウイルス感染に由来することを示唆している。従って、胎盤の変化が母や胎児の免疫応答に起因するものかが検証されねばならない。そのため、胎盤遺伝子(Mef2c、Mif、Fyn、Gpihbp1、Gng12、Igfbp3、Rnasel、Runx1、Taf1、Tgtp、Xist)の変化の方向性と大きさをqRT-PCRによって検証した。

 特に興味深いのは、MifFynである。マクロファージ遊走阻害因子(Mif)は、マクロファージや活性化したTリンパ球から放出される炎症性サイトカインである。Mifは、前炎症性サイトカインとインターロイキンの放出を刺激する。腫瘍壊死因子α(TNFα)、IL2、IL6、IL8である。マイクロアレイとqRT-PCRの双方にて、MifのmRNAのダウンレギュレーションを見出した。これはサイトカインの増加に対抗する胎盤における所見かもしれない。Fynプロトオンコジーンは、Srcファミリーキナーゼのメンバーであり、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体サブユニットのリン酸化を介してグルタミン酸シグナル伝達に関与している。Fyn遺伝子の多型性は双極性障害と関連していると報告されており、統合失調症を有する被験者の前頭前野の機能を測定する目的でウィスコンシンカードソーティングテストを用いてFyn遺伝子に関連する機能が調べられている。以前の研究では、Fyn遺伝子の多型性と統合失調症と関連性は認められなかった。しかし、Fyn遺伝子のmRNAとFyn遺伝子がコードするタンパク質は、統合失調症の被験者の前頭前野で上昇していることが観察されている。Fynキナーゼは単純ヘルペスウイルスと結合する因子であり、ウイルス感染における重要な役割を示し、Fynキナーゼの上昇は最終的には統合失調症などの神経発達障害に関連する脳疾患に結びつく可能性がある。胎盤におけるFyn遺伝子のmRNAのアップレギュレーションの所見は、ウイルス感染時のFynキナーゼの上昇を意味するものであろう。(注: ただし今回は胎盤のみでの所見であり、脳におけるFynキナーゼの上昇が見出された訳ではない。)

 MifやFyn以外の重要な機能を持つ他の遺伝子も、マイクロアレイやqRT-PCRにて同じようなmRNAの変化を示していた。胎盤におけるGPIアンカー型HDL-結合タンパク質1(Gpihbp1)遺伝子のmRNAがダウンレギュレートしていた(表1)。Gpihbp1は内皮細胞によって合成されるが、心臓や脂肪組織で多く発現しており、脂質の分解に必要とされる。T細胞特異的アーゼ(Tgtp)も、胎盤で上昇することが分かった。マウスにおける最近の研究では、キノコの霊芝Ganodermalucidum(免疫系を調節することで知られている)の胞子によって刺激された後に、単核細胞内のTgtpタンパク質の発現が上昇し、霊芝の胞子に暴露された母体の胎盤の免疫を活性化することが知られている。グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)やガンマ12(Gng12)が、リポ多糖体(LPS)(LPSはグラム陰性細菌などに由来する)によって誘発されるミクログリア細胞の炎症反応をマイナスの方向に調節するという仮説が立てられている。ラーソンらと同様に、我々はGng12遺伝子のmRNAの増加(表1)を観察したが、Gng12がウイルス感染後の胎盤で同様の役割を果たす可能性があることを示唆している。インスリン様成長因子結合タンパク質3(Igfbp3)は、胎盤(特に、母体と胎児が接するような場所で)豊富に発現していた。インスリン様成長因子結合タンパク質3はインスリンアンタゴニストとして作用する。生後6ヶ月未満の子どもの脳脊髄液では、IGF-I、IGFBP1、IGFBP3の高濃度が観察されているが、この所見は中枢神経系における髄鞘形成やシナプス形成に役割を果たしている可能性がある。我々が観察した胎盤におけるIgfbp3の減少は発育中の胎児の脳の発達を損なう恐れがある(表1)。

 ラント関連転写因子1(Runx1)は マウスの血管構造(卵黄、臍動脈を含む)から造血前駆細胞や幹細胞を形成する上で必要不可欠である 胎盤の幹細胞の形成のために必要である。Runx1は胎盤の栄養膜細胞のアデノシンデアミナーゼ(Ada)遺伝子の発現調節において重要である。さらにマウスでは、Runx1の不活性化は、三叉神経と前庭蝸牛神経節の感覚ニューロンの減少をもたらした。Runx1遺伝子のmRNAのダウンレギュレーションは(表1)は、胎盤で観察された組織の統合不全を説明するのに役立ち、Igfbp3のように、胎児の脳の発達に影響を及ぼす。

 リボヌクレアーゼL(Rnasel)は抗ウイルス効果を持有し、炎症における役割を担っている。Rnasel遺伝子のmRNA (表1)はこれらの役割を反映している所見である。最後に、非アクティブX特定の転写産物(Xist)遺伝子のmRNが胎盤で増加していた(表1)。Xist遺伝子は、女性の2つあるX染色体の中の1の染色体の不活性化のために必要である。何の目的でXist遺伝子のmRNAがアップレギュレーションしているのかは不明であるが、胎盤や胚の発育に関連しているのかもしれない。

 他の感染時期と比較して、比較的小さい変化ではあったが、妊娠7日目(E7)での感染が子の海馬HPや前頭前夜PFCにおける多種の遺伝子発現の変化を示した。以前の実験結果では、E9時期の感染では出産初日(P0)の脳では39種の遺伝子(全脳)、E16時期の感染では676種の遺伝子、E18時期の感染では247種の遺伝子が変化したが、それらとの比較から、今回の我々の実験では、E7の時期に感染した結果、P0における脳ではHPやPFCの部位において総数40種の遺伝子の発現が変化したことを認めたのと同様に、以前の実験結果では、E9時期の感染では24遺伝子(PFCのみ)、E16時期の感染では349遺伝子、E18時期の感染では182遺伝子が変化していたが、これらの所見との比較で、E7時期による感染において、P56では38遺伝子発現が変化したことが示された。これらのデータは後期の時点になるほど初期の感染よりは子の遺伝子の発現に大きな変化をもたらすことを示している。これらの結果は、妊娠後期の母体の免疫活性化が子の神経伝達物質のレベルの変化や著しい行動障害につながるというBitanihirweらの論文(↓)と一致した所見である。
(ラットの後期の感染は、子の行動異常と複数の神経伝達系の長期間の異常を引き起こした)

