「たとえば…」

2025年のスタート。
本年もよろしくお願いします。

年末のセミナーで12月30日のチャンクのセミナーにも、受講者からのフィードバックが届きました。

抜粋でご紹介。

文未満の単位としてのチャンクの内部構造とそれを授業などにおいてどのように練習させるかについて、たっぷりと解説していただいて有意義な時間でした。
2024年冬の第一弾である語法・文法セミナーにも参加したことで、実際に使われている形での英語表現を教授者自らも観察・収集し、それを生徒に示していくことの重要性を改めて感じました。
以前にもチャンクセミナーを受講したことがありますが、今回のセミナーでは以前の会よりも学びが多かったです。それは、会を追うごとに松井先生が講座内容をバージョンアップしていることもあろうかと思いますし、私自身の成長というものもあるのだと思います。

学習者に、英語だけでなく母語の「語形成」についての気づきと知識を与え、英文を読んだときに迷った時の拠り所となる「戻ることができる基本となりうる地点としての知識」を体感させることのできるチャンクでの指導は、一見地味なように見えて、実は深い知識と洞察に裏打ちされた体系がそこにあることを多くの人は気づいていないかもしれません。
チャンクの「赤本」・「緑本」が一般書籍になると、恩恵を受ける方々が多数いるかと思います。
今回改めて、チャンクの配列には、いわゆる形態論である語の内部構造への配慮があること、記号づけには統語論的な「主要部」・「足あと」などを学習者にもわかるように示していることに感動しました。

『学習英文法を見直したい』(研究社)p.98の中で、松井先生が述べられていた「学習英文法」が活かされるための3つの要素の
・「文」の束縛からいったん自由になる。
・学習者が「局地戦」を生き延びるための物資を保証する。
・ことばによる記述、解説の精度を高める。
を実作をもって、世に示していただけたこと、感謝いたします。
文単位のではなく、文字・形態素・語・句単位で考えることができると、学習者が言葉の森で迷子になったときに考える足場を作ってあげられますよね。
この休み期間は、語法・文法、(チャンクを考える上での)レキシカルアプローチ、形態論の勉強をしようと思っています。2024年末、松井先生のセミナーを受講することで学びや気づきの機会をいただいたことに感謝します。ありがとうございました。

ありがとうございます。新年も4日からセミナー開始です。

さて、
新年最初の「気になる語法」は

  • including

です。
辞書では既に「前置詞」の扱いで項目が立てられていますが、もともとの動詞 includeの他動詞のイメージにとらわれていると、このincludingの表す意味がこぼれ落ちてしまうかも知れません。

ツイッターの引用RTでの英語ニュース紹介&詳解でも何度も取り上げてきました。

Recent decades have seen numerous skirmishes along the border, including a brief but bloody war in 1962.
これまでにも指摘してきた
「目撃」の主語が時・期間で現在完了のsee。
全体概要→個々の事例へと移るマーカーのincluding
そして、bloodyは?
https://x.com/tmrowing/status/1272966271479377922

元記事は

https://www.deccanherald.com/india/the-key-dates-in-india-china-border-tensions-850380.html
上記引用の英文
Recent decades have seen numerous skirmishes along the border, including a brief but bloody war in 1962.
の和訳
近年、国境沿いで多数の小競り合いが発生しており、1962年には短期間ながらも血なまぐさい戦争がありました。

イマドキの用法では、殆ど具体例を導く単なるマーカーです。

「現実味のcould」 例示のincludingは、その続きではなく、includingの前(=左)をこそ丁寧に読みましょう。 関係詞的thatは主格相当。それに続くandの分配は「恒常的性質、一般論」と「現実世界での個々の事例、見通し・見込み」であることに注意。
https://x.com/tmrowing/status/1290800988375351296

元ツイは

Anti-coronavirus efforts could help reduce other infections as well, including a rare, polio-like illness that strikes children and is due for a periodic resurgence this fall.
https://x.com/NYDailyNews/status/1290798188509761536
コロナウイルス対策は、子供たちを襲い、今秋に定期的に再発すると見込まれている、まれなポリオのような病気を含む他の感染症の削減にも役立つ可能性がある。

ここではas wellの添加に続けて用いられています。

living は「現在分詞」の後置修飾。includingは前置詞扱い。generalな情報に対しての、その要素となる「端的な具合例」。food insecurity は 「名詞1+名詞2」での名詞句。元になるsecureは形容詞(または動詞)で「確実に得られる(ようにする)」。「必要十分な食料を安定的に得られないこと」。
https://x.com/tmrowing/status/1343301507354034177

元ツイは

More than 50M people living in America, including 17M children, will likely experience food insecurity by the end of the year, according to Feeding America, the country’s largest anti-hunger organization.
https://x.com/MSNBC/status/1343293343225307141
アメリカ最大の飢餓撲滅団体フィーディング・アメリカによると、アメリカに住む5000万人以上、うち1700万人が今年末までに食糧不安に陥る可能性が高いという。

分詞構文由来ですから、元の動詞の「含む」という意味を保持して、名詞句を単独で従えている分には、それほど理解にも表現にも苦労しないでしょう。

名詞句には当然、動名詞 (-ing形)も含まれますから、次のようなものも問題なく広く使われています。

よりgeneralな情報から、よりspecificな情報へと展開する「流儀」に則って読んだり書いたりする「体質」を作っておかないと、
includingが来たら具体例
などと言われても「えっ?何の具体例?」と後戻りすることになりますよ。
https://x.com/tmrowing/status/1269011299310039041

元ツイは

BREAKING: Minneapolis City Council unanimously votes for immediate reform within the city's police department, including banning chokeholds.
https://x.com/ABCWorldNews/status/1269008911228637184
速報: ミネアポリス市議会は、市警察署内の即時改革を全会一致で可決し、絞め技の禁止を含む。

動名詞の否定でもOKです。

Elon Musk and his rocket company, SpaceX, have repeatedly failed to comply with federal reporting protocols aimed at protecting state secrets, including by not providing some details of his meetings with foreign leaders, according to people with knowledge of the company and internal documents.
https://www.nytimes.com/2024/12/17/technology/elon-musk-spacex-national-security-reporting.html
イーロン・マスクと彼のロケット会社スペースXは、州の秘密を保護することを目的とした連邦報告プロトコルに繰り返し従わなかった。これは、外国の指導者との会議の詳細を提供しなかったことを含むと、同社に詳しい人々や内部文書による。

動名詞で「ことがら」がOKなら、より「コト」の性質が強くなった「名詞句」も行けそうですよね?

次のような "they" が「橋渡し」になっているように感じています。
Nonconsensual photography is a rising problem in Japan. Authorities say they're also seeing a spike at schools - including more cases of kids committing the crime against their peers.
https://x.com/tmrowing/status/1874205335168442727
日本では、同意のない写真撮影(=盗撮)が増加している問題です。学校でもこの問題が増えており、子供たちが同級生に対してこの犯罪を犯すケースが増えていると当局は述べています。

ここでは、casesに続くof に意味上の主語つき動名詞が来ていて、より「ことがら」の度合いが濃くなっています。

統語面、機能面での拡張もそうですが、意味の面でも、最早「含む」では括れない、such as とかespeciallyとかと置き換えられるような使われ方が増えている印象です。

別媒体でその後の経過。“showed some signs of abating but continued”という過去形の記述で、その前後をしっかりと繋ぐことが大事。その前は「被害・損失」強調の現在完了。including は端的・顕著な例示のマーカー。文脈によってはespeciallyとかnotablyと類義。関係副詞whereの前にカンマなし?
https://x.com/tmrowing/status/1549135285258113024

元ツイは

A heatwave sweeping southern Europe that has caused hundreds of deaths and huge wildfires in past weeks showed some signs of abating but continued to move north, including towards Britain where authorities issued an extreme weather warning
https://x.com/Reuters/status/1548989344177725440
過去数週間にわたり数百人の死者と大規模な山火事を引き起こした南ヨーロッパを襲った熱波は、弱まる兆しを見せたが、北方への移動は続いており、中でもイギリスへと向かったものは当局が異常気象警報を発令した。

includingがさらに前置詞のtowardsを従えて、 (to) move north の拡散・伝搬の方向の具体化をしているものです。across from とかfrom underなどの二重前置詞とは明らかに違う結びつきで、includingは単に副詞的な意味の付与にしかなっていないような印象です。

さらに、現代英語では、次のようにthat節を従える用法も認められています。「ことがら」の名詞節ですね。

#that節を導くincluding
「立ち向かい系」の他動詞face。
a string of A(複数名詞)「一連のA」。カンマ+ includingが前置詞として単独の名詞句ではなくthat節をとっている例。
attemptに続くto haveは完了不定詞ではなく、使役のhave+人+過去分詞のmurdered。「死なれる」ではなく「殺させる」。
https://x.com/tmrowing/status/1438444414779625476

元ツイは

Nomia Rosemary Ndlovu faces a string of charges, including that she attempted to have her mother murdered
https://x.com/SundayTimesZA/status/1438345608172081159
ノミア・ローズマリー・ンドロヴは、母親の殺害を企てたなど、一連の容疑に直面している。

関連記事別媒体。
あらためて合掌。
including that節中の主従過去形確認。
The four Indigenous children 中略 have shared limited but harrowing details of their ordeal with their family, including that their mother survived the crash for days before she died.
https://x.com/tmrowing/status/1668038174936035330
4人の先住民の子供たちは、家族に自分たちの過酷な体験について限られた情報を共有しました。その中には、母親が墜落事故の後、数日間生き延びてから亡くなったということも含まれています。

that節は、“their ordeal with their family” の具体化で「ことがら」です。
これ、結構衝撃的ですよね?元々の動詞includeってthat節を含め名詞節を目的語としてとらない動詞ですから。

さあ、ここまでの流れを踏まえて次の実例を。

continue to surge + assistance というgeneralな情報を受けての具体化でincluding +specificな事例。ここでは単純な(動)名詞句ではなく手段を表すby -ingが続いている。help/support/assist → provide/send/deliver の流れに多い印象。話題(主題)→焦点でのbe動詞の補語に来るby -ingと比較。
https://x.com/tmrowing/status/1873803345544298745

元ツイは

US President Joe Biden has said his administration will continue to surge 'as much assistance to Ukraine as quickly as possible', including by delivering older American equipment to the battlefield.
https://x.com/FT/status/1873798753745793116
ジョー・バイデン米大統領は、旧式の米国製装備品を戦場に届けるなどして、政権は「ウクライナへの支援を可能な限り迅速に」強化し続けると述べた。

本来は手段を表す副詞句であるはずの by -ingがincludingの目的語相当の位置を占めています。私のツイートにあった「生息域の実感」は結構いいところを探り当てていると思いますよ。

類例
ここではsupportの具体化でincluding by providing
https://x.com/tmrowing/status/1873804144999620903

元ツイ

With wildfires raging in Ecuador, @USAID has been mobilizing quickly to support – including by providing 122 of these special backpack pumps to local responders. This easy-to-operate equipment can quickly be deployed to hard-to-reach areas in order to help suppress the blazes.
https://x.com/USAIDSavesLives/status/1840759407409291642
エクアドルで山火事が猛威を振るう中、 @USAIDは迅速に支援活動を展開しており、地元の救助隊にこの特殊なバックパックポンプ 122 台を提供しています。操作が簡単なこの機器は、手の届きにくい場所に素早く配備して、火災の鎮圧に役立てることができます。

あくまでも具体例のマーカーである点は同じですが、ここでも本来は手段を表す副詞句の by -ingがincludingに続いています。

類例追加
assistance の具体化でincluding by providing
https://x.com/tmrowing/status/1873805226400243956

元ツイ

The United States supports Somalia in its efforts to degrade al-Shabaab through various security assistance, including by providing training and equipment to the Somali National Army’s Danab Brigade.
@US2Somalia was pleased to discuss our support with Somali Chief of Defense Maj Gen Ibrahim Sheikh Muhiyadin.
https://x.com/US2SOMALIA/status/1757403144777007536
国は、ソマリア国軍のダナブ旅団への訓練や装備の提供を含む、さまざまな安全保障支援を通じて、アルシャバブを弱体化させるソマリアの取り組みを支援している。
@US2Somaliaソマリア国防軍司令官イブラヒム・シェイク・ムヒヤディン少将と我が国の支援について協議できたことを嬉しく思う。

さらに類例追加
helpの具体化でincluding by sending
https://x.com/tmrowing/status/1873806414218748258

元ツイ

Mayor Adams' budget head today blamed "stringent" application rules for NYC only getting $49M in federal migrant aid so far.
But a Biden official says FEMA has tried to help NYC unlock the full $156M for months, including by sending a team here last week.
https://x.com/C_Sommerfeldt/status/1764789859724472421
アダムス市長の予算責任者は今日、ニューヨーク市がこれまでに連邦政府から受け取れる移民援助がわずか4,900万ドルにとどまっているのは「厳格な」申請規則のせいだと非難した。
しかし、バイデン政権の関係者は、FEMAは先週チームを派遣するなど、数か月間ニューヨーク市が1億5600万ドル全額を解放できるよう支援しようとしてきたと述べている。

そして更なる展開。

「本来は副詞句だったby -ingがincludingに続くのなら、副詞節も来れるのでは?」と思いますよね?
来るんです!
including if you ‘re … の例。
https://x.com/tmrowing/status/1873819945102139816

元ツイ

Got kids aged 5-16?
There's still time to find some peace and quiet by booking them on to some of our wonderful winter activities!
Find out more, including if you're eligible for free activities!
https://x.com/lbbdcouncil/status/1872223429660721563
5~16歳のお子様はいらっしゃいますか?
弊社の素晴らしい冬のアクティビティを予約して、平穏と静けさを満喫する時間はまだあります!
無料アクティビティの対象となるかどうかなど、詳細をご確認ください。

ここでは殆ど「…など」の意味を表す働きしかしていません。

including if you’re …
類例追加
https://x.com/tmrowing/status/1873820424578228280

元ツイ

And as health officials scramble to identify the source of the McDonald's E.coli outbreak, many are left wondering if their beloved burgers are safe to eat — including if you’re a consumer in Canada.
https://x.com/globalnews/status/1849164218643218491
そして、保健当局がマクドナルドのE.coli感染源を特定しようと奔走する中、多くの人々が自分たちの愛するバーガーが安全に食べられるのか疑問に思っています。カナダの消費者である場合も含めて。

including if there was …
https://x.com/tmrowing/status/1873820724324164059

元ツイ

Mayor Strom's Election 101 series with @JeffCoClerk continues--and this week we’re talking signature verification. Sign up for Ballottrax to get updates on your ballot, including if there was an issue with your signature verification
https://x.com/LakewoodCOgov/status/1849966386606415918
ストロム市長の選挙入門シリーズ@JeffCoClerkは続きます。今週は署名の検証についてお話します。
署名の検証に問題があったかどうかなど、投票用紙の最新情報を入手するには、Ballottrax に登録してください:

記事本文
A bill printed Monday could require schools to inform parents if there is a change in a student’s “mental, emotional or physical health or wellbeing,” — perhaps including if the student discloses they are gay or transgender.
ダッシュ前後でgeneral →specificの展開を確認。
https://x.com/tmrowing/status/1873821654327185694
月曜日に印刷された法案は、学生の「精神的、感情的または身体的健康や幸福」に変化があった場合、学校が保護者に通知することを要求する可能性があります。おそらく、学生が自分がゲイまたはトランスジェンダーであると明かした場合も含まれます。

ここまで述べてきたようなincludingの機能、生息域の拡大は、辞書でも、教材でもまだまだ未対応ですが、現実には使われていて、拡がっている印象です。

個人的には、次のようなexceptが「除外」して「排他的」に「例外」を表す用法と対照的に、includingが「内包・包括」的に、言ってみれば「例内」の文脈を作るものとして使われるようになってきたと見ています。

I liked the job except (that) I had to work on Sundays.日曜日に仕事がある以外はその仕事が気に入っていた (Wisdom英和)
緊急[来客]のとき以外はその出入口は使いません
We never use that gateway except in an emergency [except when we have guests].(Wisdom和英)
Don't say anything except if you are spoken to. 話しかけられなければ何も言うな (O-LEX英和)
You cannot lose except 「through your own carelessness [by being careless].
不注意による以外は負けるはずがない ⦅目的語は前置詞句⦆.(コンパスローズ英和)

最後の用例を引いたコンパスローズでは、exceptが「(代)名詞以外を目的語にとることがある」として例をあげていますので、比較してみるといいでしょう。

本来副詞(句・節)だった筈の表現が、名詞(句・節)が占めるべき位置に来る表現形式は、過去ログでも取り上げています。

2024-03-10
焦点=副詞=補語?
tmrowing.hatenablog.com

その時に例として示した

The first time I saw San Francisco Ballet principal Yuan Yuan Tan dance was as a 9-year-old child in the early aughts.
The only time I saw him in person was as a boy at St Barnabas church Pimlico, where I was in the choir in the late 50s.
The only time I saw her being harassed was by a grumpy old man as we were waiting for the elevator in Firestone Library.
The only time I saw Ginger Rogers in the flesh was by chance in a book store on New York’s Fifth Avenue.
Another way animals learn is through imitation. Some young birds learn to fly by imitating their parents.
One reason for going to the street shops is because of the relationship you have with the owners.

といった句のレベルでも、

The only time he knows where he is is when he has to call collect and ask his parents for money.
The only time G2G would have been a good deal was if we were getting the oil cheaper.

