池田信夫
<追記 池田氏の主張する政策>
池田氏の考え方について、たまたま週刊誌に載っていたので、解説します。
『週刊現代2月26日号 森永卓郎VS 池田信夫』p176~179
(1)日銀の金融緩和なんてとんでもない
…大規模な金融緩和なんてしたらどうなるか。日本の国債は日銀が引き受けないと消化できなくなったと判断して、みんな逃げていきますよ。…50兆も…日銀が国債を引き受けたら、市場に対して「日本の財政はもう破綻する」とシグナルを送るようなものだ。
…日銀がめちゃくちゃな金融緩和(筆者注:50兆円の引き受けのことか?)をやったら、世界の投資家が日本国債にカラ売りをかける。その結果、国債も円もドーンと値下がりしてハイパーインフレが起きる(筆者注:50兆円の引き受けによりか?)。そうなったらもちろん財政は破綻、倒産企業も続出で日本経済は地に落ちる。そして、すべてリセットしたうえで焼け跡からの再出発に賭けるんだ、と。
…海外投資で資産を逃がしておくとか。円が暴落したら、逆に儲かる。今の話は冗談に聞こえるかもしれませんが、そうじゃないですよ。先ほど言った最悪のシナリオが、あと何年かで現実になる可能性は高い。
日銀は、昨年10月5日、国債、CP、社債、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J─REIT)など多様な金融資産の買い入れを決めました。
買い入れ資産(5兆円程度)と、固定金利方式・共通担保資金供給オペ(30兆円程度)を合わせて、35兆円程度を用意しました。
効果はあったのでしょうか?2011年2月16日現在「ありました」
①昨年12月の生鮮食品を除く消費者物価指数は前年同月比-0.4%まで回復
②東証のリート(不動産投資信託)指数回復
(2)国債は、国内で消化できなくなる。
―(編集部)日本人は、全体で1400兆円も金融資産を持っている。国債はその日本人のカネで買われているのだから破綻はしない・・・・?に対して
「その日本人が国債を持っていれば大丈夫」という話に根拠がまったくない。…国債を買える余力はあと3年ぐらいで尽きる。日本人の個人金融資産と国債残高が実質的に並んでしまうからです。
まず、日本のGDPの三面等価図を見てみましょう。
(S-I) = (G-T) + (EX-IM)
(貯蓄-投資) = (公債) + (貿易黒字)
(貯蓄超過) = (政府への貸し出し)+ (外国への貸し出し)
我々が、消費せず、税金にも回さなかったお金を、貯蓄Sと言います。その国内のS(貯蓄)が、I(企業の投資)、(G-T:公債)、(EX-IM:輸出―輸入:経常黒字:海外への資金の貸し出し)<になるのです。S=99兆8880億円、それがIの95兆円、G-T3.4兆円、EX-IM1.4兆円に回るのです。EX-IM1.4兆円は、海外へのお金の貸し出しなのです。
外国債・外国株・外国社債などの購入や、外国への貸付額がEX-IM1.4兆円なのです。
これを見て分かるように、「国債」は、毎年のフロー(GDP)で消化されています。「…国債を買える余力はあと3年ぐらいで尽きる」というのは、どこから出てくる説なのでしょう?
