月のみならず、太陽系でも最大級とされるクレーター『南極エイトケン盆地』だが、最新研究によると、これまで考えられていた楕円形ではなく、実際には円形に近いことが判明した。
一見些細に思える発見だが、そこにはクレーターが形成されたときの状況がわかるだけでなく、月誕生の秘密を解き明かす手がかりになるという。
月の歴史を現在に伝える巨大クレーター
月面にはその歴史が刻まれている。数十億年にわたって無数の隕石が衝突し、その傷跡が消えないまま今に残されているからだ。
その中でも最古かつ最大のものが「南極エイトケン盆地」と呼ばれるクレーターだ。
深さ13km、直径2500kmのそれは、月面の4分の1近くをおおう大きさで、月だけでなく太陽系全体でも最大クラスの巨大クレーターである。
ひときわ目をひくクレーターではあるものの、南極エイトケン盆地を調べるのは簡単ではない。
とんでもなく大きいことにくわえ、形成から40億年以上が経っているために、衝突の痕跡がおおい隠されてしまっているのだ。
それでも研究者が南極エイトケン盆地を調べたいと願うのは、それが月の初期の歴史や進化の軌跡を理解する大切な手がかりになるからだ。
月最大のクレーターは想像以上に丸かった
これまでの研究では、南極エイトケン盆地は大きな隕石が斜めに落下したことで形成されたとされてきた。
となると、クレーターの形は楕円形になり、その衝突の破片は月の南極の逆方向に吹き飛ばされているはずだ。
ところが、今回の研究によるなら、どうもこの説は間違っていたようなのだ。
米国メリーランド大学の地質学者ハンネス・バーンハルト氏らは、現在の月面の地形の特徴から、南極エイトケン盆地を作り出した衝突がどのようなものだったのか探ることにした。
そのための手がかりが、NASAの無人月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター」だ。この探査機は2009年から月を周回し、膨大な月面の地質データを集めてきた。
このデータをもとにすれば、南極エイトケン盆地の周りに点在する200以上の山々の位置を調べることができる。
こうした山々は、クレーターのリム(へり)の名残である可能性が高い。それをじっくりと観察すれば、クレーターの本当の形状がわかるはずだ。
そして明らかになったのは、クレーターが想像以上に丸かったことだ。それまで考えられていたように楕円ではなく、むしろ円形だったのだ。
隕石は真上から落下していた
これが示しているのは、隕石が真上から落下したということだ。バーンハルト氏によるなら、「月面に垂直に落下したような衝突」なのだという。
このことは、南極エイトケン盆地に見られる風変わりな特徴を説明してくれるかもしれない。
例えば、その周囲の重力を測定してみると、その下はほかの部分よりも密度が高いらしいことがわかる。
仮にその下にクレーターを作り出した高密度の小惑星が埋まっているのだとすれば、月の重量の異常もうまく説明できるだろう。
月誕生の秘密を知る手がかり
垂直の落下が重要なもう1つの理由は、それが月誕生の秘密を解明する手がかりの位置を伝えてくれることだ。
巨大な小惑星が衝突すると、月の地殻の奥深くにあった物質までをも吹き飛ばし、月面に撒き散らす。
月では地球のように地質活動や大気による風化が起きないので、そうした残骸は今もなお残されている。
もし、南極エイトケン盆地が垂直にぶつかってきた隕石によって作られたのなら、その破片は一方向に吹き飛ばされるのではなく、周囲にまんべんなく散らばってるはずだ。
NASAのアルテミス計画など、今後行われる月ミッションではそれらを調べ、普通なら見ることができない月のマントルや地殻の奥深くについて知ることができるかもしれない。
月の形成理論で今もっとも有力とされているのは、かつて地球に火星くらいの天体が衝突し、それによって引きちぎられた物質が月になったという「ジャイアント・インパクト説」だ。
月の初期にまき散らされた内部の岩石からは、この仮説のさらなる裏付けが得られるかもしれない。
「この研究の一番ワクワクするところは、その結果を月やほかの天体のミッションにどう応用するかという点なのです」と、バーンハルト氏はニュースリリースで語っている。
この研究は『Earth & Planetary Science Letters』(2024年11月28日付)に掲載された。
現在の軌道との整合は取れるのだろうか?
もし垂直方向からの衝突だったら傾斜角にも影響が出そうだけどな
下から一発か…
>隕石が真上から落下した
とは言う物の、よほど斜めからぶつかったんじゃない限り
クレーターは楕円にならない、って話もあるんだよな。