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 今回は緑茶に関することである。私は、コーヒーではなく緑茶をよく飲む。仕事中に毎日1本くらいの緑茶のペットボトルを飲んでいる。いろんなメーカーの緑茶のペットボトルが発売されているのだが、気に入っているのはキリンの生茶である。苦みが少ないのでこの味が気に入っているのである。ただし、カテキンテアニンがどのくらい含まれているかは分からない。国内で発売されているペットボトルの緑茶の成分を詳細に比較したデータがほしいのだが見つからないままでいる。
 
 苦みが少ないということはカテキンの含有量は少ないのであろうか。しかし、各メーカーによって抽出のプロセスには大きな差はないであろうし、有効成分には大差はないと思われるため、気にせずにキリンの「生茶」をよく飲んでいるのであった(認知症の予防に少しは役に立つかもしれないと思いながら^^;)。なお、カテキンをたくさん摂りたいのであれば、「濃いお茶」というカテキンが通常の2倍含まれているペットボトルも売っているが、味は苦くなる。私は、カテキンもしっかりと摂りたいと思っているので、カテキンが多めに含まれているような緑茶も交互に飲むようにしている。

 緑茶の学名はカメリアシネンシス・ツバキ(Camellia sinensis Theaceae)であり、緑茶はツバキ科の植物である。緑茶、紅茶、ウーロン茶も元の植物は同じであり、カメリアシネンシスの樹の新芽を摘んで加工したものである。緑茶の起源は中国であり、緑茶には心や体をリフレッシュさせる効果があると言われ、中国では紀元前の時代から皇帝らが緑茶を愛用していた。
 
 緑茶から抽出される成分にはカフェインやテオフィリンなどいろいろなものが含まれているが、その中でもポリフェノールに属する成分(カテキン)やアミノ酸(テアニン、など)に注目が集まっている。そして、加工の仕方の違いから、緑茶には紅茶やウーロン茶よりも高濃度のポリフェノールが含まれている

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 緑茶に含まれるポリフェノールの代表はカテキン{(+)-catechin}であり(カテキンはフラボノイド類でもあるが)、カテキンには、エピカテキン{(-)-Epicatechin}、エピガロカテキン{(-)-epigallocatechin}、エピカテキンガレート{(-)-epicatechin gallate} 、エピガロカテキンガレート{(-)-epigallocatechin gallate EGCG}などが含まれている(その中でもEGCGが一番研究されているようだ)。

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 カテキンには、抗酸化作用抗炎症作用(抗TNF-α、など)、抗発癌・抗転移作用肝臓保護作用抗肥満作用抗糖尿病作用抗アテローム性動脈硬化作用抗菌作用抗ウイルス作用抗う蝕(抗虫歯)作用などの有益な効果があることが分かってきており、現在、注目を集めている。下の日本の研究者が書いた総説に詳しく書かれてあるので参照して頂きたい。

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 (余談になるが、緑茶の成分の1つであるテオフィリンはホスホジエステラーゼ阻害作用{PDE}があり、喘息の治療薬として使用されているのは有名である。テオフィリンは非選択性のPDEなのでEDにも効果があるかもしれない。私が緑茶を飲む理由はそこにあったりして^^;)

 さらに、緑茶は中枢神経系にも有益な作用を有することが報告されてきている。神経保護作用抗うつ作用抗不安作用リラックス促進作用、などである。

 そして、緑茶を飲むと認知機能が増す(頭が良くなる)という論文が本年3月に発表された。今回はその論文を紹介したい。

緑茶の抽出成分はワーキングメモリーを使用中の頭頂ー前頭の接続性を増強する
「Green tea extract enhances parieto-frontal connectivity during working memory processing」

抄録
Abstract

根拠
Rationale

 緑茶の抽出成分(green tea extract)は、認知機能に有益な影響を及ぼし臨床的な意義が示唆されると提唱されてきている。しかし、緑茶抽出成分の認知増強効果の神経へのメカニズムは依然として不明なままである。

目的
Objectives

 ワーキングメモリーのプロセスの最中には脳の接続性のパラメータがタスクの実行性に関連していると思われる。そこで本研究では、緑茶の抽出成分を摂取することで、ワーキングメモリーのプロセスの最中の脳の接続性を効果的に調節できるかどうかを調査した。

材料と方法
Material and methods

 二重盲検相殺法を使用して試験をデザインした。12名の健常な被験者は27.5gの緑茶抽出物含む(または、含まない=対照)乳清ベースのソフトドリンクを摂取しfMRI検査を受けた。前頭葉と頭頂葉の間の接続性に関する緑茶抽出物のワーキングメモリへの効果を動的因果モデルを用いて評価した。

結果
Results

 緑茶の抽出成分は、右上頭頂葉~中前頭回の間の接続性を調節し、ワーキングメモリーを増加させた。注目すべきは、緑茶の摂取量の大きさは、前頭・頭頂間の接続性の増加を誘導し、タスク性能の向上と正の相関を認めたことである。

結論
Conclusions

 今回の我々の研究結果は、頭頂・前頭間の脳の接続性の可塑性を変化させることで(短期的ではあるが)、緑茶は、認知機能、特に、神経システムレベルにおけるワーキングメモリーのプロセスに対して有益な効果が存在する証拠を最初に提示したものである。