それは、池田氏が、フロー(GDP)と、ストック(金融資産)を混同しているから、出てくるトンでも説なのです。
この毎年のS(99兆8880億円)がストック(金融資産)に加わります。しかも、家計の貯蓄だけではなく、企業の貯蓄もこのSに入っています。
だから、この金融資産も毎年増えます。
「日本人の個人金融資産と国債残高が実質的に並んでしまうからです」と、過去の1400兆円のストックと、国債残高が並んでしまうから、「国内消化は出来ない」という論を池田氏は主張します。
これは「原因と結果」を混同しています。1400兆円の個人金融資産は、過去にフローで国債を購入した「結果」です。ですから、毎年フロー(GDP)で国債は消化されていますので、1400兆円の個人金融資産(国債購入含む=財産)も増えます。
清水書院『2010 資料政治・経済』p230
1400兆円=日本人による国債の購入限度額ではありません。
ただし、この貯蓄率、特に家計貯蓄率は下がっています。少子高齢化です。家計貯蓄がゼロになり、企業貯蓄で国債をまかなえなくなる時、それは、「外国」に国債を買ってもらうとき=日本が経常収支赤字=広義資本収支黒字になるときです。
2010-04-27 記事 猪突『大機小機 東京市場国際化の功罪』日経H22.4.27
カテゴリ:ISバランス/貯蓄投資差額 参照
(3)生産性の低い企業(不良債権)を倒産させよ。
…いま日本の潜在成長率は0.5%。これは日本経済がいくら頑張っても、これ以上は成長できないということ。
…日本がこうなった一番の要因は、90年代の不良債権処理の誤りです。…本当はもう破綻しているのに、ゼロ金利政策によってダメな企業を延命させてしまった。こういう“ゾンビ企業”が、ずっと日本経済の足を引っ張ってきた。
…問題の先送りをしてきたから、この20年、日本は低迷を続けているわけ…。確かに、一時的には倒産企業も失業者も増える。でもそれを乗り越えないと、次に進まない。とるべき処方箋はわかっている…。
下のグラフはフィリップス曲線といいます。
グラフ・参考文献 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009p88-89
「インフレ時は失業率が低い、デフレ時は失業率が高い」のです。
日本の失業率は高止まり、物価はデフレです。デフレは倒産を加速します。
岩田規久男『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009
日経H22.8.24
実際に、不況による倒産は、過去最高になっています。
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_companytosan『時事ドットコム 昨年の負債総額3.3%増=日航、振興銀で膨らむ―企業倒産』
…原因別では、景気低迷やデフレに伴う販売不振が理由の「不況型」倒産の割合が82.9%と過去最高を記録した。
このように、デフレ下、倒産企業が続出しているのに、池田氏は、「ダメな企業を延命・問題の先送り・一時的には倒産企業も失業者も増える。でもそれを乗り越えないと、次に進まない」と、もっと「不良企業を倒産・退場させよ」と言っています。人為的に倒産させようと言っているのです。
(4)産業構造の転換で、新製品を生み出せ。
抜本的な日本経済の改善には産業構造の転換が必要です。これから日本が何によって儲けていくか。…この「iPhone」を見て下さいよ。10年前は存在していなかったものが、いま全世界で5000万台以上売れているんですよ。これによって、アップルの時価総額はマイクロソフトを抜いた。日本にはこういうダイナミズムがないから停滞が続いてるんです。
<日本の主産業はサービス業>
とうほう『政治・経済資料2010』p232-233
日本は、サービス業の国です。家計支出においても、サービスへの支出が増加し続けているのです。モノ作りでもうける国ではありません。
日本のGDPの三面等価図を見てみましょう。
もう、第3次産業の生産額は、約80%になっていますね。池田さんは、「iPhone」のような工業製品を「儲かる商品」として例示していますが、第2次産業21%と言っても、大部分は、「基本的な機械・モノ」です。テレビ、冷蔵庫、IT製品などの電化製品、自動車、おもちゃ、家具、家(水周り製品含む)、コンクリ、素材産業、そしてそれらの部品(モーター、繊維製品、パネル、生産の為の機械etc)です。
「iPhone」のような、画期的モノを作っても、GDPに占めるシェアは、どれだけ上がるのでしょう?