 我々の実験では、H1N1ウイルスに特異的な遺伝子であるマトリックスタンパク1/matrixタンパク質2(M1/M2)、ノイラミニダーゼ(NA)、非構造タンパク質1(NS1)という3種のmRNAの存在を子の海馬や前頭皮質において検出することができなかった。NS1は、宿主での免疫応答を阻害し、ウイルス複製を促進する役割がある。特に、NS1は、宿主のインターフェロン生産に拮抗する作用を有する。ウイルスのゲノムのRNAセグメント1つでマトリックスタンパク質M1とM2の両方をコードする。M1はウイルス複製、組み立て、出芽という機能に関連し、M2はプロトンチャネル活性に関連する。NAは、hemagglutinin (HA) が結合するシアル酸を除去することによって、感染細胞からのウイルスの放出を促進する。NAは、インフルエンザ感染防止薬として開発されているペラミビルやオセルタミビルなどの薬物の標的である。我々の結果は、感染した母体の肺でウイルスmRNAを検出したが、検査された胎盤での検出は稀であり、検査した全ての子の脳では検出されなかったというShiら結果に似ている これらのデータは、ウイルスが胎盤を通過せず子には感染しなかったことを示唆している。我々の結果は、母体のウイルス感染による子への有害な変化は、母体が産生したサイトカインの作用によるものであるという間接的な証拠を示唆する。

 当研究室では、E9、E16、E19という時期の出生前のウイルス感染の有害な影響をこれまでに報告した。E9時期でのウイルス感染は、P0における海馬と前頭前野の異常な皮質形成をもたらし、 脳の適切な層状組織化のために重要な分子であるReelinの減少を伴っていた。さらに、E9時期での感染は、巨頭と成人期における錐体細胞の調節障害をもたらし、その結果、脳の発達に長期的な影響を及ぼした。後期(E18時期、特にE16時期)での感染は、海馬や小脳や全脳の容積の減少と変化をもたらし、複数の領域における白質のFA(DTi検査における異方性比率のことか?)の変化といった有害な影響を及ぼした。一方、E7時期の感染ではP35における右中小脳脚のFAの増加はあったが、脳の形態にはE9、E16、E18という後期における感染と比べて影響は比較的小さかった。マウスでは、妊娠の第1期(妊娠を3つの時期に分けて、その1番目の時期。E0~E10。)と、第2期(E10~E20)の違いは、胎児の器官形成はE10~E14になされ、胎児の成長と発育はE14~E20にかけて成される。個々の脳領域では、成長はタイムテーブルに従う。例えば、大脳皮質はE11.5~E16になされ、海馬はE11~E15.5になされる。従って、E7時期での感染は、これらの重要な期間の前の感染であるため、脳の形態には比較的低い影響で終ることを説明できる。

 我々は、感染した母親の胎盤で多くの構造異常を観察したが、H1N1ウイルスの致死用量以下の感染は LZの喪失、血栓形成、胎盤のアポトーシスや壊死、炎症性細胞の増加を認めた。我々が観察したLZの減少は、カンピロバクターの感染でもマウスで胎盤で確認されている。我々は、この胎盤の変化は、呼吸ガス交換の障害につながり、母親と胎児の間での栄養素や老廃物の流れの障害につながる可能性を示唆する。興味深いことに、糖尿病のマウスモデルの研究でも、海綿様細胞の過剰発現によるLZの減少を認めたが、この所見も胎盤輸送の障害を示唆する。胎盤でもウイルスRNAが検出されなかったため、これらの変化は、母体または胎児のサイトカインの産生に起因するものであり、おそらく、サイトカインによって胎盤の炎症性細胞が増加したことが原因であろう。カンピロバクターによる感染でも、インターフェロンγ(INF-γ)の著明な増加をもたらし、INF-γは神経の酸化ストレスやアポトーシスのメディエーターとして作用する。子宮胎盤血流が制限された胎盤機能不全のモルモットのモデルでは、統合失調症モデルで観察されたようなPPIの減少や脳構造の異常を認めた。今回の我々のウイルス感染モデルでも、これまでのモデルと同様のメカニズムによって、子の脳における遺伝子発現に影響を与え、行動の変化をもたらすものと推測される。
(出生前感染によるサイトカインの脳の発達への影響に関する詳細なレビュー。一読の価値あり。) 
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278584611003186
fetal neuroinflammation










 今回の研究における制限事項は少ないサンプル数である。調査した個体数が少ないため、ばらつきが生じ、遺伝子発現の変化や脳の形態の変化をマスクしている可能性がある。さらなる調査が必要である。今後の研究では、胎盤遺伝子のウェスタンブロッティングを行う予定である。胎盤組織中のサイトカインの測定は、特に、IL-6の測定は、炎症の潜在的な役割についての重要な情報を提供することであろう。

結論

 E7時期における出生前のインフルエンザウイルスの感染は、E16時期の胎盤における遺伝子発現と形態の変化をもたらした。変化した胎盤遺伝子の多くは、低酸素、炎症 免疫反応、アポトーシスに関連する遺伝子であり、免疫反応によって胎盤環境が障害されたことを示唆する。また、E7時期の感染で、子の海馬とPFCにおける遺伝子発現の変化をもたらし、これらの変化は青年期まで持続した。E7時期の感染症は、子の脳の形態や白質における異方性比率への影響は小さかった。qRT-PCRを行ったが、胎盤内や子の脳内でH1N1ウイルス遺伝子のmRNAを検出することはできなかった。これらのデータは、ウイルス感染後に観察された複数の結果は、子への直接感染によるものではないことを示唆する。

(論文終わり)