 ワーキングメモリーのプロセスにおける前頭葉と頭頂葉の脳の領域間の接続性の効率をモデリングすることは、認知症などの精神疾患における認知機能障害の治療における緑茶の有効性を評価するために役立つかもしれない。

はじめに
Introduction

 最近の研究では、緑茶の抽出物やその主要な成分は人における認知機能に有益な影響を及ぼすことが示されている。例えば、緑茶を消費することで軽度認知障害(mild cognitive impairments、MCI)の被験者の記憶や注意力を改善することが実証されている。さらに、緑茶などのフラボノイドが豊富に含まれている食品の消費は、β-アミロイドによって媒介されるアルツハイマートランスジェニックマウスの認知障害を減少させることが報告されており、認知症への治療としての緑茶の有用性が示唆されている。
EGCGはアミロイドの凝集を阻害する

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 一方、緑茶を多く消費する高齢者は認知機能障害の有病率が低いことが報告されている。55歳以上の2501名の高齢者の調査でも同様な結果が得られており、緑茶を摂取することで大幅に認知障害の有病率が低下することが示されている。さらに、緑茶は認知機能の低下を防止することに加えて、高齢者の認知パフォーマンスを良化するだろうとも言われているが、このことは緑茶が健常者の認知機能をも増強する効果を有するのではないかと示唆される。

 最近、認知機能への緑茶の有益な影響は、高次の認知機能に従事している領域に生じた脳の活動の変化に関連しているかどうかを調査するためにfMRIを用いた研究が成された。この研究では、前頭・頭頂領域における相対的な脳の活性の増加が示されたが、最も活性化された領域は右前頭皮質であり、緑茶抽出物を投与した後にN-back課題によるワーキングメモリー(WM)のプロセス作業中に活性化された。
(N-back課題について)

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 これらのデータは、緑茶の抽出物は、人間におけるWM処理を遂行する上で重要な領域である背外側前頭前皮質(dorsolateral prefrontal cortex、DLPFC)という脳の領域の活動性を調節することができることを示唆している。

 一方、N-back課題の際のWM処理をうまくやるためには頭頂葉と前頭葉の領域間の機能的なカップリングが必要となることは、機能や接続性の効率を見る実験によって確認されている。

 頭頂皮質から前頭皮質への接続性の効率は、刺激の符号化に貢献するかもしれないことが示唆されているが、逆に、前頭皮質から頭頂皮質への接続はルールの更新を媒介していることが示唆されている(例えば、2-back状態)。 

 それ故、緑茶の投与後に、WMの処理中の前頭葉領域の活性が増加しているのではと考えられ、この現象は頭頂皮質から前頭皮質への機能的なカップリングとしての脳の接続性の変化に起因している可能性がある。

 そこで我々は、緑茶抽出物の投与がWMの処理中に前頭葉と頭頂葉皮質の間の脳の接続性を変更するかどうかをfMRIを用いて調査した。特に、我々は、動的因果モデル(dynamic causal modeling、DCM) を緑茶抽出物(または対照)飲料を摂取した健常な12名の被験者のN-back WMタスクを遂行中のfMRIデータに適用して解析した。

 DCMは、接続性の効率に関する効果を明確に評価することが可能であり、fMRIのデータを用いれば薬理学的な影響をも検出することができる方法である。
(DCMに関する参考サイト)

 さらに我々は、緑茶の接続性を含めたWMへの効果を調べ、タスクパフォーマンスに対する緑茶の効果が関連するかどうかを検証した。
 
 その結果、N-backのタスクの最中に頭頂と前頭間の脳領域の機能的な結合が生じることと、緑茶の抽出物を摂取することで前頭前野の活動が増加するという重要な所見が得られ、緑茶抽出物は頭頂から前頭皮質への接続性の効率を高めるのではないのかという仮説を立てることに至った。

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材料と方法
Material and methods

被験者
Participants

(詳細略)。12名の健常者な男性。平均年齢24.1歳。全員非喫煙者。研究の開始時には尿のサンプルをドーピング検査した。全員が陰性。

実験計画
Experimental design

(詳細略)。ランダム化された二重盲検を採用。4セッション以上を実施。緑茶抽出物が13.75gまたは27.5gを含む500mlの乳清ベースのソフトドリンク(または、乳清ベースのソフトドリンクのみ)を摂取。4回スキャンを実施(各スキャンは1週間の間隔をおく)。静脈から物質全体の血中濃度がモニターされた。

試験飲料の組成
Composition of test drinks

Rivellaは乳清ベースの市販の炭酸飲料である。

 1999年、緑茶抽出物が0.05%含まれる新しいフレーバー味のRivellaが発売された。コントロールのドリンクは緑茶抽出物は含まれていない。飲料には、水、乳清35%、乳酸、二酸化炭素、シクラミン酸カルシウム(calcium cyclamate)、アセスルファムK(acesulfame K)、および以下のミネラルが含まれる。ナトリウム130 mg / L、カリウム450 mg / L、マグネシウム35mg / L、カルシウム165 mg / L、塩素330 mg/Lである。さらに、緑茶0.05%、アスコルビン酸120 mg / L、ピリドキシン30 mg / L、25 g / lのフルクトースが含まれる。緑茶抽出物は乾燥したカメリアシネンシスの緑の葉から調製され(5.5:1の抽出率)以下の成分を含む(高速液体クロマトグラフィーで解析された値)。47.5~52.5%m / mのポリフェノール、5.0~10.0%m / mのカフェイン、0.3~1.2%のm / mのテオブロミン(theobromine)、1.0~3.0%m/mのテアニン(theanine)。抽出物の1gは緑茶葉だと5.5gに相当する。炭水化物の総量が等しくなるようにコントロール飲料では250ml、500mlに対してスクロースがそれぞれ6.25g、12.5g添加されている。
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fMRIのパラダイム:N-backタスク
fMRI paradigm: N-back task
(詳細略)

