「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
SOTC719
レッド・ラギッド・ロード 27
ラモンの話、最終話。
明日へ向かう者。
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27.
SOTC第1戦は、波乱の展開の末に決着した。
予選6位通過の伏兵、ラモン・ミリアンがスタート直後からハイペースで他の選手を引っ張る展開に、昨年度SOSSの覇者たちは軒並み翻弄され、次々に優勝圏内から脱落。地元勢では唯一、昨年のSOSS優勝者であったワフィカ・ジブリルが最後まで懸命な攻めを続け、3位に食い込んだ。そして中央からの刺客と言われたクリス・フォッシュも、ラモンの駆け引き戦術で一旦は大きく遅れを取ったものの、その後はレース全体を通して安定した堅実な走りを維持し、2位入賞を果たした。
一方、茶色いセダンに乗っていたアルトは――偽名で参加していた上に変装していたこともあり、一聖たちはレース最終盤までその正体に気付けず、むざむざと出場・凶行を許してしまったのだが――3桁近い違反行為が記録された上、最終コーナーで突如エンジンブローを起こしてコースアウト後、車体が爆発・炎上したことにより、リタイアおよび失格となった。そしてこの「悪役」の猛攻を退け、最後に芸術的な四輪ドリフトを披露したラモン・ミリアンは、見事に優勝を果たした。
双月世界におけるモータースポーツ後進地域と言われていた南海であるにもかかわらず、これほどの激戦が繰り広げられたことにより、レースのあったその日の内にSNSで話題が沸騰。連日「#SOTC」のハッシュタグを付けた投稿が飛び交い、レース時のハイライトを収めた画像・動画が並んだ。
そしてこの活躍によりラモンは、天狐から今後の6戦も全て出場することを、改めて依頼された。
「この1年、間違いなくお前がSOTCのスーパーヒーローだ」
モータースポーツにおいてスーパーヒーローになる――ラモンは28歳にしてようやく、少年の頃の夢を叶えることができた。
ラモンはまた、タクシーを運転している夢を見た。
「よお」
乗ってきたのは、天狐だった。
「屋敷まで頼むわ」
「はい」
後部座席に天狐を乗せて、タクシーは出発する。
「……で、どーよ?」
唐突に尋ねてきた天狐の意図が分からず、ラモンはバックミラー越しに天狐の顔を見る。
「どうって、何がです?」
「お前さんの後ろにいるヤツは今、どんな顔してんのかって話だよ」
フロントガラスに視線を移し――うっすら映る天狐の横に、砕けたヘルメットを被る自分がいるのに気付いた。だが、これまでどこか悲しそうに、自分を見つめていたはずの、ヘルメットの中の顔は――。
「……笑って、ますね」
「だろーな。よーやくだもんな」
「ようやく……って?」
天狐は横に座るものに構う様子も無く、ニヤッと笑って返した。
「よーやくお前さん、後ろのヤツの言ってるコトを聞いてやったんだからな。そりゃ嬉しそうな顔もするってもんさ」
「言ってること? 何も……」
言いかけて、ラモンはもう一度、フロントガラスに映るものを見た。
そこには大勢の、自分がいた。14歳の、CCMRのビデオを見ていた自分。18歳の、高校を卒業してすぐオリバーのところへ渡った自分。22歳の、そのオリバーに頭を割られた自分。23歳の、アルトにそそのかされて悪の道に堕ちた自分。25歳の、エヴァに会った時の自分。
そしてつい先日の、表彰台に上がり優勝トロフィーを抱えた自分も、そこにいた。
「いるだろ? 昨日までの自分、みんなが。みんな、今日のお前さんに言いたいコトがあんだよ」
「それって……何です?」
「『昨日のオレを忘れるな』『明日のオレに活かしてくれ』って、みんな願ってる。みんな、お前さんが明日成功するコトを、昨日より上手くやってくれるコトを――お前さんが幸せになってくれるコトを願ってるんだよ」
「幸せ、ですか」
「ソレと、忘れんなよ。今日のお前さんは、明日になれば『昨日のお前さん』だ。明日のお前さんに、みっともねートコ見せんじゃねーぞ」
「……はい」
と、タクシーが自然に停まる。
「着いたか。代金は後で鈴林に言っといてくれ。ありがとよ」
車外に出たところで、天狐は運転席の横に回り込んだ。
「で、どーすんだ? まだ乗ってるつもりか?」
そう言ってサイドのガラスをトントンと叩く天狐に、ラモンは「いえ」と答えた。
「もう、営業終了です」
ラモンはタクシーの表示板を「回送(Closed)」に変更し、帽子を運転席に残して、自分もクルマを降りた。
ラモンは長年さまよってきた血まみれの荒れた道を抜け、今、新たな夢に向かって走り出した。
レッド・ラギット・ロード 終
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明日へ向かう者。
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27.
