2014年末、米国ユタ州の山から、ユタラプトルという恐竜の化石が入った重さ9トンの砂岩の塊が切り出された。ユタラプトルは、映画『ジュラシック・パーク』で一躍有名になったベロキラプトルに近い仲間の肉食恐竜。羽毛に覆われ、後肢には巨大なかぎ爪があり、ベロキラプトルを筋骨隆々にしたような体つきだったと考えられている。
今回切り出された岩塊に埋もれている化石は、過去に見つかっているユタラプトルの化石の中で最も大きい。科学者たちは、この岩塊の中に6頭のユタラプトルの化石が入っていると見ている。群れで狩りをしている最中に、流砂にはまって生き埋めになった可能性がある。
集団で狩りをしたか
ユタラプトルについては集団で狩りをしていたかをめぐって論争があるが、今回発掘された化石によって、長年の論争に決着がつくかもしれない。
『ジュラシック・パーク』では、ベロキラプトルが群れで協力して獲物を追跡していたが、制作当時、このシーンのヒントになったのは、1頭の草食恐竜の化石と一緒に数頭の肉食恐竜の化石が発見されたことだった。今回の化石の6頭が同時に死んだのだとすれば、映画の描写が適切だったかどうかの検証に役立つだろう。
岩塊の中で6頭はぎゅうぎゅう詰めになっていて、90cmもの高さに折り重なっている場所もある。現時点では、別々の時期に同じ場所の流砂にはまって死んだのかもしれないし、一緒に食事をしているときに悲劇が起きたのかもしれない。
岩塊が掘り出された背景には、ユタ州地質調査所の古生物学者ジェームズ・カークランドが率いるチームのたいへんな努力があった。彼らがこの岩塊の発掘に着手してからすでに10年以上になるが、つい最近も、見たことのないような骨を発見して、ユタラプトルの体の構造に関する認識を大きく変えている。「ユタラプトルを見る目は、これまでとは違ったものになるでしょう」とカークランドは言う。
流砂にはまったイグアノドンを目当てに
カークランドがこの場所を知ったのは、2001年のこと。ヒトの腕の骨のようなものを見つけたと聞いた彼は、それが恐竜の足の一部であることを見抜き、ほかにも多くの骨を発掘した。
彼のチームはその後、体長5mほどのユタラプトルの成体が1頭と子どもが4頭のほか、1mもなかったと思われる、生まれて間もない個体も1体発見した。同じ場所から、くちばしを持つ草食恐竜イグアノドンの化石も見つかり、ここにイグアノドンがいたことが、ユタラプトルの群れを引き寄せた可能性が出てきた。ただしこれまでに掘り出すことのできた骨は全体のごく一部にすぎず、大部分は巨大な砂岩の中に埋もれている。
カークランドは白亜紀に起こったドラマをこんなふうに想像している。
ある日、うっかり者のイグアノドンが流砂にはまり、悲鳴をあげてもがいていた。そこに、この音を聞きつけたか、おいしそうな肉の匂いを嗅ぎつけたユタラプトルが次々にやって来てイグアノドンにありつこうとしたところ、自分たちも流砂にはまってしまい、肉の匂いを強めることになった――。
「これが本当に集団で流砂にはまった恐竜の化石であるとすれば、初めての発見になります」とカークランドは言う。
しかし、この仮説を検証するためには化石をもっとよく調べる必要があり、デリケートな化石を取り出すためには丘から岩塊を運び出す必要があった。「9トンもある岩塊など、誰も運び出したくはありません」と彼は言う。「けれども、岩塊に切れ目を入れようとするたびに恐竜の脚や背骨に当たってしまうので、まるごと運び出すしかなかったのです」
恐竜の化石がぎっしり詰まった岩塊をヘリコプターで空輸するには莫大な費用がかかるので、カークランドらは人力と重機で岩塊を運び下ろし、ソルトレークシティーのユタ州自然資源局で一時的に保管することにした。
岩塊に封じられた物語を解き明かすには、今後何年もかかるだろう。しかし、ユタラプトルが岩塊に閉じ込められてから1億2500万年もたっているのだから、あと数年待つことなど、なんでもないだろう。彼らは今、石膏と木の板に守られて、白亜紀の流砂に飲み込まれたときのままの姿勢で、岩塊から取り出されるのを待っている。
※ ナショナル ジオグラフィック2014年5月号に、米国ユタ州で見つかる独自の恐竜たちを特集した「知られざる恐竜の楽園」を掲載しています。くわしくは下のリンクからどうぞ。