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デジタル時代にカセットデッキを手に入れる話 #2

デジタル時代にカセットデッキを手に入れる話 #2_b0060239_15463882.jpg
AIイラストサイトが、猫とカセットテープデッキだとおっしゃる画像。一応、カセットテープが、ぎりぎり表現できたのはこれだけ。
でもカセットデッキとしたんだけれど。カセットテープを聴くためにカセットプレーヤーやカセットデッキで聴くわけだが、
カセットデッキ聴くとは言わずに、一般的にはカセットテープ聴くっていうわけだから、AIから見たら、カセットデッキは、割と透明化されてしまっているのかもしれない。
 

 カセットデッキの機種選定で考慮するものを考えてみる。自分は発売時も高額だった評判の名機、そのコストの掛かったレストア(修理メンテ済み)モデルを手に入れられるような資金はないので(下手するととんでもないことになる)、むしろ実用上問題なくカセットテープに録音できて、オーディオファンの厳しい評価レベルではないけれど、それなりの音で視聴できて、マニアのターゲットになりにくいモデルを選ぶことにしたい。
 LPプレーヤーのときにやった機種選定と似たところがある。
 毎度の自分用の覚書なので、とても長い。使用者の雑感みたいなもので、専門性のある情報は皆無だ。読むにしても、暇つぶしとしては多少意味があるかもしれない。

①発売年
 手に入れようとするカセットデッキの生産年代を考慮する場合、いくつかのグループに分けられる。a) 〜1970年台中期、b) 1970年台後期〜1980年台前期、c) 1980年台中期〜1980年台後期、d) 1990年台、e) 2000年台以降

 狙うとしたらそれぞれの年代ごとに評価が高いものというのがセオリーに思えるが、実際のところ、今もマニアが評価し続けるのは音が良いの当たり前なので、本体のハズレはないとしても、中古でそのスペックが維持されているか博打ではある。博打部分を減らすとしたら、それなりの投資が必要になる。特に中古販売店は避けて、個人のオーディオマニアの人からの放出を狙った方が良いと思う。そういう人は期待の長所もよく理解して説明に乗せている。業者さんは、かなり確信犯みたいなのが居るし、出品が多いと全てのクオリティコントロールは無理だなと思う。

 a)は日本のHi-Fiオーディオ前夜。アンプの高調波歪率が一桁も二桁も小さくなり、DCアンプが台頭して周波数特性が飛躍的に広がる助走すらもまだ始まっていなかった時代。当時のフラットベッド型のカセットデッキのワウフラッターは0.15レベルで、これは人の感知限界よりはほんの少しだけ大きい。周波数帯域は、平均的ラジカセよりは2kHzぐらいは伸びている。システムコンポーネントの製品が爆発的に増えるその前夜。
 私の場合、最初はb)の製品群を考えていた。憧れの製品も多いし、音質についてはコストが掛かっていて定評もあるモデルも多い。私がかつて使えたものはTEAC C-3とAurex PC-X66ADでどちらもお気に入りだったが、今は実家にも、どこにもその機体は存在しない。ユーザーを性能評価で囲い込むべく、どこのメーカーも派手に闘っていた時代の製品だ。どちらも素晴らしい製品だったが、正常作動個体は稀で、マニアの懐にある。
 当時高額だったモデルはディスクリート(個別パーツ)の集積で複雑で、修理も大変、コストもかかり、既に素人では生半可な修理は無理な個体だらけ。かといって整備された再生品は、高額である故に、当時の性能を再現しているか、それが維持できるかは微妙だったりする。この年代の製品で手に入れたものはSONY TC-D5とYAMAHA K-1000だったが、TC-D5はベルトとアイドラーゴム交換の必要が生じた。ジャンクに近いものでその値段だったが機能、作動状態は、当たりだった。見た目はボロボロだったけれど一応満足する音で鳴っていて、調整もほとんどせずに済んだ。
 K-1000はジャンクだったがそれなりに美品で動いていた。ダイレクトドライブだから、その分、変な壊れ方しにくいと思っていたのだが、モーターそれ自体に特異的な症状が出るようになって、中を開けてみたらソケットなど幾つか直付けになっていたり、メーカー修理なのかよくわからない手が入っていて色々諦めて手放した。基盤上のトランジスタと抵抗の問題だと詰められたけれど、代替パーツを取り寄せて、モーターの中まで交換する気力はなかった。ディスクリートの塊の機体は、最初は好調で良い音でテープを再生していたが、整備性は最悪で、なんでこんなに面倒な構造のものを作ったのだろうと思える仕様だった。
 その複雑性はある意味、マニアを呼び寄せた高音質構築の名残でもある。簡単なオペアンプと電源でスッカスカのデジタルアンプ製品より、音がいいだろうって前世紀の刷り込みを具現化したような中身だった。当時10万ぐらいで売る必然だし、部分部分はコストが掛かっており、その結果、10kgを超えていた。それでもカセットデッキの基本的なトラブルや修理方法、私の限界みたいなものを勉強できたので元は取れたかも。両者の結果は分かれたが、その時代のものは二度と関わらないと理解できる経験だった。
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安価な3Headデッキ。発売当時の実売価格もカセットデッキが花形だった時代のものではないのでかなり安いのに割と驚いた。