日本は「サービス業の国」です。サービスは「その場で生産・その場で消費」というのが、その本質です。「生産=即消費」なのです。居酒屋、回転寿司などの外食産業、スーパー、デパート、通信販売などの小売産業、宅配便などの流通産業、医療介護などの産業、学校・塾などの教育産業、温泉などの宿泊業、理美容やエステなどの業界、銀行などの金融業、弁護士・FPなどのコンサルタント業、TV・ネットなどの通信産業、これらが、「地産地消」ならぬ「生産=即消費」産業なのです。そして、このサービス業こそ、GDPアップ・生産性向上のお宝が眠っているのです。
注)「サービスのIHIP特性」サービスとモノの違い
(1)「無形性:Invisibility」
モノは、有形(物質)、サービスは、無形(非物質)。
(2)「不均質性:Heterogeneity」
モノは、生産においてほぼ均質。サービスは、生産において不均質
(3)「同時性:Inseparability」
モノは、生産が先行、消費は後。サービスは、生産と消費が同時。
(4)「消滅性:Perishability」
モノは、ストックできる。サービスは、ストックできない
参考/引用文献 原田泰『新社会人に効く日本経済入門』毎日新聞社 2009 p80~
アメリカ・日本生産性比較
英国・日本生産性比較
アメリカを100とした場合、日本は、56.4%しかありません(イギリスに対しては70.7%)。これは、同じ時間働いて、アメリカが給与を1万円もらうのに、日本は5,600円に過ぎないことを示します。これでは、アメリカやイギリスに1人あたりGDPでも、どんどん置いて行かれるわけです。
伊藤達也 関学教授 『成長軌道の回復、最優先に』日経H23.2.17
人口減少や経済の成熟化を理由として「成長は望めない」との指摘は国内に根強い。しかし、1990年代以降の低成長は全要素生産性(TFP)の低下が主因である。イノベーション(革新)や新たなビジネスモデルによってTFPが高まれば、実質2%、名目4%以上の成長は可能だ。
逆に言えば、この「生産性」を引き上げる余地がこんなにあるということは、「1人あたりGDP」を上昇させる余地も十分にあるということです。幼保一元化、空港のハブ空港化、混合診療の導入etc、サービス業において生産性を挙げる余地は十二分にあります。(第2次産業の生産性は、アメリカ・イギリスに比較しても高いですね)
「小売産業」「医療・介護産業」などは、生産性向上の余地はたっぷりありそうです。例えば、「医療のオンライン化」はどうですか?同じ病気で、違う病院にかかったら、何度も同じMRI・CT・血液検査・レントゲン検査・尿検査が繰り返されますよね。初診料も何度も取られますよね。これを「データベース化」したら?医者(特に開業医)は「売上ダウン」ですから、レセプト請求などオンライン化に猛反対していますが、マクロ的に見て、時間・費用の節約では圧倒的な効果が見込めます。国・自治体の医療費削減には大変効果が大きいです。
小売も、「セルフレジ」導入はどうですか?「新聞配達と小売注文宅配コラボ」はどうですか?「レンタルビデオ」ではなく、オンラインで好きな映画はどうですか?「ネット販売」は右肩上がりですね。消費者は「楽で便利」なサービスを求め続けます。
いずれにしても、「生産性向上」の余地は、「サービス業」にあり、池田氏のように「モノづくり」産業に解があるわけではありません。
<何を言っているのか>
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51678806.html
2011年02月18日 01:08
『スタグフレーションがやってくる?』
…日本では「FRBやイングランド銀行は果敢にバランスシートをふくらませた。日銀もやれ」と勇ましいことをいう向きがあるが、FRBは3倍、イングランド銀行は4.5倍に資産を増やしても失業率は改善しない。起こったのは過剰流動性による商品価格の高騰である。デフレは景気後退の結果であって原因ではないので、結果を変えても原因は変わらないのだ。
