夜空を見上げると、星はいつでもまたたいている。しかし、宇宙は常に星の海だったわけではない。はるか遠い過去の宇宙に目を凝らす科学者たちは、今回、宇宙で最初に生まれた第一世代の星々「ファーストスター」の火が灯ったのは、宇宙の誕生時のビッグバンから約1億8000万年後だったとする研究成果を3月1日付けの科学誌「ネイチャー」に発表した。
科学者たちは数十年前からファーストスターの痕跡を追いかけて競争を繰り広げていた。EDGESというプロジェクトが新たに検出したのは、ファーストスターの光が、原初の宇宙を満たす水素ガスと相互作用を始めたときに生じる電波信号だった。(参考記事:「宇宙で最初に生まれた星、ファーストスター」)
この信号が精査に耐えるものならば、宇宙論の新たな分野の研究が可能になり、いくつかの難問に挑戦できることになる。(参考記事:「重力波、世紀の発見をもたらした壮大な物語」)
南アフリカ共和国のクワズール・ナタール大学の物理学者シンシア・チャン氏は、「これまで、宇宙の夜明けの時代は完全に未踏の領域でした」と言う。「宇宙の歴史のこの部分を見られるようになったのは画期的です。EDGESによる今回の発見は、ファーストスターの性質をより詳細に理解するための第一歩です」
宇宙の夜明けを振り返る
生まれてすぐは高温高圧で不透明だった宇宙が膨張して冷えると、38万年後に晴れ上がり、暗黒の時代(Cosmic Dark Ages)に突入する。このときにはじめて光が通るようになり、水素やヘリウムの原子が現れた。やがて、ダークマターの塊の周囲に高温のガスが集まり、収縮し、中心部の密度が十分に高まり、核反応が始まってファーストスターが誕生した。(参考記事:「ビッグバンは宇宙の始まりではない」)
ファーストスターが放った光はとてもかすかなため、直接観測するのはまず不可能だ。では、研究チームはどうやって確かめたのだろうか。
ファーストスターが光を放ったとき、紫外線の光子が原始の水素ガスに吸収され、水素の状態が変化した。そのせいで、水素が吸収するビッグバンの残光である「宇宙背景放射」にも変化が起きた。この痕跡は今でも宇宙を旅していて、電波望遠鏡で観測できる。(参考記事:「ビッグバンの決定的証拠、宇宙マイクロ波背景放射」)
同じ現象は今日の宇宙を照らす星々の内部でも起きている。しかし、ファーストスターに由来する電波は、長年にわたり宇宙を旅する間の分だけ他と波長が異なる。天文学者はこの違いを利用して、オーストラリア西部の小さなアンテナで検出した電波の中にファーストスターの指紋を見つけたというわけだ。
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