サンゴ礁について、古くから指摘されている謎がある。ごく限られた場所にしかなく、しかも、熱帯の海水は栄養分が乏しいのに、魚類全体の3分の1にも及ぶ魚種がサンゴ礁に暮らしている。その魚を食べている人間は数百万人に上る。いわば熱帯の海のオアシスであるサンゴ礁は、なぜこれほど豊かでいられるのだろうか。(参考記事:「動物大図鑑 サンゴ」)
チャールズ・ダーウィンが最初にこのパラドックスに気づいて以来、科学者たちは答えを求めて奮闘してきた。そしてこのたび、カナダ、フランス、オーストラリア、米国の海洋科学者たちは、謎を解く新たなカギを見つけたと考えている。彼らは5月23日付けの学術誌「サイエンス」に論文を発表し、サンゴ礁に生息する無数の小魚たちが、サンゴ礁の生態系の栄養源となり、より大型で人目を引く生物に食物を提供していると主張している。(参考記事:「ライバルはチャールズ・ダーウィン!!」)
ハゼ、ギンポ、テンジクダイなど、これらの小魚の多くは体長5センチ未満で、海にすむ脊椎動物では最も小さい部類だ。40匹集めてようやく25セント硬貨1枚と同じ重さ(約6グラム)になるような小魚もいる。研究チームを率いたサイモン・ブランドル氏は、こんな小さな魚が、サンゴ礁魚類の量の60パーセント近くを占め、サンゴ礁に暮らす魚たちの「隠された半分」であると言う。同氏は、カナダ、バンクーバーにあるサイモン・フレイザー大学でサンゴ礁の生態について研究している。
サンゴ礁に暮らす小魚がなぜ繁栄しているのか、サンゴ礁にとってなぜ重要なのかは、陸上の昆虫の一生を見ればわかるだろう。彼らは大いに繁殖し、短期間で成長し、非常に短い生涯を送っている。
「サンゴ礁にすむ小魚たちは、既知のどの脊椎動物とも異なる道を選びました」とブランドル氏は言う。「幼生の期間が長く、成体になると数週間で死ぬカゲロウやセミのような地位へと進んでいったのです。彼らは繁殖し、捕食者の餌食となるのです」。つまり、虫のような一生を送る小さな魚たちだ。(参考記事:「動物大図鑑 セミ」)
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