…同様にデフレが景気を後退させるのは、物価が予想を下回るときだけだ。世の中には「物価が下がると消費が減る」とか意味不明なことをいう人がいるが、物価が下がると資産効果で実質所得は増えるので、消費は増える。投資判断も実質ベースで行なわれるので、一定率の(予想された)デフレは影響しない。
デフレが景気に悪影響をもたらすのは、人々が貨幣錯覚に陥っているときに限られる。物価が下がっているのに名目賃金が変わらないと、実質賃金が上がって企業経営が苦しくなる。名目金利が下がらないと、債務者は苦しくなる。しかし実際には、名目賃金も名目金利も下がっているので、実質的な悪影響は小さい。10年以上にわたってゆるやかなデフレが続いているので、人々の予想もそれに合わせて調整されているのだ。
むしろ今後、心配なのは日本もスタグフレーションに陥ることだ。長期金利は1.3%台に上がり、世界的なインフレ傾向の影響を受けている。インフレになると金利が上がり、財政の悪化や金融機関の経営悪化をもたらすリスクは大きいが、それで日本の低成長が解決することは考えられない。中国でも、不動産バブルに日本の資金が流れ込んでいるといわれている。これ以上、インフレ的な金融政策を続けることはリスクが大きい。
<論理破綻>
「デフレは景気後退の結果であって原因ではないので、結果を変えても原因は変わらないのだ。」
が成立するなら、
「インフレは景気回復の結果であって原因ではないので、結果を変えても原因は変わらないのだ。」
も成立します。そうしたら、
「インフレになると金利が上がり、財政の悪化や金融機関の経営悪化をもたらすリスクは大きいが、それで日本の低成長が解決することは考えられない。中国でも、不動産バブルに日本の資金が流れ込んでいるといわれている。これ以上、インフレ的な金融政策を続けることはリスクが大きい。」
と、「原因と結果」を取り違えた主張はできなくなるはずですが。「デフレ(インフレ)は結果」だとしたらです。
それとも、「デフレは結果」で、「インフレは原因」とでも言うつもりなのでしょうか?
「デフレになると金利が下がり、財政の良化や金融機関の経営良化をもたらすセフティーは大きいが、それで日本の高成長が解決することは考えられない。中国でも、不動産バブルに日本の資金が流れ込んでいるといわれている。これ以上、デフレ的な金融政策を続けることはセフティーが大きい。」?
池田氏の考え方について、たまたま週刊誌に載っていたので、解説します。
『週刊現代2月26日号 森永卓郎VS 池田信夫』p176~179
(1)日銀の金融緩和なんてとんでもない
…大規模な金融緩和なんてしたらどうなるか。日本の国債は日銀が引き受けないと消化できなくなったと判断して、みんな逃げていきますよ。…50兆も…日銀が国債を引き受けたら、市場に対して「日本の財政はもう破綻する」とシグナルを送るようなものだ。
…日銀がめちゃくちゃな金融緩和(筆者注:50兆円の引き受けのことか?)をやったら、世界の投資家が日本国債にカラ売りをかける。その結果、国債も円もドーンと値下がりしてハイパーインフレが起きる(筆者注:50兆円の引き受けによりか?)。そうなったらもちろん財政は破綻、倒産企業も続出で日本経済は地に落ちる。そして、すべてリセットしたうえで焼け跡からの再出発に賭けるんだ、と。
…海外投資で資産を逃がしておくとか。円が暴落したら、逆に儲かる。今の話は冗談に聞こえるかもしれませんが、そうじゃないですよ。先ほど言った最悪のシナリオが、あと何年かで現実になる可能性は高い。
日銀は、昨年10月5日、国債、CP、社債、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J─REIT)など多様な金融資産の買い入れを決めました。
買い入れ資産(5兆円程度)と、固定金利方式・共通担保資金供給オペ(30兆円程度)を合わせて、35兆円程度を用意しました。
効果はあったのでしょうか?2011年2月16日現在「ありました」
①昨年12月の生鮮食品を除く消費者物価指数は前年同月比-0.4%まで回復
②東証のリート(不動産投資信託)指数回復
(2)国債は、国内で消化できなくなる。