 文字の提示時間は1秒間、提示間隔は2秒とした。バックする数の課題に従い、同じ文字が提示されたらボタンを押す。

画像解析
Image acquisition and analysis
(詳細略)

 2-back >0-back の対比(=タスクのメインの効果)に焦点を絞ったfMRIの画像を解析した。さらに、DCMを使用して接続性の効率を解析した。接続性は、以前の論文を基に両側の上頭頂小葉(superior parietal lobule、SPL)と中前頭回(middle frontal gyrus、MFG)に限定した。

効果的な接続性解析:DCM
Effective connectivity analysis: DCM
(詳細略)

 前頭頭頂領域との間の結合強度は2バック状態(調節効果)によってどのように変化するかを調べた。

モデルの設計や時系列の抽出
Model design and time series extraction
(詳細略)

ベイジアンモデル選択とベイズモデル平均
Bayesian model selection(BMS) and Bayesian model averaging
(詳細略)

DCMパラメータの統計量
Statistic of DCM parameters
(詳細略)

結果
Results

ワーキングメモリーパフォーマンス
Working memory performance

 感度指数(sensitivity index)によって示されたように、緑茶の消費後にはタスクパフォーマンスが大幅に改善された(下図)。

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ベイジアンモデル選択
Bayesian model selection

 前頭・頭頂接続に関して、双方向、前方向、後方向の3つの調節モデルを比較するためにベイジアンモデル選択(BMS)を使用した。BMSによって、WMによって誘発される前前頭皮質・頭頂の間の接続に関しては、前方向+後方向の調節が他の調節よりも優位であることが明らかにされた(緑茶のEP 63%、対照のEP 66%)。単一のモデルでは、モデル12が最もあり得るモデルとして浮かび上がった(緑茶のEP 45%、対照のEP 49%)。これらのBMSの結果は図3(図は省略)に要約した。

接続性の効率に関する結果
Effective connectivity results

 全12個のモデルのBMAに対して、カップリングによる推定値をもとに、緑茶処置による接続強度の差を統計学的分析した。このようにして、我々が行った接続性の効率に関する分析では、WMプロセス(2-backタスク)によって誘導された前頭・頭頂接続(大脳半球間内の接続、及び、大脳半球を横切った接続)に関する8つのパラメータに対する緑茶による差をテストすることができた。

 接続性に関するt検定(Paired t test)の結果を表2にまとめた(表は省略)。コントロールの飲料と比較して、緑茶によってWMによって誘発される右SPL→右MFGへの接続性の調節度合は増加していた(図4、下図)

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議論
Discussion

 本研究では、緑茶抽出物の認知機能に対する有益な効果の基礎となる神経メカニズムについて研究した。特に、WMプロセスによって誘発される頭頂・前頭皮質の間の接続性の効率の調節度合が緑茶抽出物によって変化するかどうかをfMRIのデータにDCMを適用することにより検討した。

 主な調査結果して、緑茶抽出物は、WMプロセスによって誘発される右上頭頂小葉(right superior parietal lobule)→中前頭回(middle frontal gyrus)への接続性の調節度合を増加させる所見が見い出された。

 さらに、この頭頂・前頭間の接続性に対する緑茶の効果は、タスクのパフォーマンスへの効果と正の相関を有しており、このことは、緑茶によるシステムネットワークレベルにおける認知機能へのポジティブな効果は、頭頂・前頭間の接続性を介する神経メカニズムによるものが示唆される。

 緑茶によって誘導されるWMプロセスの最中に増加する頭頂・前頭間の接続性の増加という所見は、緑茶の投与後に脳の前頭前野領域(特に、背側外側領域、DLPFC)の活性が増加するという最近の研究報告をうまく説明するものかもしれない(この論文は今回と同じ研究グループが行っている)。
http://www.researchgate.net/publication/230756027_Neural_effects_of_green_tea_extract_on_dorsolateral_prefrontal_cortex

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 したがって、これらの研究は同時に、緑茶抽出物は、頭頂皮質からのボトムアップ接続を増強し、その結果、脳の前頭前野の活性を増加させ、ワーキングメモリーのプロセス処理能力を調節(増強)したことをも意味する。同じデータに対する競合モデルを比較した結果、WMプロセスによって誘発される頭頂葉と前頭葉皮質の間の双方向の接続の調節性を考慮したモデルは、緑茶処置の有無に関係なく全ての被験者のデータにフィットしていることが判明した。

 この結果は、ワーキングメモリーにおける前頭・頭頂間の接続性の重要性を強調した機能的接続に関する以前の研究結果をサポートする。

 N-backタスクでは、視覚的な文字情報やルールの更新を持続してエンコーディング(記憶、記銘、情報変換、等)していくなどの様々な認知プロセスが要求される。頭頂葉皮質から前頭葉皮質(ボトム-アップ)への接続は、入力された刺激のエンコーディングに貢献するかもしれず、一方、頭頂葉皮質から頭頂葉皮質(トップ-ダウン)へ接続はルールの更新に関与しているようである。このような観点から、緑茶の摂取により誘導された頭頂・前頭間の接続の強化は、N-backタスクの最中の刺激のエンコーディング能力の改善を示している所見であろうと我々は推測している。

