政府は、国内外から「奴隷制」とも批判される外国人技能実習制度を見直す。実習生を受け入れる企業側の人権侵害や法令違反が後を絶たないためだ。
建設関係では実習生の失踪者が年4000人近くに上り、法令違反率が8割に達する。いずれも主要職種で最も多い。業界の一部では、実習生を「安い労働力」と見なす傾向がある。その悪弊を断たなければ、批判の矛先は建設業に向かう。
技能実習制度の見直しは、古川禎久法相が2022年7月29日の会見で表明した。古川法相は、「人づくりによる国際貢献という技能実習制度の目的と、人手不足を補う労働力として扱っているという実態が乖離(かいり)している」と指摘。関係閣僚会議の下に有識者会議を設置して、見直しの検討を始める考えを明らかにした。
古川法相は22年2月以降、有識者との勉強会を開催。人手不足が深刻な業種を対象に一定要件下で在留期間の延長を認める特定技能制度(19年創設)と併せ、技能実習制度の課題の洗い出しを進めてきた。勉強会では、技能実習制度について、制度の目的と実態との乖離の他、次のような問題点を指摘する声が多かった。
実習生側と実習実施者(受け入れ企業)側の双方で事前情報が不足しているため、「聞いていたよりも賃金が低い」「聞いていたよりも能力が低い」などのミスマッチが発生している。実習生の日本語能力が不十分なため、意思疎通に困難が生じている。高額な借金を背負って来日し、原則として転籍(転職)できないため、実習先で不当な扱いを受けても相談や交渉ができない。監理団体による相談・支援体制が十分に機能していない――などだ。
勉強会では他にも、「正面から労働者を受け入れる制度にするため、特定技能制度との一本化を図るべきだ」「技能実習から特定技能、技術・人文知識・国際業務といった高度人材に至るまで一貫したシステムが必要ではないか」「日本人のなり手のいない低賃金の職場に外国人を受け入れるという発想を変えなければならない」などといった意見も出た。
そこで古川法相は、技能実習制度の見直しに向け、次の4つの方向性を示した。(1)政策目的や制度趣旨と運用実態に乖離がない仕組みにする(2)一部の実習先で生じている人権侵害が決して起こらない人権が尊重される制度にする(3)外国人にとっても日本にとってもプラスになる仕組みにする(4)共生社会づくりの考えに沿った制度にする――。
古川法相が言及したように、技能実習制度の見直しの背景には、一部の受け入れ企業で実習生に対する人権侵害が深刻化している問題がある。古川法相は22年1月25日の会見で、岡山市内の建設会社で働くベトナム人実習生が職場で約2年間にわたって暴行や暴言を受けていたとの報道を取り上げ、「実習生に対する暴行などの人権侵害行為は決してあってはならない」と発言。出入国在留管理庁(入管庁)に対応を指示したと説明した。
入管庁は約1カ月後の2月18日、職場で実習生に暴行などをしたとされる岡山市内の建設会社の技能実習計画の認定を取り消し、ホームページなどで公表した。古川法相は同日の会見でも、「本件のような人権侵害行為に対しては、実習生の保護を最優先としながら、実習実施者などに対する指導・勧告や行政処分などを通じて厳格に対応し、技能実習制度の適正な実施を徹底していく」と強調した。
入管庁は3カ月余り後の5月31日、問題の建設会社を傘下に持つ岡山市内の団体に対し、監理団体の許可を取り消した。処分理由として、この団体が建設会社への監査を適切に実施せず、実習生からの相談にも適切に応じずに必要な措置を講じなかったことなどを挙げた。入管庁によると、6月28日までに許可を取り消した監理団体は33、技能実習計画の認定を取り消した実習実施者は325を数える。