―(編集部)日本人は、全体で1400兆円も金融資産を持っている。国債はその日本人のカネで買われているのだから破綻はしない・・・・?に対して
「その日本人が国債を持っていれば大丈夫」という話に根拠がまったくない。…国債を買える余力はあと3年ぐらいで尽きる。日本人の個人金融資産と国債残高が実質的に並んでしまうからです。
まず、日本のGDPの三面等価図を見てみましょう。
(S-I) = (G-T) + (EX-IM)
(貯蓄-投資) = (公債) + (貿易黒字)
(貯蓄超過) = (政府への貸し出し)+ (外国への貸し出し)
我々が、消費せず、税金にも回さなかったお金を、貯蓄Sと言います。その国内のS(貯蓄)が、I(企業の投資)、(G-T:公債)、(EX-IM:輸出―輸入:経常黒字:海外への資金の貸し出し)<になるのです。S=99兆8880億円、それがIの95兆円、G-T3.4兆円、EX-IM1.4兆円に回るのです。EX-IM1.4兆円は、海外へのお金の貸し出しなのです。
外国債・外国株・外国社債などの購入や、外国への貸付額がEX-IM1.4兆円なのです。
これを見て分かるように、「国債」は、毎年のフロー(GDP)で消化されています。「…国債を買える余力はあと3年ぐらいで尽きる」というのは、どこから出てくる説なのでしょう?
それは、池田氏が、フロー(GDP)と、ストック(金融資産)を混同しているから、出てくるトンでも説なのです。
この毎年のS(99兆8880億円)がストック(金融資産)に加わります。しかも、家計の貯蓄だけではなく、企業の貯蓄もこのSに入っています。
だから、この金融資産も毎年増えます。
「日本人の個人金融資産と国債残高が実質的に並んでしまうからです」と、過去の1400兆円のストックと、国債残高が並んでしまうから、「国内消化は出来ない」という論を池田氏は主張します。
これは「原因と結果」を混同しています。1400兆円の個人金融資産は、過去にフローで国債を購入した「結果」です。ですから、毎年フロー(GDP)で国債は消化されていますので、1400兆円の個人金融資産(国債購入含む=財産)も増えます。
清水書院『2010 資料政治・経済』p230
1400兆円=日本人による国債の購入限度額ではありません。
ただし、この貯蓄率、特に家計貯蓄率は下がっています。少子高齢化です。家計貯蓄がゼロになり、企業貯蓄で国債をまかなえなくなる時、それは、「外国」に国債を買ってもらうとき=日本が経常収支赤字=広義資本収支黒字になるときです。
2010-04-27 記事 猪突『大機小機 東京市場国際化の功罪』日経H22.4.27
カテゴリ:ISバランス/貯蓄投資差額 参照
(3)生産性の低い企業(不良債権)を倒産させよ。
…いま日本の潜在成長率は0.5%。これは日本経済がいくら頑張っても、これ以上は成長できないということ。
…日本がこうなった一番の要因は、90年代の不良債権処理の誤りです。…本当はもう破綻しているのに、ゼロ金利政策によってダメな企業を延命させてしまった。こういう“ゾンビ企業”が、ずっと日本経済の足を引っ張ってきた。
…問題の先送りをしてきたから、この20年、日本は低迷を続けているわけ…。確かに、一時的には倒産企業も失業者も増える。でもそれを乗り越えないと、次に進まない。とるべき処方箋はわかっている…。
下のグラフはフィリップス曲線といいます。
グラフ・参考文献 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009p88-89
「インフレ時は失業率が低い、デフレ時は失業率が高い」のです。
日本の失業率は高止まり、物価はデフレです。デフレは倒産を加速します。
岩田規久男『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009
日経H22.8.24
実際に、不況による倒産は、過去最高になっています。
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_companytosan『時事ドットコム 昨年の負債総額3.3%増=日航、振興銀で膨らむ―企業倒産』