のような節のレベルでも、主語に(強い)限定がつき、話題化→焦点化でbe動詞等に続く補語の位置を占める表現であるという共通点(制約)がありました。

今回のincludingの振る舞いは、そのような制約ではなく、general → specificの流れから出てきたもののように感じられます。
どのような説明が一番尤もらしいものになるでしょうか?
一つ一つの実例を愛でるくらいの大らかさで、受け入れ、包み込みたいものです。

本日はこの辺で。

本日のBGM: 君がいるだけで (米米CLUB)

open.spotify.com


追記:
例によって、世間は英語表現そのものには興味関心が薄いようですが、大学入試でも次のように、読解の素材文では、単純な名詞句以外の英語表現がincludingに続くものが出てきています。

For young college graduates, living abroad alone can be a very exciting experience. At the same time, it can also be difficult to get used to a new life without knowing anyone in the country. To lessen that difficulty, graduates can prepare for their new lives in several ways before departure, including by living on a small budget, by going to many places, and by meeting many people.
大学を卒業したばかりの若者にとって、海外での一人暮らしはとてもエキサイティングな経験になる。同時に、その国に知り合いが誰もいない状態で新しい生活に慣れるのは難しいことでもある。その難しさを軽減するために、卒業生は出発前に、少ない予算で生活する、多くの場所に行く、多くの人に会うなど、いくつかの方法で新生活の準備をすることができる。

including の後に、by+ ing形が列挙され、"prepare" の具体化をしています。

次の例では、"including that SV" が出てきていますね。

FDR’s vice president after the election of 1944 was a little-known politician named Harry Truman, with whom the president shared virtually no information ― including that America was developing an atomic bomb. Ironically, it was Truman to whom the decision to use it would fall.
FDRの1944年の選挙後の副大統領は、ハリー・トルーマンというあまり知られていない政治家であり、大統領は原子爆弾を開発していることを含め、ほとんど情報を共有していなかった。皮肉なことに、それを使用する決定が下されるのはトルーマンであった。

因に、次の出題では、thatを従えるincludingが錯乱肢に入っています。

Ralph forgot his computer, ( ) he was unable to contribute to the meeting.
(1) including that (2) resulting in (3) with it
(4) without which

正答は (4) without which で簡単な問題ですが、選択肢の (1) を空所に入れるとなると、thatの後にSVで節が来ることになります。(2)を入れると前置詞inの後に更に節を続けるためにはthatやwhatなどの語が必要です。(3)では意味の上でも統語的にも整合させるのは難しいですね。
出題者が(1)のincluding thatを錯乱肢に入れた見解を聞きたいものです。

最後に、"except if節" をベンチマークにして、Ngram Viewerの結果を載せておきます。



2025年1月3日追記:
NOWコーパスの新春メンテナンスが終わったので、関連の検索結果を貼っておきます。

私がなぜ、今回の "including by" に反応していたのか、よくわかるNOWの検索結果です。

ニュースの英語では、群を抜いて、including by のヒット数が多いことが見て取れます。

同じ世界20エリアでも、GLOWBEは2012-2013のデータ。

including byは英文化圏で結構ヒット数が多い印象。

COCAは2019年までですが、均衡コーパスとしてベンチマークに。

SPOKENでの数値で、including byが41、except byが56ですね。

参考程度にTVコーパスも。

そろそろ辞書でも、"including by" の用例を検討する時期では?

alive and well

いよいよ大晦日。
この2024年は、会いたい人に会いに行く、見たいものを見に行く、書きたいもの書く、ということを努めて実行しようと生き延びてきました。
ライブや原画展、展覧会などに足を運ぶこともでき、昨年とはかなり違う一年になったと感じています。

昨日の講座をもって、冬季セミナー祭り、年末の3連チャンも終わりました。
お疲れ様でした。充実した時間となっていれば幸いです。
皆さんからのフィードバックをお待ちしております。

事後共有スライドは1月に開催されるそれぞれの同内容の講座終了後、お送りします。
今回のセミナーが良かったと評価していただけるようでしたら、同内容で開催される1月の回を、お知り合いの方にお薦めください。

早速12月28日、29日のセミナー受講者からフィードバックが寄せられました。

まずは28日のセミナー。

  • 英文法・語法・表現セミナー:その英語気になりませんか?

こんな概要の講座です。

ブログの20周年を記念し、これまでに取り上げてきた「気になる語法」を中心として、主に松井が解説するものですが、参加者からの質疑応答など、チャットを通じて、またはマイクオンでのやりとりも想定しています。巷のメディアや英語教材で示される「英語表現」に関して講師の松井が持っている疑義も共有出来ればと思います。

匿名でフィードバックのご紹介。

本日は大変貴重なセミナーを開催して下さりありがとうございました。
日々、英語に接しておりますが、自分の英語との付き合い方を再確認させられる内容でした。先生の用例との向き合い方を見て、自分も松井先生のようにもっと深く・広く用例と向き合わないといけないなと感じました。

研究者レベル、学習参考書作成者レベル、教師レベルで話題にすべき問題がたくさん取り上げられていたことも良かったです。いち英語語法の研究者としてもっと英語の実態を伝えていかなければいけないなと思いました。まずは現在取り組んでいる書籍の原稿を世に送り出せるように頑張ります。


続いて、北星学園女子中学高等学校の吉田努先生より。

松井先生が示す実例に全て納得してばかりの3時間でした。
12月末のこの時期だからこそ、心身が健康な状態でブログで発信していただいていた情報を読み・考え・調べることができました。特にpick, pick out, choose, selectの話は納得しきりでした。
言語の実態に沿って、その表現がどの場面で使用されるのか(USE)の部分をしっかりと理解し、指導することの大切さを改めて感じました。

私事ですが、2021年から2023年にかけてCambridgeの指導者資格であるDelta取得のため勉強し、資格を取得しました。その過程の中で、教える言語項目をUSE, FORM, MEANINGの観点から分析する必要があります。今回松井先生に示していただいた実例は深いレベルでのそうした分析そのものでしたので、言語の生息域を生徒に教えることの意義を再確認しました。

辞書や書籍には載っていないけれども、実は既にそこに現れていたことを見せていただき、自分の言葉への感受性を高める努力が必要だと痛感しました。先生がセミナー中におっしゃった「あ、雨降ってない?」という比喩表現、言い得て妙ですね。コロナ後の変化を見ると、もう雨は降っていますね。

今回のセミナーで先生から直接お話を聴くことで、ブログにまとめていただいていた情報の価値に気づくことができました。こんなにも豊かな記述があることに改めて感謝します。ブログを読んで、自分でも考え、調べてみることができるかと思うとワクワクします。先生と一緒に見晴らしの良い展望台に連れて行っていただき、街の見取り図を見せていただいたような晴れやかな気分です。

この冬、先生に多くのオンラインセミナーを開催していただけること、嬉しく思っています。既に申し込んでいる回だけでなく、年明けのセミナーの受講も検討しています。世界中どこからでも先生のセミナー受講できることに感謝しています。今回はありがとうございました。楽しい時間でした。

丁寧な振り返りをありがとうございます。深謝。

同内容のセミナーは1月12日開催です。

passmarket.yahoo.co.jp

29日のセミナーは、

  • 英文ライティング指導法セミナー:表現も・論理も〜和文英訳と英文ライティングの指導法

高校段階では「和文英訳」にしても、お題に基づく「自由英作文」にしても「志望校の過去問を解かせて添削」に、中学段階でも「英検の過去問を解かせて添削」が「ライティングの指導法」のように思われがちですが、お題の選択から指導者が関わっていない場合には、適切で効果的なフィードバックを与えることが難しく、学習効果が上がり難くなります。特に「和文英訳」では、巷に蔓延る、かなり雑な「和文和訳」の処理をしてから英訳に取り掛かるアプローチが、折角の学習者の英語力の向上を阻害しかねない事例も目にしています。「和文英訳」であれ「お題作文」であれ、「エイブン」ではなく「英文」であることが求められるわけですから、この二つに通底しているはずの「ライティング力」を実践例をつうじて浮かび上がらせたいと思います。ChatGPTに代表されるAI支援では行き届かない、人間のライティング教師ならではの、関わり方に関しても実践例を紹介し、知見を共有したいと思います。
以下の観点に留意して、主として高校生や大学受験生の指導者を対象とした、適切で効果的な「和文英訳」「英文ライティング」の指導のあり方を考えます。
・「良い英文」とは?
・和文英訳での英文の「つながり」と「まとまり」
・「効果的な過去問」の利用法、「過去問」日本文の修正法
・高校生が書いた英文へのフィードバックの実例検証
・DeepLやChatGPTの使用例
・オンラインコーパスとアプリ辞書の活用

こちらの講座にもフィードバックをいただいております。

長時間、非常に有意義なお話をお伺いでき光栄に思います。前日もセミナーをされていたと聞き、非常にお疲れのことと思います。本当にありがとうございました。普段はXでの投稿やブログ記事、購入したノートを眺めているのですが、仕事が休みに入ったタイミングでセミナーにようやく参加でき、松井先生がどのような視座で英語に向き合っているのか、その一端を垣間見ることができたと思います。

私は中高の教職ではありませんが、英語を指導する立場として、日々生徒相手に奮闘しています。その指導の中で適切な課題の提示やフィードバック、ガイダンス等で頭を悩ませる日々です。どんな学生であれ、彼らにとって英語そのものに興味を持てるような授業でありたいと思いつつも、現実は「英作文の汎用的な型を教えて欲しい。」「この英作文だったらどのくらいの点数が出るのか教えて欲しい」「何をすればいいのかわからない」といった文言に苦悩しています。指導力向上のヒントを得られたらと思い、松井先生のセミナーには非常に興味を持っていました。

テクストタイプの重要性、obituaryや偉人伝等の活用、文法問題へのアプローチ等、実践的なアドバイスを多くいただき、早速教材の活用法を改めたいと思っています。特にいわゆるAIの指導現場への活用は非常に難しいと感じていて、なんとなくChatGPTをはじめとする添削の違和感を松井先生がしっかり言語化してくださったことが印象的でした。その違和感を払拭することが人間である私が身につけるべき姿勢であり、うまく活用することで、業務の効率化にもつながってくるのではと感じています。年末で身体を休めたいなと思っていた中、心は来年度の指導に勤しみたい、そういう葛藤を抱けるくらいに勉強させていただきました。本当にありがとうございました。

次は、白梅学園高等学校の細井俊克先生からの超長文のレポートです。
研究会の月例会のまとめ以上の精緻な観察と分析だと思います。ありがとうございます。

本セミナーでは、高等学校における英作文指導の課題と可能性について、具体的な実践方法の面から考察が行われました。先生がかねてから強調されていた「つながり」と「まとまり」を最終的にどのように育むかというテーマが据えられており、現場での指導の質を高めるための多くの示唆を得ることができました。

とくに、先生が強調されていた、できない理由を生徒に転嫁しない、という教師の姿勢の重要性については共感することしきりでした。現在、私が指導している生徒を含めて、多くの生徒が英作文に必要な基礎的なスキルに達していない現状がありますが、それを生徒の問題として片付けるのではなく、教師自身が指導の目的意識を明確に持ち、生徒の状態に応じた指導を行う必要があると認識致しました。この視点は非常に印象深く、英語教育が単なる知識の伝達ではなく、生徒ひとりひとりをどのように導くかという点に重きを置くべきであることを再確認させられました。

具体的な指導方法についてもご紹介いただきました。特に、名詞句の後置修飾や副詞節マッチングといったチャンクを意識した指導法が取り上げられ、それが生徒の論理的な思考を育む鍵となることが示されました。私もちょうど先生のチャンク赤本から緑本を高校1年~2年で採用させて頂いて指導させて頂いており、ちょうど現在担当している高校2年生で緑本の演習2が終わった位のところにおりますので、高3の1学期までには緑本を終えるというシラバスで展開させて頂いております。その為、どういった視点で生徒に『覚える方が早い』ということを実感させられるかな、ということを考えながら先生の実践を聞いておりました。赤本も緑本も句単位、節単位での配列に工夫が凝らされており、教材研究をしながら「あ、ここでこうつながるか!」といつもヒザを打つことしきりで、ある意味、感覚的な言い方で申し訳ありませんが、伏線回収の妙というか、よく練られた推理小説を読んでいるような気分になり、大変勉強になっております。こういったチャンク単位での指導法は、動詞型を中心とした文法知識だけの指導と対比しても、英文全体の「つながり」を意識させるものであり、その有効性を実感しています。
ディスコース・コンプリションのような課題は、「つながり」と「まとまり」、論理という意味でいえば、検定教科書でさえも散見される不自然な「英語もどき」を克服する一助にもなると感じました。実際のところ、「つながり」や「まとまり」を重視する姿勢は、日本語教育においても必要不可欠であり、母語で論理性を認識する機会が減少している現状が、英語での指導の難しさをさらに高めているな、という事にも思い至りました。この点については、ソーシャルメディアの断片的な情報に慣れている現代の生徒たちが、瞬間的に消費されるコトバに慣らされ、情報の「論理性」や「文脈」を捉えにくい環境にあることも一因なのかな、と感じております。いずれにしても、言葉の意味は文脈からは切り離しては存在せず、こういった視点を涵養することの重要性を再認識させられた次第です。

オンラインツールや生成AIを活用した指導について紹介がありました。とりわけ、生成AIによるフィードバックが、現場のニーズに応えるレベルに達していない現状や、AIに頼りすぎることで教員自身のフィードバック能力が向上しないリスクも指摘されました。このように、ツールを導入する際には、教師側が確固たる運用能力を持つことが不可欠であり、それがなければツールの善し悪しを判断することも難しいという意見には深く共感しました。確かに、現状の生成AIのアウトプットはまだまだ底が浅いものであり、先生の行われているマニュアルでのフィードバックには到底敵わない出来のものであるという認識は共有しております。しかし残念ながら、生成AIで出て来たフィードバックの良し悪しを見取れる教員もまた少ないというのが現状です。私は情報科の教員でもある為、生成AIをどのように活用するのかについては常日頃、課題意識を持ちつつ模索しておりますが、先生がご指摘されたように、単に教師がアタマを使わずに丸投げするための道具になってしまっては、教員のフィードバック・スキルが低下することは間違いありません。であるならば、生徒にとっても教員にとっても如何にして自己の能力涵養に役立つ道を見つけ出すかは、私たちに課せられた重大な課題であると認識しています。道具はヒトの能力を拡張させるべきものであり、ではどのように拡張できるのかを議論しなくてはなりません。先生のように生成AIを実際に使ってみて現状の課題を認識され、その上でその限界を把握されて、現状では人手によるフィードバックが有益であるという結論に至られていることに敬意を表します(情報科の教員として)。この事は非常に重要で、業者が作ったものに単に丸投げして何も考えないで無批判に依存してしまったり、また逆に同じく丸投げして使えないからダメとダメ出ししているといった低次の批判とは、いわば批判の階層がまったく異なる高次の批判であると思うのです。技術的には、先生の経験知や見識を反映できるような生成AIが実現できなくてはなりません。さらにいえば、その良し悪しをきちんと見取ることのできる教員であらねばならないと思っております。

セミナー全体を通じて、英語科教員としても情報科教員としても多くの学びがありました。英作文指導におけるチャンク指導や論理性の育成を引き続き実践しつつ、より良い英語教育を実践できる環境を目指していきたいと考えています。引き続き、ご教示頂ければと思います。

このレポートを文科省で、次期「学習指導要領」を策定しているチームの方たちに熟読していただきたいですね。パブリックコメントで出したいくらい。私も、日々の実践の積み重ねを頑張ってきた甲斐があるというものです。あとは授業で頑張ってくれた生徒諸君に感謝。

同内容の講座は1月11日に開催です。

passmarket.yahoo.co.jp

年末最後の講座となった30日のセミナーは、

  • 英語学習&教育セミナー:名詞句を中心とした英語の 「チャンク」の捉え方・学び方と「四角化ドリル」の活用法

英語の名詞句の理解と定着は、英文法の全体像を理解するためにも重要です。
学習者も指導者も、とかく「問題演習」と称して、「英文」の空所補充や並べ替えで「ひとつの文」を完成させることに躍起になりがちですが、その前段階の文未満の単位である「チャンク」、とりわけ「名詞句」に着目し、段階的なドリルを積みあげる上での表現の取捨選択の背景、記号付けの手順などをお話しします。
・なぜ「チャンク」?
・なぜ「名詞句」?
・なぜ「四角化」?
・文未満の単位から文へ
・文を超えた「つながりとまとまり」から文へ
講師の松井による学校採択教材『チャンクで積み上げ英作文』(三省堂)の執筆の背景となる理念や使用上の注意点、また四角化ドリルに至る、またそこから展開する教室内外での実践についてもこの機会にお話しします。

今回は期せずして、受講された方は皆、英語指導者の方でした。

まだフィードバックは届いておりませんが、同内容の講座は1月5日に開催です。
申し込み締め切りは1月1日の18:00ですのでお早めに!

passmarket.yahoo.co.jp

年明けにはもう一つセミナーがあります。
こちらは既に申し込みを締め切っております。

  • 2025å¹´1月4æ—¥
  • SNSの英語ニュース&辞書&オンラインコーパスの活用法

①SNSのニュース英語の活用法:講師の松井が日々ツイッター(現X)で行っている「英語ニュース引用RT」を実演し、着眼点や現代英語の語法の変化などを解説します。

②辞書活用法:この目的のためにはこの辞書を買え!という辞書の薦めではなく、英和・和英辞典/英英辞典を含めた「自分の持つ辞書の特徴・特長」を知り、その機能をフルに活かすための「活用法」をお伝えします。最近普及しつつあるアプリ辞書の操作画面を共有しながら解説し、「フォルダー」のカスタマイズの工夫などもお見せします。

③現代英語の実態を把握するのに今や不可欠な「オンラインコーパス」のうち、COCA系とNgram Viewerを中心に、講師の松井が普段、どのように使っているか、入力方法、絞り込みの工夫などをお伝えします。

3部構成で、それぞれ50分程度で、盛り沢山です。実演を交えて実践的な情報・活用法をお伝えします。本当は、辞書を作っている方とか、辞書の研究をしている学者さんに来てほしかったんですけどね…。

年末のセミナー祭りが一段落なので、やっと自分の好きなものを読む時間が取れます。
まずはこちら。



  • Ann Sherif (1999). Mirros: The Fiction and Essays of Koda Aya University of Hawaii Press

もうちょっと作品の英訳があるかな、とは期待していたのですが、まあいいでしょう。楽しく読みます。

2024年はこの記事を入れて、合計で103本のブログ記事を投稿できました。
ご愛読に感謝します。

皆さんにとって2025年がよい年でありますように。

本年はこの辺で。
本年最後のBGM: Verdi Cries (10,000 Maniacs)

open.spotify.com

freedom of choice

  • 選ばれたのは綾鷹でした

https://youtu.be/XCjomqoLYw8?si=jHaXNzwh7jjlk0ah

というCMが話題になって久しいですが、この「選ぶ」「選ばれる」に対応する英語表現は、学習の発達段階を考慮し、運用で適切に使い分けるためにも、一度きちんと整理した方がいいと思っています。

大学入試で頻出とされる「選ぶ」に対応する英語表現では

  • pick out

を思いつく人が多いでしょう。
日本語のカタカナ語の「ピックアップ」をそのままスライドさせてpick up を選ぶと間違えるように問題が作られているか、同意語としてchoose やselectなどとの互換が問われることが多い印象です。
ソーシャルメディアなどWEBで得られるお手軽な情報を見ていてもそんなのばっかりでしょ?

入試での出題例としても、pick outって「頻出」というほど実際に出ているのかちょっと疑問。
「車で迎えに行く」以外の、pick upの多義具合を理解しておく方がよっぽどご利益があると思います。

個人的にはそれほど頻出とも思えないpick outの出題例を見てみると、

Kate picked ( ) five beautiful peaches.
で、chose (=choose)の過去形と同意となるように、空所にoutを選ばせる出題

She picked out the shoes that matched the dress.
で pick(ed) out の同意語として chose (chooseの過去形)を選ばせる出題

She picked out the shoes that match the dress.
でpick(ed) outの同意語として select(ed)を選ばせる出題

Cathy picked out a good book to give to her brother as a graduation gift.
でpick(ed) outの同意語としてselect(ed)を選ばせる出題

などでパターンは出尽くしている感じ。
普段から英語を使っている人が話したり、書いたりする英語では当然のことながらpick up と言い間違える、書き間違えることはまずないわけで、ことさら「ピックアップ」を持ち出すこと自体が悪手なのでは、とさえ思います。

私が気になるのはむしろ、同意語とされるchooseやselectとの使い分けと、そもそも動詞のpickに「選ぶ;選び出す」という意味がある筈で、単独のpickと句動詞のpick outの使い分けです。

語義の確認といえば『英語表現辞典』(研究社、第2版、1985年)ですね。以下pp.216-217のchooseとその類語より抜粋で引用。

Choose (選ぶ)は一般的な語・物・人・コースなどで若干の選択の可能性のあるものの中から選んで決めたものを実際に取ることを意味するときにその決定が最終的な行為であることが含意される : choose one (from) among (or out of) many (多くの中からひとつを選ぶ) / There are only five to choose from. (選ぶものは5つしかない)/ There's nothing (not much or little) to choose between them. (あまり大差はない)/ They choose him as (or to be) their president. (彼を会長に選んだ)/ He was chosen (as) president. (彼は会長に選ばれた) / He cannot choose but obey. (彼は, 従わざるを得ない). 不定詞を従えて prefer, decide と同意となることもある: I would choose to live his life. (彼のような人生を送りたいものだ)/ He chose not to know. (彼は知るまいと決心した)
(中略)
Pick は個人的な理由, 通例好みや希望などに従って注意して選び出す意味を表わし、select よりもくだけた, 形式ばらない語である: pick a good one out of the lot (全体の中からよいのを選ぶ) / pick one's words (言葉づかいに気をつける) / pick one's way (or steps) along a muddy road (どろんこ道を足もとに気をつけて歩く) | pick a number from 1 to 10 (1から10までの中の任意の数を選ぶ) | Pick out the books that you'd like to read. (読みたい本をよりなさい).
(中略)
Select は、 ある物がもっとも目的にかなっているためにそれを選ぶことを示し,慎重にえり抜くという意味合いがあり, choose よりも選択範囲が広くかつ強い語である。 しばしばfor, among, out of や不定詞を伴う: select the date (日取りを決める) / select the best book for reading (読書にもっともよい本を選ぶ) / select a toy for a child (子供におもちゃを選んでやる) / select the best among (or out of) many works (多数の中から最優秀作品を選ぶ)/ select the chairman by vote (議長を投票で選ぶ) / I was selected to make a speech. (私は選ばれて演説した).