 それでc)かd)ということになるわけだ。c)は厳密には1984~1985の製品群の端境期みたいな時期である1986年以降になると思う。適当に選んでもこの時期の製品の生存個体はほとんど引っかからないようだ。この間に重要な事件がある。CDとその再生装置であるCDプレーヤーが1982年に発売され、2000年まで上昇を続ける。カーオーディオや持ち出せる音楽は、カセットテープ、LPの音質を凌ぐCDが基本になった。オーディオソースとして、LPレコード&プレーヤーやチューナーとそのバックアップコピー製造機として重要な位置にあったカセットデッキ・プレーヤーの存在価値と意味は、外に持ち出せる高音質な音楽媒体の出現により、消滅しつつあった。それでも、まだエア・チェックやレンタルという文化があった故に、存在価値はあった。
 この時代のものは、c)に名機が多い。d)は、既に主要なオーディオ装置のニッチから滑り落ちて、それ故にCPを上げるしかなかったが、多くの妥協が見られたため、ディープなカセットデッキマニアからは、冷たく見られる。私はそういうの平気で、早いところそれなりに音がなる機体を手に入れてカセットテープの音楽を楽しんだ方がいいと思う人間なので、そうなる。
 e)はdolby Sを搭載した高級モデル(Pioneer T-1100S¥120,000(1993年発売)、TEAC V-8030S ¥90,000(1994年頃)、SONY TC-KA7ES SONY TC-KA7ES ¥120,000(1995年発売)など)が、最後の打ち上げ花火として高級機として作られた。2極化した結果のローコストモデルについては、回路のICチップ化がさらに進んだこともあり値段はギリギリまで下げられて、ミニコンポの一部として残っっていたものもあったが、デジタルオーディオの前に消えた。
 
②発売時価格
 売り出し時期の販売価格は、それなりにその機体が高級機か、中級機か、入門機かの参考にはなる。当然、音質に影響するが、きっちりメンテしてないと、当時の性能は出てなかったりする。私は駆動系がまともに動いていて、アジマス調整が最低限なされていれば、そんなにこだわらない。
 あまり高級機だと、ジャンクでも高くなるが、タフなモデルかどうかはまた別だ。
 1986年12月~1991年2月のバブル期で、カセットデッキの値段は前半は2極化し、後半はICチップ化でそれなりの性能でも安価になっていく。ただ岩盤オーディオマニア用のものは、それなりの値段で販売されていて、コストも掛けられていることが前提だったが、既にカセットデッキの役割は終わりつつあった。iPodが2001年に販売開始、多くの人間が手に入れたiPod miniは2004年、音楽ソースをカセットデッキでCD録音して視聴するスタイルは消滅はしていないが、音楽はデジタルに移行していく。カセットデッキの意欲的な新製品が出るニッチはもう存在していない。だからこの時期の製品は、それなりに作動が保証される中古の精々2倍程度の販売価格で売られていたのを知ると、割と複雑な気分だ。つまり、中古機体はそんなに安くなっていないわけだ。最近のオールドオーディオブームの影響による高騰もあるのかも。この辺りは、十分な性能が維持されていても、アンプや、スピーカー、LPプレーヤーの中級機などと比べると、カセットデッキは割高になってきている気がする。精緻なカラクリ機械動作と電子動作の合体品なのに、1/4世紀近く経過して、もうあまりちゃんとした機体が残ってないこともあるだろう。
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一種の蛍光管によるピークメーター。液晶表示の今、こういうデバイスもはや作られることはないだろうと思う。
この機体は、いくつかのノブが欠損していたこともあり、誰も入札しなかった。実際に、入力バランスやヘッドフォンボリュームは一回さわれば必要ない。
あとば、バイアスだけ。バイアスも何種類もテープを使えないので、しょっちゅう調整する必要もない。そのうちどこからか拾って来られるだろう。