SOTC第1戦は、波乱の展開の末に決着した。
予選6位通過の伏兵、ラモン・ミリアンがスタート直後からハイペースで他の選手を引っ張る展開に、昨年度SOSSの覇者たちは軒並み翻弄され、次々に優勝圏内から脱落。地元勢では唯一、昨年のSOSS優勝者であったワフィカ・ジブリルが最後まで懸命な攻めを続け、3位に食い込んだ。そして中央からの刺客と言われたクリス・フォッシュも、ラモンの駆け引き戦術で一旦は大きく遅れを取ったものの、その後はレース全体を通して安定した堅実な走りを維持し、2位入賞を果たした。
一方、茶色いセダンに乗っていたアルトは――偽名で参加していた上に変装していたこともあり、一聖たちはレース最終盤までその正体に気付けず、むざむざと出場・凶行を許してしまったのだが――3桁近い違反行為が記録された上、最終コーナーで突如エンジンブローを起こしてコースアウト後、車体が爆発・炎上したことにより、リタイアおよび失格となった。そしてこの「悪役」の猛攻を退け、最後に芸術的な四輪ドリフトを披露したラモン・ミリアンは、見事に優勝を果たした。
双月世界におけるモータースポーツ後進地域と言われていた南海であるにもかかわらず、これほどの激戦が繰り広げられたことにより、レースのあったその日の内にSNSで話題が沸騰。連日「#SOTC」のハッシュタグを付けた投稿が飛び交い、レース時のハイライトを収めた画像・動画が並んだ。
そしてこの活躍によりラモンは、天狐から今後の6戦も全て出場することを、改めて依頼された。
「この1年、間違いなくお前がSOTCのスーパーヒーローだ」
モータースポーツにおいてスーパーヒーローになる――ラモンは28歳にしてようやく、少年の頃の夢を叶えることができた。
ラモンはまた、タクシーを運転している夢を見た。
「よお」
乗ってきたのは、天狐だった。
「屋敷まで頼むわ」
「はい」
後部座席に天狐を乗せて、タクシーは出発する。
「……で、どーよ?」
唐突に尋ねてきた天狐の意図が分からず、ラモンはバックミラー越しに天狐の顔を見る。
「どうって、何がです?」
「お前さんの後ろにいるヤツは今、どんな顔してんのかって話だよ」
フロントガラスに視線を移し――うっすら映る天狐の横に、砕けたヘルメットを被る自分がいるのに気付いた。だが、これまでどこか悲しそうに、自分を見つめていたはずの、ヘルメットの中の顔は――。
「……笑って、ますね」
「だろーな。よーやくだもんな」
「ようやく……って?」
天狐は横に座るものに構う様子も無く、ニヤッと笑って返した。
「よーやくお前さん、後ろのヤツの言ってるコトを聞いてやったんだからな。そりゃ嬉しそうな顔もするってもんさ」
「言ってること? 何も……」
言いかけて、ラモンはもう一度、フロントガラスに映るものを見た。
そこには大勢の、自分がいた。14歳の、CCMRのビデオを見ていた自分。18歳の、高校を卒業してすぐオリバーのところへ渡った自分。22歳の、そのオリバーに頭を割られた自分。23歳の、アルトにそそのかされて悪の道に堕ちた自分。25歳の、エヴァに会った時の自分。
そしてつい先日の、表彰台に上がり優勝トロフィーを抱えた自分も、そこにいた。
「いるだろ? 昨日までの自分、みんなが。みんな、今日のお前さんに言いたいコトがあんだよ」
「それって……何です?」
「『昨日のオレを忘れるな』『明日のオレに活かしてくれ』って、みんな願ってる。みんな、お前さんが明日成功するコトを、昨日より上手くやってくれるコトを――お前さんが幸せになってくれるコトを願ってるんだよ」
「幸せ、ですか」
「ソレと、忘れんなよ。今日のお前さんは、明日になれば『昨日のお前さん』だ。明日のお前さんに、みっともねートコ見せんじゃねーぞ」
「……はい」
と、タクシーが自然に停まる。
「着いたか。代金は後で鈴林に言っといてくれ。ありがとよ」
車外に出たところで、天狐は運転席の横に回り込んだ。
「で、どーすんだ? まだ乗ってるつもりか?」
そう言ってサイドのガラスをトントンと叩く天狐に、ラモンは「いえ」と答えた。
「もう、営業終了です」
ラモンはタクシーの表示板を「回送(Closed)」に変更し、帽子を運転席に残して、自分もクルマを降りた。
ラモンは長年さまよってきた血まみれの荒れた道を抜け、今、新たな夢に向かって走り出した。
レッド・ラギット・ロード 終
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と言うわけでラモン主役のスピンオフ終了ですが……第2作も今、鋭意執筆中です。
「緑綺星」本編に全然手を付けられない。なんなら西部劇小説も全然筆が進んでません。
「緑綺星」自体が現代的世界を舞台にした小説のためか、
これまでのファンタジー世界では実現できなかったアイデアが次々と湧いてきます。
スポーツものなんてその極致。「蒼天剣」や「火紅狐」でカーレースやるのは無理がありすぎますし。
この「黄輪雑貨本店 新館」のメインコンテンツには他に「クルマのドット絵」シリーズがあり、
自動車に関する知識もこちらで長年蓄えていましたが、
「レッド・ラギット・ロード」はこちらで培ってきたスキルも活用しました。
いわば今作は、当ブログの集大成とも言える力作です。
来年中には第6部と今作の次回作――「ブラッド・オブ・ストリート」を掲載したいところ。
と言うわけでラモン主役のスピンオフ終了ですが……第2作も今、鋭意執筆中です。
「緑綺星」本編に全然手を付けられない。なんなら西部劇小説も全然筆が進んでません。
「緑綺星」自体が現代的世界を舞台にした小説のためか、
これまでのファンタジー世界では実現できなかったアイデアが次々と湧いてきます。
スポーツものなんてその極致。「蒼天剣」や「火紅狐」でカーレースやるのは無理がありすぎますし。
この「黄輪雑貨本店 新館」のメインコンテンツには他に「クルマのドット絵」シリーズがあり、
自動車に関する知識もこちらで長年蓄えていましたが、
「レッド・ラギット・ロード」はこちらで培ってきたスキルも活用しました。
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