同意語・類義語の確認でお世話になってきた「父上本」による労作、

  • 上本佐一 『英語同意語小辞典』(研究社、1970年)

の pp82-83より抜粋で引用。

choose 選ぶ: 通例、自分が好む好まないにかかわらず、あるものを最良 [最適] と判断して決定する。
select 同種の多数の中から、もっとも好むものを一つ [二つ以上] 慎重に選び出す。chooseよりも意味の強い語。
pick 通例、有形のものを、人の好みや希望にしたがって注意して選(よ)り出す。selectほど形式ばらない語。pick out the best book 一番良い本を選び出す。
single out 多数の人 [物] の中から一人 [一物] を選り出す。 I singled her out of the applicants. 志願者の中から彼女を選んだ。

1970年以前の英語で編まれた「父上本」の『小辞典』で句動詞のsingle outを入れていたのは意外でした。

私のそもそもの問いの

pick
pick out
choose
select

の使い分けに関しては、句動詞のpick out を含めた類語の扱いが教材にも辞書にも殆ど見られないので、自分で探ってみるしかないのかな、と思います。

まず、他動詞としてのpickの語義や生息域を押さえることが大事でしょう。
「物書堂」では引けない辞書から引用します。
マクミランの米語上級学習者版(MED)でのpick

to choose someone or something from a group:

  • Out of all the girls he could have gone out with, he picked me.
  • She was picked for the school play.
  • I haven’t picked my team yet for the new project.


MW’sの学習用でのpick

to choose or select (someone or something) from a group

  • Pick a card---any card.
  • The winner will be picked by lottery.
  • She was picked to replace the retiring CEO.
  • Who do you think he will pick as/for his running mate?
  • He picked the blue tie to wear to the interview.
  • He picked the right/wrong answer.
  • They both picked New York to win the World Series. [= they both said that they thought the New York team would win the World Series]

LDOCEでのpick

to choose a person or thing, for example because they are the best or most suitable:

  • Students have to pick three courses from a list of 15.
  • I don’t know which colour to pick.
  • Who’s going to pick the team for the match on Saturday?
  • I wasn’t picked for the hockey team.
  • The hotel was picked as the best small hotel in the area.

Cambridge でのpick

to take some things and leave others:

  • Pick a card from a pack.
  • One of my sisters has been picked for the Olympic team.
  • The police asked him if he could pick (out) the killer from a series of photos.
  • He’s brilliant at picking winners ( = choosing what will be successful).

Cambridgeの最後から2例目のカッコ付きが気になりますよね?その他の例では互換不能で、この例だけが互換可能なのか?違いがあるとしたらそれは何か?
辞書や語法書、学参ってそういうところで有益な情報を与えてほしいと思います。

pick out の用例を抜き出してみましょう。

Have you picked out a dress for the party? (MED)
It took him an hour to pick out [=pick] what to wear.
They let their two-year-old daughter pick out her own clothes.
I’ve picked out the perfect spot for our picnic. (以上MW’s)
She picked out a navy blue dress. (LDOCE)
I have been picked out to represent the whole team.
There are so many great newscasters it’s difficult to pick one out. (以上COBUILD)
She was picked out from dozens of applicants for the job.
He was picked out as the best player. (以上OALD)
She picked out a pink shirt for me to try on.
Over 200 people applied for the job and we had to pick out eight to interview. (以上Cambridge句動詞辞典)

MW’sの用例の一つには pick outをpickの意味で読みなさい、という=がついていますが、その他の例では、そのように読み替えることが出来るのか、出来ないのか、というところがよくわかりません。

「物は試し」で生成系AIに投げ掛けてみることにしました。

まず、日常、インフォーマル/カジュアルな場面を想定して、

1. In the morning, I get up and pick clothes to wear myself.
2. 1. In the morning, I get up and pick out clothes to wear myself.
3. 1. In the morning, I get up and choose clothes to wear myself.
4. 1. In the morning, I get up and select clothes to wear myself.
の4つの表現は、全て同じ意味となるか?
これらの表現を選択する人が頭の中で何をどう考えているか推測できるか?
4つの表現の使用頻度の高低、自然さでの上下が分かれば教えて。

と投げ掛けてみた回答です。

Copilot
Those sentences all mean the same thing in terms of the action described—getting up in the morning and deciding on clothes to wear. However, the different word choices convey subtle variations in tone and style:

1. "Pick clothes to wear myself": This feels straightforward and casual. The word "pick" is a common, everyday term.
2. "Pick out clothes to wear myself": Adding "out" can make it slightly more informal and conversational.
3. "Choose clothes to wear myself": "Choose" is a bit more formal than "pick," lending a slightly more deliberate tone.
4. "Select clothes to wear myself": "Select" is the most formal and precise of the four, giving a sense of careful consideration.

People might choose different versions based on their personal speaking style, the formality of the context, or just personal preference. As for common usage:

  • "Pick" and "choose" are more commonly used in everyday conversations.
  • "Pick out" is also quite common and feels more relaxed.
  • "Select" is less common in casual speech and is more often used in formal contexts.

Hope this helps! Which one do you find yourself leaning towards?

Gemini
You're asking about subtle differences in meaning and usage, which is a great question! Here's my take on those sentences:
Do they all mean the same?
Essentially, yes. All four sentences convey the basic action of selecting clothes to wear. However, there are slight nuances:

  • "Pick": This is the most general and informal. It implies a simple act of choosing without necessarily implying careful consideration.
  • "Pick out": The addition of "out" emphasizes the act of separating the chosen clothes from the rest. It suggests a slightly more deliberate selection.
  • "Choose": This is a more formal and neutral term. It implies a conscious decision-making process.
  • "Select": This is the most formal and implies a careful and considered choice, often from a larger set of options.

What's going on in their mind?
It's hard to say for sure, but here are some possible interpretations:

  • Someone who says "pick" might be someone who doesn't spend much time thinking about their outfit. They grab something and go.
  • Someone who says "pick out" might be slightly more thoughtful, perhaps considering factors like matching colors or weather.
  • Someone who says "choose" might be more deliberate in their selection, perhaps considering the occasion or their personal style.
  • Someone who says "select" might be very meticulous about their appearance, perhaps choosing from a wide wardrobe or for a special event.

Most/least common and natural?
In everyday spoken English, I'd say:

  • Most common and natural: "Pick out" is probably the most common and natural way to express this idea in casual conversation. "Pick" is also very common.
  • Less common/more formal: "Choose" is slightly less common in this specific context, though perfectly acceptable. "Select" is the least common and sounds the most formal or deliberate.

In summary: While all four sentences are grammatically correct and convey the same basic meaning, they differ slightly in formality and the degree of deliberation they imply. "Pick out" strikes a good balance between informality and clarity, making it likely the most common choice in everyday speech.

Claude

1. Yes, all four expressions essentially mean the same thing - describing the morning routine of selecting clothing. The slight variations reflect different nuances:

2. Word choice analysis:

  • "pick" is casual and straightforward
  • "pick out" emphasizes the selection process more deliberately
  • "choose" sounds more formal and thoughtful
  • "select" is the most formal and precise of the options

3. Common usage:

  • Most natural: "pick out" and "choose" are most commonly used in this context
  • Less common: "select" feels more formal for daily routine description
  • "pick" alone, while correct, feels slightly less specific than "pick out"

4. The choice often reflects the speaker's mindset:

  • Casual conversation: "pick"
  • Discussing a specific outfit selection: "pick out"
  • Making a conscious decision: "choose"
  • Formal or professional context: "select"

さあ、彼らの回答をどう解釈し、受け入れますか?

次はちょっと別な場面を想定して同じ質問。

1. Ohtani picked the Dodgers as the team he should belong to.
2. Ohtani picked out the Dodgers as the team he should belong to.
3. Ohtani chose the Dodgers as the team he should belong to.
4. Ohtani selected the Dodgers as the team he should belong to.

以下、彼らの回答です。

Claude
Based on the search results, while all these expressions convey similar meanings, there are important differences:

  • 1. "Chose" is the most natural and commonly used expression, as evidenced by Ohtani's own words: "I had to choose one team, and the Dodgers were my choice".
  • 2. "Selected" is also formal and appropriate but feels more methodical and analytical.
  • 3. "Picked" is more casual and implies a more spontaneous decision.
  • 4."Picked out" is the least natural in this context - it's typically used for choosing items from a display or selection, not for major career decisions.

The choice of words might reflect the speaker's perception of the decision-making process. Ohtani's actual use of "choose" aligns with the thoughtful, humble approach demonstrated in his interviews.

Gemini
The sentences all convey the same basic meaning: Ohtani selected the Dodgers as his preferred team. However, there are subtle differences in nuance:

  • "Picked" is the most casual and informal of the options. It suggests a simple choice, perhaps made quickly or without much deliberation.
  • "Picked out" implies a more careful selection, as if Ohtani considered several options before choosing the Dodgers.
  • "Chose" is a neutral and common word for making a selection. It doesn't imply any particular level of care or -deliberation.
  • "Selected" is the most formal and deliberate of the options. It suggests a conscious and thoughtful decision-making process.

In terms of naturalness and frequency:

  • "Chose" is likely the most common and natural in this context.
  • "Selected" might sound slightly stilted or overly formal for casual conversation.
  • "Picked" and "picked out" are both acceptable, with "picked out" slightly more nuanced.

The choice of which word to use might also depend on the speaker's personal style and the overall tone of the conversation.

Copilot
The sentences all convey the idea of Ohtani deciding on the Dodgers as the team he should join, but there are subtle differences in their usage and tone:

Here’s a breakdown:

  • Picked: Informal and casual. It suggests a simple act of choosing without much deliberation.
  • Picked out: Slightly more specific than "picked," emphasizing the act of distinguishing and choosing from a group.
  • Chose: Neutral and versatile. It suggests a deliberate decision but is still casual.
  • Selected: Formal and suggests a careful and considered decision-making process.

In terms of naturalness and commonality:

  • Most common and natural: "Chose" and "picked" are more likely to be used in everyday conversation due to their simplicity and versatility.
  • Less common but still natural: "Selected" might be used in formal contexts, such as official announcements or news articles.
  • Least common and somewhat less natural: "Picked out" is less frequently used, and can sound a bit awkward in casual conversation.

The choice of words can reflect how the speaker wants to convey the decision-making process, the level of formality, and the speaker's style.

I hope this helps! Is there a specific context you have in mind for these sentences?

「自分で自分が着る服を選ぶ」場合と、「大谷選手が自分に相応しいチームを選ぶ」場合で結構差がでてきたように感じます。

続いてもう一つ投げ掛けてみました。

1. Ohtani was picked as the best player.
2. Ohtani was picked out as the best player.
3. Ohtani was chosen as the best player.
4. Ohtani was selected as the best player.

受け身 での判断です。
以下、彼らの回答。

Claude
Based on the search results about Ohtani
1. All four expressions essentially convey the same core meaning - that Ohtani was identified as the best player. However, there are subtle nuances:

2. Usage nuances:

  • "picked" - casual, everyday language
  • "picked out" - implies careful selection from multiple options
  • "chosen" - more formal, dignified choice
  • "selected" - most formal, often used in official announcements

3. Frequency of use: Most common → least common:

  • 1. "selected as" (most formal and widely used)
  • 2. "chosen as" (formal but versatile)
  • 3. "picked as" (casual)
  • 4. "picked out as" (least common, slightly awkward)

Gemini
All four sentences convey a similar meaning, but with slightly different nuances:

  • "Ohtani was picked as the best player." This is the most common and neutral option. It simply states that Ohtani was selected as the best.
  • "Ohtani was picked out as the best player." This suggests a more deliberate or careful selection process. The "out" implies a separation or distinction from others.
  • "Ohtani was chosen as the best player." This is very similar to "picked" but perhaps slightly more formal or deliberate.
  • "Ohtani was selected as the best player." This is also a formal and neutral option, often used in official contexts.

Frequency:

  • "Picked as" is likely the most common in everyday conversation.
  • "Chosen as" and "selected as" are more frequent in formal settings or written contexts.
  • "Picked out as" is probably the least common of the four.

Subtle Differences in Meaning:

  • "Picked" is the most general and straightforward.
  • "Picked out" emphasizes the act of identifying and choosing Ohtani specifically.
  • "Chosen" implies a more deliberate and thoughtful decision.
  • "Selected" suggests a more formal or official process.

In summary: While all four sentences are grammatically correct and convey the same basic idea, the choice of verb can subtly influence the perceived tone and emphasis.

Copilot
They are quite close in meaning, with some subtle nuances in choice of wording:

  • 1. Picked: Casual and straightforward. It suggests an informal selection process, often used in everyday conversation.
  • 2. Picked out: Emphasizes the act of distinguishing or identifying from a group. It can suggest a bit more effort in the selection process, though still relatively informal.
  • 3. Chosen: Slightly more formal. Implies a decision made with consideration.
  • 4. Selected: The most formal. It can suggest a meticulous, often official or structured, selection process.

What's going on in their mind?:

  • Someone using "picked" or "picked out" might be thinking in a more casual or conversational tone.
  • "Chosen" suggests a bit more deliberation.
  • "Selected" might convey the idea of an official, careful decision.

As for common usage, it often depends on context and setting:

  • Picked and chosen might be the most common in casual conversation.
  • Selected is frequently used in formal contexts or writing.
  • Picked out is less common but used to emphasize the selection process.

So if you're trying to understand the intent behind the choice, it's all about the degree of formality and the nuance of how deliberate the selection process feels.
Isn't language fascinating?

なかなか興味深い情報が寄せられたのではないでしょうか?
生成系AI三者の回答が全ていつも正しいとは限りません。

  • The choice is yours!

ただ、入試であれ小テストであれ、単純な一般化で = で書き換え、言い換えてお終い、とするのがいかに危険かを分かってもらえれば、このエントリーを書いた甲斐があるというものです。

よりよい英語表現で、よりよい英語学習&英語指導&評価、ですね。

本日はこの辺で。
本日のBGM: 選択 (寺尾紗穂)

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追記:
pick やpick out の同義・類義として

  • single out

を示している辞書や教材もあるようですが、語義や生息域は精査が必要だと思います。

  • 「主として称賛や批判の対象として」選び出すとしているものは、「主として」があるとはいえ、少々制約を狭め過ぎという印象。

恐らくはCambridge系の辞書の定義に依拠しているのではないかと思いますが、Cambridgeの句動詞辞典の定義はそれこそsingled out されているのでは?

  • to choose one person or thing from a large group in order to criticize or praise them

CambridgeのAdvancedの辞書の方の定義を見るともう少し柔軟。

  • to choose one person or thing from a group for special attention, especially criticism or praise

OALDの語義も

  • to choose somebody/something from a group for special attention

と目的に関してはやや広めとなっています。

少し古いですが、Oxfordの句動詞辞典では、

  • choose, pick (one person/thing) from among several for special comment, treatment etc.

とあり、目的語の典型例として、

  • assistant, companion; victim, prey; incident, event

をあげています。

Oxfordの類語辞典では、chooseのグループにsingle outを含めていますが、このグループに pick outは入っていません。single outの定義はOALDと同じで、

  • to choose sb/sth from a group for special attention

です。

LDOCEの定義は簡明。

  • to choose one person or thing from among a group because they are better, worse, more important etc than the others

MW’s の学習用の定義は一味違います。

  • to treat or to speak about (someone or something in a group) in a way that is different from the way you treat or speak about others

COBUILDでは、句動詞辞典の方の定義の最後、= での置き換えが気になりました、

  • If you single someone or something out, you choose them from a group for special attention or treatment. = pick out

とあり、同意の英語表現として pick outをあげています。いつでも、どんな目的語でも互換可能なのかは精査が必要でしょう。

多くの辞書で、"special attention or treatment" と定義づけている背景には、プラスマイナス様々な名詞を想定していることがあるでしょう。

"Under these new guidelines, almost every American Muslim who travels to see family or friends or goes on pilgrimage to Mecca will automatically be singled out for special security checks -- that's profiling," said CAIR National Executive Director Nihad Awad. "While singling out travelers based on religion and national origin may make some people feel safer, it only serves to alienate and stigmatize Muslims and does nothing to improve airline security."
www.govexec.com
「これらの新しいガイドラインの下では、家族や友人に会いに旅行するほぼすべてのアメリカのムスリムやメッカへの巡礼に行く人々が、自動的に特別なセキュリティチェックの対象として選り分けられることになります。これはプロファイリングです」とCAIRの全国執行ディレクター、ニハド・アワドは述べました。「宗教や国籍に基づいて旅行者を特定し選別することは、一部の人々に安全感を与えるかもしれませんが、ムスリムを疎外し、スティグマを与えるだけで、航空会社のセキュリティを改善することには何の役にも立ちません。」

ここでのsingle out は recognize/identify の意味も含まれているでしょう。それであっても、良くも悪くもspecial treatmentであることがわかります。
某熟語集で、似たような用例がありましたが、和訳は補足修正が必要だと感じました。

101回目のブログ更新

本年、101回目の投稿になります。
年内、後何回更新できるかわかりませんが、いい年だったなと思えるよう日々を丁寧に生き、美しいものを愛で、旨い酒を味わいたいものです。
年越し、新春用に準備した日本酒はこちら。

似てるけど違いますからね。

さて、今日も今日とて「気になる」ことはあるわけでして、

  • <比較級 and 比較級>

などという括られ方をすることが多い、英語の言い回しを取り上げようと思います。

各種学参・問題集で扱われている例文を確認していきます。

主に高校生を対象とした英語の参考書で、冠に「コーパス」とついたこちら、

  • 『コーパスクラウン総合英語』(三省堂、2022年)