 人とラットでは妊娠中の感染時期に注意する必要がある。ラットでは妊娠の後期の方が子への影響が大きくなるが、人では妊娠早期の感染になるほど影響が大きくなり統合失調症へのリスクが高まる

 重要な問題は、妊婦への感染症をどのように防ぐかであろう。特に妊婦へのワクチン接種は精神疾患の予防にとってプラスに作用するのか、逆に、マイナスに作用するのかという問題がある。この問題に関してはまだ決着はついていない。胎児への直接的なウイルス感染よりも、病原体に暴露された母体が産生するサイトカインが胎児の脳に影響を及ぼし、生後でもその影響が子の脳では持続し、統合失調症や自閉症などの精神疾患に結びつくことはもはや疑いようもない事実となってきている。従って、妊婦へのワクチン接種が母体のサイトカイン産生を促し胎児の脳への影響を与えないとは限らない。妊婦へのワクチン接種の影響をさらに調査して、明確な答えを出さねばならないであろう。

 さらに、こういったインフルエンザ感染による胎盤や子の脳への影響が、どのような薬剤、物質によって軽減されるのかを調べていく必要がある。タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ剤、NSAIDsなどの抗炎症剤(前回のブログで紹介したように、母体の発熱が長引くほど危険性が増すのであればNSAIDsの効果はあるかもしれない)、ω3脂肪酸、NACやグルタチオンなどの抗酸化剤などによって母体が産生したサイトカインによる子への悪影響は軽減されうるのか、逆に、こういった薬剤や物質によって胎盤や子の悪影響がさらに増すのか、などの想定される事象を動物モデルで検証していく必要があろう。

 出生前の妊娠中の感染症と統合失調症の関連が示されたものとしては、インフルエンザ、トキソプラズマ、単純ヘルペス2型、風疹、性感染症などがあるが、統合失調症の発症リスクはこれらの病原体が胎児に直接感染することで生じるのではなく、母体が産生するインターロイキン6やTNFαなどのサイトカインが精神疾患のリスクを高める原因となることは確実である。この意味からは、妊娠中のインフルエンザワクチンの接種は慎重であらねばならないという意見がある。逆に、意味はあるから接種すべきであるという意見もある。それはワクチン摂取による免疫反応と実際に感染した際の免疫反応では、産生されるサイトカインの総量が比べものにならない程違うからであろう。(私には妊娠中のインフルエンザワクチンの接種は実施すべきか中止すべきは、どちらが適切なのかは分からない)。

 なお、トキソプラズマに関しては、ワクチンを作ったとしても理論的に感染防御としては機能しないため、ワクチンではトキソプラズマを予防することは不可能であり、かつ、トキソプラズマは胎盤を通過して子にも直接感染するであろうと思われるため、トキソプラズマを予防するためには母体に侵入させないことに尽きる。妊娠中は生肉の摂取を絶対にやめ、肉を切った包丁は続けて使用せずに必ず洗ってから次の野菜を切るなどの注意を払い、家畜やペットといった動物と一切接触しないようにすることでしかトキソプラズマは予防できないであろう。

 精神疾患を予防するには、妊娠を計画している女性に、妊娠する前に様々な予防接種を済ませておくべきである。それが理想である。もし、そういった措置を経ずに無計画な妊娠が繰り返される限り、精神疾患の予防は困難となり、精神疾患の発生は減ることはないであろう(できちゃった婚などは精神疾患の予防の上では最低の行為である)。しかし、妊娠前にワクチン接種を義務付けるという計画管理されることを希望しない女性も多いことであろう。この問題への意識が高まっていき、精神疾患の予防のコンセンサスが浸透し、希望する女性には精神疾患に関連する病原体(インフルエンザ、風疹、単純ヘルペス、サイトメガロ、ボレリアburgdefooriなど)へのワクチンを妊娠前に無償で接種できるような体制が整備されることを祈るばかりである。

 さらに、妊娠中は仕事を休み、人ごみの中に出歩くのを避け、感染防止に努めるのが理想であろう。国は、本格的に精神疾患を予防したいのであれば、周産期と連動した取り組みを強化せねばならない。妊娠中の発熱の記録を国が一元管理し、妊娠中に発熱のあった母親から生まれた子をフォローアップしていく必要がある。さらに、母体をストレスから保護することも重要であり、妊娠と分かった段階からの休業を保証するような制度を作り上げていかねばならない。育児休暇だけでなく可能な限り出産前から長期間休業できるような出産前長期休暇制度の充実が望まれる。

 2009年の新型インフルエンザH1N1に妊娠中に罹患した母親から生まれた子供に対しては、親は常にat-riskにあるかもしれないと注意していった方が良いであろう。なお、 at-riskなケースと想定される子に対してどのようなことに注意していくと良いのかは別の機会に触れる予定である。

 最後に、妊娠中の感染症を防止すれば精神疾患の3割は防止することが可能だろうと見積もられていることを付け加えておく。

(SZと関連すると想定される感染症↓。これらの病原体への妊娠前の免疫強化策が重要である。)

精神疾患を予防するために感染症を予防せよ(インフルエンザ編 その1)

H1N1-1











 まだまだ残暑が厳しいのではあるが、病院では夏が終わり秋になれば早くもインフルエンザへの準備が始まるのであった。ワクチンの発注はなるべく早く済ませワクチンを確保せねばならない。今年の冬はインフルエンザは流行するであろうか。ワクチンは足りるのであろうか。今年からは鳥インフルエンザのワクチンの接種も始まるのであろうか。今から心配していてもきりがないのではあるが。

 10年ほど前に、幼児への予防接種が自閉症を招くという論文が出て、それ以来子供への予防接種を拒否したり懸念を示す親が世界中に増えた。しかし、その後、Lancetに掲載されたその論文はデータが捏造されていたことが分かり、予防接種と自閉症との因果関係は否定された(その論文を書いた医師は医師免許を剥奪された)。しかし、論文データーは捏造だったということが未だに伝わらずに、捏造だった論文だけが独り歩きし続け、今でも乳幼児への予防接種が自閉症の原因になると信じている人が多いらしい。
(自閉症と子供への予防接種にまつわる迷信)

