語義 109 番

私がnoteで公開している有料記事に『診断テスト』があります。

noteのセールストークから転載。

高校生の授業傍用でかれこれ20年近く使ってきた「診断テスト」を改訂/リニューアル公開しています。
全部で100題(番外編含めて108題)あります。
授業では、和文英訳形式で10問ずつ解いてもらって、シェアリングの後、解答例を配布し、解説を加えていました。
この公開版でも、一応、問題用pdfと解答解説のpdfは分けてファイルにしています

初級編
note.com

中級編
note.com

その初級編と中級編の両方に同じ記事が収録されています。

  • 語義8é¡Œ

記事単体でも販売中ですが、この問題8題の日本文は無料公開しています。

note.com

この『語義8題』でやりたかったことは、noteの頁にも書きました。

この「8題」は、20世紀末のオリジナルの「診断テスト」では扱われていなかったもので、日本語と英語の間のズレや隙間など、これまで私が英語の学習をしてきて、英語の授業をしてきて、学習者の遭遇した様々なトラブルスポットを見てきて選び抜いたものになっています。
和文英訳形式となっていますが、解答解説、対比された補充用例や生息域の実例となる英文を読んでもらうと、これまでの「診断テスト」100題で養ったセンサーがさらに鋭敏になることでしょう。

日本語とのズレ、ということで、106番では、日本語のカタカナ語の「エピソード」と英語での使われ方の違いを取り上げていますので、この機会に是非、有料記事をお試し&お楽しみ下さい。

今日の気になる語法は、カタカナ語とのズレがある英語で

  • program

です。

既に、このツイートで指摘していました。

北米でも特に米国のカレッジスポーツの文脈で使われる
program
という用語は注意が必要。
大学の正式な運動部(とその活動・取り組み&それを統括する組織体)。
所謂「カリキュラム」のことをprogramというのも主に北米英語。
大学の教育活動の一環&競技選手の育成課程と捉えれば妥当な用語かな。

ベネット氏自身のツイートで英語表現を確認。

Dear City of Virginia,
I regret to inform you that I must step down as the head coach of the basketball program. I am deeply grateful for the opportunity to contribute to the development of our talented athletes and to be a part of this community.
Sincerely,
Coach Tony Bennett


親愛なるバージニア市の皆様、
残念ながら、私はバスケットボール部のヘッドコーチを辞任しなければなりません。才能ある選手たちの育成に貢献し、このコミュニティの一員となる機会を与えていただいたことに深く感謝しております。
敬具
トニー・ベネット コーチ

上では、便宜上「バスケットボール部」と和訳しましたが、この “the basketball program” を米国文化の文脈で捉えること大事。

報道文体でも一読了解できるか、知識と慣れが必要。

引用された英文をこちらに。

Virginia men’s basketball coach Tony Bennett will announce his retirement effective immediately at a news conference Friday morning, the basketball program announced on social media Thursday afternoon.


バージニア大の男子バスケットボールのヘッドコーチであるトニー・ベネットが、金曜日の午前に記者会見を開き、即刻引退することを発表した。バスケットボール部が木曜日の午後にソーシャルメディアで明らかにした。

そのthe basketball programの情報発信がこちら。

BREAKING: Tony Bennett to announce his immediate retirement in a press conference on Friday at 11 a.m.

このprogramの語義は、辞書で対応しているものは少ないだろうと思われます。

American Heritage Dictionary (5th; 紙版は2011年)
語義区分の5-cで
A plan or system of nonacademic extracurricular activities
という定義を示し、用例に “the football program” を取り上げています。

この定義を見る限りではprogramは、大学だけではなく、教育活動が行われる学校・機関にも使われているのだろうと思いますが、報道で見聞きするのは大学で、しかもメジャーな競技スポーツという印象です。
中でも

  • football

が群を抜いて多いでしょうか。

そもそも、programをカリキュラムの意味で用いるのは、主として北米の英語ですので、文脈に気をつけることが重要です。例えば、同じ北米の英語で、競技スポーツに関わる文脈でも、次のようなprogramは、「教習」とか「講座」のような意味で用いられています。

The Jay Bilas Skills Camp Coaching Development Program is designed for coaches who have a desire to learn & grow in the coaching profession & Craft a strong foundation of fundamentals of coaching both on and off the court.