…原因別では、景気低迷やデフレに伴う販売不振が理由の「不況型」倒産の割合が82.9%と過去最高を記録した。
このように、デフレ下、倒産企業が続出しているのに、池田氏は、「ダメな企業を延命・問題の先送り・一時的には倒産企業も失業者も増える。でもそれを乗り越えないと、次に進まない」と、もっと「不良企業を倒産・退場させよ」と言っています。人為的に倒産させようと言っているのです。
(4)産業構造の転換で、新製品を生み出せ。
抜本的な日本経済の改善には産業構造の転換が必要です。これから日本が何によって儲けていくか。…この「iPhone」を見て下さいよ。10年前は存在していなかったものが、いま全世界で5000万台以上売れているんですよ。これによって、アップルの時価総額はマイクロソフトを抜いた。日本にはこういうダイナミズムがないから停滞が続いてるんです。
<日本の主産業はサービス業>
とうほう『政治・経済資料2010』p232-233
日本は、サービス業の国です。家計支出においても、サービスへの支出が増加し続けているのです。モノ作りでもうける国ではありません。
日本のGDPの三面等価図を見てみましょう。
もう、第3次産業の生産額は、約80%になっていますね。池田さんは、「iPhone」のような工業製品を「儲かる商品」として例示していますが、第2次産業21%と言っても、大部分は、「基本的な機械・モノ」です。テレビ、冷蔵庫、IT製品などの電化製品、自動車、おもちゃ、家具、家(水周り製品含む)、コンクリ、素材産業、そしてそれらの部品(モーター、繊維製品、パネル、生産の為の機械etc)です。
「iPhone」のような、画期的モノを作っても、GDPに占めるシェアは、どれだけ上がるのでしょう?
日本は「サービス業の国」です。サービスは「その場で生産・その場で消費」というのが、その本質です。「生産=即消費」なのです。居酒屋、回転寿司などの外食産業、スーパー、デパート、通信販売などの小売産業、宅配便などの流通産業、医療介護などの産業、学校・塾などの教育産業、温泉などの宿泊業、理美容やエステなどの業界、銀行などの金融業、弁護士・FPなどのコンサルタント業、TV・ネットなどの通信産業、これらが、「地産地消」ならぬ「生産=即消費」産業なのです。そして、このサービス業こそ、GDPアップ・生産性向上のお宝が眠っているのです。
注)「サービスのIHIP特性」サービスとモノの違い
(1)「無形性:Invisibility」
モノは、有形(物質)、サービスは、無形(非物質)。
(2)「不均質性:Heterogeneity」
モノは、生産においてほぼ均質。サービスは、生産において不均質
(3)「同時性:Inseparability」
モノは、生産が先行、消費は後。サービスは、生産と消費が同時。
(4)「消滅性:Perishability」
モノは、ストックできる。サービスは、ストックできない
参考/引用文献 原田泰『新社会人に効く日本経済入門』毎日新聞社 2009 p80~
アメリカ・日本生産性比較
英国・日本生産性比較
アメリカを100とした場合、日本は、56.4%しかありません(イギリスに対しては70.7%)。これは、同じ時間働いて、アメリカが給与を1万円もらうのに、日本は5,600円に過ぎないことを示します。これでは、アメリカやイギリスに1人あたりGDPでも、どんどん置いて行かれるわけです。
伊藤達也 関学教授 『成長軌道の回復、最優先に』日経H23.2.17
人口減少や経済の成熟化を理由として「成長は望めない」との指摘は国内に根強い。しかし、1990年代以降の低成長は全要素生産性(TFP)の低下が主因である。イノベーション(革新)や新たなビジネスモデルによってTFPが高まれば、実質2%、名目4%以上の成長は可能だ。
逆に言えば、この「生産性」を引き上げる余地がこんなにあるということは、「1人あたりGDP」を上昇させる余地も十分にあるということです。幼保一元化、空港のハブ空港化、混合診療の導入etc、サービス業において生産性を挙げる余地は十二分にあります。(第2次産業の生産性は、アメリカ・イギリスに比較しても高いですね)