 これは悲劇である。ワクチンを拒否し子供が感染症になる方を選ぶ愚かな親がいる一方で、その後、感染症と精神疾患の因果関係を示唆する論文は増え続け、精神疾患を予防するためには妊婦や幼少児期における感染症の予防から始めなければならないとまで言える時代になっているのである。病原体は異なれど、感染症を繰り返すたびに自己抗体が増えていく可能性は高い(ほぼ確実にそうだと言える)。自己抗体によるダメージが少ない間は修復メカニズムも働くであろうから問題はないのかもしれないが、様々な感染を繰り返し、ある限度まで自己抗体が到達すれば、もはやニューロンの修復が追い付かなくなり、精神疾患を発症するかもしれないのである。ワクチン接種にて感染症を予防することは精神疾患の予防においては極めて重要なことのように思える。
 
精神疾患の予防は周産期から始まる











今回はインフルエンザ感染と精神疾患との関連性をテーマにした論文のいくつかを紹介したい。

 インフルエンザは感染時には脳症という問題を引き起こすが、感染が消失した後に、10年後、20年後にどのような影響を及ぼすかは誰にも分からない。不幸にも、その感染が認知症も含めた将来の精神疾患を決定づけることもあり得るのである。今回メインとして紹介する論文は、妊娠中のインフルエンザ感染とその子供の統合失調症との関係について述べた論文であるが、他にもインフルエンザ感染と認知症との関連を示唆する論文もあり、認知症になりたくない人はインフルエンザの予防接種は必ず受けておくべきものかと思われる。

 インフルエンザワクチンは抗体を作るのが目的であるため、作られた抗体が自己抗体となり中枢神経系と交差反応して自身の神経を攻撃する可能性はあるが、実際にウイルスに感染しインフルエンザを発症した場合に作られる抗体の量は一桁も二桁も三桁も異なり、自己抗体産生のリスクはワクチン接種よりもはるかに髙くなるものと思われる。感染症はワクチンを使ってでも予防できればそれに越したことはないと言えよう。

インフルエンザは多くの精神疾患と関連する。 

 インフルエンザワクチンの接種を受けた人の方がアルツハイマー病の発生率は低かったというデータが既に提示されている。これは知っておくべきである。カナダにおける疫学調査ではあるが、ジフテリア、破傷風、ポリオ、インフルエンザへのワクチン接種を受けた人ではアルツハイマー病のリスクが低くなることが示されている。
(インフルエンザとアルツハイマー病に関連する論文はPubmMedだけでも520にも登る)

 一方、H1N1株は2009年に世界でパンデミックを起したA型のインフルエンザ株であるが、H1N1株は中枢神経系への親和性が高く脳症を起し易い。これを裏付けるようにH1N1株はドーパミン神経に高い親和性を持つことが実験によって示されている。ラットのin vitroの実験では、ドーパミン神経への高い親和性を示し、ドーパミン神経の細胞死を促進しアポトーシスを引き起こした。これはラットのin vitroでの所見ではあるが、人のin vivoにおいてもドーパミン神経への親和性の高さは同様であろう。人においては、ウイルス感染後にH1N1ウイルスが中脳などのドーパミン神経に忍びこめば、小児や若者では統合失調症の原因に、中年以降の感染ではパーキンソン病やアルツハイマー病の原因となりえるかもしれない。2009年にH1N1型のインフルエンザに罹患した人は神経保護作用のある薬剤やサプリメントを予防的に内服していた方がいいのかもしれない。
 
 さらに、鳥インフルエンザウイルス(H5N1)においても神経への親和性の高さは同様である。鳥インフルエンザ感染から回復したとしても、ウイルスは中枢神経系に忍び込み神経変性疾患を引き起こすおそれが強い。鳥インフルエンザ感染がパーキンソン病やアルツハイマー病の原因になりえることは十分に考えられうる。鳥インフルエンザワクチンは、接種が可能になれば必ず接種しておくべきワクチンであろう。

 妊娠中のインフルエンザ感染は子の統合失調症だけでなく自閉症や双極性障害とも関連していることが指摘されている。

自閉症との関連では、
 
 妊娠中のインフルエンザ感染が生まれてきた子への自閉症と関連しているという論文が増えている。
 自閉症や発達障害は妊娠中のインフルエンザ感染よりも発熱の方に関連しているようであり、下熱剤を内服した妊婦の方が子の自閉症や発達障害が軽減する傾向を認めたとも報告されている。
http://link.springer.com/article/10.1007/s10803-012-1540-x
 他にも、自閉症は妊娠第2期当初の感染症(インフルエンザも含めて)に関連していたという報告や、
 妊娠中の母体の発熱が長期間になると自閉症のリスクは3倍に増加したという報告がある。

双極性障害との関連では、

 カリフォルニア北部の疫学調査にて、妊娠中のインフルエンザ感染(感染時期は任意の時期)では子の双極性障害のリスクは4倍となることが示された。
 子の双極性障害はSZとは異なり、妊娠後期でのインフルエンザ感染の場合にリスクが高まり、5倍のリスクとなる(SZでは妊娠早期の感染ほどリスクが高まる)。妊娠中のインフルエンザ感染との関係が判明した99名ケースの中で、親の双極性疾患による遺伝とは無関係に生じたケースは77名にものぼった。なお、単なる風邪、結核、副鼻腔炎のようなインフルエンザ以外の他の呼吸器感染症では、双極性障害のリスクは増加しなかった。

 ここで、インフルエンザワクチンは効果はないという意見があるが、それを客観的に証明したデータはなく、推測や仮定の段階に過ぎず、ワクチンの効果が否定された訳ではない。論文によれば、インフルエンザワクチンの予防効果は調査によってばらつきはあるが50~70%と推定され、インフルエンザワクチンは予防を100%保障するものではないことも事実である。この数字をどう解釈するかは個人の判断に委ねられよう。私個人は100%の効果はないが、50%の効果が期待できるのであれば接種する意味はあるものと判断する。一方、インフルエンザワクチンにおける皮下注射という方法を疑問視する意見もあり、皮下注射では実際の感染経路である鼻粘膜や口腔粘膜の免疫強化にはつながらないという意見もある。皮下注射以外の実際の感染経路を考慮したワクチンを開発していく必要があろう。なお、乳幼児、特に2歳以下では弱毒生ワクチンの効果は示されているが、非経口不活化ワクチン接種の効果と安全性は保障されてはいない(日本では非経口不活化ワクチンしか接種できないが、この事実を日本のマスコミはなぜか報道しない)。

