yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『らくだ』壽初春大歌舞伎@大阪松竹座1月12日昼の部

以下に「歌舞伎美人」からの「配役」と「みどころ」を。

<配役>
紙屑屋久六    市川 中車
らくだの宇之助  中村 亀鶴
家主幸兵衛    中村 寿治郎
女房おさい    片岡 松之助
やたけたの熊五郎 片岡 愛之助

<みどころ>
◆落語をもとにした笑いあふれる物語。次第に主客逆転していく展開がみどころ
 河豚に当たって頓死したらくだの宇之助を弔うため、遊び人仲間の熊五郎は、大家に酒と肴の無心をしますが断られてしまいます。そこで熊五郎は、嫌がる紙屑屋の久六を使って、宇之助の遺骸に踊りを踊らせて大家を脅し、差し入れを了承させます。二人は早速酒盛りを始めますが、だんだんと久六が酒に酔っていき…。
 数ある上方落語の中でも大ネタのひとつと言われている噺を歌舞伎化した作品です。おかしみあふれる舞台をお楽しみください。

上方一色の舞台。中車を除けばみんな上方の役者。その点で中車にはハンディをつけるべきかも。でもそうされるのは、彼の望むところではないだろう。今回の中車の大阪の舞台という選択。かなり意を決してのものだろうと推察できる。そういう挑戦スピリットを高く評価したい。また、頭のいい人だけに、緻密に計算して「上方」を演じていたのにも、好感が持てた。他の役者があえてやらなかったことに、大胆に取り組むというのは、あっぱれ。それも人の胸を借りて演じるというところに、普段の彼にはあまり感じられない「謙虚さ」を感じて、ちょっとほろりとした。

でも、上方っていうのは手強いんです。どういったらいいのか、「空気感」を自家薬籠中のものにしない限り、「役になりきるのはほとんど不可能」っていう世界(いい過ぎ?)。きちんとやればやるだけ、「なんかちがう?」ってなるんですよ。やっぱりある程度の期間住むなりして、そこにassimilate する覚悟が要るんだと思う。

上方の何が大変なのか。まず、間の取り方。中車はよく頑張っていたと思う。でもちょっと違うんですよね。しぐさや台詞は完璧に上方風になっていて、感心した。滑稽さに無理がなかった。でも、それはあくまでも計算されたもの。もちろん客は笑っていました。それで良かったのは良かったんだけど、プラスアルファがないんです。上方の人間だと、きっと判ると思うんですけどね。こういうの、説明は難しい。気取っていうなら、言説化できないということ。研究したり、勉強したりして会得できないから、厄介なんですよね。

また、表情の付け方。上方独特の微妙なそれがある。「ぼけ」と「つっこみ」という掛け合いで行くと、どちらの側にも独特の表情がある。もう百面相くらい。上方の漫才をみると、それがよく分かる。私はこういう関西風のオモシロ芸がそんなに好きなわけでもないし、よく見聞しているわけでもないんだけど、でもそこはどっぷりと関西人。違いが判ってしまう。この芝居の肝である、「ぼけ」役と「つっこみ」役がいつのまにか逆転するなんてのも、上方のかけあいの中に成立する。研究熱心な中車のこと、数年もしないうちに、そのあたりを自身のものにすると期待している。

愛之助は、もうこれ以上ないほどのはまり役。嬉々として演じていた。好きなんでしょうね。こういうコミカルな役。時代物のときよりもずっと生き生きと見えた。彼の演じた久六は、「やたけたの久六」。「やたけた」って、うちの母がよく使っていた語だったので、私の中では定義が決まっていたのだけど、辞書をみたら、「むやみ、やたら、投げやり、やぶれかぶれ、自暴自棄、無謀、無思慮、やけくそ」なんていう解説が。ちょっとずれているような。この一覧に「いいかげんな」(ええかげんな)というのを付け加えたら、私が理解していた「やたけた」になる。「能天気のいいかげんさ」を身体から発している男、それが彼の演じた熊五郎。愛之助はそれを見事に示していた。とくによかったのは、最後に久六との主従の逆転がおきたときの彼の表情。「仕方ないな」っていうフウなのが、まさにやたけた。そしてそれが「上方」。

もちろん吝嗇な家主を演じた中村寿治郎、そのつれあいを演った片岡松之助は「上方のええかげんさ」を出して、みごとだった!でも、私がいちばん「すごい!」と思ったのは、死人のらくだ役の亀鶴。観る前に配役を確認していなかったので、亀鶴がらくだ役で出てきた(?)ときには、たまげてしまった。彼のような名優がやるということは、らくだ役は重要な役なんだと、あらためて思い至った。上手かった!「らくだもよろこんでいるはず」という熊五郎のせりふに、横たわったままで(死んでいるんですから、当然なんですけど)、観客の方に頭を向けて、ニッと笑うところ。このサービス精神が、やっぱり関西人だなって。

大衆演劇でもすぐれた舞台を観ている。「劇団昴星」のもの。記事にしているのでリンクしておく。