「次世代プロセッサー『PEZY-SC3』の設計はほぼ完成している。テストチップを経て、2019年中には量産チップを作りたい」。PEZY Computingグループ ExaScalerの鳥居淳取締役CTO(最高技術責任者)は意欲を見せる。
2017年12月に創業者が逮捕されてから約1年。PEZYグループは今もスーパーコンピューター(スパコン)技術の開発を継続。スパコン省エネ性能で世界首位をキープしている。
この1年、同社の研究助成金不正に絡んで様々な動きがあった。東京地方裁判所は2018年9月20日、不正に伴う法人税法違反などでPEZY Computingに罰金6000万円の判決を言い渡した。同年10月には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が不正事案の調査報告書を公開した。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に設置していたスパコン「Gyoukou(暁光)」は、2018年6月に撤去が完了した。引き取り手は見つからず、筐体は今も倉庫に置かれたままだ。
2019年4月以降、理化学研究所(理研)の「京」が次世代機の準備に伴い運用を停止する。「暁光が国内のHPCパワーに貢献できないのは悔しい限りだ」と鳥居CTOは話す。PEZYグループは引き続き、受け入れ機関を探す考えだ。「暁光全体のピーク消費電力は1.8メガワット。2.5メガワットの受電設備があれば設置できる」(鳥居CTO)という。
3期連続で首位獲得
現在稼働中のPEZYグループ製スパコンで最大規模のシステムは、理研に設置した液浸冷却スパコン「Shoubu(菖蒲) system B」である。2018年11月に公表されたスパコン省エネ性能ランキング「Green500」で、Shoubu system Bは3期連続で首位を獲得した。電力効率は17.604ギガFLOPS/Wで、米IBMと米エヌビディア(NVIDIA)が開発した新鋭機「Summit」より2割近く高い。
同社はGreen500参加の前提である「TOP500のランキングに入ること」を確実にするため、ノード数を50から60に増やしたほか、1CPU当たりのメモリーを32ギガバイトから64ギガバイトに増設。これにより、ピーク演算性能を従来より2割以上高い1063.3テラFLOPSとした。2018年11月のTOP500ランキングで375位である。
さらにPEZYグループは、今回のGreen500で消費電力の計測方式を変えた。消費電力の計測箇所を計算ノード周辺(Level1計測)から、冷却用ポンプや直流変換設備も含む範囲(Level3計測)に広げた。「PEZYの計測方式は冷却設備を含まず、非省エネのスパコンが上位になり得る欠点がある」との批判に応えたものだ。