認知機能への緑茶の効果は可塑性に依存したメカニズムが基底に存在する
Plasticity-dependent mechanism underlying the effect of green tea on cognitive functioning

 緑茶の成分は主に、ポリフェノール、特にカテキン、例えば、( - ) -エピガロカテキンガレート((-)-epigallocatechin gallate、EGCG)、さらに、カフェイン、テアニン(theanine)等の多くの成分から構成されている。
 
 これらの異なる物質は少なくとも1つの生化学的な経路の活性化、特に、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA受容体)への経路にオーバーラップして作用しており、緑茶のマクロからミクロレベルの段階での認知機能への効果は可塑性に依存したメカニズム(plasticity-dependent mechanism)とリンクしていることを示唆しており、以下にその概要を示す。

 げっ歯類での研究では、促進現象が抗酸化作用を有するカテキンによって誘導され、緑茶の投与後に認められるが、それはワーキングメモリーへの効果であろうと支持されている。
 
 以前の研究では、EGCGは、抗酸化剤として、さらに、鉄キレート剤としての特性、および、細胞内シグナル伝達と細胞生存経路を調節することで認知機能に対する保護効果を発揮しているだろうと提唱されている。

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 言い換えれば、EGCGは、活性酸素種(ROS)生成の過程で惹起される酸化ストレス(OS)による神経毒性を減少させるようである。ROSの生成は、NMDA受容体依存性のカルシウムイオン( Ca2+)の神経細胞内への流入によって媒介される。
 
 マウスの実験では、強力な天然の抗酸化剤である緑茶のカテキンによって、NMDA受容体の活性化反応が完全に正常化したが、これはNMDA受容によって誘発されている可塑性の異常には酸化ストレスが関与していることが示唆される。
 
 さらに、EGCGは、マウスの海馬の神経可塑性を促進し、Ca2+依存性のグルタミン酸の放出を円滑にする

 一方、アルツハイマー病では、Aβオリゴマーは、ROSの産生増加と共にNMDA受容体によって媒介されるカルシウム流入を減衰させる。

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 さらに、アミロイドタンパク質は、NMDA型グルタミン酸受容体依存性シグナル伝達経路に影響を及ぼすことでシナプスの可塑性を障害する。
 
 特に、アルツハイマー病の脳から直接分離されるアミロイドb(Ab)タンパク質2量体は、長期増強(LTP)を抑制し、長期抑圧(LTD)を増強することでシナプスの可塑性だけでなく記憶をも障害するが、両者の現象は共にNMDA受容体を介する現象である。
 
 驚くべきことに、EGCGの投与によってマウスではAβレベルやAβプラークが減少したが、これによってアルツハイマー病のトランスジェニックマウスの認知障害やタウ病理変化を減少しただけでなく、Aβによって誘発されるミトコンドリアの機能不全、NMDA受容体のCa2+の流入障害、ROS産生をも防止した。

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 さらに、カテキンだけでなく、茶葉に見られるユニークなアミノ酸であるテアニン神経保護作用を有するが、その作用はNMDA受容体などのイオンチャネル型グルタミン酸受容体サブタイプに対する拮抗(アンタゴニスト)作用によるものであろう 。
 
 そして、ストレスによって誘発させる記憶障害に対するカフェインの有益な効果は、アデノシンA2a受容体へのアンタゴニストとしての特性であり、おそらく、グルタミン酸作動性神経伝達を制御する能力に由来し、特に、NMDA受容体に依存する可塑性を介した作用であろう。
 
 このように、これらの研究成果は、緑茶抽出物やその成分はNMDA受容体に依存するシナプスの可塑性に及ぼす効果を介してOS(酸化ストレス)によって誘発される認知機能障害に対抗できることを示唆している。

 本研究では、緑茶を摂取することで、ワーキングメモリーの処理中の前頭・頭頂葉皮質間の接続における短期的な可塑性を変化させるかどうかをDCMを用いて神経ネットワークの接続レベルで調べた。DCMは、一般的なベイジアンシステムを採用した同定手法であるが、神経マクロシステムの相互作用の動態をコンピュータで計算することによって、NMDAに依存するシナプス可塑性を推測することができる。

 これまでの研究で、NMDA受容体への刺激に対するDCMの検出能力は実証されており、NMDA受容体をブロックすることで、聴覚オドボール課題中の左一次聴覚野から上側頭回へのボトム-アップの接続性に関するシナプス可塑性の変化を誘導することが示されている。

 それ故、緑茶の摂取によって誘導されたワーキングメモリーの処理中に頭頂・前頭間の接続性が強化されたという今回の我々が得た結果は、緑茶によってNMDA受容体に依存するシナプスの可塑性の変化が誘発されたことを反映しており、緑茶による認知機能への効果のネットワークレベルでのメカニズムを示唆しているものだと提唱したい。