③メーカー
 カセットデッキメーカー、私はどこでも良いと思っている。流石にOTTO/SANYOだけは1970年代の早い段階でHi-fiカセットオーディオから撤退したので、マニア的な興味で手に入れるのでなれば、混ぜられないけど状態の良い中古などまず出てこないので同じだろう。SANSUIなどもアンプが有名すぎて、実際に生産された製品モデルは少ないが、評価された機体もある。
 一つ面倒な存在がある。Nakamichiだ。ここのデッキはいろいろな意味で別物で、この製品についてくるマニアも別物。私は関わる要素も機会も知識もないので、言及するに能わず。
 それ以外であれば、それほどメンテナンスや中古を手に入れる場合の博打成分やセオリーは変わらないと思う。これほどメカニカルに精緻な部分を持った機材なので、状態の良いものやメンテナンスが十分なもの、さらにリーズナブルな予算で手に入れる可能性というのは、Nakamichiに関しては別の公式が必要になると思う。他のメーカーでも、高級機になるとそういう傾向はあるが、跳ね上がる値段の大きさが、オークションを見ていてもNakamichiだけは、ちょっと違う挙動をしている。

④内蔵ノイズ・リダクション・システム(NR)
 その人の好みもあると思う。私はdbxやadresの圧倒的なヒスノイズ低減とダイナミックレンジ拡大効果は、好きなのだが、現実的にdolby C搭載機種が、最適と考えている。確かに、最期のNRであるdolby Sはノイズ軽減効果はdbxやadresに肉薄するものだったが、dolby Cの伸びしろはすごいものがあったので、それで十分かなというのと、今のミュージックカセットでもdolbyフリーを採用しているものも登場しているのを見ても、dolby Sレベルのヒスノイズ対策にこだわる時代ではないと思うから。
 トーンコントロール自体を率先的に使うより、素の音の良さを売りにする、あるいはデジタル処理時代、アンプでイコライジングや好みの音にしなくても、PCオーディオ自体でなんとでもなるから、むしろアンプからそういうものを排除する流れになっている。安くてそこそこ音がする中華アンプやDAC内蔵デジあるアンプは皆そんな感じなので、むしろdolbyを掛けて録音したカセットテープは扱いが困るというのもあるのかもしれない。そしてdolbyフリーは決して音質自体が劣るわけでもないし、最初に音源を作る録音技術などにより、ミュージックテープの音質が上がっていることもあるようだ。dolby回路は再生だけ考えると邪魔でコストがかかるだけという考え方もあるが、高性能DDドライブのLPプレーヤー同様、今の生産現場だと、CPの良いdolbyチップを作るノウハウが既に存在しないということもあるかもしれない。
 私はdbxが体験したくて2機体ほど入れてみたが、その効果に驚きつつ、というか昔日のAurex/Toshiba adresに驚いた記憶が蘇った。dbx inのテープを10年後に聴こうと思ったら、外付けの製品も含め、風の谷のガンシップより手に入るところに存在している可能性は低いと思った。カセットテープのノイズリダクションだけがdbxの使われ方の全てではなく、dolby同様、圧縮・伸張によるダイナミックレンジの拡大効果はバーやレストラン、劇場用等の音響設備には継続して使われているとは思うが、一般家庭用は厳しそう。

