ウラジーミルの微笑

海外文学・世界文学の感想を長文で書くブログです。池澤夏樹世界文学全集の全巻マラソンもやっています。

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006『青い野を歩く』クレア・キーガン/岩本正恵訳

生きてく強さを重ね合わせ

神は、この自然だ。(p.51)

<<感想>>

物語には適齢期があるという話がある。

確かに、ドストエフスキーなら多感な10代に読むのが相応しいだろうし、アンナを「お姉さん」と捉えているようでは、トルストイの理解は叶わないだろう。

私がここまでクレア・キーガンに魅了されたのは、まさにその適齢期に読んだからなのかもしれない。チェーホフやV.ウルフ、K.マンスフィールドの系譜に連なる、実に味わい深く、そして苦み走った傑作群であった。

本書は短篇集である。収録されている短篇はすべてゴリゴリのリアリズム作品だ。ほとんどの作品がアイルランドの田舎を舞台にしていて、豊かな自然描写を伴うのが特徴である。

いずれの作品も、寂莫というのにはやや希望があり、閉塞感というのにはやや安心感のある、どうにも言い表しくにい情動が見事に描かれている。そしてまさしく、そうした情動を表し得る言葉がないからこそこの物語があるのだろう。

以下、各短篇ごとの感想を付す。なお、いつもどおり気に入ったものには+印を、特に良かったものには★印を付けている。

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036『女がいる』エステルハージ・ペーテル/加藤由美子・ヴィクトリア・エシュバッハ=サボー訳

誰かを愛して生きること

女がいる。僕は彼女を愛している。理由は逐一説明できろうだろう。彼女の特性を、・・・ひとつずつ挙げてみよう。・・・イタロ・カルヴィーノとオートミールが大好き。ブロンズの肌。下品に、同時に恥じらいをもって、抜群に大胆に動く。(p.152)

<<感想>>

久しぶりにポモポモしい小説を読んだ。

もうね、何が厄介って、本来あらすじの説明をするようなステップであらすじ以外の何かを説明しなければならない。そもそも私はあらすじの説明が得意ではないが、それにもまして、このあらすじ以前の構成の説明は大変だ。

まず、本書は97の短い文章からなる。ここまではいいだろう。ニーチェを読んだ人ならば、あんな感じを思い出して欲しい。そして、97の文章は(普通に読むところでは、恐らくは、)相互に無関係で、全て独立している。

そして、97のうち殆どの章はこの言葉で始まるのだ――「女がいる。」

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『紙の動物園 ケン・リュウ短篇傑作集 1』ケン・リュウ/古沢嘉通訳

見てごらんよく似ているだろう

・・・ファーツォンが近くにいるとき、きみの呼気に含まれているオキシトシンとパソブレッシンのレベルが急上昇しているのを検知しているし、心拍数の上昇と虹彩の拡大も見られる。これらは明白な身体的徴候だよ。(p.147)

普段、作家のバイオクラフィーに触れることはあまりないけれど、今回はちょっとその話題を先出ししておいた方が良いだろう。

ケンリュウ、中国生まれ、アメリカ育ち。ハーバードの英文科を卒業し、マイクロソフトに就職した後プログラマーをやったかと思えば、ロースクールに行って弁護士になった。まるで全部載せのラーメンような経歴だ。

これが日本なら、同じキャリアを目指すように指導する学歴(職歴)業の人やTVスターになっちゃうのに、ケン・リュウは作家になってくれた。

 

こうした経歴を反映してか、彼の作品には、日本を含むアジアとアメリカの関係やプログラミング、弁護士などのテーマが頻出である。そして、いちおうはSF作家にカテゴライズをされているようであり、これらのテーマにSFのエッセンスを振りかけたのが彼の作品の特徴となっている。

本作は短篇集であるため、あとは各短篇の感想に回すとしよう。いつもどおり、気に入ったものには+印を付けた。なお、いつもはネタバレ上等が当ブログのスタイルであるが、SF×短篇という以上、着想勝負の作品もあるため、ネタバレは控えめにした。

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『百年の孤独』の次はこれだ!文庫で読めるラテンアメリカ文学

はじめに

文庫で読める!!!

『百年の孤独』は日本でももうかれこれ50年ほど売られ続けている。このため、正直「文庫化」がこれほどのインパクトを与えるとは思ってもいなかった。本を買い集めるためには金に糸目をつけない自分がいかに異端で、一般の読書人がいかに「価格」に敏感かを改めて思い知らされた。

このため、この記事ではあくまで手に入り易く価格も安い「文庫」にこだわって紹介をしている。

なお、忙しい現代人のために冒頭のここで結論も書いておこう。

『百年の孤独』を読んだら、日本文学なり、ヨーロッパ近代文学なり、ふだんの自分の領域に戻る前に、絶対に絶対に絶対に、バルガス・リョサの長編から1作品、それとコルタサルの短篇集『悪魔の涎・追い求める男』を読んで欲しい!

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