制限事項
Limitations

本研究では、考慮すべきいくつかの制限事項が存在する。

 イメージングの結果とは対照的に、緑茶によるタスクパフォーマンスへの統計学的な有意な効果は観察されなかった。しかし、タスクパフォーマンスが良化するという強い傾向があることを見出しており、我々の研究のサンプルは小さかったため行動のパラメータの差が統計学的に得られなかったことが示唆される。

 この所見は、小さなサンプル数のfMRIのデータは比較的堅実なデータであることを示す他の証拠からはタスクパフォーマンスが良化すると言えるかもしれないが、一方で、行動インデックスは特にパワーが不足しがちであり、多くの個人的特質に合わせてタスクパフォーマンスに必要な認識課題を適切に割り当てることは明らかに不可能なため結果が混乱したためだとも解釈できる。

 さらに、注意すべき点として、緑茶を含む清涼飲料と純粋な緑茶抽出物と間には違いが存在するということである。純粋な緑茶抽出物の経口摂取では、緑茶抽出物の認知能力に対するプラスの効果に関しては、認知機能に影響を及ぼす可能性があるカフェインなどの他の成分による交差効果や影響を避けられたかもしれない(=本研究では清涼飲料水を使用しており、カフェインなどの他の成分が認知機能に影響を及ぼした可能性もあり、その可能性は除去できない)。

結論
Conclusions

 本研究は、緑茶抽出物の摂取によって、健常者のワーキングメモリーの処理の際に頭頂皮質から前頭皮質への機能的接続が増強したことを示している。興味深いことに、この接続性の効率に対する効果は、緑茶によって誘導された認知パフォーマンスの良化に関連していた(緑茶を飲むと頭頂葉・前頭葉間の接続性が向上し、ワーキングメモリーが増し、ワーキングメモリーを必要とするようなタスクパフォーマンスが向上する)。

 我々が得られた結果は、神経ネットワークレベルにおけるワーキングメモリーの処理に対する緑茶の効果を世界で最初に提示するものであるが、異なる領域間の脳の接続に関する短期的な可塑上のメカニズムを介した現象であることが示唆される。

 さらに、我々の知見は、ワーキングメモリーの処理の最中における前頭葉と頭頂葉の脳の領域間の接続性の効率を評価する事で、精神障害における認知障害(例えば認知症など)の治療に適用できるような緑茶や他の化合物の有効性を評価することが可能になるような有望なツールを提供しうることを示唆している。

(論文終わり)

 緑茶を飲むと脳の接続性が向上し、認知機能も向上すると言えよう。この所見は、既にラットでは確認されており、今回の論文で人でも確認されたことになる。

 緑茶抽出物は、高齢のラットにおける学習や記憶を有意に改善した。さらに、高齢ラットだけでなく若齢ラットの学習や記憶をも改善させた。なお、アセチルコリンエステラーゼ活性の低下が若齢ラットよりも高齢ラットの大脳で観察された。緑茶抽出物の投与は、高齢ラットにおける学習や記憶を増強する上で有効であり、加齢に関連する障害を逆転させるのに有用に機能することができる。
 
 今回紹介した論文では触れられていなかったが、記憶や学習能力の改善には緑茶がアセチルコリンエステラーゼの活性を抑制することも関与しているようだ。
 
 一方、緑茶の中枢神経系に対する有益な効果はワーキングメモリーやタスクパフォーマンスに対してだけではない。中枢神経系への様々な他の有益な効果が既に報告されている。以下に、これまでに報告された他の論文を簡単に紹介する。

 まず、今回の論文中でも触れられていたように、EGCGはAβレベルやAβプラークを減少させることが動物実験で確認されている。この所見が事実であるならば、緑茶を飲むことは認知症の予防として大きく期待できることになる。
 
 この点に関して、緑茶は認知症の予防として非常に期待できると思えるような論文がSuk-Joon Hyungら(2013年度)によって発表されている。

 アルツハイマー病では、金属が結合(関連)したアミロイド-β(金属Aβ)と病因とのリンクが示唆されているが詳細は不明なままである。アルツハイマー病の基礎的なメカニズムを理解する上で(そして、アルツハイマー病の予防の上でも)、金属Aβ種をターゲットとして調節することが可能な化学分子を見つけ出すことが重要である。緑茶抽出成分であるEGCGは金属キレートおよびAβとの相互作用が可能な化学構造を有する。そこで我々は、( - )-エピガロカテキン-3 -ガレート(EGCG) が、金属[銅(II)と亜鉛(II)]Aβと金属フリーのAβ種-との相互作用や反応性を調査した。
  
 EGCGは、in vitroにて、金属-Aβ種と相互作用し、金属-Aβ種の凝集体の構造を小さいサイズにして非構造化した。その作用は金属フリーのAβ種よりも顕著であった。さらに、EGCGとインキュベーションすることで金属フリーのAβと金属Aβの毒性は双方ともに緩和されることが生きた細胞内で確認された。この所見からは、EGCGがAβの凝集を阻害し、EGCGは金属によって媒介されるAβ凝集経路を阻害することが示唆される。
 
 そこで、このEGCGのAβの凝集を阻害するという反応を分子レベルで理解するために、イオン移動度-質量分析(IM-MS)、2D NMR分光法、コンピュータ解析を行った。その結果、EGCGのAβへの凝集阻害作用が構造学的に解明された。すなわち、(1) EGCGはAβモノマーおよびダイマーに結合し、EGCGで未処理のAβ種よりもコンパクトなペプチドの立体構造を生成することができる。(2) EGCGは金属-Aβと三元複合体を生成する、以上のことが分かった。EGCGには、金属Aβ種に対するアンチアミロイド反応性が明らかに存在し、このメカニズムはAβの構造の変化に基づいたものだと言えよう。

