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月の最大かつ最古の衝突クレーター(大穴)の年齢が特定される

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月の裏側の南極付近にあるエイトケン盆地の標高データ。青色と紫色で示されている。この画像を大きなサイズで見る
月の南極付近にあるエイトケン盆地(青色) Credit: NASA/GSFC/University of Arizona

 月の裏側、南極付近には、地球からは見えないが、最大かつ最古の衝突クレーター「南極エイトケン盆地」がある。

 直径200kmの天体の衝突によって形成されたこのクレーター(大穴)は、幅約2500km、深さは6.2~8.2kmだ。

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 太陽系でも最大級の衝突クレーターで、恐竜を絶滅させたチクシュルーブ隕石ですら10kmだったことを考えれば、その衝撃も凄まじいものだったはずだ。

 最新の研究では、この南極エイトケン盆地が形成されたより詳細な時期が特定された。

 それは今から43億年前のことで、従来の仮説とはずれがあり、月の歴史を塗り替えることになるかもしれない。

激しい爆撃にさらされてきた内太陽系の天体

 太陽系が形成されて以来、小惑星帯より太陽側にある「内太陽系」の天体は、これまで彗星や小惑星による激しい爆撃を受けてきた。

 そうした衝突の歴史を紐解くことは、太陽系の歴史を知ることにもつながる大切なことだ。

 幸か不幸か、地球ではそうした痕跡は、ごく一部の例外(南アのフレデフォート・ドームなど)を除けば地殻活動や風化の作用で消えてしまっている。

 必然的に、そうした内太陽系の衝突の歴史を知りたい学者たちの目は、地球以外の天体に向けられることになる。

地球に落ちてきた月の破片

 例えば、月で起きた激しい衝突で弾け飛んだかけらは、宇宙にまで放り出され、やがて隕石となって地球に落ちてくることがある。

 そうした隕石の一つが、2005年にアルジェリアで発見された「ノースウェストアフリカ2995(NWA 2995)」と呼ばれる月の破片だ。

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2005年にアルジェリアで発見された隕石「ノースウェストアフリカ2995(NWA 2995) image credit:Mike Farmer and Jim Strope

 これまで様々な研究者がNWA 2995を調べ、その酸素同位体から月が起源であることが確認されている。

 さらに鉱物の組成や構造が、「南極エイトケン盆地(SPA盆地)」の南部にある岩石とそっくりであることも明らかになっている。

 さらに宇宙線にさらされることによって作られる核種の分析からは、NWA 2995が宇宙をただよっていた期間はほんの2200万年ほどであることが判明している。

 SPA盆地が形成されたのは40億年以上も前のことだ。

 と言うことは、この隕石が作られてすぐに宇宙に放り出されたのではなく、その後に起きた衝突によって吹き飛ばされた可能性が高い。

 ならばNWA 2995はあまり変化しておらず、初期の太陽系の様子を知るヒントになるはずだ。

「NWA 2995」を分析しSPA盆地のクレーター発生時期を特定

 そこで英国マンチェスター大学をはじめとする研究チームは、NWA 2995を分析して、SPA盆地ができたより詳細な時期の特定を試みることにした。

 そのために、そこに含まれる各種の鉱物や成分を放射性年代測定法で調べて、NWA 2995の年齢を割り出す。

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それぞれ違う機器で捉えたNWA 2995の画像。a) 光学スキャン、b) 電子顕微鏡、c) 陰極ルミネッセンス画像、d) 擬似色の合成元素マップ、シリカ(青)、アルミニウム(白)、マグネシウム(緑)、鉄(赤)、チタン(ピンク)、カリウム(シアン)、カルシウム(黄)/Image Credit: Joy et al. 2024.

 さらにNASAの月探査機「ルナ・プロスペクター」が集めた月面組成のデータから、NWA 2995のより詳細な形成地点もまた調べてみた。

 その結果、NWA 2995はもともとSPA盆地内にある2地点のいずれかで形成されただろうことが判明した。

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NWA 2995が形成された候補地点の確率を示す/Image Credit: Joy et al. 2024.

衝突クレーター形成の時期は43億2000万~43億3000万年前

 こうした分析全体からわかるのは、SPA盆地(衝突クレーター)形成の正確な形成時期は今から43億2000万~43億3000万年前であろうということだ。

 これは晴れの海、神酒の海、危難の海など、月の主要な海(盆地)の1億2000万年前に形成されたことを意味する。

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c) 月の統一地質図、d) 年代層序単元を示している。
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月面のトリウム濃度を示したもの。トリウムはウランと組み合わせて放射年代測定に使用され、月の年代を決定するための手がかりとなる。放射年代測定の結果によれば、NWA 2995は南極エイトケン盆地が起源である可能性が高い/Image Credit: Joy et al. 2024.

従来の月の歴史を塗り替える可能性も

 この研究に携わったマンチェスター大学のジョシュア・スネープ博士は、プレスリリースでこう説明する。

これまで、研究者たちの間では、衝突がもっとも激しかった時期は42億~38億年前、すなわち月の歴史の最初5億年間に集中しているというのが通説だった(ジョシュア・スネープ博士)

 だが今回、南極エイトケン盆地の形成時期がそれより1億2000万年前であると判明したことで、この通説は修正を迫られている。

 本当のところは、もっと長い期間にわたって衝突が起きていたのかもしれないのだ。

 太陽系の過去の歴史を紐解くのは簡単なことではない。

 だが今後も新しい月のサンプルが見つかるなど、少しずつ証拠が増えれば、より明確な過去の様子が描き出されるようになるだろう。

 この研究は『Nature Astronomy』(2024年10月16日付)に掲載された。

References: Researchers propose age of Moon's oldest impact basin, uncovering its ancient impact history / Scientists Determine the Age of the Moon's Oldest and Largest Impact Basin - Universe Today

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この記事へのコメント、6件

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  1.  岩石とか変化しにくいからその生成時期って難しいですね。 反対に言えば古いものも同じ手法でそれなりに測定できるわけで…… で、このクレーターですがジャイアントインパクト( 46 億年前とされている)の後に少しといっても今回の説で三億年も後ですがもとは一個だった塊が分裂した別のモノが落ちたりしてないかななどと妄想を広げました。 軌道とかがわかればもとが同じだったかどうかもわかると思いますが、今後の研究に期待ですね。

     あと、個人の思い込みですけど、記事の最後の方に「月の歴史の最初5億年間に集中」とありますが、それってジャイアントインパクトで月が形成された後に、いっぺんに全部が月になったわけじゃなくて破片とかが周囲に漂っていて、それらがだいたい落ちきるまで 5 億年かかったんじゃないかと思いました。

  2. 数億年前のことが少しずつではあるがわかるって月並みだがすごいことだよ

  3. このクレーターを作った隕石は月が無ければ地球に落ちたかな?

    まあ43億年前なら地球にもこれ級がバンバン落ちてたか。
    ジャイアントインパクトからほんの2億年後くらいのことだし。

    1. 海があるか無いか微妙な時期かな。
      海の推定誕生時期は40億年前~45億年前と諸説あるようなので。

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