味噌汁のお椀を倒し、中身をこぼしてしまった隣の席の女の子。
あわててティッシュや台ふきで処理する女の子に気付きながらも、何もなかったように黙々と食べ続ける自分。
このとき私は、事を荒立ててはいけないと思った。
味噌汁をこぼすなんてのは小さなミスだ。
私が動くことで、ミスに気付かなかった人にまで女の子のミスを知らせてしまうことになるだろうと。
それに、一人で処理できるだろう案件に、私が首を突っ込んで余計な恩を着せたくない。
そんなことを考えているうちに、別の女の子がやってきてこぼした味噌汁の処理を手伝いサササーっと片付けていったのだった。
どうするべきだったろうか?
その日からずっと考えている。
冷たい人に映っただろうか?
でもね、何も考えてなかったわけじゃないんだよ。
社会に出た今でも同じようなシチュエーションはありすぎるほどあって、私はといえば中学生の頃と何一つ変わらない。
「あなたのことが心配です」
本当はそう伝えたいけれど、あなたが人に心配をかけていること自体に負い目を感じてしまったらどうしようと、胸に抱えたまま。
素知らぬ顔でキーボードを叩く胸の内は、空っぽじゃないんだよ。
考えすぎて何もできない。
慮って何も言えない。