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 どうやら、緑茶にはアミロイドβタンパク質を凝集しにくい構造に変えてしまう力があるようである。この能力は認知症を予防する上で大きな力を発揮することであろう。

 さらに、緑茶の認知症予防効果は疫学的調査でも確認されており、今回紹介した論文の中でも触れられている。

 補足しておくと、以下の金沢大学の論文(2014年度)は日本人での調査結果である。

 緑茶、コーヒー、紅茶(black tea)の消費が高齢者の認知症や軽度認知障害(MCI)の発症に影響するかどうかを60歳以上の日本人(中島プロジェクト)に対してプロスペクティブ調査を行い解析した。 緑茶、コーヒー、紅茶の消費量をベースライン(2007~2008年)の時点で評価した。ベースラインの調査時点で正常な認知機能を備えていた723名の参加者のうち、490名がフォローアップ調査(2011~2013年)を完了した。追跡期間中(平均±SD:4.9±0.9歳)の認知症の発生率は5.3%でであり、MCIは13.1%であった。全く緑茶を消費しない参加者と比べて、毎日緑茶を消費する参加者では、認知機能の低下(認知症やMCI)の発生率のオッズ比は0.32であり、1週間に1~6日消費する参加者では0.47と低下していた。さらに、認知症に関しては、全く緑茶を消費しない参加者との比較では毎日緑茶を消費する参加者の発生率のオッズ比は0.26であった(=毎日緑茶を飲むと認知症になるリスクは1/4に減少する)。一方、コーヒーや紅茶の消費量と認知症やMCIの発症との間での相関は認められなかった(=コーヒーや紅茶の消費とリスクの低下との有意な関連は認められなかった)。この結果は、他の因子を補正した後でも緑茶の消費量と認知機能低下のリスクの軽減とが関連していることを示している。

 なぜ、このような差が出たかについては、緑茶とコーヒーや紅茶の抽出成分の違いによるものが考えられる。お茶の主なポリフェノールは、紅茶ではテアフラビン類であるが、緑茶ではカテキン類であり、EGCGが含まれている。さらに、紅茶に比べて、緑茶にはより多くのミリセチン(myricetin)が含まれている 。EGCGは、血液脳関門を透過し、Aβの凝集阻害することでアミロイドβ(Aβ)の毒性に対して神経保護効果神経救命効果を発揮する。ミリセチンもAβ凝集を阻害する。そして、EGCGやミリセチンの経口投与は、アルツハイマー病(AD)のモデルマウスのAD病理変化の発症を予防することが知られている(こういったポリフェノール類の差が結果に反映している可能性があろう)。さらに、緑茶と黒茶に豊富に含まれているアミノ酸であるL-テアニンはコーヒーには含まれていない。L-テアニンは、Aβによって誘導される酸化ストレス、ERK1 /p38 MAPKの活性化、NK-kBの経路を阻害することにより抗酸化特性や神経保護作用を有する(緑茶の認知症への予防効果に関してはEGCGだけでなく、ミリセチンやL-テアニンへの検証がさらに必要となろう)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%82%BB%E3%83%81%E3%83%B3

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 これは日本人での調査結果であり、日本人の我々には非常に期待できる結果である。日本人のライフスタイルも西洋化が進み、緑茶よりもコーヒーの方を好み、コーヒーを多く消費する人も増えているのではあろうが、高齢化し認知症が増え続けている日本では、昔に戻り、認知症を予防するために緑茶をもっと飲むようにすべきなのかもしれない
 
 一方、緑茶の統合失調症や双極性障害への効果も検討されている。Jennifer M. Loftisら(2013年)は次のように報告している。
 
 緑茶は心を落ち着かせる作用があると言われており、中国では皇帝らが愛用していた程である。さらに、緑茶には一酸化窒素(NOS)合成酵素やサイトカインの産生を阻害する作用が知られている。一方、酸化ストレスや炎症を低下させることに焦点を当てる戦略は、統合失調症や双極性障害の治療上の利点を有すると考えられている。そこで、緑茶抽出物のエピガロカテキンガレート(EGCG)が抗精神病薬のメンテナンスを補助する上で有用かどうかの二重盲検試験を行った。抗精神病薬や他の向精神薬で維持されている統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害を有する成人に、EGCGまたはプラセボが無作為に割り付けられた。
 
 精神症状はベースラインからの変化は認められたが、残念なことに、EGCG群では、プラセボと比較して精神症状や炎症マーカーに有意な影響を与えたという結果は示されなかった。このプラセボ対照試験では緑茶抽出成分であるEGCGの精神症状に対する治療効果は示されなかった。しかし、精神科症状の減少は有意ではないものの、Th1、Th2、Th9サイトカインの産生の低下を伴っていることが分かった。

 さすがに、精神病症状を改善する効果まではないようだ。しかし、サイトカインの産生低下が認めらており、緑茶を飲むことで精神症状の悪化を防止するような作用は期待できるのかもしれない。