ジェイ・ビラス・スキルズ・キャンプ・コーチング・ディベロップメント・プログラムは、コーチという職業を学び成長したいという意欲を持ち、コートの内外でコーチングの基礎をしっかりと身につけたいというコーチのためにデザインされています。

ここでの “coaching development program” は「コーチ養成講習」とでもいうべきもので、日本語のカタカナ語の「プログラム」とはそれほどズレを生まない語義になると思います。

これに対して「体育会運動部」のような、課外の部(活動、取り組み、それを統括する組織体)の意味でのprogramは比較的新しい使われ方になるのではないかと思います。

オンラインコーパスでざっくりと検索。

米文化での使用実態を確認したいわけですから、まずはCOCAで。

1990年代から見られる用法ですが、footballが群を抜いています。それでも、2015年以降で倍増に近い増加となっていることがわかります。rowingはあまりメディアでは取り上げられない模様。

米での通時的推移をCOHAで。

網掛けの色が濃くなっているのは2000年代以降。やはりfootball優勢ですね。通時的な比較ができるようなデータがないのか、rowingはここでは上がってきません。

GLOWBEで20エリアの比較を。データは2012-2013年のものですので、10年以上前の実態、ということは確認しておきましょう。

北米で使われ、圧倒的に米国で、そして、その殆どがfootballです。GBのfootballは一次資料を見てみないことにはわかりませんが、「サッカー」のことを指すのではないか、という疑問も浮かびます。
rowingの5例のうち2例はGBでのヒット。さもありなん?

次の抜粋は、英メディアでの米国の大学に関わる記事からで、サッカーではないfootballでした。

Yet, over and over again, I have heard Penn State officials decrying the influence of football and have heard such ignorant comments like Penn State will no longer be a 'football factory' and we are going to 'start' focusing on integrity in athletics. These statements are simply unsupported by the five decades of evidence to the contrary , and succeed only in unfairly besmirching both a great university and the players and alumni of the football program who have given of themselves to help make it great.
www.dailymail.co.uk
しかし、私は何度も何度も、ペンシルベニア州立大学の関係者がフットボールの影響力を非難するのを耳にし、ペンシルベニア州立大学はもはや『フットボール工場』ではなく、陸上競技における誠実さに『焦点を当て始める』のだというような無知なコメントを耳にした。このような発言は、それとは反対の50年にわたる証拠に裏打ちされていないだけであり、偉大な大学と、この大学を偉大なものにするために自らを捧げてきたアメフト部の選手やOBを不当に中傷することだけに成功している。

“the players and alumni of the football program” とあることで「部」であることが分かりますね。

そして、最新最大のコーパスでNOW。

baseballもかなり多いですが、やはり殆どがfootballですね。


ヒット数の多いNOWコーパスでatまで含めて、大学などどこでそのprogramが提供されるのかを見てみましょう。

コンコーダンスラインをざっくり。

community college やhigh schoolの例もいくつかあり、junior high schoolの例もありますね。

" Decatur City Schools is saddened to report the death of a 14-year-old student,” according to the statement. “Dr. Mark Christopher, principal at Austin Junior High School, reached out to the student’s family to offer condolences on behalf of Decatur City Schools. The student was a member of the football program at Austin Junior High School. We ask that you keep this student and his family in your thoughts and prayers.”
www.al.com
「ディケーター市立学校は、14歳の生徒の死を報告し、悲しんでいます」と声明によると、「オースティン中学校の校長であるマーク・クリストファー博士は、ディケーター市立学校を代表して、生徒の家族に哀悼の意を表しました。「オースティン中学校の校長であるマーク・クリストファー博士は、ディケーター市の学校を代表して哀悼の意を表するために生徒の家族に連絡を取った。生徒はオースティン中学校のフットボール部に所属していました。私たちは、この生徒と彼の家族を思い、祈り続けるようお願いします。」


次の記事はobituary。ボブ・ナイト氏は、私くらいの世代の日本のバスケットボールの指導者にもお馴染だったことでしょう。合掌。

But Knight, nicknamed “The General,” was best known for his nearly 30-year career as head of the basketball program at Indiana, where he elevated the team to a national powerhouse while maintaining rigorous academic standards and a high graduation rate for his players. He won all three of his championships there, as well as a NIT tournament victory in 1979.
www.yahoo.com
しかし、「将軍 」のニックネームを持つナイトは、インディアナで約30年間バスケットボール部の指揮を執ったことで最もよく知られている。そこで彼は、厳しい学業水準と選手の高い卒業率を維持しながら、チームを全国的な強豪校に育て上げ、1979年にはNITトーナメントで優勝した。

ボブ・ナイトといえば、昔はこんなコーチングの教則本があったんですよ。

ウィニング・バスケットボール 勝つための理論と練習法
原題:Basketball Vol.1 Vol.2

著者 ボブ・ナイト/ピート・ニューエル
笠原成元 監訳
1992年、大修館書店
www.taishukan.co.jp

世界のトップ選手、たとえチャンピオンでも「コーチ」は必要です。
教科教育でも「コーチング」という用語が聞かれることがありますが、コーチの「目利き」「腕利き」が前提なのですから、教科教育の世界の方たちも、「教えない授業」なんて言ってないで、競技スポーツの世界の「コーチ」からもっと学んでは如何、というのが偽らざる心境です。

