2007年のクロード・ミレール監督作品『ある秘密』をArteで視聴。
ナチス占領下のフランスでのレジスタンスものやユダヤ人の物語を暑かった映画はずいぶん観たが、この映画はある意味ですごくリアルだった。東欧からのアシュケナージ系ユダヤ人で完全にフランス人として暮らしているのに、突然理不尽な災難が降りかかる。見た目に何の違いもないのに、どうしてダビデの星などアイデンティティをよそから押しつけられなくてはならないのか。
これはある精神科医の自伝で、ほぼ同年のミレール監督が映画化したものだ。ミレールがやはり同世代のユダヤ人として、家族の歴史としてのトラウマから守られてきたような世代がそのトラウマを意識化していく物語となっている。
過去のシーンがカラーで、「現在」のシーンがモノクロというのも新鮮だ。
イスラエルのガザ攻撃で、反ユダヤ主義が再燃しているという今のフランスから見ても、そうか、フランスのような国でもここまでいくんだなあ、と嘆息してしまう。
でも、どんな時代でも、人生を揺さぶるのは親子や夫婦や男と女の感情の動きだ。
今のフランスがオリンピック前で、スポーツ振興を強調しているように、この映画の1930年代のフランスも、ナチスの優生思想とは別に、「体育至上主義」みたいな流れがあった。体操選手のマキシムを演じるパトリック・ブリュエルが演じるマッチョな父親が印象的だ。妻はか弱そうなのだけれど、生まれた男の子のシモンは運動神経が優れていて溺愛される。
けれどもマキシムは、結婚式で出会った妻の弟の連れ合いに一目ぼれしてしまう。
其の運命の女がセシル・ド・フランスなのだが、圧倒的に美しいのですべての男がとりこになっても納得できるくらいだ。しかも、高飛び込みで賞をとったような筋肉質で堂々としたこれも優生主義に合致しそうな肉体。
夫の心が離れていくのをキャッチした妻は、ナチ占領下のゾーンを逃れることに消極的だ。夫が待っている自由フランスのゾーンの手前でゲシュタポの検査があり、偽造身分証明書を作ってもらっているのに、ユダヤ人とある証明書を見せて、息子と共に連行されてアウシュビッツで殺される。
夫への嫉妬、失恋で鬱状態になって自殺行為に走った、というよりも、王女メデアのように、子供を道連れにして「復讐」を試みた、という方があたっているかもしれない。
結局、スポーツマンの二人が再婚し、男の子が生まれるのだけれど、生まれた時から虚弱で運動神経もよくない。このことに子供自身も、親たちも漠然と罪悪感を抱いている。
映画では描かれていないが、原作である自伝小説によると、スポーツマンだった母親が寝たきりになって絶望した父親が2人で自殺を図って死ぬ、という結末だそうだ。
体力や運動神経、運動能力を基準に「理想」を掲げても、それは長続きしない。老いや病は誰にでも訪れる。
ジュリー・ドゥパルデューがいい味を出していた。