今回の紹介論文

統合失調症のウイルス理論: 妊娠中に暴露された子におけるH1N1ウイルスの存在なしでの胎盤や脳における遺伝子発現の異常と構造変化
「The viral theory of schizophrenia revisited: Abnormal placental gene expression and structural changes with lack of evidence of H1N1 viral presence in placentae of infected mice or brains of exposed offspring」

 これまでの疫学調査では1~3月という冬に生まれた場合(注; 最大でも1.05~1.15倍というそれほどの差でもないのだが)、高い緯度、寒い地域では統合失調症のケースが多くなると指摘されている。冬に誕生したケースに統合失調症が多いという原因としては、ビタミンD欠乏症妊娠中のウイルス感染が想定されている。出生前のビタミンD欠乏の動物モデルでは、脳の発達、シナプス可塑性、行動、などの変化を認め、これは統合失調症(SZ)での変化と一致している。
(なお、妊娠中のビタミンD欠乏による子へのドーパミン系などへの悪影響に関しては以下の論文に詳しく説明されている)
relative-risk-SZ












 妊娠中のインフルエンザ、風疹、トキソプラズマ感染は子孫に統合失調症のリスクを増大することが既に多くの論文で報告されている。例えば、風疹に暴露された被験者の20%はSZの発症リスクが10~20倍に増加しIQも低下したという疫学調査がある。 フィンランドにおける1957年のA2型インフルエンザのパンデミック時に母体で妊娠の二期目にあった子の追跡調査では、統合失調症の発症リスクの増加を認めた。カリフォルニア州北部での大規模なコホート調査では、妊娠初期~中期でのインフルエンザの暴露によってSZのリスクは3倍に増加し、特に、妊娠第1期(3か月まで)での感染ではリスクは7倍に増加していた。冬だけでなく、早春に生まれた場合にもSZは多くなることが報告されているが、この事象もSZにおける妊娠中のインフルエンザ感染の影響を示唆するものと思われる。
(もし、妊娠早期~中期でのインフルエンザ感染症が防止できれば、統合失調症の14%~21%の発病予防が可能かもしれない。この数字は実に大きい。特に人では妊娠早期での感染を防止することが重要である。)

 なお、冬生まれの影響に関しては、生まれた季節が冬であるため体内時計が外界にアジャストできにくいという影響も考えられる。冬に生まれたラットでは生後の概日リズムが乱れやすく、そのため生まれた時期による概日リズムへの悪影響が精神疾患への脆弱性と関連するのではとも想定されている。
 
 さらに、都市部という感染機会が増大するような生活する場所での妊娠も関係していると考えられている。当然、子へのストレスの大きさも都市部では関係するのではあるが。

 補足しておくと、他にも、妊娠中の低栄養(栄養失調、タンパク質の欠乏、葉酸や鉄の欠乏、微量元素の欠乏、など)、母親の肥満、望んでいなかった妊娠、妊娠中の夫との死亡や離婚、妊娠中の母へのストレス、妊娠中の母親の抑うつ、母親の高年齢、父親の年齢(50歳以上、逆に25歳未満でもリスクが増加)、産科合併症、妊娠中の鉛への暴露、妊娠中のアルコールの使用、母と子のRh不適合、出生時の低酸素血症、など、周産期への取り組みが精神疾患の予防では極めて重要となる。さらに、これらの要因に、子のDSC1遺伝子やNRG1遺伝子といった統合失調症の関連遺伝子のSNPなどの遺伝子異常が加わればさらにリスクが高まることが予想される。
(妊娠中ではないが、生後ウイルス感染による炎症効果+DSC1遺伝子変異の相乗効果を調べた論文。)

 なお、妊娠中のインフルエンザなどの感染症も含めて、SZのリスク因子に関しては下のレビューやHPで詳細に解説されている。一読することをお勧めする。

(本文の続き)

 動物実験における母体へのインフルエンザウイルスや模倣ウイルスであるPolyI:Cの暴露は、子の脳の形態学的変化や、統合失調症や自閉症の指標になるような行動障害(音響驚愕反応の抑制PPI、潜在阻害LI)を再現した。PolyI:C(polyribocytidilic酸、二本鎖RNAの合成ウイルス類似体、炎症剤として作用する)では、抗IL-6抗体を同時に暴露すると、PolyI:Cの影響は抗IL-6抗体によって拮抗されて行動異常は示さなくなった。さらに、IL-6を妊娠マウス12.5週に注射した場合の子への影響では、子供時代ではなく大人マウスになった時にPPIやLIといった行動異常を示した。IL-6をノックアウトしたマウス場合は、母体へのPolyI:Cの暴露は行動への影響は示さなかった。さらに、ルテオリンluteolinとその構造アナログであるジオスミンdiosminを使用することで、IL-6を介したJAK2/STAT3シグナル伝達を阻害した場合は、妊娠の12.5週にIL-6を注入したマウスの子の社会的行動障害は軽減された。さらに抗炎症性サイトカインであるIL-10を過剰発現させると、poly I:C暴露によって誘発される子へのPPIとLIを減少した。これらの一連の所見は、前炎症サイトカイン、特にインターロイキン6(IL6)は、齧歯類におけるpoly I:Cの暴露による統合失調症や自閉症に似たような行動的な欠陥を来す鍵となる効果を媒介できることを示唆する。(なお、母体が産生するIL-1・2・8・12、TNFα、TGF-β、IFNγも子の統合失調症との関連性が既に指摘されている)

