yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

時代を先どりしている?——ケレン味溢れる姫猿之助座長率いる「劇団あやめ」の舞踊ショー@三和劇場 5月13日昼の部

「劇団あやめ」を率いる姫猿之助座長は、あえて「ケレン」を主軸に据えている。それが他の旅芝居劇団とは一線を画するところ。もちろん他劇団もちらっとはやってみせるのだけれど、あくまでもそれは「脱線」としてである。

その点、姫猿之助座長は確信犯とも言える。あえて、「ケレン」にこだわり、挑み続けている。また幸いなことに、彼についている座員さんそれぞれが、彼女自身のケレン技を持っている。それもレベルが高いのに驚かされる。 

このケレンを辿れば、中世の芸能、「散楽」に行きつくように思える。「散楽」を分類すると、曲技(アクロバット)、幻術(マジック)、そして滑稽戯の三つのタイプに別れるとか。*1 そういえば、猿之助座長はマジックも披露したことがあった。滑稽戯に関しては、悲劇を解体して、喜劇に仕上げるところにそれが見られると思う。さて、今日の舞踊ショーも、散楽的な曲芸がふんだんに織り込まれていた。写真撮影は一切禁止なので、踊り手と曲名の羅列だけではあるけれど、以下が詳細。

<ミニショー>

阿国  「滝夜叉姫」

妖術遣いの滝夜叉姫を阿国さん、滝夜叉を退治した二人の武者、大宅太郎と山城光成を、きらら、ひよこさんが演じた。舞台での立廻りが見事だった。冒頭からこの歌舞伎もどきの演目ですからね。すごいとしか言いようがありません。

 

千鳥  「黒潮列車」

白地に黒の模様入りの着物で。ストールをうまく使って。

 

きらら 「北の鷗歌」から「石狩挽歌」
衣装がいつもきらびやか。若武者姿がはまっている男前。回転、バク転をなんども披露。大柄なので迫力満点。そしていつも完璧。

 

阿国 八代亜紀の「舟歌」から美空ひばりの「人恋酒」
阿国さんは日舞を長い間やっておられたに違いない。腕は師範級。いつも見ほれてしまう。旅役者の中には日舞を習ったという役者も何人かいたけれど、私が見てきた中では、阿国さんがナンバーワン。帯に「猿若会」とあるのは、彼女が所属する日舞流派なのかもしれない。

 

猿之助座長「悲しい酒」
女形で。彼の女形はあえて男だとわかるような演出になっている。時として過剰な演技で笑わせるのも、さすが。

 

ひよこ・きらら 「 ? 」

ひよこさんが好んでかぶる鬘は勇壮な武者のもの。よく似合っている。十八番の大きな劔を持っての立廻りは、あの小さな体のどこからあのパワーが出るのかと、感心しきり。モンスターの被り物をして立ち向かうのは、きららさん。

 

ラスト
猿之助・阿国  「珍島物語」。

猿之助座長はキンキラキンの中国風の衣装。阿国さんも中国風金色のドレスで。見事な絵担っている。ふたり揃って退場。ミニショーの最後はいつもお二人の相舞踊で終幕。

 

<三部舞踊ショー>

「森の石松」
石松はきららさん。そこに阿国さん、うらんさん、ひよこさんが加わっての総舞踊。イキだった。

 

千鳥 歌 「お祭りマンボ」

「劇団あやめ」では美空ひばりの歌がよくかかる。劇団の姿勢を表している気がする。ひばりさんは女性でありながら、伊達男、若侍と、立役代表の男を演じたんですよね。そこに「立ち」をあえてやる気概というか美学のようなものがあったように思う。この劇団も座長以外は皆女性。それを逆手に取り、独特の魅力を醸し出している。

 

ひよこ  「いつまでも沖縄」

エキゾチシズム全開の衣装と鬘で。小柄なのが逆に生きていた。

阿国・きらら 相舞踊 「Sakaseyasakase」
完璧な絵になっていた。衣装も舞踊も古典調でありつつ、斬新。阿国さんの踊り、人形振りがさりげなく入っていた。粋!

 

猿之助  「包丁一代」
船場の板前姿で。「日本一の板前になったるわい」の決め台詞がカッコいい。こういう商人姿も板についている。

 

きらら 「ワイン恋物語」

歌に合わせたワイン色のスケスケ衣装で。とにかく綺麗で可愛い。女の子ならではの中性的魅力に溢れている。

 

阿国  「紅の舟歌」
櫂代わりの棒をもって、舟を漕ぐ仕草が素敵だった。何をやらせても完璧な阿国さん。あんまり素敵だったので、twitterしてしまった!

 

全員で 「黒田節」
座長の武士姿はもちろんのこと、いつもの「黒田節」ではなく、はるかにモダンなスタイルでの黒田節。新路線を標榜する座長の矜持を強く感じた。

総評としていえば、「歌舞伎」にさらにケレン味を効かせた舞踊が「劇団あやめ」舞踊ショーの特色といえるだろう。過激な立ち廻りあり、アクロバティックあり、華麗な剣さばきに扇さばきありで、私が今まで見てきた旅芝居の中では群を抜いて「散楽」的である。散楽とは、能の発生・発展と関係した猿楽のルーツのこと。歌舞伎にはこの要素はほとんど見られなくなっている。もっとも、最近の若手たちのネオ歌舞伎には、あえてそこに先祖還りしようという意思が見られるのであるけれど。また、時代を降れば、三代目猿之助にもその意思があった。ただ、今の歌舞伎でこれを通すには、かなり無理があるだろう。そこに旅芝居での姫猿之助さんのこの挑戦。その挑戦にはずっしりとした重みがあると同時に、未来への軽やかな飛翔も窺える。期待大である。

姫猿之助座長と彼が率いる「劇団あやめ」は、時代の先取りをしている感がある。旅芝居(大衆演劇)業界のみならず、旧劇全般に言える。今までになかったスタイルでの挑戦。ただあまりにも斬新なので、一般の観客には理解できない可能性もある。時代に先行する者の悲哀でもあるだろう。勇気のある劇場主が、それに応えてくれることを切に願っている。

*1:松岡心平著『中世芸能講義』89頁(講談社学術文庫、2015