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 過去の治水工事で失われた川の環境や景観などを取り戻す――。日本神話ゆかりの地として知られ、年間100万人以上の観光客が訪れる宮崎県高千穂町では、町内を流れる神代(じんだい)川を中心として「神代川かわまちづくり」が進む。コンクリート3面張りで直線形状だった神代川を大きく蛇行したかつての姿に戻す河川再生整備事業と、川周辺の街づくりを一体的に進めるものだ。県と町が共同で取り組み、2024年10月に約250m区間の河川再生整備事業が完了した。

神代川を左岸側から見下ろす。再生整備した神代川の川幅は約 6~18m。護岸は平均5分勾配とし、3~7分と変化をつけた。計画河床勾配は50分の1程度の急流河川(写真:イクマ サトシ)
神代川を左岸側から見下ろす。再生整備した神代川の川幅は約 6~18m。護岸は平均5分勾配とし、3~7分と変化をつけた。計画河床勾配は50分の1程度の急流河川(写真:イクマ サトシ)
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再生整備事業が完成した神代川の上流部。川に下りやすいようにスロープを設けた。天然岩盤に見える河床は擬岩コンクリート。護岸は野面石の乱積みで直径300~400mmを標準に直径600mmの石も織り交ぜた(写真:イクマ サトシ)
再生整備事業が完成した神代川の上流部。川に下りやすいようにスロープを設けた。天然岩盤に見える河床は擬岩コンクリート。護岸は野面石の乱積みで直径300~400mmを標準に直径600mmの石も織り交ぜた(写真:イクマ サトシ)
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 一級河川五ケ瀬川水系の神代川の総延長は約3km。再生整備事業の対象区間はこのうち、水のなかった国土にニニギノミコトが天から「水の種」を落として湧いた泉とされる伝承地「天真名井(あまのまない)」周辺の区間だ。周辺には多くの神社や史跡などがある。

 天真名井の周辺を流れる神代川はかつて、住民が野菜などを冷やしたり、子どもが遊び場として利用したりするなど、地域住民の生活と密接な空間だった。しかし、1972年の治水工事でこうした風景は一変。河床は深く掘り下げられ、河道はコンクリートで固められた。大きく蛇行していた神代川は、コンクリート3面張りで直線的な水路のように変化し、人々の暮らしから遠ざかった。

治水工事前の天真名井前。ケヤキの根元から水が湧き出ていた(写真:宮崎県)
治水工事前の天真名井前。ケヤキの根元から水が湧き出ていた(写真:宮崎県)
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治水工事前の神代川。岩盤河床が護岸近くにある浅い川で、子どもたちの格好の遊び場だった(写真:甲斐 勝朗)
治水工事前の神代川。岩盤河床が護岸近くにある浅い川で、子どもたちの格好の遊び場だった(写真:甲斐 勝朗)
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再生整備前の神代川。水害対策として、1972年の治水工事でコンクリート3面張りの直線的な水路に改修された(写真:東京建設コンサルタント)
再生整備前の神代川。水害対策として、1972年の治水工事でコンクリート3面張りの直線的な水路に改修された(写真:東京建設コンサルタント)
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 県はかつての神代川の風景の復元を目的に河川再生整備事業を実施した。3面張りのコンクリートを撤去して、直線形状だった河道を蛇行。河道に合わせて用地を取得して河川区域を拡大した。町は、住民や観光客が川の沿道を散策することを想定して川沿いの広場に植栽し、あずまややベンチを設置した。

再生整備後の神代川。かつての線形に合わせて川を大きく蛇行させた。石積み護岸の最下部は柱状節理の形状を擬岩コンクリートで再生した(写真:東京建設コンサルタント)
再生整備後の神代川。かつての線形に合わせて川を大きく蛇行させた。石積み護岸の最下部は柱状節理の形状を擬岩コンクリートで再生した(写真:東京建設コンサルタント)
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河川再生整備後の神代川の様子(動画:イクマ サトシ)