ということで、英語、とりわけ米語での “program” について整理してみました。

  • 語義と生息域

大事です。
本日はこの辺で。

本日のBGM: 109で待っててよ (すかんち)

open.spotify.com

※2025年10月20日追記:

米国ではArmy、Navy士官学校にもprogramがあり、大学リーグのカンファレンスに所属しています。
陸軍士官学校はニューヨーク州のWest Point (ウエストポイント、日本では「ウエポン」などと略されたりします)にあり、海軍兵学校(米国海軍と海兵隊の士官学校)はメリーランド州のAnnapolis(アナポリス)にあります。
次のツイートにある動画クリップでの、Army Football のcoachがライバルのNavyを侮蔑挑発するコメント(trash talk)が話題になりました。番組のホスト役がprogramという語に反応していることがよくわかります。

このツイート内の動画でも自動生成のキャプションが出ますが、この番組のこのコーチの発言が話題となり、英国のメディアでも取り上げられたので、そちらで発言を確認して、背景の理解を深めましょう。記事冒頭でしっかり "both programs this season" (今シーズンの両部)と書かれています。

www.dailymail.co.uk
Army football's annual scheduled matchup with service-academy rival Navy does not take place for another two months. That has not stopped Black Knights head coach Jeff Monken from trashing the Midshipmen.
Monken took a dig at his program's archrival's during an interview with 'The Pat McAfee Show' on Wednesday, with a much-bigger spotlight on both programs this season.
Navy and Army have a combined 11-0 record and hold the top two spots in the American Athletic Conference with a combined 8-0 league record.
(中略)
Before a possible double-December showdown with Navy could take place, Monken could not help but take a swipe at his program's biggest rivals.
'Do they still have a football program at that school?' Monken said. 'Well, we're gonna worry about this game this weekend. It's the only one we can do anything about. And East Carolina's got a good football team, a well-coached team and I assure you that's the only game we're concerning ourselves with right now.'

(陸軍フットボール部恒例のライバル海軍との対戦は、あと2ヶ月はない。しかし、ブラックナイツのヘッドコーチ、ジェフ・モンケンがミッドシップメンを酷評するのは止まらない。
モンケンは水曜日の 「パット・マカフィー・ショー 」のインタビューで、今シーズンの両部にこれまで以上に大きなスポットライトを当てながら、彼の宿敵を揶揄した。
ネイビーとアーミーは合計11勝0敗で、アメリカン・アスレチック・カンファレンスでは合計8勝0敗で上位2位を占めている。
(中略)
ネイビーとの12月のダブル対決が実現する可能性がある前に、モンケンは最大のライバルを一刀両断せずにはいられなかった。
「あの学校にまだフットボール部ってあるのか?」とモンケンは言った。「まあ、今週末の試合を心配することにしよう。我々がどうにかできるのはこの試合だけだ。イースト・カロライナはいいフットボールチームで、よくコーチングされたチームだ」。

この英国メディアのように、米国の大学文化・スポーツ文化の「外」から見た様子を報じてくれるのは、同じ「外」から見ている私にも有り難いことです。

この番組でのこのコーチの発言はtwitterでも話題にはなっていましたが、炎上するまでには至っていなかった印象です。

まずは発端となった番組ホストのPat MacAfee氏のアカウント。

その他

Army-Navy matchupsというのは両校(両 "programs" )の関係者だけでなく、カレッジフットボールの界隈でも大きな関心が寄せられるようで、とりわけ今シーズンのように両部が絶好調だと、気にせずにはいられないのでしょうか、次のような動画も出回っています。

Bruce Feldman on Army or Navy’s Chances to Make the College Football Playoff | The Rich Eisen Show

youtu.be

Bruce FeldmanはこのFOXのカレッジフットボールのレポーター&ライター。NYTでも全米のカレッジフットボールのSenior Writerをしています。

www.nytimes.com


因に、英国文化での、スポーツの「プログラム」といえば、programme(s) で、こういう類いの「もの」を表すことが多いでしょう。

football programmes on sale
www.google.com

日常的な話題で用いられる基本語だからこそ文化の違いがあらわれるところでしょうか。

ここまで見てきて、私の最初のツイートで書いていた

  • 大学の正式な運動部(とその活動・取り組み&それを統括する組織体)

という語義の理解での (   ) 内の補足は (programsは大学以外でも使われる語である、ということを除けば)、十分に筋の良いものであったな、と思っています。