「Hungry Hungry Hippos」(4頭のカバが餌を取り合うおもちゃ)という言葉に、新しい意味が加わった。カバの共食いを示すほぼ初めての事例を、科学者が発表したのだ。
保全生物学者リージア・ドーワードは2014年、南アフリカのクルーガー国立公園で、水につかったカバの死体を、別のカバが食べているシーンに遭遇した。「驚きの光景でした。そんなこと(カバの共食い)は、前代未聞でしたから」と英国オックスフォード大学の博士課程で学ぶドーワードは振り返る。
ドーワードはロンドンに戻り、文献を調査した。その結果、1999年に一度だけ、S・キース・エルトリンガムがカバの共食いを記述していたことを発見する。通常は草食と考えられているカバだが、それ以前にも肉食の事例は認められていた。1998年にジョセフ・ダドリーが発表した論文において、2頭のカバによるインパラの捕食が報告されている。
ノースカロライナ大学チャペルヒル校の生物学者デビッド・ペニヒは、自分と同じ種の個体を食べることには大きな利点があると述べている。「(同じ種の個体には)必要な栄養素がすべて含まれます」
一方で、代償もある。最大の代償は、病原菌がまん延する可能性だ。「人間の場合でも、ペットのネコを食べるより、同じ人間を食べる方がよほど病気にかかりやすい」とペニヒは説明する。そのため共食いは珍しく、極度の苦境に陥ったときに発生するのが一般的だ。そのような状況では、将来の病気のリスクを心配するより、目の前の食事が優先されるためである。
確かに、これまでに報告されたカバの肉食事例は、いずれも深刻な干ばつ時に発生している。しかし、オックスフォード大学のドーワードがカバの共食いを目撃した2014年4月、同地域では十分な雨が降っていた。そのため、共食いの原因は謎だ。
原因を明らかにするため、ドーワードは現在、アフリカで発生したその他のカバの共食い事例をまとめている。この1月には『African Journal of Ecology』誌に新しい論文を掲載し、「非常に珍しい行動なので、ほかの人からの報告も当てにしています」と述べた。
共食いの事例は、カバ以外にもたくさん報告されている。
タイガーサラマンダー
タイガーサラマンダーの共食いを研究していたこともあるペニヒによると、北米に生息するこの両生類の卵は、雪解け水などによってできる小さな池で孵化(ふか)する。そのような、いつなくなるかわからない生息環境で孵化した幼生が成体になるには、成長のスピードを速めなければならない。そのため、共食いによってそのプロセスを速めることがあるのだ。
仲間を食べる幼生(共食いモルフ)は、食べられる他の幼生と外見が異なる。頭と口が大きく、歯がとがっている。米国西部の乾燥地域では、幼生3体につき最大1体が、共食いモルフになり得るといわれている。
ナマケグマ
ナマケグマはインドとその周辺に生息し、主に昆虫を食べる。ナマケグマの共食いが科学者の注目を集めるようになったのは、今からおよそ1年前。ワシントンD.C.のスミソニアン国立動物園で、ナマケグマの母親が自分の子ども2頭を食べたときからだ。
母親のハリは、過去に子どもを育てあげたこともある。なぜ我が子を食べるに至ったのか、その理由は飼育員にもわかっていない。
飼育員らは1頭だけ生き残ったメスをスリングで抱き、哺乳瓶で授乳をしながら24時間365日体制で育てた。そのメスは今でも健在だ。
チンパンジー
霊長類学者のジェーン・グドールは1977年、チンパンジーの雌雄双方による、共食いおよび子殺しを報告している。
当初は例外的な行動だと科学者たちは考えていたが、2007年に『Current Biology』誌に掲載された論文で、同様の事例が複数報告された。事例のなかには、攻撃的なオスよりもおとなしいと考えられていたメスによる行動も含まれている。
チンパンジーが共食いをする理由は、餌および交尾相手をめぐる争いを減らすためでもあり、単に食用に適しているためでもあるとペニヒは考えている。