古代ローマの医師たちは紀元200年ごろにはすでに、女性の子宮壁には良性の腫瘍ができる場合が少なくないことを認識していた。米国では白人女性の約70%、黒人女性の80%以上が、50歳までに子宮筋腫ができると推定される(編注:日本では生涯に30~50%がかかると推定される)。しかし、子宮筋腫にはいまだに多くの疑問が残されており、なぜ発生するのか、何が成長を促すのかといった基本的なこともわかっていない。
子宮筋腫は、子宮壁の内側にできる平滑筋細胞と結合組織の塊だ。筋腫が大きくなると、女性の生活の質と妊娠可能性に重大な影響を及ぼす可能性があり、米国では子宮摘出手術の最も一般的な理由となっている。2024年6月に学術誌「Medical Science Monitor」に掲載された子宮筋腫の治療薬に関するレビュー論文は「さらなる研究が強く求められる」と指摘している。
「子宮筋腫の研究は始まったばかりであり、まだ表面を引っかき始めた程度の段階にあります」と、米ミシガン大学医学部の生殖内分泌学・不妊治療科主任のエリカ・マーシュ氏は言う。
科学者らはいまだに、子宮筋腫がどのようにできるのか、スイカほどの大きさになる場合がある一方で小さいままのものもあるのはなぜなのか、どうすれば予防できるのか、治療によって妊娠可能性にどのような影響が出るのかといった重要な疑問を解明できていない。
資金援助が少ないせいで、子宮筋腫の研究に使う良質なマウスモデルさえ作成できていないとマーシュ氏は言う。米国立衛生研究所(NIH)からの年間1700万ドル(約27億円)という資金の規模は、研究対象の疾患の中で下位に位置する。
一方、近年では、高周波エネルギーを用いて子宮筋腫を小さくする手法の導入や、再発を最小限に抑える可能性があるライフスタイルを突き止めるといった進歩も見られる。(参考記事:「1割の女性がかかる激痛の子宮内膜症、なぜ誤診が多発? 治療法は」)
雪の結晶のように一つひとつが独特
10年ほど前、科学者らは、子宮筋腫の70%以上に存在する「MED12」遺伝子の中に、重要な変異を発見した。
こうした変異を持つ細胞は、思春期に女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンにさらされたのち、何年もたってから子宮筋腫になる場合がある。環境中に存在する内分泌かく乱物質や、その他の要因が関係している可能性もある。子宮筋腫は閉経までに大きくなったり、数が増えたりすることがあるが、すべてがそうなるとも限らない。
子宮筋腫の症状は、一般に以下の4つに分類される。月経量が多くなる、子宮のサイズと重量が増えることによる骨盤の圧迫感・頻尿・便秘(まとめて「圧迫症状」と呼ばれる)、月経中や性交時の激しい痛みや骨盤痛、そして不妊だ。
「子宮筋腫は、雪の結晶のように一つひとつが独特で、同じものはふたつとありません」と、米クリーブランド・クリニックの産婦人科および生殖生物学教授リンダ・ブラッドリー氏は言う。これはつまり、治療は一人ひとりの患者に、そして一つひとつの筋腫に合わせて、個別に行う必要があることを意味する。
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