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     止まっているものを動かすのは、動いているものを加速するよりも、大変である。
     何事も、最初のスタートアップが難しい。
     語学学習は、なかでも〈初期不良〉が多い。

     スマホがいかに人間をダメにするかみたいな記事が流れていたので、少しは役立つ事例として、この語学学習を取り上げてみる。

     マーケットが大きい英語以外のまともな語学教材は、秀才向けに書かれている。
     前に言ったことは繰り返さなくても完璧に覚えていることができ、分からないところがあっても自力で調べて(あるいは分からないところを我慢して)先に進んでいける人間を対象に作られている。

     以下は、落差の大きな階段を登っていくための杖であり、手すりである。



    1.まずAnkiをダウンロードする

    (本家サイト;ダウンロードもここから)
     http://ankisrs.net/index.html

    (日本語ユーザーマニュアル)
     http://wikiwiki.jp/rage2050/?manual


     Ankiとは、暗記のための統合ソフトウェアである。

     Ankiのよいところを上げると、

    ・無料である (開発費の寄付は募集してる;同じ理由でiPhone版は有料。しかも高い)

    ・単純で効果の高いアクティブ・リコール法をお手軽にできる

    ・一度入力しておけば、スペースド・リハーサルを使った、記憶に最適な間隔で復習できる(復習スケジュールをお任せできる)。

    (スペースド・リハーサルについては、次の記事に書いた。
    復習のタイミングを変えるだけで記憶の定着度は4倍になる 読書猿Classic: between / beyond readers 復習のタイミングを変えるだけで記憶の定着度は4倍になる 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


    ・一日の学習量の上限が設定できる。もう少しやりたい、ところで寸止めできるのが、今回のやり方では重要である。

    ・大量のデータ数にも対応。テキストがかわっても同じ単語帳に上積みしていけるのも、今回のやり方のミソである。またデータの読み書きも自在で再利用も簡単である。

    ・カードのレイアウトも自在に、いくパターンでも作れる。定形部分をテンプレート化して入力の手間も省ける

    ・画像、音声、動画、そしてLaTeXが使える。数式が使える。プリアンブル (preamble) を変更すれば、化学用や音楽用などのカスタムパッケージも導入できる。

    ・テンプレートにGoogle Text To Speechへのリンクを埋め込んでおけば、音声データを自分で用意しなくても、あとはカードを作るたびに発音するカードになる(やたら楽)

    (たとえばアラビア語で読ませたいなら、
    [sound:http://translate.google.com/translate_tts?ie=utf-8&tl=ar&q={{text:Front}}]
    こういうのをテンプレートに入れておく。赤字部分のtr=**の、**を変えれば英語(tr=en)でも日本語(tr=ja)でも読んでくれる)。

    ・学習時間と成果のデータをグラフにしてくれる

    ・スマホ版もあるので出先で、いつでも細切れ時間をつかって学習できる。
     もちろん学習コンテンツと、学習結果(時間、タイミング、正答率)データは共有、同期できる


    AnkiMobile Flashcards App

    カテゴリ: 教育

    価格: ¥2,200




    アンキドロイド単語帳




    2.外来語や固有名詞からはじめる

     Ankiその言葉由来の外来語や固有名詞(その国の有名人、都市名など)を、元の綴りと読み方を入力する
     そしてAnkiでくるくる繰り返して覚える。
     学習成果のグラフをtweetするのも、モチベーションを維持するのによい。

    ・外来語や固有名詞とその綴りを知るにはウィキペディアが役に立つ
    ・綴りと発音の関係に集中するため、読み=意味である単語に、最初は取り掛かる。
    (例)ロシア語なら
     борщ(boršč ボルシチ)
     комбинат(kombinát コンビナート)
     Гагарин(Gagárin ガガーリン;宇宙飛行士)



    3.綴りと発音のルールに移る

     もっと整理して覚えたいと思いだしたら、ようやく綴りと発音のルールを入力する。
     そしてこれも、Ankiでくるくる回して覚える。
     外来語と固有名詞をこなしているので、この段階は速やかに通り抜けられる。



    4.欲求不満をテコにする

     いちばんやさしくて薄くて内容過少な(これだけじゃ足りないと、すぐに欲求不満を起こすくらいのがよい)超初級書を選び、出てくる単語と基本例文をちびちび入力していく。

     このレベルの本は薄い割りには一人前の値段がするので、図書館などで済ますと良い。

     次のシリーズは、たとえばアラビア語の文法事項をたった28ページで片付けている。

    まずはこれだけアラビア語 (CDブック)まずはこれだけアラビア語 (CDブック)
    石原 忠佳

    国際語学社
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    しかもこの国際語学社が出版している各国語教材のCDブック内の音声ファイル(MP3形式)は、以下のサイトからすべて無料でダウンロードすることができる。
    http://download.kokusaigogakusha.co.jp/

     Ankiは各カードに音声ファイルを添付できるから、私的使用の範囲内で、貼り付けて活用するのも可能である。


     そしてAnkiでくるくる回して覚える。

     同じ言語を学ぶ場合、教材がステップアップしても、同じ単語帳に続けて積み上げて入力していくのがミソである。
     最初の頃の学習事項も、忘れた頃に登場してくる。
     覚えていれば一瞬で済むし、楽勝なものは時間をおいてしか登場しないから、同じ単語帳に新規事項を積んでいっても、何千、何万とカードができても、邪魔にならない。



    5.動き出したら普通のテキストへ

     ようやく普通の入門書に移る。
     しかしこの段階まで来ると、ほとんど離陸しているようなものである。

     テキストがステップアップしても、やることはこれまでと変わらない(これは以後も同様である)。
     出てくる単語と基本例文をちびちび入力していく。
     
     繰り返しになるが、本が進んでも、同じ言語については、同じ単語帳に続けて入力していく。
     超初級書を済ませているので、しかもAnkiで何度も回して、反射的に引き出せるレベルで覚えているので、一から入門書をやるよりもずっと速く済むし、定着も良い。



    ☆.全体の考え方

    ・いわゆる〈塗り壁〉方式。壁を一度に分厚く塗ると、重みで落ちてしまう。そのため薄く何度も塗るやり方をとる。

    ・焦れるくらいの〈薄さ〉で重ねていく。言い換えると、知りたいという欲望を追い越さない。

    ・一度に大量に入力するより、ちびちび入力した方が続く(もう少しやりたいと思うくらいに留める)

    ・大事なことなので三度言うが、同じ言語はテキストが進んでも、同じ単語帳に積み重ねていくべき。これで何千語レベルの項目の、記憶をメンテナンスしていくことができる。

    ・Ankiは、世界中のユーザーが自分の単語帳をシェアしており、以下のサイトで各国語の(語学以外の分野も)データが手に入るが、

    Anki's shared Decks
    https://ankiweb.net/shared/decks/


    出来合いの単語帳を流しこんで数千語を一気に流しこむより、ぽちぽち入力した方が追いかけられなくて、続きやすい。

    ・時間や根性のある人は、数千語を一気に流し込んで、追いかけられながら学習してもよいけれど。


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