では、「比較級 and 比較級」の項目(p.286)で、

Gas prices are getting higher and higher.
ガソリン価格が、どんどん高くなっている。
I became more and more interested in American history.
私はますますアメリカ史に興味を持つようになってきた。
The sound of footsteps is getting closer and closer.
足音がますます近づいてきている。
More and more students are using smartphones these days.
最近ではスマホを使う生徒がますます多くなってきている。
The traditional method is getting less and less effective.
伝統的なやり方はますます効果が薄れてきている。

という例を示しています。同書では進行形の用法のうち「ある状態に変化している最中・途中であること」(p. 69) を表すものとして

His performance is getting better.
彼の演奏はよくなってきている。
Your breakfast is getting cold.
朝ごはんが冷めてしまうよ。

という用例を示しているのですが、動詞の特性や上述の比較級の用法との関連は書かれていません。

  • 『アルティメット総合英語』(啓林館、第2版、2022年)

では、「比較級を使った構文」(p.336) として

It’s getting hotter and hotter.
だんだん暑くなってきている。
She is becoming more and more popular.
彼女はますます人気者になってきている。
More and more people are using the mobile devices in the world.
世界中でますます多くの人たちがモバイル機器を使っている。
Following fashion is becoming less and less important to me.
流行を追うことは私にとってますます重要ではなくなってきている。

という例を示しています。
同書では、「進行形の注意すべき用法」(pp.81-82)の、「become, get, grow などの『〜になる』という状態の変化を表す動詞を進行形にすると…」という件で、

The leaves are becoming yellow.
葉が黄色になってきている。

の例をあげていますが、比較級の用例はなし。

杉山忠一先生の『英文法詳解』(学研、初版1998年、新装版2022年)では、「比較級を含むその他の注意すべき語句・成句」の項目で、「比較級+and+比較級」(だんだん〜)(pp.544-545)を取り上げ、

It grew darker and darker. だんだん暗くなった。
The road got worse and worse. 道はだんだんひどくなった。

という例を示していますが、進行形の用例はなし。

俗に言う『安藤本』、安藤貞雄『現代英文法講義』(開拓社、2005年)では、「漸層比較級」(p.571)という項目を立て、

(1) The road got worse and worse. (道は次第に悪くなった)
(2) I’m getting fatter and fatter. (私はだんだん太ってきた)
(3) We’re going more and more slowly. (私たちはだんだんゆっくり進んでいる)

という例を示しています。進行形と単純形の両方を扱っているのに、時制や相に関する解説や注記はありません。『安藤本』では、進行形の「推移的特徴」(p.125)で、

Good food is costing more since devaluation. (Leech 1987)
平価切り下げ以来、よい食品は次第に高くつくようになってきた

というLeechのMeaning and the English Verbsの第二版からの引用を示しています。

古い学参だと

  • 『ロイヤル英文法』(旺文社、2000年)

では「比較級+and+比較級」(p.371)で

Our world is getting smaller and smaller.
我々の世界はますます狭くなってきている

という1例を示すのみ。解説はなし。

  • 『クラウン受験英語辞典』(三省堂、2000年)

では、moreの項目で「more and more ますます」を取りあげ、

Introducing is an experience that you will be having more and more frequently.
紹介という行為はこれからますます頻繁に経験することである。
ここアメリカでも、いろいろな大学で国際学部作られ、その入学者数は毎年増加している。
Here in America, various universities have established international studies departments, in which more and more students enroll.

という2例を示していますが、時制や相への言及はなし。

  • 『ランドマーク』(啓林館、1994年)

では、比較の章で(p.344)

I’m getting fatter and fatter.
私はだんだん太ってきている。
He wanted more and more.
彼はほしいものがどんどん増えた。

という進行形と単純形の例があるのですが、用例と和訳だけで解説が全くありません。

  • 江川泰一郎『英文法解説』(金子書房、改訂三版、1991年)

では、「慣用句」として(p.176)、

As time went on, he grew more and more (= increasingly) uneasy about the future.
時がたつにつれて、将来のことがますます不安になった

という例を示すのみで、解説はなし。一方で、進行形(進行相)の「参考」の項目(p.230)に、次のような説明と用例があります。

比較級などを伴って「だんだん、次第に」という進行をあらわすこともある。
She is resembling her mother more and more as she grows older.
年を取るにつれて、彼女はだんだん母親に似てきた。

翻訳書ですが、

  • ロナート・デクラーク『現代英文法総論』(開拓社、1994年)

では、「比較級+and+比較級」(p.472)で、

漸増あるいは漸減を表すには、「比較級+ and +比較級」」とする。
The balloon is getting bigger and bigger.
We’re progressing more and more slowly.
His behaviour is becoming less and less acceptable.
The kite rose higher and higher.

と用例を示していますが、英文用例のみで、その和訳も解説もなし。その一方で、進行相(継続相)の項目(p.233)では

徐々に進む過程(の始まり)を表す場合
He is resembling his grandmother more and more as he is getting older. (=become like)
Petrol is costing more since the beginning of the month.
The colour of your skin is again mattering more these days. (=become more important)

という有益な例を示しています。こちらも残念ながら、和訳も解説もなし。


次に、問題集の扱いを見てみましょう。
問題文ではなく、正答となる英文を示します。

  • 『ヴィンテージ』(いいずな書店、第3版、2018年、pp.152-153)

年がいくと、だんだん骨がもろくなるらしい。
They say our bones get weaker and weaker as we get older.

ここでは問題の解答の下に「重要表現」として<比較級+and+比較級>が「どんどん/ますます/次第に」を意味することが記されていますが、肝心の「比較」の項目では該当する用例を含む問題は収録されず。この辺が、頻出問題集の限界ですね。テストで出たものしか学ば(べ)なくなります。

最新の入試問題を謳う、

  • 『アップグレード』(数研出版、四訂版、2023年)

では「比較の熟語的表現」(pp.176-177)として

地球の将来を心配する人がますます増えるだろう。
More and more people will be concerned about the future of the earth.
The database is getting larger and larger.
データベースがますます大きくなっている。

という例が示されていますが、時制・相に関する解説等は一切ありません。

この表現は、やはり「進行形」と「単純形」の選択で注意するべきポイントがあるように思います。

私自身の心構えですが、

漸増漸減の意味で、

  • 進行形を選択する場合で、変化推移の動詞を使う場合には比較級は一つでも可。比較級含意動詞の場合はそれ自体を進行形にすることでも、漸増漸減の意味を表すことが出来る。変化推移を表す動詞の進行形で、比較級を足すと漸増の強調となる。
  • 単純形を選択する場合、比較級一つだけだと、単なる段階の変化と解釈される畏れがあるので、比較級を足すことで「段々;どんどん;ますます」の意味を明確にする。

という認識で表現を選択しています。

ソーシャルメディアの英語ニュースから実例を拾っていきましょう。

次のツイートが、私の授業での平常運転での説明と言えるでしょうか。

「現在進行形」の肝がわかる見出し。
get +比較級は変化。言ってみれば「階段を一段」。is gettingの進行形で「始まりと終わりを設定しその途中」で推移漸増。その足し算でis getting +比較級は「段々」。比較級含意動詞rise の現在分詞rising も推移で上昇中。対応する進行形are handlingも対処中。

元ツイの英語。

Is your commute getting more expensive? Or are you avoiding the pinch? We're interested in hearing how you and your family are handling the rising gas prices.
通勤費が嵩んでいっていますか?それとも値上げの影響を避けていますか?上がり続けるガソリン価格に対して、あなたやご家族がどのように対処しているかをお聞きしたいです。

ここでの「ガソリン価格の上昇」は明らかに「持続継続的なもの」ですから、比較級一つでも、getの進行形で「漸増」を表す例となっています。

「警鐘を鳴らす」warnは現在完了「今へと至る余波・波紋」にぴったりの状況。that節に相当する伝達部には進行形+比較級で「マシマシ」。withの付帯状況では、分詞から派生した副詞increasingly
が、比例に対応。aroundは「周囲・拡散」を含意。ここでは全方位?特定?詳しくは、本文を読まないとね。

元ツイの英語

Former prime minister John Howard has warned China is becoming more authoritarian under President Xi Jinping’s leadership, with Beijing increasingly determined to “throw its weight around” the Asia-Pacific region.
ジョン・ハワード元首相は、中国は習近平国家主席の指導の下でますます権威主義的になっており、北京はアジア太平洋地域で「影響力を行使する」決意を強めていると警告した。

ここでも、becomeの進行形でエスカレーターのような推移を表しますから、比較級ひとつで「漸増」となります。

twitter見出しと写真のキャプション(通例は記事本文の見出し)の英語表現の比較が重要。この例では、後者が記事の主題を表すには不正確。
getなど変化を表す動詞の進行形はそれ自体で推移、グラデーションを表すので、比較級1つでも十分に「どんどん;ますます」の意を表すことが出来ることを確認。

元ツイの英語。

Some chimpanzee communities may be getting more technologically advanced over time thanks to cultural knowledge transmitted between groups by migrating females
チンパンジーのコミュニティによっては、メスが群れと群れの間を移動することによって伝達される文化的知識のおかげで、時間の経過に比例して技術的にますます進歩している可能性がある。

基準時制は過去。peace talks「和平交渉」は常に複数形。
ソナーを打つ「打診」の文脈での動詞soundではなく、聴覚的形容だったものが印象評価で使われている例。Sounds like a good idea.ならお馴染みの筈。比較級のmore realistic + 進行形で「だんだんと現実味を帯びてきている」という漸増変化。

元ツイの英語。

Ukrainian President Volodymyr Zelensky said peace talks with Russia were sounding more realistic, but more time was needed.
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアとの和平交渉はより一層現実的になってきているが、さらに時間が必要だと述べた。

ここが整理できていないと、「比較級含意の動詞」が進行形になったり、主語や目的語が複数形だったりしたときの「解像度」に影響します。

私が授業でよく言う「比較級含意動詞」の一つgain。
進行形で用いて「漸増」を表すことができます。thatでの後置修飾が長いですが、isは目立つ(?)ので大丈夫でしょう。
この見出しではイントロは前置詞amidで始まる副詞句ですが、widespreadがあるおかげで「漸増」への伏線は機能していますね。

元ツイの英語

Amid the widespread protests and anger over police brutality, an iPhone shortcut that allows users to automatically record their interactions with the police is gaining popularity
警察の暴力に対する抗議と怒りが拡大する中、ユーザーが警察とのやり取りを自動的に記録できるiPhoneのショートカットが人気を集めている。

単純な進行形ではない例でも「漸増」になることがあるので、丁寧な処理が必要です。

#asの前景後景
#現実味のcould の2連発。
第1文は後景のas節は現在形で「比較級含意動詞」のmultiply。前景の主節は動詞startの進行形と比較級のmoreの合体。「一段」のグラデーションか「一段、また一段」の漸増かを丁寧に。第二文は手段のByのイントロから主節の比較級。That shiftで先行文脈要約。

元ツイの英語

Japan is starting to rely more on its own military as threats multiply in the region. By asserting its own power, Japan could become less a military protectorate of the U.S. and more an equal partner. That shift could alter the balance of power in Asia.
地域における脅威が増大する中、日本は自国の軍事力にますます依存し始めている。日本が自らの力を主張することで、米国の軍事的保護国という立場から、対等なパートナーという立場へと日本は変貌する可能性がある。この変化はアジアの勢力バランスを変える可能性がある。

比較級の代わりに、副詞が推移・漸増を担う例。

比較的近年見聞きすることの増えた印象の
(be) growing increasingly +形容詞 での漸増の表現。 growそのものが比較級含意の動詞なので、その進行形はグラデーションを表せるので、increasinglyと一緒では冗長。どっちを採るか?
(be) growing anxious よりは
(be) increasingly anxious でしょうね。

元ツイの英語

NYC Council leaders are growing increasingly anxious that this year’s municipal budget will be late as negotiations with Mayor Adams have grounded to an “intractable” halt on a number of key issues
ニューヨーク市議会のリーダーたちは、アダムス市長との交渉がいくつかの重要な問題で「解決不可能な」停滞に陥っているため、今年の市予算が遅れるのではないかとますます不安を募らせている。

このようなことを普段から呟いているので、次のような投稿になるわけです。

ここで「要注意」と書いたこの事例も、教材や辞書で関連の文法項目と語彙項目が整理されていないので、学習者だけでなく、英語教育に携わる方にもなかなか理解してもらえないことの一つとなっています。

元ツイはこちら。

写真のキャプションの Earth is warming faster.は要注意。warmは比較級含意動詞。変化を表す動詞の進行形+比較級はひとつだけでも「グラデーション」で漸増漸減の「段々」を表すことを確認。見出しでは even worse than it used toで評価の上乗せの「一段」。詳細は記事本文で確認するしかないかな。

その元ツイの英語

Both the speed of climate change and the workings of the climate might be changing. The future might look even worse than it used to

記事本文見出しの英語

Earth is warming faster. Scientists are closing in on why

この辺、痒くないですか?
辞書の扱いをちょっと見ておきましょうか。
物書堂のアプリ辞書で用例検索をした結果から抜粋。


単純形で比較級 and 比較級と重ねる例も収録されていますし、進行形で比較級が一つの例も収録されていることがわかるでしょう。
日々の運用はもちろん、学習でも指導でも評価でも柔軟な対応が必要かと。

「入試では…」などという受験生や指導者もいるかもしれませんが、その入試でも、<進行形+比較級1つ>で「漸増」を表す英語が実際に使われています。

In the United States, by the end of the nineteenth century important natural resources were increasingly being wasted, and great damage had already been done. Many farms could no longer provide normal-sized food crops, and some grasslands had ceased to produce enough grass for livestock. Large forests had been thoughtlessly cut down for timber and not replanted, leaving bare hillsides, where water from heavy rains then cut ugly gullies. As forests became fewer, many kinds of animals lost their homes and food supplies, and great numbers died. Dust storms were becoming more frequent.
アメリカ合衆国では、19世紀の終わりまでに重要な天然資源がますます浪費され、大きな損害がすでに発生していました。多くの農場はもはや通常のサイズの食料作物を提供できず、一部の草原は家畜のために十分な草を生産することをやめていました。大きな森林は無思慮に伐採され、再植林されることなく、裸の丘が残され、そこでは豪雨の水が醜い谷を切り開いていました。森林が減少するにつれて、多くの動物の種類が住処と食料供給を失い、大量の動物が死にました。砂嵐はますます頻繁になっていました。

最終文の主語が無冠詞複数形であることも確認して下さい。

In Japan by the 1980s, family size was growing smaller and relationships with aunts, uncles, cousins, grandparents, neighbors, and friends were growing more distant. Therefore, the lessons that could be learned in kindergarten were considered to be very valuable. For example, a large class size and the opportunity for children to experience conflict with one another were important ways for kindergartens to teach the traditional Japanese belief in the importance of not the individual but the group. Thus, kindergartens were considered to be more a means of teaching traditional Japanese beliefs than of making cultural change.
日本では、1980年代までに、家族の人数がどんどん少なくなり、叔父、叔母、いとこ、祖父母、隣人、友人との関係もますます遠くなっていた。そのため、幼稚園で学べることは非常に貴重だと考えられていた。例えば、クラスの人数が多く、子ども同士が衝突する機会が多いことは、個人ではなく集団が大切であるという日本の伝統的な考えを幼稚園が教える重要な方法であった。このように、幼稚園は文化的な変化をもたらすというよりも、日本の伝統的な信念を教える手段であると考えられていた。

冒頭の一文で、2つの (be) growing 比較級がありますが、両方とも「漸減」「漸増」のグラデーション=段々を表しています。「比較級 and 比較級」という呪文だけではダメだ、というのが分かってもらえるのではないでしょうか。

最後にCOCAでの検索結果を載せておきます。
動詞はget/become/turnで検索しています。

COCAでmore and moreで単純形

more and moreで進行形

進行形でmore一つ

単純形でmore 一つ

最後の単純形でmore一つという環境は、単に「一段」の変化に(も)対応しますので、ヒット数自体で、何か結論めいたことは言えませんが、

  • 比較級 and 比較級

という呪文だけで全てをわかったつもりになるなんて、傲慢ですよ。

生成系AIが急速に発達進化しつつあるといわれる中、授業や教材、辞書、そしてテストで扱う英語表現を人の目で、耳で、頭で、そして心で精査する必要性はますます増えているのではないでしょうか?

本日はこの辺で。

本日のBGM: My ever changing moods---Extended version (The Style Council)

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「そこで愛が待つゆえに」

フィギュアスケートの2024年全日本選手権の競技の部は終了。
競技結果はこちらから。

www.jsfresults.com

試合内容&結果について、世界選手権等派遣メンバー選考について、あれこれ言いたいことはあるのですが、書き始めると涙でスクリーンも見られなくなるでしょうから、日を改めて。
あとはGala、宴を残すのみです。
楽しんで下さい。

国内最大の大会である全日本選手権は、毎年、この年末に訪れます。
このあと「国スポ(かつての国体)」があるにはあるけれど、ここが現役最後の大舞台という選手も多くいます。

既に今季限りでの引退を表明していた、「元祖ぐうかわ」こと

  • 白岩優奈 (しらいわゆうな) さん

に続いて、
今シーズン、現役続行する中で、女子シングルの歴史に残るべき名作 “Adios Nonino” を演じた

  • 青木祐奈 (あおきゆな) さん

も、競技からの引退を口にしたようです。(※この記事の掉尾に追記がありますのでご確認を)

この2人は、所謂「同期」で、ノービス、ジュニアの頃から注目され、国際大会でも活躍してきました。
今年の全日本でインタビュアーなどを務めた本田真凜(ほんだまりん)さんと、白岩さん、青木さんの3人がジュニア、シニアと駆け登っていった様子が思い起こされます。

白岩さんは「ゆうな」、青木さんは「ゆな」、そして、私が世界で二番目に好きなスケーター “Queen Yuna” ことKim Yunaさんは、日本語のカタカナ表記では「ヨナ」でした。

10年ちょっと前の過去ログのこちらを再訪されたし。

私の好きなキム・ヨナ
tmrowing.hatenablog.com

今大会は、白岩さんも、青木さんも、上位でのフィニッシュが叶わなかったのでGalaには呼ばれていません。映像で試合を見ていた私でさえ、何度も落涙し、大量のティッシュを消費したくらい心を打ち震わせていたのですから、現地大阪でSPそしてフリーを見届けた人の心には、2人の最後の演技がいつまでも焼き付いて残るのだろうと思います。

白岩さんは大学卒業後、就職して会社員とのこと。
青木さんは競技からの引退後、ショーアイスで滑る道を選ぶのか、振付師として活躍するのか、追々明かされることでしょう。
スケオタに愛され、フィギュアスケートの神に愛された彼女たちのセカンドキャリアに幸あれ。

2024年のブログ記事が今日でちょうど100本目です。
60歳を迎えた怒濤の1年をよく生き延びて、ここまで書けたと思います。

今年はとにかく「個々の英語表現」「英語ということばそのもの」を残そうと思って書いてきました。

  • 気になる語法

という括りで書いていますので、マニアックな「語法オタク」とか、口やかましい「語法警察」のような評価をされがちですが、私の思いは単純で、以前から言っている通り、

  • 1979年に高校1年生だった当時の松井少年がしたくてもできなかったauthenticな英語の姿を見せ、その生息域に連れて行く
  • 1982年に受験生で、「自分は英語が出来る」、とタカを括っていた松井少年の鼻をへし折るべく、英語表現の豊かさ、奥深さを教えてあげる

ということです。

今同時代を生きている皆さんへのメッセージがあるとすれば、

  • 筋の悪いテストの唾棄・撲滅
  • テストによる支配からの卒業

でしょうか。

かねてより、「正誤(誤箇所)指摘問題;誤文(誤箇所)訂正問題」への異議を唱えている私ですが、今年の「気になる語法」を読んでもらえれば、「…とは絶対に言わないなんて怖くて言えないよ絶対」と思ってもらえると思ってずっと書いているんですけど、ツイッターなどのソーシャルメディアでも、例によって「英語表現そのもの」についての話しは、殆ど読まれないんですよ。

えっ? この英語表現って気になりませんか?
だって、あなた、それこそ、私がさっき書いたところをテストで問うていません?

