電子産業で次々に起こる出来事や大きな時代の流れ、それらの波及効果を多様な視座から複眼的に捉えるコラム「テクノ大喜利」。毎月、一つのテーマを取り上げ、識者の回答を2週間にわたり連載している。毎回、取り上げたテーマについて多角的に読み解くポイントを紹介しているものの、状況が逐次変わるテーマでは“見逃すことができない事象”が連載終了後に現れる可能性がある。こうした過去に取り上げたテーマの“見逃すことができない事象”とそれに対する考え方を、本コラムでは「外伝」として掲載していく。

 今回は、2016年5月に連載した「紅色半導体の破壊力」の「外伝」を紹介する。「紅色半導体の破壊力」では、中国の国策で動く半導体産業の育成の動きが、半導体ユーザーや装置・材料のサプライヤーを含めた世界の電子業界にどのような影響をもたらすのか、議論した。中国を軸にした半導体産業の大きな動きは、連載終了後も休まることなく続いている。今回の「外伝」では、服部コンサルティング インターナショナルの服部毅氏に、その後の動きを紹介してもらう。中国企業の動きを見ると、「世界中の半導体技術は巡り巡って、結局は中国に吸い込まれていく」と服部氏は語る。(記事構成は大久保 聡)

服部毅(はっとり たけし)
服部コンサルティング インターナショナル 代表
 大手電機メーカーに30年余り勤務し、半導体部門で基礎研究、デバイス・プロセス開発から量産ラインの歩留まり向上まで広範な業務を担当。この間、本社経営/研究企画業務、米国スタンフォード大学 留学、同 集積回路研究所客員研究員なども経験。2007年に技術・経営コンサルタント、国際技術ジャーナリストとして独立し現在に至る。The Electrochemical Society (ECS)フェロー・理事。マイナビニュースや日経テクノロジーオンラインなどに、グローバルな見地から半導体・ハイテク産業動向を随時執筆中。近著に「メガトレンド半導体2014-2023(日経BP社)」「表面・界面技術ハンドブック(NTS社)」がある(共に共著)。
 去る5月のテクノ大喜利「紅色半導体の破壊力』編で「半導体産業で生きのこりたいのなら、中国の躍進に乗れ」と主張し、中国本土における半導体工場建設や海外勢の中国進出の様子の一端を紹介した。その様子が、徐々にではあるが、半導体工場や半導体製造装置に関する統計の数字にはっきりと表れるようになってきている。  例えば5月末に米SEMIが公表したWorld Fab Forecastによると、SEMIが把握しているだけでも今年(2016年)から来年(2017年)にかけて世界中で19の半導体ファブの建設が予定されているが、その内の過半(10)は中国本土に建設されるという。具体的には、ファウンドリーで4棟、メモリ-で2棟、MEMSで2棟、パワーデバイスで1棟、LEDで1棟と多彩である(日経テクノロジーオンラインにSEMIの記事あり、詳細はこちら)。  SEMIと日本半導体製造装置協会(SEAJ)が6月に発表した「半導体製造装置の2016年第1四半期(1~3月)の世界出荷額」共同調査結果によると、世界総出荷額は、前四半期に比べて3%増。前年同期比では13%減となったのに対して、中国への出荷額は前四半期比60%増、前年同期比39%増と驚異的な伸びを示している(SEMIの発表資料)。ちなみに、日本の出荷額は、前四半期比11%減、前年同期比2%減で、ついに半導体製造装置出荷額で中国が日本を追い抜いてしまった。中国での液晶・有機ELディスプレー工場建設に続いて半導体工場建設ブームが本格化するので、今後、これらの数字はさらに驚異的伸びを示すだろう。  日本の半導体・エレクトロニクス業界では、新社長の就任や不正会計問題の後始末人事、熊本地震による物的損失・機会損失などが話題である。こうした日本国内だけ、あるいは自社内だけの話題に目を奪われている間にも、中国半導体産業関連の動きは活発化している。  5月下旬にテクノ大喜利『紅色半導体の破壊力』記事が掲載されてから6月末までのわずか1カ月ほどの間に起きた中国半導体投資がらみの主な動きを、以下に時系列に沿って紹介しよう。