 実際に、dolby C搭載機種が発売された期間は長く、また日本のカセットデッキ開発生産の最盛期だった。だから、dolby C搭載機種では選択肢が多いのと、結果的に1970年代のヴィンテージに手を出さないと結果的に搭載機を手に入れることになる。ノイズリダクションシステムを使わない人は、カセットデッキの素の性能重視、音質重視の方におられるが、自分はそうではない。dolby C搭載機種はdolby B搭載機種でもあるので、それで問題はない。一択。
 でも視聴用に初めてdbx搭載機種を手に入れて見て、その効果はしっかり味わえた。ある意味素晴らしいものだ。dolby Cもそうだが、CDコピーをしてもS/N比で遜色ないことを見せようとした日本のオーディオメーカーの矜持だと思った。ただ、今後カセットテープだけ残ってしまうようなことが生じた場合、dolby B/Cを掛けたテープは、なんとでも聴けるので、その意味でも、その選択になる。

 ノイズリダクションシステム(NR)は、アナログ録音テープのヒスノイズ低減のために搭載されている。複数あって、そのうちの複数を実装しているモデルも多い。最近の音質重視カセットデッキフリークでは、NRを掛けないでヒスノイズの少なさではなく、音質の良さで勝負みたいな人が多い。讃岐うどん、通は醤油だけ垂らして三口で食う、みたいなものだろうか?ミュージックカセットテープも一昔前みたいにdolby Bを入れていないものが売り出されていて、そして音源のノイズが少ない故に、決して音質的に悪くないとのこと。
 私はNR掛けて高域が持ち上がっていたとして、それなら、トーンコントロールでも、ソフト的なグライコでも、処理しやすいって考える人だから、基本、NRかける方の人。そもそもdolby B/C/S掛けて、わかるほど音質が下がるって話なら、それカセットデッキとしては本末転倒レベルの性能だと思ってる。NRを掛けない方が好みの音、ということであれば、それはそれで良いと思う。
 NRには以下のものがあるが、基本、ノイズ低減効果があって、後発で一番性能マックスの時に生まれたdolby C搭載モデルなら良いと思ってる。Sは効果は凄まじいが、副作用を嫌うわけではなく、搭載モデルは数が少なく、比較的新しいモデルが多いので、中古市場でも高額になるから、その分、グレードの高いモデルが手に入るDolby B&Cモデルで良いと思う。
 ちなみに、dbxだけは、発売全盛期、未経験だったので、1台、ちょっと入れてみたりしたわけだ。
 
Dolby B: ドルビー研究所開発による録音ノイズ低減システムとして、カセットデッキに採用されたものとしては一番歴史が古く、そして長く製造された。多くのカセットデッキ、カセットプレーヤーに実装されている。 劇場映画のサウンドシステムにも採用されているNRシステム。映画館で、エンディングでドルビーマークが表示されるのでよく分かる。1970年代から1980年代初頭までの、単一ノイズリダクションシステムのカセットデッキは全てこれになる。Victorの独自開発NR方式に、ANRSというシステムがあって、これはDolby Bと互換性がある。

Dolby C: 搭載初号機は、1981年、英国の NAD社の6150Cで、日本製品の数多ある、それ以降の新型カセットデッキには、Dolby Bと共にほぼ搭載されている。このノイズ低減効果はかなり高く、また、機体の数も多いので、結果的にノイズ低減効果と互換性を考えると一番、利用性が高い。

Dolby S: 1991年のAIWA XK-S9000/7000が初搭載機。ディスク型のデジタル録音機が後を追うように発売されて、奮戦するも約10年間、搭載カセットデッキモデルが作られ、そして消えた。ノイズ低減効果は後述のダイナミック・エクスパンジョン・システム(dbx/adres/Super ANRS)に匹敵するモデルで、CD音源を遜色なくコピー再生を可能としている。ただ、デジタル録音再生技術へ投入し始めていた頃で、ある意味カセットデッキの終焉期なので、見切って採用したモデルを作らなかったメーカーも少なくない。
 Dolby B/C/Sについては非搭載のレコーダー/プレーヤーでも、力技だが再生装置で、高域を絞ってやれば試聴できないことはないので、なんとかなるというのも長所だろう。搭載モデルが限定されるが、これが搭載されているカセットデッキは大抵Dolby B/Cも搭載されて、切り替えられるので、同時にそれらを選択することと変わらないので、問題はない。

