過去の治水工事で失われた川の環境や景観などを取り戻す――。日本神話ゆかりの地として知られ、年間100万人以上の観光客が訪れる宮崎県高千穂町では、町内を流れる神代(じんだい)川を中心として「神代川かわまちづくり」が進む。コンクリート3面張りで直線形状だった神代川を大きく蛇行したかつての姿に戻す河川再生整備事業と、川周辺の街づくりを一体的に進めるものだ。県と町が共同で取り組み、2024年10月に約250m区間の河川再生整備事業が完了した。
一級河川五ケ瀬川水系の神代川の総延長は約3km。再生整備事業の対象区間はこのうち、水のなかった国土にニニギノミコトが天から「水の種」を落として湧いた泉とされる伝承地「天真名井(あまのまない)」周辺の区間だ。周辺には多くの神社や史跡などがある。
天真名井の周辺を流れる神代川はかつて、住民が野菜などを冷やしたり、子どもが遊び場として利用したりするなど、地域住民の生活と密接な空間だった。しかし、1972年の治水工事でこうした風景は一変。河床は深く掘り下げられ、河道はコンクリートで固められた。大きく蛇行していた神代川は、コンクリート3面張りで直線的な水路のように変化し、人々の暮らしから遠ざかった。
県はかつての神代川の風景の復元を目的に河川再生整備事業を実施した。3面張りのコンクリートを撤去して、直線形状だった河道を蛇行。河道に合わせて用地を取得して河川区域を拡大した。町は、住民や観光客が川の沿道を散策することを想定して川沿いの広場に植栽し、あずまややベンチを設置した。