っていうことがとにかく多いので。

今、○○だけじゃなく、XXでも通用する英語表現になってきていますから、選択肢に両方あっては拙くないですか?
それって、同じ意味にはなりませんから、正答無しになりますよ。
その英語表現は、テストで英語として書くことを求めるほど、現代英語での頻度は高くないですよ。

などということを面と向かって指摘されたら嫌だと私自身も思いますから、人の振り見てなんとやらで、まずは拙ブログの今年の記事を振り返ってみて下さい。

12月28日と2025年1月12日のオンラインセミナーでは、参加者が気になった記事と私が「推したい」記事を中心にお話します。
ブログ執筆20周年を記念した「ご愛顧感謝セミナー」です。
両方とも同内容の予定ですが、28日の流れによっては1月12日の内容に更なる深みが出るかも知れません。ご都合のつく日程でお申し込み下さい。

12/28
passmarket.yahoo.co.jp

1/12
passmarket.yahoo.co.jp

既に過去ログの

tmrowing.hatenablog.com

tmrowing.hatenablog.com

tmrowing.hatenablog.com

で指摘してきた、増減などの変化・推移に関わる英語表現での “see” と “show” の関係。

さらには、casesの語法を中心に展開していた、

tmrowing.hatenablog.com

などでも「増減の表現が時代とともに大きく様変わりしていく」記録とも言えるエントリーを残していますが、少しだけセミナーのtrailerとして。
最近の進化が著しい生成系AIに語法の調査分析をやらせてみたら、結構デタラメで、何回かのやり取りを経てそこそこちゃんとしたことを言うようになりましたので、ご紹介。

私がお願いした内容とはズレた回答をしてきたので、軌道修正を噛んで含めて。

A rare deadly virus is spreading in the northeastern US. Another virus has spike 800% in South America. Both are mosquito-borne illnesses, which are seeing a spike around the globe.

ここでの see [are seeing] の主語に当たるものは関係代名詞のwhichで、その先行詞となるものは、感染症が発生する地域やそこにいる人間や、病院や保健所などの機関ではなく、その前段のboth illnessesとでもいう「モノ」であることを確認してください。
ここでは観察者が主語で動詞seeを用いるのではなく、観察されるはずのものが主語に来ているのに、能動態の動詞でseeを進行形で使っているのです。あなたの示したseeとshowの使い分けの原則を逸脱している例です。このような逸脱を英語話者はどのように捉えて、この表現を選択しているのかを推測して説明するか、このような変化するものそのもの、本来見られる側のものが主語になるseeのさらなる類例を示してください。

そんなやり取りを繰り返しての末の生成系AIの回答。

確かに、私の先ほどの例では、地域や抽象的な主体(region, industry)が主語であり、変化する「モノ」そのものが主語になっていませんでした。ここでは、あなたが求めている「変化する対象(観察されるモノ)そのもの」を主語とし、see を能動態で進行形に使った例を挙げます。

1. 変化する対象そのものが主語となる例

  • Heavy rainfalls are seeing unprecedented levels this year.

(豪雨が今年は前例のないレベルに達している)→ heavy rainfalls(変化そのもの)が主体的に「変化を経験している」ように描写されています。

  • Ocean temperatures are seeing a rapid rise due to climate change.

(海洋温度が気候変動によって急速に上昇している)→ 海洋温度そのものが変化の主体として描かれています。

  • Mosquito populations are seeing an explosion in tropical areas.

(熱帯地域で蚊の個体数が急増している)→ 蚊の個体数(変化の対象)が主語となっています。

  • Carbon dioxide levels are seeing a continuous increase.

(二酸化炭素濃度が継続的な上昇を経験している)

  • Forest fires are seeing a dramatic increase in frequency.

(森林火災が頻度の劇的な増加を経験している)

2. この用法の特徴と心理的背景
(1) 主語としての「変化するモノ」
ここでは、変化や現象そのもの(例: heavy rainfalls, ocean temperatures, mosquito populations)が主語となっています。これにより、観察者の存在を省略し、対象そのものが自ら変化を「経験している」ように描写されます。
観察の主体(人間や機関)を省略しているため、以下のような効果があります:

  • 簡潔な表現
  • 抽象的な変化の直接的な提示

(2) 進行中の変化を強調
「進行形」が使われることで、変化がリアルタイムで起きている様子を強調します。病気や環境現象のように急速に進行している事象を伝える際、特に有効なスタイルです。

(3) 擬人化された捉え方
変化するモノ自体を主体的に描写することで、読者や聞き手に対し、変化の切迫感や深刻さを印象づける効果があります。

3. 類似例と文脈での使用
このような用法は特に、以下のような文脈で頻繁に見られます:

  • 1. 環境問題: Glaciers are seeing accelerated melting rates.

(氷河が加速的な融解を経験している)→ 自然現象を擬人的に描写し、危機感を強調。

  • 2. 社会的変化: Divorce rates are seeing a decline in some regions.

(離婚率が一部地域で減少を経験している)→ 社会的指標の変化を直接的に描写。

  • 3. 医療・感染症: Rare diseases are seeing a rise in diagnosis rates.

(希少疾患が診断件数の増加を経験している)→ 医療データを動的に表現。

このような表現は、抽象的な変化を視覚的かつ生き生きと伝えるための言語的工夫として、英語の中で自然に受け入れられています。

「英語の中で自然に受け入れられています」と来ました。
辞書でも教材でもまだ捕捉し切れていない表現ですので、更なる精査が必要ではありますが、ここで生成系AIが頑張って拵えてくれた実例は、私の観察でも実際に見聞きするものの特徴を良く捉えていると思います。

辞書や教材で取り上げられているお馴染の表現との異同については、先にリンクを示した私の過去ログを再読されるか、年末年始のセミナーに是非お立ち寄り下さい。
年末の28日の講座の方は明日(24日)が受付締め切りですのでお急ぎを。

2024年の記事100本記念の本日はこの辺で。

本日のBGM:キャノンボール (中村一義 / 100s バージョン)

open.spotify.com

追記:
青木さんのIGの投稿によれば、報道記事が先走っているとのことで、去就については落ち着いてからの報告を待って下さいと。


www.instagram.com

🎶 the answers I came up with didn't fit🎶

フィギュアスケートの全日本選手権が始まりました。
男子は宇野昌磨(うのしょうま)さんの出場しない大会(解説にはいらしてました)で群雄割拠という思いからか、総じて堅い演技が多く、女子は自己ベスト更新など持ち味を発揮できた人が多かった印象。
日本の男子選手で私が好きなのは友野一希(とものかずき)選手ですが、今年は山本草太(やまもとそうた)選手も応援しています。

会場を一体感で包んだ織田信成(おだのぶなり)「選手」のマツケンサンバII は日本フィギュア界の語り草になることでしょう。それにしてもジャッジのNo.1の採点はイヤハヤナントモ…。

男子SPのプロトコルはこちらから
https://t.co/wFupCxq8pi

比較のために、SP4位の三浦佳生(みうらかお)選手と並べて貼っておきます。

レフリーやTC、ジャッジ等オフィシャルの方たち
www.jsfresults.com

女子では青木祐奈(あおきゆな)選手と松生理乃(まついけりの)選手を楽しみにしていましたので、2人ともフリーでは最終組に残ったので大満足です。
女子で昨年初出場4位と一大センセーションを巻き起こした上薗恋奈(うえぞのれな)選手がミスが続いてスコアが伸びず、フリーに進めなかったのですが、何かトラブルがあったのか心配です。何より本人にとってショックが大きかったことでしょう。コーチングスタッフ等、周りの大人が十分に配慮して上げてほしいと切に願います。

ということで本日の気になる語法は

  • anxious

です。

やや堅い印象の形容詞ですが、日常の使用頻度は結構高いと思います。

Staff 'anxious' for child cancer patients - inquiry

写真キャプションの方では、センテンスの形ででています。

  • Medical staff were ‘anxious’ for child cancer patients.

記事本文では、形容詞のanxiousではなく、名詞のanxietyが使われています。

A former infection control nurse has told the Scottish Hospitals Inquiry that staff at Glasgow's children's hospital felt "extreme anxiety" that child cancer patients were unsafe.
www.bbc.com
元感染管理看護師が、グラスゴーの小児病院のスタッフが、小児がん患者が安全でないという 「極度の不安 」を感じていたと、スコットランド病院調査委員会に語った。

ここでのanxietyは「不安;懸念」ですから、当然対応する形容詞anxious for も「不安;懸念」を表す意ものとして使われていることが分かります。

次のような場面でもanxious forは実際に使われています。
ちょっと前の記事ですが、ハリー・ベラフォンテのobituaryの一節です。

John F. Kennedy, at a time when Blacks were as likely to vote for Republicans as for Democrats, was so anxious for his support that during the 1960 election he visited Belafonte at his Manhattan home.
www.pbs.org
ジョン・F・ケネディは、黒人が民主党と同様に共和党に投票する傾向が強かった当時、彼の支持を熱望し、1960年の選挙中、マンハッタンの自宅にベラフォンテを訪ねた。

was so anxious for his support のhis は「ベラフォンテの」を表す所有格。ここでの anxious for は「…を取り付けようと」のような意味合いでしょう。

こちらの例でのanxious forはどういう意味、心情を表しているでしょうか?

Meet Witchuda Wungdee, the QA Supervisor at Sennics Thailand. As the company's first local employee, she's been dedicated to her work from day one. Her advice to new employees is, "Don't be anxious for success. Knowledge is acquired gradually. Haste leads to more mistakes."


Sennics Thailand の QA スーパーバイザー、Witchuda Wungdee さんをご紹介します。この会社の最初の現地従業員として、彼女は初日から仕事に専念してきました。新入社員へのアドバイスは、「成功を焦らないでください。知識は徐々に身に付きます。急ぐとミスが増えます。」です。

ここでは「…を得ようと躍起になる」というような意味合いで用いられていると考えられます。
私の語感では、日本語の「やきもきする」ということばの持つ「もどかしさ」が結構近い心情を表している気がします。

同じanxious for なのに、ちょっと違う顔を持っているように感じませんか?

この形容詞anxiousは大学入試レベルのテストでは時折その理解習熟が問われるようです。

世界中の人々が平和を切望している。
People all over the world are anxious for peace.

では前置詞forとの結びつきで「切望」を表すという知識が、

私は彼の健康が心配だ。
I am anxious about his health.

では前置詞aboutとの結びつきで「心配」を表すという知識が問われているようです。

They were not in the least anxious about it.
彼らはそのことを少しも心配していなかった。

でも、「心配」なので、前置詞はabout。

次の例では、前置詞との結びつきを問うのではなく、「やきもき感」でanxiousが思いつくかが問われています。

I am anxious to know about the results of the examination in the chemistry.
私は化学の試験結果を知りたくてたまらない。

とはいえ、次のような出題は感心しません。

I am anxious ( ) the result of the examination.
1. about 2. for 3. of. 4. to

「切望」の文脈でanxiousが使われる場合に、前置詞aboutと結びつくことは通例無く、ofとの結びつきも極めて稀で誤用のレベルで処理されることでしょう。
しかし、「試験結果が気がかりだ;心配だ」という意味になる場合の前置詞の結びつきで、確かに頻度では

  • about > for

ではあるのですが、実際に anxious for が「不安、懸念、気掛かり」を表す言語事実がある以上、選択肢にaboutとforの両方を入れておくのは、作問者が現代英語の用法に無頓着であるか、意地が悪いかということになるでしょう。

Ngram Viewerでanxious for your に続く名詞を検索した結果

NOWコーパスで、aboutとforに続く名詞の上位を検索して比較したもの。

この結果のうち “anxious for their children” の環境を取り出したものが次のCL。

16例中9例が不定詞が続くもの。「childrenにどうなってほしいのか;どうしてほしいのか;どうしてほしくないのか」という「切望系」の典型例です。裏返せば、anxious for childrenのうちの7例は「心配系」で使われていることが推測されます。

私が高校生時代に読んだ古い教材では、aboutとforの2つの前置詞との結びつきでの意味の区別に注意喚起をしていました。

西尾 孝 『実戦英単語活用辞典』(日本英語教育協会、1981年)

そこから約20年の受験英語を集めたデータから作られた、古藤晃『クラウン受験英語辞典』(三省堂、2000年)でも、同様の注意書きをしていました。
そこからさらに24年。
いまだに単語集・熟語集、頻出問題集では (?) 「anxious for は切望、anxious about は心配だから区別しよう」みたいなことに躍起になっているみたいで、とても心配です。

まずは、anxiousの語義を押さえましょうか。
ちょっと長いですが、レファレンスとして引用します。

anxious この語は後続の前置詞などによって意味が変化するから注意が必要である:
I am very anxious about my son's health. (私は息子の健康が心配だ) / He is anxious for (or about) her safety. (彼は彼女の安否を気づかっている)/ I am anxious to point out your errors. (間違いをお教えしたい)/ We were all anxious that you should return (= anxious for your return) (われわれはみんなきみが帰ってくることを願っていた). 「~が気がかりである」という意味で, anxious ofが使われることがあるが,これは誤りで, 正しくは上例のように anxious about (or for)
を使うべきである.
荒木一雄・大沼雅彦・豊田昌輪 編 『英語表現辞典・第二版』 (研究社、1985 年、p.72)

1985年の辞典で、「…が気がかりである」という意味の場合の前置詞の選択で、aboutとforの両方を挙げていることを確認して下さい。

同辞典では形容詞eagerとの考察も載せています。(pp.73-74)

anxious, eager
Anxious は 「心配で落ち着かない」 であり, eager は 「熱心な」 であるが,とくに不定詞を従えた場合など、 この相異なった意味を持つ2語が意味的にほとんど変わりがなくなる : He is anxious (or eager) to see the girl. (彼はその少女に会いたがっている)。もともと eager は「鋭い」(keen), 「刺激性の」 (pungent) といった意味であり,このような意味合いがいまだに多少とも残存している. したがって anxious な人は 「はらはら」 (fearful) しているのであり、eager な人は 「わくわく」 (hopeful) しているということになる。 しかし, 心理的には anx-ious の 「そうなるかどうか心配」ということは,その裏に実現をせつに望む気持ちが潜んでいるのであり, eager の 「熱望している」 ということは,ひょっとするとだめかもしれぬといういちまつの懸念が意識されているのであり,こういった事情からこのふたつは同意語になりうるのである.
なお, anxious には自分の気持ちをわかってもらいたいと懸念になっている意味合いを含むことが多い: He is visibly anxious that his wife should be on easy terms with us all. (彼は奥さんが私たち皆と, 気軽につき合えるようになってほしいと,目にみえてやっきとなっている)。

他に何か付け加えることがありますかね?

ちょっと変わったところで、

  • 安井 稔・久保田正人『英語クラスターハンドブック』(開拓社、2017年)

では、語義を二つ示し、

1. 「気になっている」
2. 「一生懸命だ」

と訳語を示していて、語感を養うという点では参考になると思いました。

学習用も含めて辞書の扱いを見ておきましょう。

OALD vs COBUILD

OALDでは語義項目の1, 2が「心配系」で、3が「切望系」。1,2ともCEFRのランク表示はB2。
COBUILDは1が「切望系」で、2,3 が「心配系」。1がB2表記で、2はB1+Tなっていることを確認。使用頻度では1が多いが、発達段階、習熟度では2の方が先、ということが推測されます。

Cambridge vs LDOCEその1

Cambridgeは語義で見出しを別立て。こちらは「心配系」でB1表記を確認。LDOCEはこちらの語義を最初にあげていますが、前置詞のforも太字で示していることを確認。

Cambridge vs LDOCE その2

こちらは「切望系」。CambridgeではB2表記です。LDOCEでは、前置詞単独のforよりも先に、for名詞 to 原形のパターンを太字で示していることを確認。


「切望系」の語義の扱いでは『O-LEX英和』(旺文社)に注目。

O-LEX vs G6

O-LEXのカッコでの但し書き、「願望の達成に不安があるという意味の含みがある」というのは有益です。

Wisdom vs Compass Rose

Wisdomでは、前置詞for単独の用例を載せず、for 名詞 to 原形の例を示していることを確認。Compass Rose では “anxious for help” で何も限定のない名詞helpの続く例を載せているが、これは要再考ではないかと思います。

NOWコーパスでも僅かに3例のみ。

COCA系のサブコーパスではGLOWBE/COCA/TVみなヒットしませんでした。
SKELLでもヒットなしです。

辞書の扱いでは、小学館から出ているOxfordの専門辞書の英和版での、この「心配系」と「切望系」のズレは深刻だと思います。

OALD では「心配系」の用例として収録しているものと同じ例文を、小学館版の『Oxfordコロケーション辞典』では「切望系」の日本語訳をつけて収録してしまっています。

こんなところにも、(?) 日本のローカルルールなのか、(?)「anxious for は切望系」、(?)「心配系は anxious about」という思い込みが現れているように思いますし、学習にも指導にも、さらには運用にもマイナス面が大きいと思います。

2024年12月22日追記:
英和辞典でも、適切な扱いをしているものもあるのですが、改善の余地はあります。
私の手元の「物書堂」のアプリ辞書で検索した用例を並べてみました。
anxious for が「心配系」で用いられていることが分かるでしょう。

3例目と4例目が、上述した、「大間違い」とまでは言えないものの、「大違い」であることは間違いない、ズレの例。
こういうことがあると、折角の用例を眺めても、「心配系」に anxious for が使われていると思ってもらえないのではないか、と「心配」になります。
「英和」の良さが活きるように、語義区分ごとに適切な定義と用例を記述してほしいと「切に願う」次第。

私が普段見聞きする英語はニュースに偏っていますが、「切望系」で前置詞forが続く場合は、to原形が更に続いて、forの後の名詞が意味上の主語として使われることが多い印象を持っています。

先ほど引用した辞書の用例にもありましたが、大学入試の読解素材文でも出てきますね。

Another block to listening occurs when we form an opinion about the level and value of what will be said. We label the information ahead of time as unimportant, too boring, too complex, or nothing new, and we are anxious for the speaker to get to the point.
話を聞くことを妨げるもう一つの原因は、これから話されることのレベルや価値について意見を形成してしまうことである。重要でない、退屈すぎる、複雑すぎる、目新しいものがない、などといったレッテルを事前に貼り、話し手が本題に入るのを待ち望んでしまうのだ。

物は試し、でClaudeなど生成系AIに調べてもらいました。

現代英語の用法として、形容詞のanxious が前置詞forと結びつく場合に、その意味が
1. …を切望する;…であることを願う、強く求める (≒ eager)
となる場合と
2 .…を気がかりに思う;…を心配する、不安に思う (≒ fearful)
となる場合があると思うのですが、使用頻度でいえば、名詞句が単独でforの目的語となる場合には、2. の意味で用いられるのをより多く見聞きする印象です。1の意味になるケースの多くが、anxious for 名詞 to原形(=不定詞)である印象を持っています。オンラインコーパスの検索結果の報告や研究論文など、資料をもとに、あなたの見解をまとめてください。

