致死率30%というウイルスをはじめ、恐ろしい病気を媒介する寄生生物のマダニは、自前の接着剤で皮膚に貼りついている。(参考記事:「致死率30%の新興ウイルスが日本に定着している!」)
700種以上いるマダニ科の仲間は、まずペンチのような器官で宿主の皮膚を切り裂き、細長い口器を差し込んで取り付く。だが、動き回る宿主の皮膚に、ときに1週間以上もしがみついているのは簡単ではない。そこで、血を吸う場所で接着剤を使うわけだ。しっかり固まるこの接着剤は「セメント様物質」と呼ばれる。(参考記事:「ダニの奇妙な世界」)
「すべての種がこの技を持っているわけではなく、その量も種によって異なります」と言うのは、科学誌「Biological Reviews」にマダニのセメント様物質に関する論文を発表したシルビア・ニュルンベルガー氏だ。
今回の論文のために、オーストリア、ウィーン医科大学整形外傷外科学部の研究者であるニュルンベルガー氏らのチームは、接着剤が含まれるダニの唾液に関する既存のすべての論文に目を通した。おかげで、これまで報告例の少なかったセメント様物質に関して広い観点から考察できたという。
宿主の免疫系をもてあそぶ
マダニの唾液には、接着剤のほかにも、宿主の免疫系を抑制したり、痛みやかゆみを抑えたりして、血を吸っていることを気づかれないようにする成分も複数含まれている。
「マダニはいわば、宿主の免疫系をもてあそんでいるのです」とニュルンベルガー氏。
「あまり注目を浴びてこなかった課題に関する、驚くほど詳細な考察」と彼らの研究を評価するのは、米ウィスコンシン大学マディソン校獣医学科の疫学教授トニー・ゴールドバーグ氏だ。(参考記事:「「人食いバクテリア」とは何か? 対処法は?」)
同氏によると、マダニに限らず、ヒルや蚊などを含むあらゆる吸血生物は、「血を吸う相手の宿主が身を守るために繰り出す激しい攻撃にさらされる」ことになるという。
ゴールドバーグ氏は数年前、ウガンダを訪問した後、自身の鼻の中に取り付いていた新種のマダニを発見した。「あのマダニが強力な接着剤を持っていたのは間違いありません」
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