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混沌のトランプ2.0 トヨタ北米副社長が語る期待と警戒

ジャーナリスト ポール・アイゼンシュタイン氏
米大統領選で勝利を収めたトランプ前大統領は、来年1月の就任直後に断固とした行動を取ることを約束していた。「就任初日に独裁者として行動する」と宣言したこともあるほどだ。自動車会社はどう対応するのか。筆者はトランプ氏が次期大統領に決まった6日、北米トヨタのグループ副社長であるデビッド・クリスト氏にインタビューした。ほかの識者への取材も交えて考察する。
NIKKEI Mobilityは海外在住の専門家やジャーナリストによるグローバルな動向のリポートをお届けしています。今回は米デトロイトを拠点に40年以上にわたって自動車業界を取材しているポール・アイゼンシュタイン氏の寄稿を掲載します。
「自動車業界にとって不確実性の時代を生み出す可能性がある」。ある業界関係者は筆者の取材に対し「混沌(chaos)」という言葉を使って語った。自動車業界が規制撤廃を掲げるトランプ氏の政策から恩恵を受ける可能性は確かに存在する。だが自動車データ分析会社、米クラウド・セオリーのリック・ウェインシェル副社長は「長期的な影響については何とも言えない」と警告する。
一貫性のないことで知られるトランプ氏は、長年にわたり自動車業界に影響を与える諸問題について、さまざまな立場を取ってきた。再生可能エネルギーに対してはかねてから懐疑的であり、風車はがんを引き起こす可能性があるといったとっぴな主張も中にはある。
電気自動車(EV)に対しても批判的な発言を繰り返してきたが、ここ数カ月は考えを和らげたように見える。特に米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がトランプ氏のために積極的に選挙運動を始めてからはその傾向が顕著になっている。
マスク氏はPRや資金の面でトランプ氏の再選を支えた=ロイター
「私はEVを支持している。そうせざるを得ない。なぜなら、イーロンが強く私を支持してくれたからだ」と、ジョージア州での夏の選挙集会で彼は語った。
しかし、その後もトランプ氏はバイデン政権の二酸化炭素(CO2)排出規制を「EV義務化」と呼び攻撃し続けている。新車からのCO2排出削減を義務付けるこの規制では2032年までに新車販売の56%をEVが占めるシナリオを「中央分析ケース」として示している。
トランプ氏がCO2規制に対してより緩やかなアプローチを取ることを期待している人々の中に、北米トヨタのグループ副社長のクリスト氏もいる。
同氏は6日、筆者のインタビューに応じ「政権が打ち出す規制には当然ながら対応していくつもりだ」と述べた。同時に「(新政権と)緊密に協力し、トヨタや業界が直面する課題について新政権に理解してもらうつもりだ」と語った。
北米トヨタのクリスト副社長(写真は22年)=ロイター
トヨタはEVに関して、慎重な姿勢を示してきた。同社は、多様なパワートレインのアプローチが消費者のニーズに合っていると主張している。
バイデン政権の規制に疑問を呈しているのはトヨタだけではない。19年から23年にかけてEVの販売台数は約8倍に増えたが、今年は前年比10%増にとどまる見通しだ。
業界のリーダーたちは規制が緩くなることを望む一方で、トランプ次期大統領がEVに完全に背を向けることを望んではいない。トヨタの場合、ノースカロライナ州に巨額を投じて電池工場とEV工場を建設することを決めていると、クリスト氏は指摘した。このようなプロジェクトは政権が変わるたびにオンとオフを切り替えることはできない。
そのため、多くの競合他社と同様にトヨタはトランプ氏が「EV義務化」を緩和する一方で、バイデン政権が推進するEVに対する幅広い支援を継続することを期待している。これには実用的な公共充電ネットワークの構築に対する財政支援や新工場に対する減税やその他の形態の支援、購入者に対する購入補助金などが含まれる。
トランプ氏は関税についても行動すると予想されている。バイデン氏は今年、中国製製品に制裁関税を課し、EVは4倍の100%とした。トランプ氏は1期目の在任中、日本や欧州の自動車をも含む、より広範な貿易障壁を発動する構えを見せていた。ホワイトハウスへの復帰を控えた今、その可能性はまったく消えていない。
トランプ氏は米国第一主義を進める=AP
クラウド・セオリーのウェインシェル氏によれば、こうした動きは「もろ刃の剣」となる可能性がある。「米国での自動車生産が大幅に増加するかもしれないが、それによって自動車の価格も大幅に上昇する可能性がある」と同氏は述べた。トランプ氏は中国などの外国が新たな関税を吸収すると頻繁に示唆しているが、実際には消費者に転嫁され、実質的に税金を課されたのと同じになる。
トヨタのクリスト氏は「新政府はグローバルな自動車業界の非常に複雑で相互に関連する性質を理解する必要がある」と強調した。同社はすでに、米国で販売する車両の約80%を北米の複数の工場で生産している。特に売れ筋のセダン「カムリ」は、最も「メードインUSA」の車の1つだとされる。しかし、部品の90%が米国で生産されているとしても、残りの部分に課税されれば、価格の上昇は避けられない。
「すでに価格の高騰によって人々が新車を購入できずに困っていることを考えると、新たな関税は業界の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある」とウェインシェル氏は述べた。
次期大統領が口を出すと思われる分野は他にも数多くある。その中には、公道での自動運転車の展開に影響を与える規制も含まれる可能性がある。
テスラの自動運転車の商用化には当局の認可が欠かせない=テスラのライブ配信より
テスラのマスクCEOは10月の決算電話会見で「自動運転車には(州ではなく)連邦政府の承認プロセスが設けられるべきだ」と述べた。テスラに限らず各社は新しい技術の承認ペースを速めることを求めている。
混乱が生じる可能性があるのは、トランプ氏が通常の立法プロセスではなく、大統領令に頼って変革を推し進めようとした場合だ。 1期目でも多用していたが、そのやり方が常にうまくいくわけではないことも分かった。たとえばカリフォルニア州が独自のCO2排出基準を設けることを禁止しようとしたトランプ氏に対して、裁判所は否定的な判断を下した。
ウェインシェル氏は「トランプ氏は威勢の良い発言や即興のコメントをしがちだ。しかし、それが政策にどう反映されるかは不明だ」と述べた。トランプ氏が大統領令に頼って立法プロセスを再び短絡的に進めようとする場合、その政策の多くは「何年も裁判所で足止めされる」可能性があると付け加えた。

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Paul Eisenstein(ポール・アイゼンシュタイン) 米自動車ニュース専門サイト「TheDetroitBureau.com」の発行人兼編集長。1979年からフリーランス記者として活動を始め、米NBCや米フォーブスなど著名メディアに寄稿している。米自動車プレス協会のボードメンバーで元会長。「北米カー・オブ・ザ・イヤー」の審査員もつとめる。

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