 ウイルス自体が直接胎盤を通過して胎児に感染するするという証拠もある。マウスを用いた動物モデルにてAaronsonらはインフルエンザA/WSN/33株(H1N1)のウイルスRNAがウイルスに暴露された母体の子の脳に永続して存在することを報告した。最近、人間の死後の研究では、鳥インフルエンザウイルス(H5N1)は母親から胎児に胎盤を介して感染することができることを示した。これらのデータは、H1N1とH5N1の両方のインフルエンザウイルスが、胎盤を通過して胎児に感染することができることを示唆している。さらに、血中でのウイルスが検出されなくても胎盤を通過して胎児に感染できるという証拠を提供する所見である(=母親がエンフルエンザ感染に気付かずに胎児にエンフルエンザが感染している可能性がある)。

 すなわち、病変の部位は胎盤であってもよいということになる。しかし、ウイルスの胎児への直接感染かどうか、肺からの移動かどうか、胎盤を通過するのかどうか、感染への反応なのかどうか、母親のサイトカインが胎盤を通過して胎児の脳と交差反応するかどうか、などは不明なままである。我々は、母体のウイルス感染は、子への遺伝子発現や解剖学的な異常につながるという仮説を立て、母体がウイルスに暴露された子での前頭前野、海馬、胎盤を調べた。

我々の結果は、出生前のウイルス感染によって、ウイルスRNAは存在しないが、子孫の胎盤、海馬、前頭前野の構造と遺伝子の発現が破壊されることを提示していた。


(次回に続く)

(妊娠中のインフルエンザ感染症で子の前頭前野と海馬の錐体ニューロンの形態が変わってしまう )
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0920996408004647

pyramidal neuron
 

酸化窒素(NO)は21世紀の新しい抗精神病薬となり得るのか。ニトロプルシッド・ナトリウム(Sodium Nitroprusside)にて統合失調症の症状が改善

これが、もし、事実ならば、クロールプロマジン以来の大発見かもしれない。

JAMAの2013年7月に掲載されたばかりの論文を今回は紹介したい。

 精神科と麻酔科は関係が深いようだ。麻酔薬の中に精神科治療のヒントが隠されているのかもしれない。クロールプロマジンは麻酔薬からの発見であったが、今回も同じように麻酔の際に使用される薬物からの発見である。うつ病で速効性を発揮するケタミンが同じく麻酔薬(静脈麻酔剤)であったように、今回のニトロプルシッドも麻酔薬からの発見である(手術中の高血圧時の降圧剤として使用する薬剤)。

 しかも、ケタミン同様に速効性を発揮し、1回の使用で4週間も効果が持続したようだ。これが事実であれば、凄いことである。そんなことは統合失調症ではこれまで考えられなかったことであるからである。
SNP-NO




 

 

統合失調症の急性期の症状がニトロプルシッド・ナトリウムの静脈注射によって急速に改善した
「Rapid Improvement of Acute Schizophrenia Symptoms After Intravenous Sodium Nitroprusside」
(全文。PDFファイル。↓)

治験のデザイン

 統合失調症(SZ)の陽性症状、陰性症状、不安、抑うつ症状へのニトロプルシッド・ナトリウムSodium Nitroprusside(SNP)とプラセーボとの二重盲検試験を行った。2007年3月9日から2009年3月12日においてブラジルのサンパウロ大学病院にて実施。19歳~40歳の20名の統合失調症の被験者が、ニトロプルシッド・ナトリウム、あるいは、プラセーボ(5%のブドウ糖液)をランダムに割りあてられた。被験者は既に発症から最初の5年で抗精神病薬の治療を受けていた。ニトロプルシッドは0.5 μg/kg/minを4時間にわたり静脈から投与された。症状の評価はBPRSの18項目(BPRS-18をメインに評価し、他にもPANSSの陰性症状の項目などにてなされた。

結果

 プラセーボと比較してBPRSの点数は4時間以内に有意に改善し効果は4週間持続した。ニトロプルシッドの静注は統合失調症の入院患者のルーチンの治療法として用いることができる方法だと言えよう。

本文の概要

 最近の研究では、統合失調症においてはドーパミン系以外の他の異常が存在することが有力となってきた。この異常の1つに「グルタミン酸-酸化窒素(NO)-環状グアノシン1リン酸(cGMP)」というネットワーク(glutamate–nitric oxide–cyclic guanosine monophosphate network)の異常がある。SZにおいてはグルタミン酸系の神経伝達の機能不全があると推測されている。さらに、健常者と比較して、SZは酸化窒素(NO)とcGMPが減少していることが見い出された。NOやグルタミン酸の産生を薬物や遺伝子操作で抑制した齧歯類の動物モデルでは精神病のような行動を示した。我々は、前臨床試験にて、ニトロプルシッド・ナトリウムがNMDA受容体阻害剤であるフェンサイクリジン(PCP)によって誘発された行動上の変化やc-fosの発現を完全にブロックしたことを観察した。塩化ニトロプルシッドがPCPに拮抗するメカニズムは不明なままだが、ニトロプルシッド・ナトリウムはその化学式からも分かるように(↑の図の赤でかこった部分)、脳内でNOを産生し、cGMPの産生を増加させることは既に分かっており、この作用がNMDA受容体の活性を調節するのかもしれない。我々は、前臨床試験からニトロプルシッド・ナトリウムは統合失調症の症状を改善できるかもしれないという仮説を立てた。

NO-cGMP





 

 ニトロプルシッド・ナトリウムの有利な点は、1800年代という古くから知られている薬剤であり、1929年以来重度の高血圧に使用されてきた実績がある薬剤という点である。あまり臨床では使用されないのだが、それは、頻回に使用するとシアン化鉄の蓄積を起すからである。しかし、我々が治験で用いた量(0.5 μg/kg/min/4h)は最少用量であり、こういった心配は生じない。ニトロプルシッド・ナトリウムの静注は副作用が非常に少ない統合失調症の有利な治療法になり得るであろう。

