そして、また「もどき」を温める

今日は告知から。
ここでも呟いていましたが、

このブログの20周年を記念して、オンラインイベントを開催することにしました。
私の雑談と読者の皆さんとの懇親が主眼です。
Google Meet で行いますので、カメラオフ、マイクオフのチャットでも、マイクオンでのやり取りでも、顔出しでのやり取りでも構いません。
詳しくはこちらを。

祝20周年「ブログ・英語教育の明日はどっちだ!」
記念イベントをオンラインで開催します。
10月26日(土曜日) 19:00 - 21:00 定員20名
主に雑談と懇親を想定しています。
事前申し込み必須ですが無料です。
passmarket.yahoo.co.jp

  • 開始時間が遅い!

という方がいらっしゃるやも知れません。
これは偏に、私が10/26のその前の時間帯でこちらにオンライン参加しているためです。

外国語教育メディア学会(LET)関西支部 2024年度秋季研究大会
https://let-kansai-2024-fall.peatix.com/

何とぞ、ご理解の程を。


現在出講中の高校では、高3で和文英訳も扱っています。
その中で、リスニングを取り入れる活動として、

  • 和文英訳でのラウドスピーカー

というものを取り入れているので、簡単にご紹介まで。
この「ラウドスピーカー」というのは、80年代の終わりか、90年代の前半くらいの時期に金谷憲先生のセミナーで知ったんだと思います。自分の最古の記憶ははっきりしませんが、私のオリジナルではなく、先人の開発した、「シャドーイング」と「ディクテーション」を組み合わせた活動です。

ざっくりと手順を。
本来は少人数でのグループ活動です。

1. グループの生徒のうち1人がヘッドセットをつけて音源を聴き、シャドーイングをする。
2. 他の生徒は、シャドーイングで再生された音声を書き取る(シャドーイングの回数は適宜調整)。
3. シャドーイングする生徒を交代して2人目も同じ手順で行う。
4. さらに別の生徒に交代(以下時間が許せばグループ全員が終わるまで交代して繰り返す)。
5. グループ内でシェアリング。書き取った語句・表現の異同を確認し意見交換、適宜加筆修正。
6. オープンで音源を聴いて確認。
7. 英文のスクリプト確認。すぐに書き写さず、音読後、各自の再現した英文のチェック。
(8. 全員での音読か、オーバーラッピング)

当然、全てを完璧にシャドーイングできたとしても、それを全員が素早く正確に書き取れるわけではありませんから、グループのメンバーが交代でシャドーイングをすることに大きな意味があります。自分のシャドーイングの番になって「あ、さっき書き取れなかったのは、…って言ってたんだ」というような補填/気づきがある可能性が高まるからです。
少人数クラスなら交代で全員がシャドーイングを経験できる利点があるのですが、日本の一般的な英語教室で30人以上いる場合には、全員をローテーションするのは物理的に難しいもの。

そうした大人数の教室で聞き取る側・書き取る側が感じる「わからなさ加減」を、自分のシャドーイング担当時にメンテナンスすることが叶わないという構造的な欠陥を補う工夫として、

  • 和文英訳とラウドスピーカーの組み合わせ

の活動を行っています。

つまり、「どんな内容の英語なのか」は、英語をシャドーイングする前、英語を聞き取る前に既に分かっている上での「ラウドスピーカー」を行うわけです。

一例を示します。
次のような和文英訳の「お題」があるとします。

外国から来た人が戸惑うことの一つが,日本人は極めて控え目に自己をPRすることだ。日本社会は謙虚さというものを美徳と考えているからだ、と日本人が理由に挙げるのを聞いて、自分を他者よりもよく見せなければならない局面でさえなぜ自分の長所をPRすることをはばかるのか理解に苦しむのである。

一般的な和文英訳の指導であれば、事前に着眼点やヒントを与えたりした上で、個々人に解答を提出させて、教師からフィードバックを与える、という流れが多いのではないかと思います。

私の授業でも、着眼点や注意点、NGワードなどは事前に伝えますが、私の作成した解答例をAI支援の音声合成で音源として準備しておき、ラウドスピーカーの活動を行うのです。

One of the things about Japanese people that confuse people from other countries is that the Japanese try not to look competitive. They say they do so because Japanese society values modesty, which is even more difficult for them to understand: why do Japanese people refrain from promoting their strengths even when they have to make them look better or different than others?

日頃から、「耳半分・頭半分」と言っていますが、聞き取れないところは、和文を頼りに、補うことを想定しています。
言ってみれば「ラウドスピーカーもどき」の活動ですね。

  • え、そこ、何て言ってるの?ちゃんとシャドーイングして!

と隔靴掻痒なところは多いわけですが、自分のシャドーイングの番が回ってこなくても、

  • そんな感じの音だと、ひょっとして…。
  • その前がこういう表現だったんだから、その続きは…。
  • いや、多分それは聞き間違い、言い間違いで、この日本語表現に対応するなら…。

という主体的・積極的な取り組みが期待されています。

巷の和文英訳指導では、しばしば

  • 「和文和訳」で、子どもにもわかる表現になおしてから、それを英訳する。

などと嘯く人がいるのですが、それをやっていると、いつまでも英語表現が成熟しません。
教室で、教師の目の前にいる生徒の英語力の少し上の英語表現を意図的に盛り込んで解答例を作れるのは、その教室を受け持つ教師だけでしょう。

音声合成はこちらを利用しています。

elevenlabs.io

音源は mimicopy (耳コピ)というアプリにmp3の形で取り込んで再生しています。

mimicopy.artteknika.com

これは、速度もピッチも変えられるので、 生徒の習熟度に合わせて提示できるという利点があり、もう10年以上、私の授業での必需品です。AIが生成してくれた「自然に近い」音声があれば、自分で音声教材の作成が可能です。

↓はアプリの画面のスクショ画像なのでクリックしても再生されません。

↓再生はこちらのリンクを。
soundcloud.com

このアプリは、3箇所まで、ナンバリング&色分けで区間指定ができるので、波形を確認し、悩みどころ/困りどころをここからここまで、というように指定して、そこだけの「区間リピート」も設定できます。

冒頭だけの区間リピートの例。

↓こちらもアプリの画面の画像だけです。

↓再生はこちらを。
soundcloud.com

「ラウドスピーカー」と「教室全体で、スピーカーから流れるオープンな音声でのディクテーション」とを併用し、生徒同士でのシェアリングを複数回入れることで、習熟度の差にも対応可能でしょう。
私はこの「ラウドスピーカーもどき」以前に、オープンな音声での全員一斉のシャドーイングも体験させています。

ディクテーションのルールとして一つ課しているのが

  • 消しゴムを使わないこと

です。
自分の癖、処理や思考のログを残すためにも、消しゴムを使わずに、抹消線と加筆修正で対応してもらっています。

「ラウドスピーカー」は日本生まれではありますが古くからある活動ですし、「ディクテーション」はそれよりも遥か以前からある活動です。
Instructed Second Language Aquisitionの観点で、どのような効果があるのか、私にはよくわかっていません。
それでも、このように、単文・短文から、まとまった分量のつながりのある英文まで、適切に書かれた英文さえあれば、教材作成が可能で、教室でトレーニングができ、生徒も教師もかなりの達成感を得ることが可能な活動になりますのでご参考までに。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Anniversary (織田哲郎)

open.spotify.com