 次に、緑茶には抗うつ効果抗不安効果があることも報告されている。既に動物実験においては緑茶の抗うつ効果が示されている。
 
 Wei-Li Zhuaら(2012年)は以下のように報告している。最近の研究では、緑茶を多く消費する高齢者は抑うつ症状の有病率が低いことが示されている。しかし、うつ病の動物モデルを使用した緑茶の抗うつ様効果の研究は行われていない。そこで、うつ病動物モデルを使用して緑茶の抗うつ効果のメカニズムを調査した。うつ病モデルマウスに緑茶ポリフェノール(GTP、5,、10 、20 mg/kg)を7日間経口投与し、強制水泳試験(FST)、尾懸垂試験(TST)を行った。さらに、血清コルチコステロン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)レベルを測定した。緑茶ポリフェノールはFSTとTSTの双方における不動時間を減少させた。この所見は、GTPは抗うつ様効果を有することを示唆している。さらに、FST中における血清コルチコステロン、ACTHレベルを低下させた。緑茶ポリフェノールの抗うつ様効果のメカニズムは、視床下部-下垂体-副腎・軸の抑制を介するものかもしれない。

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 Bombi Leeら(2013年)も次のように報告している。外因性のストレスホルモンであるコルチコステロン(CORT)の反復投与は、視床下部-下垂体-副腎(HPA)・軸の調節不全を介してうつ病や不安をもたらす。我々は、CORTの慢性投与によって誘発される行動の変化に対するカテキン(CTN)投与の影響を強制水泳試験(FST)と高架式十字迷路(EPM)試験を用いて検証した。さらに、ノルアドレナリン作動システムに対するCTNの効果をチロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫反応性の変化を観察することによって調べた。

 ラットはCORTの21日間の連続注射の1時間前に10、20、40 mgの/ kgのCTN(IP)の注射を受けた。HPA軸の活性化は血清のCORTレベルや視床下部のコルチコトロピン放出因子(CRF)の発現を測定することで確認した。その結果、CTNによって、FSTにおける不動時間の有意な低下、EPM試験におけるオープンアーム探査行動の増加、青斑核(LC)におけるTHの発現の増加を有意に阻害した。これらの知見は、CTNは、高用量の外因性CORTに対抗して、中枢神経系のノルアドレナリン作動系を調節することにより、無力的な(抑うつ)行動を改善することを示している。カテキンはうつ病や不安障害に関連する複雑な症状を治療したり緩和するための有用な物質となろう

 どうやら、緑茶にはHPA軸の過剰な活性化を抑制する作用があり、それが抗うつ効果と結びついているようだ。ストレスで真っ先に影響を受けるのがHPA軸である。もし、緑茶にHPA軸の過剰な活性化を抑制する作用があるのであれば、緑茶には抗ストレス効果もあると言えよう。
 
 さらに、緑茶の抗うつ効果は他のメカニズムが関与していることも報告されている。
 
 Qiangye Zhangら(2013年)は次のように報告している。緑茶の定期的な摂取は抑うつ症状の有病率を低下するという報告と同様に、齧歯類において抗うつ様効果を誘導することが報告されている。一方、報酬学習の障害が無快感症(anhedonia)やうつ病の中核症状と関連していることが提唱されている。しかし、緑茶と報酬学習の関係は十分に検討されていない。そこで、健常な被験者において緑茶が報酬学習のプロセスに影響を与えることで抑うつ症状を調節するかどうかを検証した。

 74名の健常な被験者が5週間の緑茶(かプラセーボ)の経口投与に関する二重盲検無作為化プラセボ対照試験に参加した。報酬学習を評価するために金銭的インセンティブ遅延タスク(monetary incentive delay task、MIDT)を使用して評価した。さらに、緑茶とプラセボとの報酬への応答に対する反応時間を比較した。さらに、モンゴメリアスベルグうつ病評価尺度(MADRS)とハミルトンうつ病評価尺度の17項目(HRSD-17)を評価した。その結果、プラセボと比較して、緑茶はMIDTでの反応時間を減少させた、これは、緑茶が報酬学習を増強したことを示している。

 さらに、緑茶を与えられた参加者はMADRSとHRSD-17スコアの低下を示した。今回の結果で緑茶は報酬学習を増強し抑うつ症状を予防していることが明らかにされた。これらの結果は、緑茶の補充的投与は報酬機能の正常化を通じて、うつ病の発症を逆転させる可能性があることを示している。

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 緑茶には減弱した報酬機能を回復し強化させる機能もあるようだ。

 では、その抗うつ効果はどの程度なのであろうか。

 Marmat Aら(2013年)は次のように報告している。緑茶のエタノール抽出物は、マウスでは強制水泳試験や尾懸垂試験おける不動時間の有意な減少を示した。 抗うつ作用はエタノール抽出物>水抽出物であった。 緑茶のエタノール抽出物の抗うつ活性はイミプラミン(10mg / kg)と同等であることが分かった。 
(同様な動物実験で、緑茶の水抽出物はデシプラミン10mg/kgに匹敵する抗うつ効果を認めたことが報告されている)

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 なんと、緑茶の抽出物には抗うつ剤に匹敵するような抗うつ効果があると言うのである。本当なのであろうか。動物実験でのデータであり人間にもそのまま当てはまるとは言い難いが、緑茶にはそれなりの抗うつ効果があるのは間違いないであろう。