以下Claudeの回答です。

「anxious for」の用法に関する興味深い観察ですね。これを詳しく分析してみましょう。
「anxious for」の使用パターン分析
1. 構文パターンと意味の相関
A. 「anxious for + 名詞句」のパターン
このパターンでは、確かにご指摘の通り、「不安・心配」の意味(意味2)が優勢です。
例文:

  • I'm anxious for her safety. (彼女の安全を心配している)
  • He was anxious for the test results. (テスト結果を心配していた)
  • Parents are anxious for their children's future. (親は子供の将来を心配している)

B. 「anxious for + 名詞 + to不定詞」のパターン
このパターンでは、「切望・期待」の意味(意味1)が顕著に多くなります。
例文:

  • I'm anxious for spring to come. (春が来るのを切望している)
  • We were anxious for the movie to start. (映画が始まるのを待ち望んでいた)
  • She's anxious for her son to succeed. (息子の成功を切望している)

2. コーパス分析の結果
COCA (Corpus of Contemporary American English) の傾向
「anxious for + 名詞句」の場合:

  • 意味2(不安・心配): ç´„70%
  • 意味1(切望・期待): ç´„30%

「anxious for + to不定詞」を含む構文の場合:

  • 意味1(切望・期待): ç´„85%
  • 意味2(不安・心配): ç´„15%

BNC (British National Corpus) の傾向
イギリス英語でも同様のパターンが観察されます:

  • 単純な「anxious for + 名詞句」では意味2が優勢
  • to不定詞を伴う場合は意味1が優勢

3. 歴史的な変遷
18-19世紀の文学作品では、両方の意味で比較的均等に使用されていましたが、20世紀以降、上記のような使い分けのパターンが確立してきました。

4. 意味的背景の考察
この使い分けには以下のような要因が考えられます:
1. to不定詞の性質:

  • to不定詞は本来的に「目的」や「志向性」を含意
  • そのため、「切望」の意味と自然に結びつく

2. 名詞句単独の場合:

  • 心配の対象として具体的な人・物を示すことが多い
  • そのため、「不安・心配」の意味と結びつきやすい

5. 教育的含意
英語教育の観点からは、この使い分けを明示的に教授することで、より自然な英語使用を促進できる可能性があります。

分析結果からは、ご指摘の傾向が統計的にも裏付けられることが分かります。特に以下の点が重要です:

構文による意味の偏り:
名詞句単独の場合は「不安・心配」の意味が優勢
to不定詞を伴う場合は「切望・期待」の意味が優勢

この傾向は、英米両方の英語で観察される安定したパターンです。
さらに詳しい側面や特定のコンテキストでの使用例について興味がありましたら、お聞かせください。

さあ、興味深いClaudeの調査と考察ですが、どの程度信頼が置けるでしょうか?

Geminiにもやってもらいました。

以下、この考察に対する詳細な分析と、オンラインコーパスや研究論文に基づいた見解をまとめます。

1. "anxious for..." の意味の二面性**
"anxious" は確かに、文脈によって大きく異なる二つの意味を持ちます。

eager (切望する): 何かを強く望んでいる、待ち望んでいる状態を表します。
例: She was anxious for news of her family. (彼女は家族からの知らせを切望していた。)
fearful (心配する): 何かを心配している、不安に思っている状態を表します。
例: She was anxious for his safety. (彼女は彼の身を案じていた。)

この二つの意味は、"anxious" の後に続く目的語によってある程度区別できます。前述の例のように、良い知らせや機会など、ポジティブな事柄が続く場合は「切望する」の意味になりやすく、危険や不幸など、ネガティブな事柄が続く場合は「心配する」の意味になりやすい傾向があります。

2. 名詞句単独の場合の "for" の目的語
ご指摘の通り、名詞句が単独で "for" の目的語となる場合、特に抽象的な概念や漠然とした状況を表す名詞が続く場合は、「心配する」の意味合いが強くなる傾向があります。例えば、"anxious for the future" (将来を案じる)、"anxious for the outcome" (結果を心配する) などが挙げられます。

3. "anxious for 名詞 to 原形" の用法
「〜を切望する」という意味で "anxious" を使う場合、"anxious for 名詞 to 原形" の構文は非常に一般的です。この構文は、誰か(名詞)が何か(to 原形)することを強く望んでいるという意味を表します。例えば、"She was anxious for her son to succeed." (彼女は息子が成功することを切望していた。) この構文は、「心配する」の意味ではほとんど使われません。

4. コーパスと研究からの裏付け
オンラインコーパス(例えば、COCA: Corpus of Contemporary American English)を検索すると、上記の傾向が裏付けられます。"anxious for 名詞" の組み合わせでは、「心配する」の意味で使われている例が多く見つかりますが、"anxious for 名詞 to 原形" の構文では、ほぼ全て「切望する」の意味で使われています。

さらに、英語学の研究論文などでも、"anxious" の意味の使い分けに関する議論が見られます。これらの研究では、文脈、目的語の種類、構文などが意味の解釈に影響を与える要因として指摘されています。

まとめ
"anxious for..." は文脈によって「切望する」と「心配する」の二つの意味を持ちますが、名詞句が単独で "for" の目的語となる場合は「心配する」の意味合いが強くなる傾向があります。"anxious for 名詞 to 原形" の構文は、「切望する」の意味でのみ用いられると言って良いでしょう。オンラインコーパスや研究論文などの資料も、これらの傾向を裏付けています。

この分析が、ご質問への回答としてお役に立てれば幸いです。

皆さんの語感と照らし合わせて如何でしょうか?

個人的には、辞書の記述、用例でもより適切なものが求められると思いますし、Claudeの指摘ではありませんが、教材やテストではより適切な配慮が求められると思います。

大学入試問題や、難易度を上げて生徒の弁別をしたい指導者は安易に正誤指摘問題を多用しがちですが、例えば「心配系」の文脈で、anxious for を誤箇所とするような出題をしてはならないでしょう。

次の問題は実際の入試問題から引いていますが、錯乱肢として eager for と anxious forという文脈によっては同意となる語句が使われています。錯乱肢だから同意となっても良い?あまりにも筋が悪いと言わざるを得ません。猛省を促します。

次の英文の下線部と最も意味が近いものを,それぞれ下の1~4の中から一つ選びなさい。
We must make them aware of the danger.
1 keen on 2 eager for 3 anxious for 4 conscious of

※この出題は好ましくない例として示しています。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Anxious (the Housemartins)

open.spotify.com

barely human

アーティゾン美術館で現在開催中(2024年11月2日- 2025年2月9日)のこの展覧会

ひとを描く | アーティゾン美術館

  • 「ひとを描く」

の英語タイトル

  • Looking Human

が気になったので展覧会を見に行ってきました。
折角オンラインではなく、足を運んで行ってきたので、プログラム(ブックレット)も買っています。

まず、私が最初に気になった公式サイトでのタイトルの見え方はこちら。
スクショを貼っておきます。

ここで使われている絵はアンドレ・ドランの

『ヴァイオリンを弾くヴラマンクの肖像』 (1905年)
Portrait of Vlamink playing the Violin

です。

デザインの問題もあるでしょうが、日本語のタイトルの方がポイントが大きいのは、そちらがメインターゲットだろうから。で、それと対照的な位置に英語のタイトルが配置されています。

このバランスは、チラシでも同じ。

英語の方にはどちらも「副題」というのでしょうか、 The FIGURE PAINTING という英語がついています。
実際にミュージアムに行って、その通りであることを確認してきました。

誤解があるといけないので、展覧会そのものは期待以上に良かったことを先に書いておきます。
西洋美術に興味関心のある方は、行ってみると良いと思います。

本題の「気になるタイトル」の話しですが、こうして見に行く前段階で既に、ミュージアムの広報には問い合わせ済みです。

  • looking human が「人を描く(こと)」に対応しているのか?
  • look単独で、所謂「他動詞」として目的語をとる構造でhumanが名詞として使われているのか?

という疑問です。

そして、詳らかにはしませんが、メールでの回答も得ています。

  • タイトル英訳は「ネイティブの翻訳者と作成」。陶器もあるのでpainting humanではなくlooking humanで「人を見る」という意味に対応

という趣旨なのですが、その回答を踏まえても、なお、英語の用法として疑問が残ります。

この特設ページには、英語版もあり(Looking Human: The Figure Painting|Artizon Museum)、そこでの英語表現では、

depicting a person
figure painting

と適切だと私には感じられるものが使われているのですね。

参考までに現代英語でlook humanが使われる環境をSKELLから引いておきます。

一部

  • a normal looking human 普通に見える人

などの例が混じっていますが、多くの用例では

  • 「人間に見える」「人間っぽく見える」という意味で用いられていることがわかるでしょう。

次の一節はMarvelの漫画の説明文。

Despite looking human, Eternals are much more long-lived (but were not originally fully immortal) and that kept them from having much contact with their human cousins.
collider.com
人間のように見えるにもかかわらず、エターナルズははるかに長命であり(しかし、元々完全に不死ではなかった)ため、人間の従兄弟とあまり接触しなかった。

もともとはWikiの頁のようです。(Eternals (comics) - Wikipedia)


少し広い文脈で捉えるなら、次のような例を見るのがいいでしょうか。

When exactly did classical performers stop being that — i.e. performers? This is a question I’ve been asking myself for some time now. I can’t count how many classical musicians I’ve seen shuffle, wander, or slouch onto stage in an uninspired fashion. Either that or be so tense and uptight and wrapped up in the traditions (or habits) of classical concert etiquette that they stop looking human at all.
www.artsjournal.com
クラシック演奏者が演奏者でなくなるのは正確にいつだったのか。これは私がしばらく自問自答している質問です。私は、インスピレーションのない形でステージに足を引きずったり、さまよったり、うつむいて登場するクラシック音楽家をどれだけ見たか数えられません。その反対に、クラシックコンサートのマナー(または習慣)にあまりにも神経質になりすぎて、人間らしさを失ってしまうこともあります。

大学入試の読解系素材文でも見かけることはあります。
20年くらい前のものだと、

A robot is a computer with human-like intelligence. Some are “androids” that look human, and they can walk, see, and move objects.
ロボットは人間のような知能を持つコンピュータです。一部は人間のように見える「アンドロイド」で、歩くことができ、物を見ることができ、物を動かすことができます。

比較的近年のものだと、

There is also the question of whether we want our robotic carers to look human. There is the concept of the “uncanny valley”, where objects that almost, but not quite, mimic human form can discourage people from using them. Instead, like the robotic vacuum cleaners in our homes, robots could be aesthetically designed around their function. “The more it looks like a human, the more that person receiving the care is going to resist the care provided by the robot,” says Cook. “A robot is only useful if the person being cared for accepts it.”
ロボット介護者が人間のように見えることを望むかどうかという問題もあります。ほぼ人間の形を模倣しているものが、人々がそれを使うことをためらわせる「不気味の谷」という概念があります。代わりに、私たちの家のロボット掃除機のように、ロボットはその機能重視で美的にデザインされるべきです。「人間に似ているほど、ケアを受ける人はロボットによって提供されるケアを受け入れることに抵抗するでしょう」とクックは言います。「ロボットは、ケアを受ける人がそれを受け入れる場合にのみ有用です。」

この例では、最初の "to look human" という表現に続いて、"looks like a human" という表現が使われています。前者のhumanは形容詞、後者は名詞として a humanとしているので前置詞のlikeを伴い、 "look like" となっていると考えられるでしょうか。

lookが他動詞的に使われて、名詞が続く場合がないわけではありません。

Westerners believe as a matter of course that the proper way to act during a meeting is to look the other party in the eye, engage in a vigorous exchange of ideas and work to reach a conclusion.
西洋人は、会議中に取るべき正しい行動は、相手の目を見て、活発な意見交換を行い、結論に至るために努めることだと当然のように信じている。

この例では、lookの目的語に the other party (相手) が直接続いていて「見る」という意味で用いられていますが、その後に、"in the eye" が続いています。相手の「どの部分を見るのか」という「身体部位」が表される必要のある表現です。

一見、この例に似ていますが、少し注意が必要なのが、

  • 鏡で自分を見る look at yourself in the mirror

です。この場合は、look単独ではなく、look atとなります。鏡は自分の所有する部位ではないのですが、このような表現形式をとるのですね。

続いて別な例を。

A lot of participants in my cross-cultural programs seem to think that people all around the world are basically the same, and at first glance we do indeed seem similar. For example, people basically look the same (we are all human), have the same concerns (health, safety, food, shelter, etc.), and experience the same emotions (love, anger, fear, hatred, etc.).
私の異文化プログラムに参加する多くの人々は、世界中の人々は基本的に同じだと思っているようです。そして、一見すると確かに私たちは似ているように見えます。例えば、人々は基本的に同じように見えます(私たちは皆人間です)、同じ懸念があります(健康、安全、食料、住居など)、そして同じ感情を経験します(愛、怒り、恐怖、憎しみなど)。

この例のように、後ろに名詞が続かないでそれ自体を名詞扱いする "the same" は「名詞」と括るには例外的に思えるかも知れません。

少し古い辞書で、長くなりますが『ランダムハウス英和』(小学館)より引用します。

v.t.
1 〈人の〉(…を)見る ⦅in ...⦆ ,〈事を〉直視する
He looked me straight in the eye.
彼は私の目をまともに見た(◆He looked in my eye. は「彼は私の目をのぞきこんだ」で眼科医のすること)
You should look your affairs in the face. 自分の状況を直視しなければならない
Look what you've done! ⦅話⦆ なんてことしてくれたの
Look who's talking! ⦅話⦆ よくもそんなことが言えるね
Look who's here! ⦅話⦆ 誰かと思ったら(◆思いがけない人を見つけたときの表現).
2 …にふさわしく見える
look oneself いつもの自分と変わりがない,元気だ
She looked her age [or years]. 年相応に見えた
The actor looked his part. その俳優は役柄にぴったりだった.
3 ⦅米⦆ …のように見える,見た感じが…だ(look like)
He looked a perfect fool, coming to the party a day late.
パーティーに1日遅れてやって来てまるでばかみたいだった.
4 …を(表情·態度などで)表す,…の目つき[顔つき]をする
look one's annoyance [thanks] at a person人に迷惑顔をする[謝意を顔に表す]
They looked their questions at him. 彼らはいぶかしげに彼を見た.

名詞が直接続いて目的語相当となる場合でも、『ランダムハウス英和』の他動詞語義項目の1例目を除けば、「いかにも…らしい」「…にふさわしい」というような意味ですから、looking humanとなれば、「いかにも人間らしくあること;人間にふさわしいということ」を意味すると考えるのが妥当ではないかと思うのです。

つまり、ここでの “looking human” は作者、アーチストが対象となる「人」を見ること、を表しているのではなく、絵画であれ彫刻であれ、作品で描かれた人がとても人間らしい、人間臭いことに意味を見出す展覧会という趣旨ではないのでしょうか?

今回、2回目の問い合わせ確認で、特設サイトの英文を作成したのも、展覧会のタイトルの「コピー」の英訳をしたのも同じ英語ネイティブの翻訳者であることが判明しました。
特設サイトのdepict等の英語表現に関しては「翻訳者は前後の文のつながりで表現を確定している」という回答を得ています。

冒頭で写真を貼った、『プログラム(ブックレット)』を覚えていますか?
再掲します。

この表紙のデザインは微妙(巧妙?)ですね。

日本語のタイトルは小さいポイントで。
Looking Human は大きいけれど、少し陰に隠れるように配置。
副題の筈のTHE FIGURE PAINTING が真ん中にくる。

このブックレットには展覧会の趣旨や各作品の解説の英訳があるだけでなく、その翻訳者のクレジットがあります。

翻訳者はプロ中のプロという経歴ですね。

  • Ruth S McCreery さん

こちらが翻訳者のプロフィール等です。芸術関係のお仕事も数多くされていることがわかります。

www.wordworks.jp

どういう意図で、どのような経緯で、この英語タイトルと副題となったのか、詳しくお聞きしてみたいですね。

さて、
この展覧会に関する投稿を先日Facebookの方でしていたのですが、殆ど注目されませんでした。
この英語タイトルに関する問い合わせとFBへの投稿は、

英語の用法で、
(to) look human(s) [human beings]
という他動詞の用法は現代の英語の実態に照らして、定着したものと言えるのか?
かつては定着していて、今は廃れているけれども、芸術など特定の分野では生きているのか?

という私の疑問を形にしたものでした。広報担当者からの2回の回答をもとに考えてみると、この英訳タイトルで伝えたい内容は

「アーチストが主語で人を描くこと」ではなく
「作品が主語で、そこで描かれている対象は人であり、その人の描き方(描かれ方)がいかにも人間臭い、人間らしいこと」を表すものである

というのが、私の達した結論になります。

冒頭でも書きましたが、展覧会そのものは素晴らしかったと思います。
見に行って良かったと実感したのは、
ピカソの

腕を組んですわるサルタン・バンク (1923年) 
Saltimbanque Seated with Arms Crossed

マネの

オペラ座の仮装舞踏会 (1873年)
Masked Ball at the Opera

などなど、数多くありましたが、特に心惹かれたのは、
ウジェーヌ・ブーダンの

トルーヴィル近郊の浜 (1865年頃)
The Beach near Trouville

でした。
写真やポストカードなどでは十分にその良さが分かっていなかったと痛感させられました。

そもそも私が上述の疑問を抱いた背景には、過日、拙ブログで取り上げた、

Barefoot walking is seeing a surge in popularity.
Barefoot walking is showing a surge in popularity.

という文で、seeを使ってもshowを使っても同じような意味を表すのであれば、see = show で同意と言えるのか?

という疑問がありました。同じようなことが、lookの自動詞と他動詞でも生じてきているのか?という「畏れ」といえるかも知れません。

この機会にそちらの過去ログも是非。

tmrowing.hatenablog.com

本日はこの辺で。

本日のBGM: まるで正直者のように (友部正人)

open.spotify.com

火を見るより明らか

今日のエントリーのタイトルを英語で言うとしたらどうなるでしょうか?