(方法、分析手法は省略)。

結果

 ニトロプルシッド・ナトリウム群とプラセーボ群における特徴は表2に示した。大きな違いは見られなかった。各被験者の治験時の薬物療法の内容は表3に示した(例えば、被験者No1は、リスペリドン8mg、レボメプロマジン75mgを内服中など)。BPRS-18スコアはニトロプルシッド・ナトリウム群において2時間目から有意な改善を示し4週間後も持続していた(図2)。さらに、思考障害、引きこもり、不安・抑うつなどのサブスケールスコアも有意な改善を認め4週間後も持続していた(図4)。PANSSの陰性症状のスケールも同様に改善した(図5)。血圧、心拍数、血液酸素飽和度などの生理学的なパラメータの変化は両群との間に有意な差はなかった。どの被験者も治験中に他の薬剤の投薬や処置を受けることはなかった(=安全であった)。ニトロプルシッド・ナトリウム群の3例では、もはや他の抗精神病薬の内服を必要としなくなった。さらに、ニトロプルシッド・ナトリウム群の5例では、これまで内服していた抗精神病薬の減薬が可能となった。2例は治験前の同量の内服が継続された。
表2図2図4図5




 

































































議論

 ニトロプルシッド・ナトリウムの抗精神病作用は現時点では不明なままだが、まず、NOの血管拡張作用(脳血流改善作用)が関与しているのではと考えられうる。しかし、今回の治験中の生理学的なパラメーターでは血管系への関与は否定的である。なぜならば、治験では最少の使用量であり、しかも血圧が正常のケースでは降圧作用を発揮させるにはニトロプルシッド・ナトリウムは今回とは異なる相当な高用量を必要とする。今回の被験者には高血圧はいなかったし、高血圧におけるニトロプルシッド・ナトリウムの降圧(血管拡張)効果は投与を中止すれば10分後には消失する。しかし治験における抗精神病効果は28日間も持続した。従って、血管拡張作用が関係しているとは考えられない。
 
 次に、ニトロプルシッド・ナトリウムと元々内服していた抗精神病薬との相互作用が考えられが、ニトロプルシッド・ナトリウムと抗精神病薬の代謝経路は異なるし、処方されていた薬剤は被験者ごとに異なるため、抗精神病薬との相互作用によるものとは考えにくい。

 最も推定されうるニトロプルシッド・ナトリウムの抗精神病作用メカニズムとしては、NMDA-NO-cGMPという経路が関与していることであろうか。SZではNMDA受容体の機能不全が想定されており、NMDA受容体を調節することで治療効果が発揮されることが報告されている。cGMPはSZの患者の脳脊髄液では減少しており、抗精神病薬の投与によって脳脊髄液中のcGMPは投与前よりは増加することが知られている。別の報告では、NOの代謝産物はSZの血漿や脳脊髄液中では減少しており、陰性症状と逆相関していた。Brennandらは、PSD-95タンパク質を介したNMDA-NO経路が統合失調症と大きく関連していることを提示した。
(SZの患者から採取したiPS細胞を海馬組織まで分化させたが、PSD95タンパク質レベルとグルタミン酸受容体の発現と連動した神経突起数の減少と神経接続の消失を認めた。)

 ニトロプルシッド・ナトリウムはNOを発生させ、cGMPの産生を増加し、NMDA受容体を調節するが、これは、「グルタミン酸-酸化窒素(NO)-環状グアノシン1リン酸(cGMP)」経路を調節することで、それがたとえ同時に多くのレベルでの作用であろうとも、臨床的な効果を発揮しているのであろう。この経路がSZへの臨床効果を発揮しているのかは、さらなる研究が必要である。

 今回の研究には検体数の少なさ、発病後から比較的に早い段階の被検者である、などの制約事項があり、今後は慢性期の病状になどの検証が必要である。さらに、効果が48時間持続しなかった例や、7日後から抗精神病薬の投与が許可されており、投与から時間がたった時期でのニトロプルシッド・ナトリウムの効果は明確には言いきれない。しかし、ニトロプルシッド・ナトリウム投与はBPRS-18やPANSS陰性症状などのスケールが急速に改善したことは明らかに示されている。

 なお、拒絶反応などの有害事象は一切生じなかった。また、既に内服している抗精神病作用との相互作用も一切生じなかった。低用量のニトロプルシッド・ナトリウムは非常に安全であり、速効性があり効果的であった。ニトロプルシッド・ナトリウムは、精神科救急における治療にも役立つことであろう。さらに、維持療法における抗精神病薬の長期使用の代替として役に立つことであろう。ニトロプルシッド・ナトリウムの治療を定式化していくことは統合失調症の治療において有益となろう。

(論文終わり)

JAMAの編集者の1人は、今回の論文に以下のようなコメントを雑誌に掲載している。


 NMDA受容体(神経可塑性を調節するグルタミン酸塩受容体サブタイプ)の機能低下が統合失調症の陰性症状と認識機能障害に特に関連しているという見解がますます無視できなくなってきた。NMDA受容体刺激の下流では、カルシウムイオン(Ca2+)-カルモジュリン(calmodulin)–を介してNOの産生が活性化され、NOは神経伝達に関与する。NOはcGMPの産生につながり、cGMPは他の神経可塑性に関与する分子を活性化する。ニトロプルシッド・ナトリウムは、NMDA受容体を迂回してcGMPの作用を発揮している可能性がある。

 NMDA受容体機能を高めると想定されるD-serineやグリシン(NMDA受容体のアロステリック調節部位に作用する)の臨床試験が行われているが、抗精神病薬では効果が期待できない陰性症状に最も効果を発揮しているようだ。今回の注目すべき点は単回投与による急速な効果と2週間もの効果の持続である。このような驚くべき効果はケタミンでも既に知られている。

 ローマ神話のヤヌスのように、NOは2面性を持ち、負の作用としては神経毒となる活性酸素を形成する。酸化ストレスの所見はSZの死後脳で見い出されている。NO産生酵素の発現増加はSZの小脳において見出されており、この所見がMNDA受容体の機能を代償するための変化なのかは不明である。

 一方、今回のニトロプルシッド・ナトリウムの別の効果としては、血管拡張剤としての脳血流の改善も考えられうる。SZは健常者と比較して前頭葉と側頭葉において脳血流が低下しているという所見が多くの研究で報告されており、この所見は陰性症状に関連していると考えられている。