 では、実際に人での抗うつ効果が確認されているのであろうか。この点に関しては疫学調査が行われており、それによればうつ病への予防効果が報告されている。

 東北大学の調査(2009年)では緑茶の消費が多くなるほど高齢者のうつ症状の有病率が低下することが横断的な疫学調査で示されている。

 さらに、国立国際医療研究センターらの調査(2014年)でも、20~68歳の成人において緑茶の消費が多くなるほどうつ症状の有病率が低下することが示されている(1日に1カップ未満と4カップ以上の消費量を比較すると、4カップ以上の消費量の場合はうつ症状の有病率のオッズが51%低下する)。 

 どうやら、緑茶を多めに消費することはうつ病の予防にもなるようだ。私はこの論文を読んでから1日に4杯以上は緑茶を飲むようにしている。

 さらに、緑茶には抗不安効果も報告されている。

 マウスの実験ではEGCGによる抗不安効果を認めた。これは、GABA(A)受容体を介した抗不安作用である。

 一方、緑茶のカテキン類であるEGCGばかりが注目されているが、テアニンにも中枢神経系への有益な効果が報告されている。

 Lu Kら(2004年)は次のように報告している。L-テアニンは、緑茶に見出される主要なアミノ酸のひとつであり、リラックス剤として使用されてきた。この研究では、予期不安(AA)のモデルを用いて、健常な人を対象した不安へのL-テアニンの急性効果をアルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)やプラセボと比較して調べた。16名の健常なボランティアには、アルプラゾラム(1mg)か、L-テアニン(200mg)か、プラセボが割り当てられた(二重盲検プラセボ対照試験)。試験の前後のBAI、VAMS、STAIといった不安に関するセルフレポートを評価した。
 
 その結果、既にベースライン状態(リラックスした状態)の時に、VAMSスケールにおいて、L-テアニンのリラックス効果の証拠が示された。一方、アルプラゾラムは、リラックスした状態では、プラセボと比較して抗不安効果は発揮されなかった。さらに、L-テアニン、アルプラゾラム、双方とも実験的に誘導された不安状態の時には、有意な抗不安作用を示さなかった。この所見は、L-テアニンは、安静の条件下におけるリラックス効果を有するが、AAモデルによる不安増大の条件下では、L-テアニン、アルプラゾラム双方とも急性の抗不安作用は示さないことを示唆している。

 どうやら、テアニンにはリラックスさせる効果があるようだ。くつろぎたい時には緑茶を飲むと良いのかもしれない。

 さらに、名古屋大学の研究(2007年)ではL-テアニンによる抗ストレス効果が報告されている(L-テアニンによって、急性ストレスタスクにおける心拍数{HR}の減少や唾液免疫グロブリンA{S-IgA}の反応が低下することが示された。心拍変動の解析からは、HRやs-IgAの減少は、交感神経の活性化が低下したことに起因する可能性が高いことが分かった。L-テアニンは、皮質ニューロンの興奮を阻害することで抗ストレス作用を発揮することが示唆される)。

 他にも、L-テアニンの有益な効果が報告されている。Wise LEら(2012年)は、モルヒネ依存となったアカゲザルの禁断症状を減衰させ、マウスでは抗不安活性を誘導することを報告している。なお、L-テアニンはカフェインに拮抗する作用があり、コーヒーではカフェインを摂り過ぎてしまうことになるが、緑茶ではL-テアニンによって緑茶自身に含まれるカフェインの作用は緩和されることになる。コーヒーでは飲みすぎるとカフェンの過剰摂取によって不安やパニック発作が惹起されてしまうことがあるが、緑茶ではその心配は少ないと言えよう。

 さらに、L-テアニンは、海馬におけるBDNFを誘導し、NMDA受容体へのアゴニスト作用を介した抗うつ効果もあることも想定されている。

 また、L-テアニンには神経保護効果認知機能の増強作用があることも報告されている。これは、AMPAおよびカイニン酸受容体への拮抗作用によるものが考えられている。さらに、グルタミントランスポーターを阻害することで細胞外から細胞内へのグルタミンの輸送を抑え、細胞内におけるグルタミン→グルタミン酸への代謝を抑制することにも由来する。

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 そして、統合失調症や統合失調性感情障害患者における陽性症状や、不安症状を軽減することまでもが報告されている(8週間にわたるプラセーボとの無作為二重盲検試験)。

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 統合失調症の症状まで軽減させる作用があるのであれば、緑茶は凄いパワーを秘めている飲料だと言えよう。

 最後に、緑茶は他の薬剤と相互作用をする場合があるため注意が必要である。クロザピンの効果を下げたりリチウムの血中濃度を下げることがあるため、この2剤を内服している場合は注意をした方が良いであろう。

 なお、緑茶の種類や抽出の仕方によってカテキン(しぶみ成分)が優先的に抽出されたり、テアニン(うまみ成分)が優先的に抽出されたりするようである。一般的には、テアニンは玉露(日光をあまり当てずに栽培する)や初期の若い芽に多く含まれており、70℃くらいの低温で抽出した方が良いようである。カテキンはこの逆で、日光によく当たった若くない芽に多く含まれる、高温の方が抽出が良くなるようである。私が好きな生茶にはテアニンが多く含まれているようだ。
 
 とにかく緑茶を飲むことは中枢神経系にとっては良いことだと言えよう。さあ、これからは毎日緑茶を飲もうではないか。

(ただし、こんな意見もあるので、参考までに。汗;)
http://www.asyura2.com/13/health16/msg/267.html

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