『知らないと損する年金の真実』(大江 英樹 著)の読書感想文
最近労働分野ばかりやってましたが、社会保障分野も勉強しておかないといけないと思い、旅行中に以下の本を読みました。
「年金って巷で言われているような悪いもんじゃないよね」ってスタンスで、年金の真実を教えてくれる良書でした。
分かりやすい文書で書かれているので、そこまで知識がなくても読める本だと思います。
その中でも特に勉強になった箇所を2点紹介したいと思います。
①少子高齢化が進むので年金は崩壊する?
日本は少子高齢化が進む社会なので、かつては多くの現役時代でお年寄りを支える『お神輿型』でしたが、今は3人で1人を支える『騎馬戦型』、そして将来は1人で1人を支える『肩車型』に確実に変化していきます。
今のままでは将来世代はこの負担に耐えられませんという論旨の展開は、至るところで述べられています。
しかしこれは、65歳以上か65歳未満かという単に年齢で切っただけの数字。
年金のような社会保障制度は、現役で働いている人が保険料を負担するので、単に年齢で切り分けて、その比率を比べるのではなく「働いている人が働いていない人を養っている割合がどれぐらいか」で考えるべきです。
2020年では1人が0.89人を支えています。
30年前の1990年には1人で0.96人、1970年は1人が1.05人という数字になっています。
お神輿型と言われていた1970年よりも今の方が高齢者の数は増えているにもかかわらず、支えている人数自体はわずかですか、減っているのです。
働く高齢者や女性が増加し、保険料を負担する人数が増えていることで、そのバランスはほとんど変わっていないことが分かります。
「少子高齢化が進むから」という理由だけで「年金は崩壊する」わけではありません。
確かに過去の55歳定年の時代から比べると、今は定年が60歳になり、それを過ぎても働き続けるのが当たり前。
その人たちは70歳まで年金保険料を払い続けます。
さらに、寿退社などは私語で、女性が結婚・出産後も働き続けるのも普通。
支払い不要で100%受給できる3号保険者ではなく、2号保険者のままでいてくれます。
年齢ではなく、就業者で見ることでかなり違った世界が広がっているのが分かりました。
②年金支給開始年齢は引き上げられる?
年金支給開始年齢の引き上げについてですが、これは今のところまずあり得ないだろうというのは歴史を見れば分かります。
55歳から60歳までの引き上げに要した期間は20年。
そして60歳から65歳までの引き上げは決定してから32年が経過していますが、まだ終わっていません。
全てが完了するのは2030年です。
ずっと払い続けてきたのに急に来年から開始年齢を引き上げるのは現実には不可能。
相当な時間をかけ、さらには経過措置も併せて作りながら徐々に変えていくしかありません。
将来平均寿命が90歳とか100歳という時代がくれば再び引き上げが検討されるでしょうが、その時期は少なくてもこれから10年や20年の内に来ることはないでしょう。
今の現役世代の多くの人たちにとっては、支給開始年齢が65歳というのはほぼ既定の事実と考えて良いと思います。
指摘されているように、1989年に決まった65歳までの引き上げすらまだ終わっていません。
今の65歳までの引き上げも、60歳への引き上げが完了して16年後に決定し、さらに12年後から段階的に始まった歴史があります。
65歳への引き上げが終わるのが2030年、過去と同じようにそこから次の引き上げまでに28年かかるとすると2058年。
今から35年後なので、今30歳の人なら65歳支給開始で逃げ切れることになります。
もっと早く始まったとしても、いきなり70歳開始になるのではなく、国民年金部分だけ1年刻みで遅らせるみたいに段階的に削られています。
「年金はそのうち70歳になるよ」と半ば当たり前のように言われていますが、歴史的経緯を見ても、今の現役世代の多くは65歳から支給開始論は、なかなか説得力があるように感じました。
年金に関しては本当にイメージが悪く、バイトで一緒になった大学生とかが「俺らどうせ年金とか貰えないっすから、払うだけ損っすよ」みたいな話はちょいちょい聞きます。
社労士としては、その辺のマイナスイメージを少しでも払拭できればいいなと考えています。
- 関連記事
-
- 『影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか』 (ロバート・B・チャルディーニ 著)の読書感想文
- 『知らないと損する年金の真実』(大江 英樹 著)の読書感想文
- 『嫌われた監督』(鈴木 忠平 著)の読書感想文