最先端の太陽電池パネルのコンセプトは、2つの道具によってもたらされた。紙とハサミだ。
日本の切り紙細工からヒントを得た米ミシガン大学の研究者が、七夕飾りの「網」のように広がる太陽電池を開発した。太陽の動きに合わせてこの太陽電池を引っ張ることで、表面に太陽光を受けやすい傾きが生じるおかげで、効率よく集光できる。このアイデアに関する詳細な論文は、9月8日に「Nature Communications」誌に掲載された。
太陽の位置は刻々と変わっていくのに、太陽電池パネル自体は基本的に動かないため、自動的に太陽を追尾する架台の上に載せないかぎり、常に最適な角度で太陽光を受けられない。これは、太陽電池における根本的な問題だ。論文の共同執筆者であるミシガン大学のエンジニア、マックス・シュタイン氏は、自動追尾システムは高額で、屋根の上には設置できないと指摘する。彼は、アーティストのマット・シュリアン氏と協力して今回のデザインを生み出した。(参考記事:特集「もっと使おう太陽の力 太陽光発電」)
切り紙式太陽電池は、細かい切り込みを入れた柔軟なガリウムヒ素薄膜からできている。この太陽電池を引っ張ると、表面に小さな傾斜が生じ、太陽の動きを約120度にわたって追跡できる。太陽光をより効率よく、より多くの場所で利用するため、これまでにもさまざまなアイデアが提案されてきた。シュタイン氏の切り紙式太陽電池は、窓として使える透明な太陽電池や、どこにでも貼り付けられる太陽電池と並ぶ、画期的なアイデアだ。(参考記事:「日光下でも金属が熱くならない夢の塗料を開発」)
シュタイン氏によると、切り込みを入れた薄膜は、従来の太陽電池より30%も多く太陽エネルギーを集められるが、その代償として、太陽電池パネルの大きさが約2倍になってしまうという。「パネルを引っ張るので、伸びるためのスペースが必要になるのです」
アーティストのシュリアン氏は、非常に複雑な切り紙作品を制作することで知られている。それに比べると今回のデザインは単純だが、何か理由があるのだろうか?
「いろいろな切り方を試した結果、この単純なパターンがベストであることが分かったのです」とシュタイン氏は言う。「広げるときに格子が重なって影ができてしまうものが多いのですが、この切り方だと影ができにくいのです」。
「巧妙」で「最も奇妙」
とはいえ、切り紙式太陽電池パネルの見た目は、従来と変わらないものになるだろう。伸縮する部分は、サンドイッチの中身のように2枚のパネルの間に挟み込まれるからだ。
米国立再生可能エネルギー研究所で太陽電池パネルのデザインと効率を評価している科学者のキース・エメリー氏は、このコンセプトを「エキゾチック」で「巧妙」で「最も奇妙」と評価する。
エメリー氏は、ミシガン大学の論文はまだ概念実証の段階にあり、切り紙式太陽電池が研究室の外で稼働するまでには「未解決の問題や、さらに問題が出てきそうな領域をいくつも乗り越えなければなりません」と言う。例えば、この材料は連日の伸縮に耐えられるのだろうか? 極端な高温や低温には? 太陽電池を動かすのに必要なハードウェアやエネルギーはどうするのか?
エメリー氏は、切り紙式太陽電池を動かす機構が野外での25年間の使用に耐えられるのか、疑問視している。
シュタイン氏自身も、「太陽電池パネルを引っ張るのに必要なエネルギーは非常に小さいので、大きなモーターは不要なのですが、実用化にはさらなる研究が必要です」と言う。彼は、今回用いた太陽電池は紙幣の半分ほどの大きさだったので、次はもっと大きい装置で検証したいと考えている。(参考記事:「世界最大の水上メガソーラー、日本で建設」)
切り紙式太陽電池のアイデアは、長期的には屋根の上の太陽電池の効率を大きく向上させる可能性があるが、シュタイン氏は、航空宇宙用の小型太陽電池の方が先に実現するだろうと考えている。人工衛星など、移動する装置で使うときには常に重要になるからだ。(参考記事:「ソーラー飛行機、世界一周の旅へ」、「ここがすごい!ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」)
軽さの点でも、切り紙式太陽電池パネルは空での使用に向いている。最初の一歩として、このアイデアがうまくいくことは証明できた。シュタイン氏は、さらに研究を進めることを計画していて、その成功を確信しているという。