 今回のNMDA受容体の神経伝達経路の下流に位置するNOの補完によってSZの症状が改善したことは、SZにおけるNMDA受容体の機能低下をさらに強く示唆する所見であろう。今回の所見は、SZにおけるNMDA受容体へのアロステリック調節物質の効果、NMDA受容体アンタゴニストの統合失調症様症状の惹起作用、自己免疫疾患の表現型の1つとしてSZにおけるNMDA受容体への自己抗体の関与、といったこれまでの所見と一致する。ニトロプルシッド・ナトリウムのSZへの研究がさらに注意深く進められていくことに期待したい。

(編集者のコメント終わり)

 既に、20年以上も前からニトロプルシッド・ナトリウムがNMDA受容体刺激を介したカルシウムイオンの流入を阻害し、この作用はNOによるものではなく、シアン化鉄による作用であろうと報告している。今回の効果はシアン化鉄による効果である可能性もある。

 さらに、2012年に日本の研究にて、NMDA受容体刺激によってNOの産生が誘導され、NOがシナプス間隙を逆行し、シナプス前終末におけるcGMPの産生を促し、フィードバックループを介してNMDA神経系の伝達機能を維持しているという論文が出されている(=逆行性神経伝達物質。この生理学的機構はシナプスの可塑性に関与している。)。このフィードバックループに関与する物質としてcGMP依存性プロテインキナーゼ(PKG)も想定されている。SZではこの逆行性のフィードバックループの機能が低下しているのであろうか。ニトロプルシッド・ナトリウムがこのフィードバックループを補完したことでシナプスの可塑性を改善し効果を発揮した可能性がある。
http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E9%80%86%E8%A1%8C%E6%80%A7%E4%BC%9D%E9%81%94%E7%89%A9%E8%B3%AA
NMDA-NO-cGMP














 さらに、ニトロプシッド・ナトリウムによるNOの産生は、海馬においてNMDA受容体を介することなくGABA作動性の抑制性の介在ニューロンの機能を直接的に増強することが動物実験では示されている。この海馬におけるGABA作動性の抑制性の介在ニューロンは、SZにおいてはその神経細胞数が減少し、その機能も低下しており、それがSZの発症メカニズムに関与していると想定されている(この点については別の機会に触れる予定である)。ニトロプルシッド・ナトリウムから産生されたNOがSZに大きく関与している病態メカニズムを直接的に制御し修正した可能性がある。
 なお、cGMPはホスホジエステラーゼ10A(PDE10A)によって不活化されるため、このPDE10Aを阻害するような薬剤が統合失調症、認知症、うつ病などの精神疾患の治療薬として期待がかかっている。論文で述べられているように、ニトロプルシッド・ナトリウムの効果はcGMPを介した作用である可能性がある。もし、そうであれば、ニトロプルシッド・ナトリウムはうつ病や認知症にも効果を発揮するかもしれない。

 一方、ニトロプルシッド・ナトリウムは鉄イオンを生成し、cAMPの産生を促すことも分かっている。cAMPはPKA-MAPKを介してヘムオキシゲナーゼ(HO-1)の産生を促す。

 HO-1は神経細胞の保護に関与しており、ニトロプルシッド・ナトリウムの効果はHO-1を介した効果である可能性もある。

 しかし、HO-1の増加が統合失調症やアルツハイマー病などで示されており、HO-1の増加は疾患のプロセスに代償しようとする反応であるかもしれないが、HO-1は鉄イオンや一酸化炭素を誘導し神経細胞には有害であるとも考えられている。HO-1を過剰に発現するようにしたラットのモデルでは、マイナスの結果(SZなどの精神疾患を引き起こす)も示されており、HO-1に関しては見解が異なっている。ニトロプルシッド・ナトリウムがHO-1の生成を促すのであれば、使用する用量によっては逆に有害な反応(症状悪化)を示すおそれもある。
http://www.ostabiotechnologies.com/images/HO_Human%20CNS%20Disorders_FRBM_04.pdf

 最後に、ニトロプルシッド・ナトリウムは神経毒性を有する物質としても知られており、今回の結果は、これまでのニトロプルシッド・ナトリウムのイメージを正反対にしたような結果ではある。
http://journals.lww.com/neuroreport/Abstract/1991/03000/Sodium_nitroprusside_degenerates_cultured_rat.2.aspx

 神経系には有害と考えられていたニトロプルシッド・ナトリウムという薬剤が革命を起こすかもしれない。今回の論文は統合失調症で苦しむ患者さんにとっては朗報ではなかろうか。かっては有害と考えられていた薬剤がある種の特定の疾患では非常に有効であった例としてサリドマイドがある。今ではサリドマイドは多発性骨髄腫の治療薬として再使用されるようになったが、サリドマイドは催奇性がある薬剤として発売禁止になっていた。ニトロプルシッド・ナトリウムもサリドマイドと同様な救世主的な存在となるのであろうか。

 ニトロプルシッド・ナトリウムは「ニトプロ」という商品名で日本でも発売されている。日本でも使用しようと思えばいつでも使用は可能である。しかし、適応症は手術の際の高血圧に限定されており、使用するとなると、まるめ病棟に入院中の患者にしか使用できないであろう(まるめ病棟では薬剤の使用が疾患によって限定されない)。しかも、神経毒性があると考えられていた物質であり、統合失調症への適応症もないため、本人だけでなく家族の同意をも必ず取らねばならないであろう。しかし、論文ではニトロプルシッド・ナトリウムの1回の使用で以後の抗精神病薬の内服が不要になった例が3例も含まれており、ニトロプルシッド・ナトリウムの治験が日本でも始まることを期待したい。「ニトプロ」の製薬会社はマイナーな製薬会社(丸石製薬)であり、このままでは治験が始まることはないであろう。大手の製薬会社がSZの治療薬としてニトロプルシッド・ナトリウムの治験に乗り出してくれないかなと願っている次第である。
(ニトプロの添付文書)
ニトプロアンプル

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