数年前のある朝、米ハワイ州オアフ島のマノア渓谷にある自宅で、科学者のキンバリー・カールソン氏が窓の外に目をやると、息をのむほど鮮やかな虹が出ていた。
それは驚くことではなかった。ハワイはおそらく世界で最も虹を見るのに適した場所であり、特にマノアは頻繁に雨が降って日差しも強いため、鮮やかな虹を見るのに理想的な環境なのだ。
しかし、現在は米ニューヨーク大学で環境科学を教えているカールソン氏は、ある素朴な疑問の答えを知らないことに気づいた。その疑問とは、気候変動がハワイの、そして地球全体の美しい虹に影響を与えるのだろうかというものだ。
そこでカールソン氏は、他の気候科学者たちにこの疑問を投げかけた。すると、彼らは大いに興味をそそられ、学生たちの協力を募って調査することになった。そして、2022年10月28日付けで学術誌「Global Environmental Change」に結果を発表した。
「気候変動が虹に影響を及ぼしているのは事実だと分かりました」と、論文の筆頭著者であるカールソン氏は言う。この論文では、コンピューターモデルを用いて未来の虹ができる条件をシミュレートした。気候変動によって気象の大きなパターンが変化すると、世界の多くの地域、特にアラスカやシベリアなど極地に近い場所で雨が多くなり、21世紀末までに虹が出る日数が年間で何十日も増える可能性がある。
「ですが、悪い面もあります」とカールソン氏は警告する。地中海沿岸、アフリカ南部、南米の熱帯地域では今後さらに乾燥が進むと予測されており、2100年までに虹ができる日が大幅に減るかもしれない。
虹はマノアでカールソン氏が体験したような喜びをもたらす一方で、より虹が出るようになった空は、実は世界的に大きな問題の兆候なのだ。
虹のレシピ
「虹は雑草のようなもので、大小さまざま、明るいものから時には弱々しいものまで、どこにでも現れます」と、米国メリーランド州アナポリスにある米海軍兵学校の光学と気象学の専門家であるレイモンド・リー・ジュニア氏は言う。なぜなら、どの虹も基本的な構成要素は共通しており、比較的単純な物理法則に支配されているからだ。
「自然の虹ができるための基本的なレシピは、太陽に照らされた雨です」とリー氏は説明する。
まずは雨粒が必要で、大きいほど良いとリー氏は言う。なぜなら、雨粒が小さいと、入ってきた日光の反射と屈折の具合により、出ていく光の波が互いに干渉し、虹の明るさが損なわれてしまうからだ。そして、観測者の目から見て42度以下の角度で大気を通り抜ける直射日光が必要だ。これは、世界のほとんどの地域で朝か午後にあたる。最後に、空が雲に覆われているのではなく、にわか雨が降っている状態が必要だ。
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