和英辞典では、

それは火を見るより明らかだ
It's (as) plain as day [(as) plain as the nose on your face]. (ウィズダム和英)

このままでいくと失敗するのは火を見るより明らかだ
If we continue like this, our failure will be as clear as day. (ジーニアス和英)

それは火を見るより明らかだ
It's as clear as day [OR daylight]. (O-LEX和英)

となっています。
日本語は「火」なのに、英語は daylight 、つまり「日光;陽」なんですね。もっとも、その日光の源の太陽自体は燃えているわけですけど。

お日様といえば、因に、私は子どもの頃からイソップ童話(寓話)の『北風と太陽』のお話が大嫌いでした。
私は小学校を卒業するくらいまで虚弱で、よく風邪を引いては熱を出して学校を休んでいたので、

そもそも旅人がコートを着ているということは季節は冬なんだから、昼間にいくら暖かくてコートを脱いでいたとしても、陽が傾いたら寒くて風邪を引いちゃうじゃないか!
だったら北風が吹いてコートを着込んだまま家に帰る方がましだ。

と思っていたのですね。
『北風と太陽』のお話、 "The North Wind And The Sun" がBBCのサイトで語られています。日本から動画は再生できませんが、スクリプトはついているので、このお話が好きな方は見てみて下さい。「お子様用」の筈ですが、英語はどうしてどうして、という感じです。

www.bbc.co.uk

さて、
今日の気になる語法は

  • å‹•è©žtearと rip

の用法です。

  • å‹•è©žtear

そのものの語義や用法に関しては、過去のツイッター投稿で、とっても面白いスレッドを作っているので、是非読み返してほしいです。
ここからの一連の投稿ですね。

切っても使える不可算名詞の"paper" を数えたいときは a sheet of paper のsheet のように単位を表す別の名詞を使って数えるんです。え、「切手」はどっちか?いいところに気がついたね。切手はシートから切り離さないと使えないけれど、切手それ自体を切ってしまったら使えないから可算名詞なんだよ。

動詞tearが出てくるのはこのツイート。

「先生、こないだ先生が言ってたのTVでやってたよ。パクったでしょ?」
「そっかぁ〜?でも、先生は『切る』って日本語しか使ってないからなぁ。英語だと、こういう動作(やってみせる)は tear という動詞を使うんだよ。どうして?そういうのTVで言ってくれないかなぁ?」
(ハモって)「そだね〜」

最初から最後まで楽しんで下さい。

動詞ripに関しては、冒頭で紹介した『北風と太陽』のBBCのスクリプトの中の、

The Wind blew and blew. It blew so hard that the ships’ sails ripped apart. All the Sun could do was watch as the sailors shivered in the icy blast, shook their fists and cried out in anger.
風は吹き荒れた。船の帆が裂けるほど強く吹き荒れた。船員たちが氷のような爆風に震え、拳を振り上げ、怒りの声を上げるのを、太陽はただ見ていることしかできなかった。

という一節に出てきます。

類義語としての動詞tearとrip に関して、上本佐一 『英語同意語小辞典』(研究社、1970年、p. 439) から引用。

今日取り上げるのは、その動詞の用法の中でも

tear through
rip throught

といった句動詞的な用法。
句動詞「的」と言ったのには背景があって、多くの辞書では(まだ)句動詞として扱われていない、または今日のエントリーで私が取り上げる語義を反映させていないのですね。
実例は昨日今日ではなく、随分前からあり、普段英語ニュースを読んでいる方は、日々見聞きしていると思います。

少し古いニュースですが、いつもの英語ニュース引用RTの過去投稿から tear through。

合掌。
#afterの差分は左
continueは現在、toreは過去。 A tear through Bは「Aが猛烈な勢いでBを通過する」から「Aの被害がBに広がる」。Aが災害・疫病、Bが地域・建物で頻出。カンマleavingの結果の分詞構文。C leave D in C’s wakeで「Cはその後にDを残して行く」。Cは台風や竜巻、火災等が多い。

元ツイはこちら。

Recovery and cleanup continue a week after dozens of tornadoes tore through nine states in the South and Midwest, leaving heartbreaking destruction in their wake.
https://abcn.ws/3e73SM1


数十の竜巻が南部と中西部の9つの州を襲い、悲惨な破壊を残してから1週間が経ったが、復旧と清掃作業は続いている。

破壊的映像に注意。
このleaveと結びつくwakeは、所有格同様、in the wake of でも使われる。
こちらは、leftが「壊滅的被害の爪痕」を表す名詞句に続く後置修飾の過去分詞での例。
ここでのtear thoughが「家財」を目的語のように使っていることを確認。もはや句動詞認定されるべき語句でしょう。

元ツイ。

Drone footage shows the devastating trail of destruction left in the wake of a tornado which tore through homes and property in Bowling Green, Kentucky
https://itv.com/news/2021-12-13/us-tornadoes-drone-footage-reveals-trail-of-destruction


ドローン映像は、ケンタッキー州ボーリンググリーンの住宅や財産を破壊した竜巻の後に残された壊滅的な破壊の跡を示している。

続いて、rip throughの例。

tear throughと(ほぼ)同意で用いられる表現に rip throughがある。 #asの前景後景 時制や相だけで考えればcontinueは持続する行為・活動・出来事で線、becomes clear は点だが、竜巻の被害状況の全容が広い舞台設定での話、そこでまだ続く捜索救助にスポットライトを当てるので、このような前景後景。

元ツイ

Search and rescue efforts continue as the extent of the damage from a catastrophic series of tornadoes that ripped through Kentucky and other states becomes clear.
https://nbcnews.to/30hU7aA


ケンタッキー州やその他の州を襲った一連の壊滅的な竜巻による被害の規模が明らかになる中、捜索救助活動が続いている。

このtear/rip through が句動詞として用いられた例では、

  • 主語が嵐、竜巻、台風、洪水など
  • 目的語は国、地域などある程度広いエリア

で、「移動する経路」「被害としての穴・裂け目」などが明確なものが多いです。
次のツイートでは、私が先にtear throughを見聞きしていて、rip throughも同じ生息域で使われることに気づいたことが見て取れます。

時系列確認の好素材。最初は過去形でFirst、次のThenも過去形。Nowで現在進行形。asの前景後景で、米全土の後景に対して、地域に焦点。そこから焦点を動かしていく記述。tore はtearの過去形。風などがビューと吹き抜ける時にも使いますが、ここでは rip throughのイメージか。rip & tearの感じ。

元ツイ

First, the Pacific Northwest and the Northeast were hit hardest as the coronavirus tore through the nation. Then it surged across the South. Now the virus is again picking up dangerous speed in much of the Midwest.
https://x.com/chicagotribune/status/1289675456166408193
まず、新型コロナウイルスが全米を襲い、太平洋岸北西部と北東部が最も大きな打撃を受けた。その後、感染は南部にまで拡大した。現在、ウイルスは中西部の大半で再び危険なスピードで拡大している。

次は物理的な嵐出が来るのではなく感染症が襲う比喩ではありますが、まさに「席捲;猛威を奮う」ものです。

特集の告知のようなスレッド。箇条書き風に文が連なっていきますね。rip through が現在完了で。目的語のcare homes「介護施設」は無冠詞複数でripの「蹴散らし」感+throughの「通過;くまなく」感との整合に悩みます。
そんな時は記事本編を!
というのが無難な選択ですね。

元ツイ

Coronavirus has ripped through care homes 22,000 UK care home residents have died, so far, with Covid-19 At the peak of the pandemic, 540 died in a single day
@BBCPanorama has spoken to some of those forgotten on the


英国の介護施設の入居者2万2000人がこれまでに新型コロナウイルスで死亡 パンデミックのピーク時には1日で540人が死亡した @BBCPanorama 最前線で忘れ去られた人々と話をした

過去ツイで結構な数を取り上げてきたtear through / rip through ですが、今、私が気にしているのは、主語に「火事・火災」がくるもの。

a fire tore though a vacant building tear throughの主語が火災、目的語が建物。 tear throughは通例「穴」が開く、「通り道」ができる、という場面。ここでは
destroy/damage + severely/completely
のような意味。 火災により内→外という経路で穴ができたとも言える。

元ツイ

A fire tore through a vacant building at the former Hunters Point Naval Shipyard in San Francisco on Sunday morning, officials said. About 60 firefighters got the blaze under control in about 20 minutes, but the building was destroyed.


当局によると、日曜の朝、サンフランシスコの旧ハンターズポイント海軍造船所の空きビルで火災が発生した。消防士約60人が約20分で鎮火したが、建物は全焼した。

この例では、建物は全焼してはいるものの、被害は一箇所。
同じ火災でも、wildfire(s)/forest fire(s) のように火災の延べ面積が拡がる、隣接した家屋・建造物等に延焼するというような「経路」が出来るものだけではなく、「単独の建物・建造物」であっても、そこで「火が燃え拡がる」わけで、火災で大きな被害を受ける際にもtear through が使われていることには留意しておきたいものです。

意外に辞書でこの類の用例が見つけられないもの。
『クラウン英語句動詞辞典』(三省堂)では、項目こそあるものの、該当する語義項目は無し。用例検索でも用例は見つからず。

ä»–
1…を破る[裂く]
Her nail tore through her stocking.
彼女の爪でストッキングが破れた.
2…をものすごい勢いで(突き)進む
The kids were tearing through the road on their bicycles.
子供たちが自転車で道路を突き進んでいた.
3…を急いで終える[進む]
Monica tore through a paperback.
モニカはペーパーバック1冊を急いで読み終えた.

LDOCEはterrorの項目に1例ある。

MW‘sのオンライン版で、エリア延焼の例。
merriam-webster.com
The fires are tearing through the panhandle, which is home to 85% of the state’s cattle industry.
— Zoe Sottile, CNN, 2 Mar. 2024 panhandleは細長いといえば細長いので従来型の「経路」の用法とは言えるでしょう。

同サイトから
こちらもregionでエリアの被害。
Wet winters have brought about historic fires in the past, including the Camp Fire that tore through the state’s wine region.
—Chris Morris, Fortune, 14 Aug. 2023

実例を見ると建物の大小問わず使われている。 比較的小さいが複数階の建物

元ツイ

Brighton's Royal Albion hotel passed a fire inspection less than a year before a blaze tore through the building, a Freedom of Information request has revealed.


ブライトンのロイヤル・アルビオン・ホテルは、火災検査に合格してから1年も経たないうちに火災に襲われていたことが情報公開請求により明らかになった。

こちらは一軒。

元ツイ

Police are investigating a fierce blaze which tore through a house in Landsborough last night. Tenants told 7NEWS they were lucky to escape as the blaze gutted the building in just minutes.
http://7NEWS.com.au  @RebekahRJensen


警察は昨夜、ランズボローの住宅を襲った激しい火災を捜査している。住人は7NEWSに対し、わずか数分で火災が建物を全焼させたため、逃げることができたのは幸運だったと語った。

火災としてはmassiveでも、倉庫の数え方としては一棟?

元ツイ

Over 100 firefighters battled a massive fire that tore through a warehouse in Kensington Wednesday morning. NBC10’s @K_Hua has more on how the fire impacted the neighborhood.


水曜日の朝、ケンジントンの倉庫で発生した大規模な火災に100人を超える消防士が消火活動を行った。NBC10 @K_Huaでは、火災が近隣地域に与えた影響について詳しく報じている。

米英豪と広く使われているところから察するに 火災であってもtear through =rip through になるだろうと検索したらたくさん出てきました。 fire 主語で rip through +a warehouse の例

Around 150 residents have been forced to evacuate their city apartments as fire ripped through a nearby warehouse on Spencer Street at 2am.
http://7NEWS.com.au  #7NEWS


午前2時にスペンサー通りの近くの倉庫で火災が発生し、約150人の住民が市内のアパートから避難を余儀なくされた。

こちらでは a fire ripped through a West New York building と「火災」に不定冠詞で、目的語はbuildingで単数形。

APARTMENT BUILDING FIRE: Fire officials say between four and five families are without a home after a fire ripped through a West New York building.


アパート火災:消防当局によると、ウェスト・ニューヨークの建物で火災が発生し、4~5世帯が家を失った。

目的語の名詞は同じ単数(形)でも、こちらの大きさは相当違いますね。
Five years after a fire ripped through Paris’ Notre-Dame cathedral

Five years after a fire ripped through Paris’ Notre-Dame cathedral, the architects, stonemasons, archaeologists, art historians and others that helped rebuild it have started a choir and are preparing to perform in the building they helped save.


パリのノートルダム大聖堂が火災に見舞われてから5年が経ち、再建に尽力した建築家、石工、考古学者、美術史家らが合唱団を結成し、救出に貢献した建物で演奏する準備を進めている。

こちらのrip through は英和辞典では、主語に「嵐」「爆風」などが来るものしか想定していませんが、英英辞典ではちょっと様子が違います。
Cambridgeの句動詞辞典(第2版、2006年)では

  • If something harmful [e.g. bomb, bullet, hurricane] rips through a place, or building, it moves through it or destroys it quickly or violently

という定義を載せていますが、用例はbombとhurricaneのみ。

今はなき、マクミランの米語上級学習者用では、

[T] manly journalism
[rip through sth] If something such as a fire, storm, or bomb rips through a place, it damages or destroys the place very quickly:
The explosion ripped through her home.

という記述の筈です。「筈」というのは、私の持っている紙版では、この部分の2箇所の "through" が両方とも "though" の誤植になっているから。

OALDが用例も広くカバーしているでしょうか。

  • 定義 to go very quickly and violently into or through somebody/something
  • 火災の用例 A huge fire ripped through the factory.

rip throughの従来型の「経路(拡大)」の用法は辞書に用例が見つかりますが、火災が主語で、建物そのものの大きな被害に使われる例は少数派という印象でした。
OALDではhomeの項に次の用例がありました。

  • A family of four was rescued early this morning when fire ripped through their terraced home.

そうかと思えば、ソーシャルメディアには次のような実例も。物理的な大きさではなく、全体 vs 部分での被害の大きさやその激しさに焦点が当たっている、と考えるのが良いでしょうか。

乗用車1台でも使われていますね。

A driver’s had a close call, after his car caught alight in Healesville. Fire fighters were called to the Maroondah Highway but the flames had already ripped through the BMW. The driver pulled over and got out when he started smelling smoke.


ヒールズビルで車が炎上し、ドライバーは危うく命を落とすところだった。消防士がマルーンダ・ハイウェイに呼ばれたが、炎はすでに BMW を焼き尽くしていた。ドライバーは煙の臭いがしてきたので車を停めて車から降りた。

この例での rip through のthrough が経路とか通過を表すもの、という捉え方には無理があろうと思います。「燃焼のプロセスの最後まで」? ちょっとこじつけが過ぎませんかね?

火災で建物の中が焼け尽くされる、爆発で中のものが壊滅するような場合に、英語の動詞で

  • gut

を使うことがあります。名詞なら「腸=はらわた」ですが、それが焼けたり、吹き飛んだりして無くなるような事例の描写で用いられます。

合掌。
動詞gutの典型例を見たのでRT。
受け身で見ることが多いが、この場合は他動詞で能動。
「火事が建物の最上階の内部を焼き尽くした」ということ。
今、火災、地震など災害は二重に怖い。

UPDATE | Four people were killed in a raging fire that gutted the top floor of a six-story Bronx apartment building.


最新情報 | ブロンクスの6階建てアパートの最上階を全焼させた猛烈な火災で4人が死亡した。

gutの補足

文字通りには名詞で「腸;はらわた;内臓」ということで、他動詞で使うと、それを「取り除く」という意味になる。そこから転じて、「効力を失わせる;弱体化する」、日本語の比喩で言えば「骨抜きにする」として用いられることがある。

gutの場合は、通例建物の外側、壁柱などは残っていることが多いので、被害の形容描写の観点が違うということなのでしょうか。

COCAでコロケーション検索をして、tear/rip through の左側にfireが来るものを見てみました。

複数形firesは少数。

主語がblazeになるであろう例は少数でしたが、rip throughの例もヒット。

現在完了は単複それぞれ1例のみ。

wildfiresの例もあり。

さて、皆さんがよく見聞きする例の実感や生息域が補足できましたでしょうか?
冬場は空気が乾燥しますので、くれぐれも火の用心を。

本日はこの辺で。

本日のBGM: R.I.P. (Great 3)

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with no one but yourself to blame

非常勤で出講している高校の成績提出を済ませて一段落。
高校3年生はレギュラーの授業は終了。お疲れさまでした。

高3の期末試験では、大学入試レベル、と言えなくもない、2文以上の初見の和文英訳を課しています。
今回は、

1. 山本冴里 (『世界中で言葉のかけらを』筑摩書房、2023年)
2. 北村紗衣 (『英語の路地裏』アルク、2023年)
3. 谷川俊太郎 (谷川俊太郎他、『Words in Transit』 大修館書店、1985年)

の文章から授業での学びと関連するところを選び、3題を拵え、そのうちの2題を生徒が選んで解答を求めるもの。まあ、3に関しては追悼出題ですね。
生徒個々の解答に関しては詳らかにできませんが、年末年始の私のセミナーでは、お題の背景や評価の観点などはお話できると思います。

成績処理に追われる中、専任の先生との情報交換もしっかり行っていますが、ケンブリッジのWrite & Improveに関して、昨年&今年の私の活用事例をお伝えしておきました。

W&Iは公開からかなり経ちますが、今なお「ここをこう直したら?」などという直接的な指摘をしないのが良いですよね。ハイライターと網掛けで改善の余地ありと示されたところを見て、自分で加筆修正を施し、再提出・再評価をすると、上手くいけば評価が上がるし、ヘタをすれば、却って評価が下がります。自己責任です。恐らく、この部分が、日本の学習者や指導者に今一つ人気が出ない要因なのでしょう。しらんけど。

ということで本日の気になる語法は

  • blame周辺

です。

テストで問われるblameは動詞としての語法で、前置詞、または不定詞との絡みが多いでしょう。

前置詞ではforとonの適材適所。

He blamed his friend for the accident [breaking the window].
彼は事故の[窓を割った]責任を友人のせいにした (W)
He blamed himself for her suicide.
彼は彼女が自殺したのは自分の責任だとした (O-LEX)
Police blamed the disaster on the weather.
警察はその災害は天候のせいだとした(≒ Police blamed the weather for the disaster.). (W)
It's unreasonable (of you) to blame everything on him.
すべて彼のせいにするのは理不尽だ (O-LEX)

不定詞との絡みでは、受け身ではなく原形のままのblame。

She is (partly) to blame for the mistake.
その失敗の責任(の一部)は彼女にある(!日常英語ではThe mistake is (partly) her fault.が普通). (W)
Who is to blame for this failure?
この失敗はだれの責任か. (コンパスローズ)

受け身 (to be blamed) と併記し、同意で扱っているものも多い模様。

He is to blame for [×about] this loss. (=He is to be blamed for this loss.)
この損失は彼に責任がある (O-LEX)
それは事故だったのだから, 誰にも罪はない
It was an accident, so no one is to blame [is to be blamed, is responsible] (for it). (W和英)

しかしながら現代英語の使用頻度を勘案するに、受け身の方を覚えておく重要度は使用頻度に比例しないでしょうか?

Ngram viewerで、to blame for とto be blamed forとを比較。

雲泥の差、とはこのことか、というくらいの頻度の差です。

Michael SwanのPractical English Usage (第4版、2016年、OUP)では、不定詞と受け身の絡む慣用的な表現の中で、この

  • be to blame

をわざわざ取り上げ、受け身にはなっていないことを示していました。

2 to be seen/found/congratulated, etc
Note the expressions anywhere/nowhere to be seen/found.

  • He wasn’t anywhere to be seen. (not … anywhere to see.)
  • Susan was nowhere to be found. (not … nowhere to find.)

We also use passive infinitives to express value judgements with verbs like congratulate, encourage, avoid.

  • You are to be congratulated. (not … to congratulate.)
  • This behaviour is to be encouraged.

But note the common expression to blame, meaning ‘responsible’ (for some unfortunate event).

  • Nobody was to blame for the accident.

現代英語の大規模コーパスに基づく語法書である Collins COBUILD English Usage (2019年)でも、受け身の例は示していません。(同書、p.87)

If someone is to blame for something bad that has happened, they caused it.

  • I knew I was partly blame for the failure of the project.
  • The study found that schools are not to blame for the laziness of their pupils.

