全2626文字

 サイバー空間に君臨するGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)が、巨額の資金を投じて住宅の建設に乗り出している。といっても、不動産会社や住宅メーカーになろうとしているわけではない。目的は一種の「罪滅ぼし」だ。

 米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)は2021年1月6日、不足している中低所得者層向け住宅の供給を後押しするために、20億ドル(約2080億円)のファンドを立ち上げると発表した。本社などが所在するワシントン州シアトル近郊のピュージェット湾岸地域、バージニア州アーリントン、テネシー州ナッシュビルの3エリアを対象に資金を提供し、合計2万戸以上を整備する。

 アマゾンだけではない。米Apple(アップル)は19年11月、カリフォルニア州の住宅難を解消するため、25億ドル(約2600億円)を拠出すると発表済み。米Facebook(フェイスブック)も19年10月、同州の住宅問題に10億ドル(約1040億円)を投じると発表した。さらに米Google(グーグル)も19年6月、ハイテク産業が集積するサンフランシスコのベイエリアに10年間で合計10億ドルを投じることを明らかにしている。

米アップルはHousing Trust Silicon Valleyなどと提携してアフォーダブル住宅の供給を進めている(資料:Apple)
米アップルはHousing Trust Silicon Valleyなどと提携してアフォーダブル住宅の供給を進めている(資料:Apple)
[画像のクリックで拡大表示]

 各社が多額の資金を投じて整備を後押ししているのは、「affordable housing(アフォーダブル住宅)」。手ごろな価格の住宅、などと訳される中低所得者向けの住宅だ。GAFAのような巨大IT企業などが集積し、高所得者が多く集まるエリアでは、住宅価格や家賃が高騰。一般の人にはとても手の届かない額となり、住宅難が社会問題化している。年間10万ドル(約1040万円)を稼ぐ4人世帯でさえも低所得者とみなされるという。

 そこで各社は住宅取得者への支援やNPOへの助成、保有するオフィスなどの宅地への用途変更といった手段で、アフォーダブル住宅の供給をこぞって後押ししている。住宅難を引き起こす一因となっていることへの「罪滅ぼし」としてだけでなく、市場独占に対する批判などで悪化するイメージを改善する狙いがあるといえそうだ。

 テック企業らしく、住宅問題の解決を目指すスタートアップ企業にも出資している。米カリフォルニア州に拠点を置く17年設立のスタートアップ、Factory_OS(ファクトリーOS)は20年11月20日、グーグルやフェイスブックなどから合計5500万ドル(約57億円)の資金を調達したと発表した。

 「住宅は自動車のように建てられるべきだ」という理念の下、ファクトリーOSが目指すのは、いわば集合住宅の「工業製品化」だ。モジュール化した部材を工場で生産し、建設現場に運んで組み立てる方式を採用。これまでに約1000戸の住宅を建設してきた。工場生産には天候の影響を受けず、建設現場での事故を減らせるうえ、品質が安定しやすいなどのメリットもある。同社は従来よりも4~5割早く、2~4割安く住宅を建設できるとしている。

Factory_OSの工場。同社にはグーグルやフェイスブックのほか、米Autodeskなどが投資している(写真:Autodesk)
Factory_OSの工場。同社にはグーグルやフェイスブックのほか、米Autodeskなどが投資している(写真:Autodesk)
[画像のクリックで拡大表示]