「小売産業」「医療・介護産業」などは、生産性向上の余地はたっぷりありそうです。例えば、「医療のオンライン化」はどうですか?同じ病気で、違う病院にかかったら、何度も同じMRI・CT・血液検査・レントゲン検査・尿検査が繰り返されますよね。初診料も何度も取られますよね。これを「データベース化」したら?医者(特に開業医)は「売上ダウン」ですから、レセプト請求などオンライン化に猛反対していますが、マクロ的に見て、時間・費用の節約では圧倒的な効果が見込めます。国・自治体の医療費削減には大変効果が大きいです。
小売も、「セルフレジ」導入はどうですか?「新聞配達と小売注文宅配コラボ」はどうですか?「レンタルビデオ」ではなく、オンラインで好きな映画はどうですか?「ネット販売」は右肩上がりですね。消費者は「楽で便利」なサービスを求め続けます。
いずれにしても、「生産性向上」の余地は、「サービス業」にあり、池田氏のように「モノづくり」産業に解があるわけではありません。
<何を言っているのか>
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51678806.html
2011年02月18日 01:08
『スタグフレーションがやってくる?』
…日本では「FRBやイングランド銀行は果敢にバランスシートをふくらませた。日銀もやれ」と勇ましいことをいう向きがあるが、FRBは3倍、イングランド銀行は4.5倍に資産を増やしても失業率は改善しない。起こったのは過剰流動性による商品価格の高騰である。デフレは景気後退の結果であって原因ではないので、結果を変えても原因は変わらないのだ。
…同様にデフレが景気を後退させるのは、物価が予想を下回るときだけだ。世の中には「物価が下がると消費が減る」とか意味不明なことをいう人がいるが、物価が下がると資産効果で実質所得は増えるので、消費は増える。投資判断も実質ベースで行なわれるので、一定率の(予想された)デフレは影響しない。
デフレが景気に悪影響をもたらすのは、人々が貨幣錯覚に陥っているときに限られる。物価が下がっているのに名目賃金が変わらないと、実質賃金が上がって企業経営が苦しくなる。名目金利が下がらないと、債務者は苦しくなる。しかし実際には、名目賃金も名目金利も下がっているので、実質的な悪影響は小さい。10年以上にわたってゆるやかなデフレが続いているので、人々の予想もそれに合わせて調整されているのだ。
むしろ今後、心配なのは日本もスタグフレーションに陥ることだ。長期金利は1.3%台に上がり、世界的なインフレ傾向の影響を受けている。インフレになると金利が上がり、財政の悪化や金融機関の経営悪化をもたらすリスクは大きいが、それで日本の低成長が解決することは考えられない。中国でも、不動産バブルに日本の資金が流れ込んでいるといわれている。これ以上、インフレ的な金融政策を続けることはリスクが大きい。
<論理破綻>
「デフレは景気後退の結果であって原因ではないので、結果を変えても原因は変わらないのだ。」
が成立するなら、
「インフレは景気回復の結果であって原因ではないので、結果を変えても原因は変わらないのだ。」
も成立します。そうしたら、
「インフレになると金利が上がり、財政の悪化や金融機関の経営悪化をもたらすリスクは大きいが、それで日本の低成長が解決することは考えられない。中国でも、不動産バブルに日本の資金が流れ込んでいるといわれている。これ以上、インフレ的な金融政策を続けることはリスクが大きい。」
と、「原因と結果」を取り違えた主張はできなくなるはずですが。「デフレ(インフレ)は結果」だとしたらです。
それとも、「デフレは結果」で、「インフレは原因」とでも言うつもりなのでしょうか?
「デフレになると金利が下がり、財政の良化や金融機関の経営良化をもたらすセフティーは大きいが、それで日本の高成長が解決することは考えられない。中国でも、不動産バブルに日本の資金が流れ込んでいるといわれている。これ以上、デフレ的な金融政策を続けることはセフティーが大きい。」?
theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育