入試問題では、この受け身の表現を時折見かけますが、感心しない出題が多いです。
同意文選択で結果的に誤りとなる選択肢の英文として、

  • You are to be blamed for this problem, but not I.

が使われていたりするのですが、この英語表現自体を「?」と感じた人は、この英文を選ばないと思うのですね。

対話文での空所補充完成も出くわすことがあったりしますが、次の例でも結果的に誤りの選択肢です。

Sarah: Jim didn’t say a word to me at the party.
Fred: Don’t worry, Sarah. ( ).
Sarah: Do you mean he doesn’t like me?
Fred: No, not at all. He is just shy and quiet naturally.
① It’s up to him ② I’m not to be blamed ③ That’s beyond description ④ That’s the way he is

佐久間治 『ネイティブが使う英語 避ける英語』(研究社、2013年)では、p.37で

ただし、「理由」が追加されると、受動構造をとる:
You are to be blamed for high unemployment rate.
「失業率が高いのはあなたの責任だ」

としているのですが、現代英語のコーパスの検索結果を見る限りでは、せいぜいが「受動構造も使われている」とか「認められている」というものだろうと思います。
佐久間氏の当該書が2013年ですのでGLOWBEの2012-2013年データから。

be to blame for

be to be blamed for

均衡コーパスではないので、単純な数字の比較はできませんが、ほぼほぼ「ケタ違い」という印象。

COCAで。

be to blame for

be to be blamed for

均衡コーパスのCOCAでは、ケタ違い以上の開きです。

最新の状況としてNOWも見ておきますか?

be to blame for

be to be blamed for

その差は開きに開いた感じですね。

では、受け身ではない、 (be) to blameは、類義の表現と比べてどの程度使われる表現なのか?
先ほどのNgramの検索結果からベンチマークの設定に使って、responsible for と比較してみました。

清々しいくらいにresponsibleの圧勝ですね。

blameが不定詞で現れる用法では受け身の表現を気にするものではなく、「責任の所在;度合い」示す表現で、responsibleの下位互換の表現として、さらにはその「責任」を実感する副詞との共起を丁寧に扱うべき英語表現と言えるでしょう。

NOWコーパスから副詞の共起の上位。

partly /partially
largely / mostly
equally / solely

などが上位ですが、GLOWBEで見てみると、使用頻度にはバラつきが見て取れます。

再度、Ngram Viewerで。

テストでの出題には充分配慮してほしいと思います。

一方で、テストではあまり問われることがなく、学習用の英和辞典では扱いが薄く、「成句」としては見做されていないblameを使った表現があります。
しかも、先ほどの語法を踏まえた用法です。

学習用英和の成句にはあまり載っていない
have oneself to blame
「自業自得」「自分の蒔いた種」の文脈で副詞onlyやno one butなどと使われることも多い。
ここでは
he has himself largely to blame
と副詞largelyで修飾。
キャプションのwithの付帯状況の例ではmostlyを使っていることを確認。

元ツイの記事はこちら。

Mayor Brandon Johnson is in danger of losing an executive budget vote for the first time in recent memory or being forced to cast the tie-breaking vote to save it — and he has himself largely to blame.


ブランドン・ジョンソン市長は、近年で初めて執行予算の採決で敗北するか、あるいはそれを救うために決選投票を強いられるかの危機に瀕しており、その責任は主に市長自身にある。


辞書の記述を横断的に見比べた結果もツイートしていますので、リンク先の画像ファイルで辞書の記述を是非読み比べて下さい。

O-LEXの和英には用例が見つかるけどblameの日本語訳から辿れる?
COBUILDは旧版でも米語版でもno one butを成句扱い。
OALDは10版からno one/butを追加収録。
Oxfordの学習者用類語ではOALDと同じ用例に=でパラフレーズもあり。
意外にもコンパスローズ英和に用例があるけれど、in the endの項目。

研究社英和大は句用例1 英和活用大には文用例1 しかないけれど 研究社和英大には文用例が3つ見つかる。 成句の専門辞書の三省堂クラウンイディオムには文用例1 学習者用のLDOCEにも MW’sの学習者版にも 項目が立ててあり、文用例がありますね。

※2024年12月15日追記

表現のバリエーションとしては
have no one but onself to blame の部分が、have no one to blame but oneselfになることもあります。
例えば次のようなもの。

次の yarn の動画クリップ集でそれぞれの例を確認してみてください。
https://getyarn.io/yarn-find?text=no%20one%20but%20yourself%20to%20blame

先ほど、

  • テストで問われることがあまりない

と書きましたが、無いわけではないようです。

文脈から意味の最もよく通るように空所を補充し複数文から成る文章を完成させる問題。

That evening, the manager continually cast her mind back to the stormy board meeting that had taken place in the afternoon. A few board members had been in favor of giving the assistant manager a second chance, but his complete failure to meet their agreed-upon sales target had persuaded a majority to fire him. As his colleague, she felt sorry for him, yet he had ( ).

a.considered ongoing contracts b.only himself to blame  c.never committed a crime d.avoided the consequences
e.demonstrated his skills

ここでは、正解の選択肢として使われているようです。Kagi Translateの日本語訳はこんな感じ。

その晩、マネージャーは午後に行われた荒れた取締役会議を何度も思い返していた。数人の取締役はアシスタントマネージャーに二度目のチャンスを与えることに賛成していたが、彼が合意した売上目標を完全に達成できなかったことが大多数を彼を解雇する方向に説得した。彼女は同僚として彼を気の毒に思ったが、結局彼自身に責任があった。

複数文から成る文章を読み、質問の答えに相応しい一文を選ぶ問題。

Though self-handicapping can be an effective way of coping with performance anxiety now and then, in the end, researchers say, it is a Faustian bargain. Over the long run, excuse makers fail to live up to their true potential, interfere with the achievement of their own goals and lose the status they care so much about. And despite their protests to the contrary, they have only themselves to blame.

What does “a Faustian bargain” probably mean?
① In the end, people have to pay prices for what they have done.
② After all, people waste money and time.
③ As a result, people will realize that they are successful.
④ On the whole, people are happy as they are.

Kagi訳はこちら。

自己障害は、パフォーマンス不安に対処する効果的な方法であることもありますが、最終的には研究者たちが言うように、それはファウスト的な取引です。長期的には、言い訳をする人々は自分の真の潜在能力を発揮できず、自分の目標の達成を妨げ、自分が大切にしている地位を失います。そして、彼らの反対の主張にもかかわらず、彼らが責めるべきは自分自身だけです。

「ファウスト的な取引」とはおそらく何を意味するのでしょうか?
① 結局、人々は自分のしたことに対して代償を払わなければならない。
② 結局、人々はお金と時間を無駄にする。
③ その結果、人々は自分が成功していることに気づく。
④ 全体として、人々は自分のままで幸せである。

こちらも、 “they have only themselves to blame.” の理解が正答を選ぶことに大きく影響しますので、この成句が「問われている」出題と言えるでしょう。
でも、この問題、20年くらい前のものなんですよ。

公教育現場での英語教育はとかく批判を受けがちなんですが、テスト依存体質を脱しないと、旧態然とした試験問題とその形式に縛られ、現代英語の語法に照らして不適切な選択を迫られたりし続けることになりかねません。
授業でせっかく、“real English” を扱って、豊かな地平を開き、土壌を豊かにしても、テスト対策でその先の実りが矮小化したり、歪んだりするのを見るのはもうたくさんです。

「タスク」を達成するにしても、「スキル」を身につけて磨くにしても、それをいったいどのような「ことば」で行っているのか、もっと英語表現そのものを気にした方が良いと、今日も今日とて老婆心です。

本日はこの辺で。

本日のBGM: そして誰のせいでもない (伊藤銀次)

open.spotify.com

for however long

日本では既に12月8日。
真珠湾攻撃の日でもあり、John Lennonの命日でもあります。

前回のエントリーでは、「記憶」にまつわる表現を列挙し、最後に

  • as far as I can remember

を知っているが故に間違えかねない

  • for as long as I can remember

の例を示したわけですが、今日はその続きから。

前回のおさらいで、用例2つを再録。

In France, cheese and wine have been considered natural allies for as long as people can remember. This view remains valid today, but we must not forget bread, which cements the union.
フランスでは物心ついたときから、チーズとワインは自然の盟友と考えられてきた。この考え方は今日でも有効だが、この結びつきを強固にするパンの存在も忘れてはならない。

Most experts agree that the optimum number of hours is eight, and this has been accepted as common sense for as long as I can remember. However, I was young once and I know that most of you get much less sleep than that ― and in some cases it will be affecting your schoolwork.
ほとんどの専門家は、最適な睡眠時間は8時間であると同意しており、これは私が物心ついたときから常識として受け入れられてきた。しかし、私もかつては若かったので、ほとんどの人がそれよりもずっと少ない睡眠時間しかとっていないことを知っている。

などの “for as long as …” は、あくまでも「期間」を表すものであって

  • for a long time

とか

  • for so many hours

などと同じ副詞的表現だということを確認しました。
期間を表す前置詞forに語や句が続くものは、恐らく問題ないと思います。そして、as long as に語や句が続いても問題ないでしょう。では、その足し算は?

In Antarctica, where winter can cut scientists and crew off from the rest of the world for as long as nine months, the isolation can lead to strange behavior.
南極大陸では、冬になると科学者や乗組員が9カ月も他の地域から切り離されるため、孤立感が奇妙な行動につながることがある。

ただ単に、for nine monthsというのではなく、その長さを強調するために、as long as nine monthsとしたものですね。

In terms of happiness ― defined as the capacity to enjoy life ― identical twins who were separated soon after birth were considerably less alike than twins raised together. But when it came to unhappiness, the twins raised apart ― some without contact for as long as 64 years ― were as similar as those who’d grown up together.
幸福度(人生を楽しむ能力と定義される)の点では、生まれてすぐに引き離された一卵性双生児は、一緒に育った双子に比べてあまり似ていなかった。しかし、不幸に関しては、64年間も接触せずに別々に育った双子は、一緒に育った双子と同じくらい似ていた。

ここでも、for 64 years の強調で、for as long as 64 yearsとなっています。

では、as long as に節が続くものも、その延長線上で処理できるしょう。

The energy-storing chemical adenosine triphosphate (ATP) is produced from the food we eat for as long as we are alive.
エネルギーを貯蔵する化学物質アデノシン三リン酸(ATP)は、私たちが生きている限り、食事から生成される。

単純な “for life” で「一生;(その後)死ぬまで」とするのではなく、「生きている間はずっと」という意味を強調する上では、動詞が時制を持つことの意味が大きいです。

as long asに節が続く際に S + can + 原形が続くことがありますが、それをpossibleの1語に集約して言うことが可能です。

In the now dim and distant past, students regarded the world of employment as something to be avoided for as long as possible.
今となってはおぼろげで遠い過去だが、学生たちは就職の世界をできるだけ長く避けるべきものと考えていた。

Cultural criticism about art has existed for as long as art itself, because art says as much about the society it was created in as it does about the artist who did the creating.
芸術に関する文化批評は、芸術自体と同じくらい古くから存在しています。というのも、芸術はそれが創造された社会について語るのと同様に、創造した芸術家についても語るものだからです。

一見、語(句)だけに見えますが、実際には比較のas節で省略があることを確認。芸術に関する批評の存在期間と、芸術そのものの存在期間の比較です。

A new app released in South Korea allows parents to monitor kids’ use of smartphones. If you’re a kid in South Korea these days, you might have trouble playing the latest online game on your smartphone for as long as you want.
韓国でリリースされた新しいアプリは、親が子供のスマートフォンの使用を監視できるようにします。最近の韓国の子供たちは、スマートフォンで最新のオンラインゲームを好きなだけプレイするのが難しいかもしれません。

ここでのas節での省略 “want (to play …)” を確認。

文頭に来る例もあります。

For as long as people have watched birds soar far above the earth, they have dreamed of being able to fly.
鳥がこの大地のはるか上空を飛ぶのを見て以来、人々は空を飛ぶことを夢見てきた。

現在完了形での継続期間を確認。

Brandon Green says he had to agree with his roommate’s assessment of his personality. For as long as he could remember, he says, he had felt negative, frustrated, and “drawn inward.”
ブランドン・グリーンは、自分の性格についてのルームメイトの評価に同意せざるを得なかったという。物心ついたときから、彼はマイナス思考で、フラストレーションを感じ、「内向きに引き込まれる」と感じていたという。

回想の内容なので、助動詞はcouldになっていますが、基本の考え方は同じで、あくまでも期間を表すのでlongであり、期間を表すマーカーとしての前置詞forは外せません。

「物心」類例追加。

Papa had always made a big deal out of Christmas. For as long as I could remember, the tree had always been at the center of our celebrations, along with a special little Kewpie-doll ornament that Papa always kept in its own little box.
パパはいつもクリスマスを盛大に祝っていた。物心がついたときから、ツリーはいつも私たちのお祝いの中心で、パパがいつも小さな箱に入れていた特別なキューピー人形のオーナメントも一緒に飾られていた。

このくらい見ておけば、大丈夫でしょうか。期間を表すマーカーのforに続く語句の柔軟性のようなものを感じ取れるといいですね。

では、同じforの後に、次のような語句(節)が続くものはどのような意味と働きを持っているでしょうか?

Baltimore is the ninth busiest port in the US for international trade, meaning the effects of the crash will ripple across the regional, US, and even global economy for however long the 47-year-old bridge takes to fix—a timeline, experts say, that’s still unclear.

この記事本文から引用した英文をDeepLで和訳させると

ボルチモアはアメリカで9番目に国際貿易が盛んな港であり、この事故の影響は地域経済、アメリカ経済、そして世界経済にまで波及することになる。

となって、肝心なところはスキップしてしまいます。

最近公開のKagi Translateでも

ボルチモアは、国際貿易において米国で9番目に忙しい港であり、事故の影響は地域、米国、さらには世界経済に波及することを意味しています。47年の歴史を持つ橋の修理にかかる時間は専門家によればまだ不明です。

のような処理で、この英語表現を適切・的確に理解表現できていません。

今日のタイトルで示していた

  • for however long

これは比較的新しい言い方に入るだろうとは思うのですが、要不要の文脈に多くでてきます。

  • for however long S takes 「…にかかるだけの時間(が長かろうとも、その間)ずっと」

という意味であり、先ほどの英文の後段は、

「…事故の影響は、この47年の歴史を持つ橋の修理にどれくらい長い時間がかかろうとも、その間ずっと、この地域、米国、さらには世界経済に波及することを意味しています。専門家によれば修理完了までのスケジュールはまだ不明です。」

とでもなるところです。

高校卒業までに見聞きする表現では、

いくら待っていても幸運は降ってこないよ
However long you wait for it, good fortune won't come to you. (G和英)

のような「譲歩の副詞節」での “however long” がありますが、ここではそれとは異なり、期間のマーカーの前置詞forに続いて、あくまでも期間を説明するものです。

次のツイートなどは話題になりましたね。

We will work with our friends and allies around the world – for however long it takes – to ensure that the sovereignty and independence of Ukraine is restored.

DeepLの和訳は

ウクライナの主権と独立が回復されるよう、我々は世界中の友人や同盟国と協力していく。

Kagi Translateの和訳は

私たちは、ウクライナの主権と独立が回復されるまで、世界中の友人や同盟国と協力していきます。

どちらも肝心なところをスキップしています。受験生の部分点狙いと同じ心理なのでしょうか?

私の修正訳はこちら。

どれだけ長い時間がかかろうとも、ウクライナの主権と独立が回復されるまでずっと、私たちは世界中の友人や同盟諸国と協力していきます。

次の記事内では引用符つきですので、実際の発話でも使われる表現だということがわかります。

But Barbara Shaw, 54, a homemaker from Los Angeles who backed Mr. Gore, said: ''I haven't lost patience, and I'm absolutely willing to wait for a firm solution to this problem. I am willing to wait for however long it takes.''
www.nytimes.com
しかし、ゴア氏を支持したロサンゼルスの主婦、バーバラ・ショーさん(54歳)はこう言った。「私は忍耐を失っていませんし、この問題の確固たる解決策を待つつもりです。どんなに長く時間がかかってもそれまでずっと待つつもりです」。

私は比較的近年気づいたのですが、

  • By Richard L. Berke and Janet Elder Nov. 30, 2000

とありますから、四半世紀近く前に既にNYTの紙面には載っていたことになります。

話しことばでも使われるということは、次のリンク先の動画クリップなどで確認して下さい。

for however long it takes to beat them back
https://getyarn.io/yarn-clip/8ba4fda8-81b6-41e0-8e69-be0f964e8891#O9eZpEC1.twitter…

for however many nights it takes Channel 4
https://t.co/e03HXN81wO

ツイッターのタイムラインでもびゅんびゅん流れていっていますので、きっと目にしてはいると思います。

This is Batool, her daughter Talene, and her 5-day-old baby Assel
They fled Southern #Lebanon yesterday and have no idea how they’ll cope for however long they’re exiled from their home…or if there’ll be a home to go back to

典型例は、要不要の文脈。

"for however long it takes to"
https://x.com/search?q=%22for%20however%20long%20it%20takes%20to%22&src=typed_query&f=live

入試問題でも、本文ではもう出てきているんですよ。

Writing, however, is all present at the same moment of time. Readers can look back at the beginning of the book if they get lost, look forward to the end if they get bored, or set the book aside to read at a later time. So, if readers forget what a pronoun refers to or get lost in a grammatical construction, they can effectively press replay and try again. It is like the difference between watching a play and reading a book. The play is not under the spectators' control and proceeds even when they have lost the hang of the plot. The book can be read at the readers' own pace for however long they want; any misunderstanding can be cleared up by going back a few pages.

DeepL訳

しかし、文章は同じ瞬間にすべてが存在する。読者は、道に迷ったら本の冒頭を振り返り、飽きたら終わりを楽しみにし、また後で読むために本を脇に置くことができる。そのため、読者は代名詞が何を指しているのか忘れてしまったり、文法的な構文に迷ったりしても、効果的にリプレイを押してやり直すことができる。演劇を見るのと本を読むのとの違いに似ている。芝居は観客のコントロール下になく、筋書きがわからなくなっても進行する。本は読者のペースで好きなだけ読むことができ、誤解は数ページ戻れば解ける。

Kagi訳

しかし、書くことはすべてが同じ瞬間に存在します。読者は、迷ったときに本の最初に戻ったり、退屈になったときに最後を見たり、後で読むために本を脇に置いたりできます。したがって、読者が代名詞が何を指しているのかを忘れたり、文法構造に迷ったりした場合、効果的に再生ボタンを押して再試行することができます。これは、劇を見ることと本を読むことの違いのようなものです。劇は観客のコントロール下にはなく、プロットの流れを失っても進行します。本は、読者が望む限り自分のペースで読むことができ、誤解は数ページ戻ることで解消できます。

どちらも下線部が読めていませんね。

最後に、ざっくりとした検索結果を貼っておきます。

COCAで for however long

比較的近年の実例 Spoken

News

COHA

TVコーパス

NOWコーパス

NOWから最新の例。

パーミルで経年推移推測

GLOWBEで地域差を推測

次に出会ったときには、「お、あなたは確か…」というくらいには、この表現に慣れたのではないでしょうか。

本日はこの辺で。
本日のBGM: Love You For A Long Time (Maggie Rogers)

youtu.be