 カセットテープだけではないノイズリダクション、ダイナミックレンジ拡大技術として、1970年代後半にはdbxやadresなどのダイナミック・エクスパンションという別の方式も登場していた。

Super ANRS: Victor独自のコンパンディングシステム。他のメーカーのNRとは全く互換性がない。独自開発で、技術力を示したわけだが、ビデオテープ含め数多ある規格の統一という部分で敗北して消えたNRの仕様の一つではある。効果は高く、同社の生録機などにも、誇り高く搭載されたりしていた。それが搭載されているVictorのカセットデッキを使わないとまともな音で再生不可能なので、なかなか辛い。
 ちなみに、adresやdbxは単体で製品が売られていて、それらを中古で手に入れられれば非搭載のカセットデッキでも、その恩恵に預かれるというやり方が存在する。私も、両者とも検討したのだが、単体の完動品のadresやdbxユニットを手に入れるのは少し骨が折れるが、率先して使いたいというユーザーはそんなにいないので、値段もそれほどは高くないが何しろ球数が限定される。ユニットにはメカニカル動作がないので、破損はしにくいはず。Super ANRSは単体製品はない。

adres: Aurex 東芝の独自開発NRシステム。コンパンディングというらしいが、製品が出回り出した頃のオーディオ雑誌では「ダイナミック・エクスパンジョン」とも呼ばれていた。圧縮伸長比1:1.5の、ノイズ低減システム。効果は絶大だった。自分も使ったことがあるので、すげーなって思った。ノイズリダクションシステムの音質に影響する部分が嫌いな人は、あまり評価しないかもしれない。ノイズ低減効果が、それに匹敵するDolby C方式が生まれると、性能的にも長所をアピールしにくくなり、結果東芝およびadres採用企業も方針転換したため、消滅した。dbxに比べると、非搭載のデッキでも、かろうじて試聴できるので、dbxをかけて録音してしまったテープよりはマシかもしれない。adresも、当時は性能の良いNRシステムだったが、規格統一という部分では勝てず、東芝Aurexは存続を諦めた。それもデジタル録音技術の前では、今も昔の、古戦場での話みたいな感じだ。
 今では、そんな戦いがあったなんて、ほとんど誰も知らず、ただ、風が吹いているだけさ。

dbx: 1970年と開発年はすごく古い。アナログ録音シーン全般に使用されることを前提にしたノイズ・リダクションシステム。adresよりも圧縮伸長比は高く、それ故にノイズ低減効果はより高い。日本製カセットデッキ全盛期には、Dolby B/Cなどと一緒に搭載されたモデルは少なくなかったが、当時並行して主要なカセットテープ試聴の要だったWalkmanタイプのカセットプレーヤーには搭載されることはなかったので、それが廃れ出して、当時のレンタルCDや友人などから借りたCDをコピーする状況となったときのダイナミックレンジ、S/N比の数値性能アピール戦略として、一時的に搭載モデルが増えた印象を持っている。
 adresとdbxの効果はdolby Sが出てくるまでS/N比の改善に関しては圧倒的だった。けれど、機構を持たない小型カセットプレーヤー、ラジカセやカセットデッキで、トーンコントロールを弄ったりして、曲がりなりにも試聴できるようなdolbyのような特性を持たなかったのが難点だった。また、ピアノの音など、違和感が生じる場合もあるが(これも個人差がある)、普通の視聴には、問題があろうはずがない。
 今回、気になっていたので、dbx搭載のカセットデッキを手に入れてテストしてみたが、そのノイズ低減効果は素晴らしいのだけれど、dbx非搭載のデッキでは、音がとんでもなく歪だらけになって、全く視聴できないのを確認した。adresは、未搭載デッキで再生しても、もう少しなんとか聴ける音だった記憶がある。圧縮率等の違いかもしれない。dolby Cやdbxを視聴するまで思いもしなかったが、その微妙な圧縮率は、ラジカセなども販売していた当時の東芝オーディオ部門の計算もあったのかもしれない。
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機能に問題なく、素晴らしい音を奏でてくれる。長くプロ機材としても使われていただけのことはある。
早送りが失速中なので、アイドラー、プーリーベルト交換を必要とする。ゴムベルト含め、部品は手に入れたが、中をあける決断がつかないので放置中。

 ついでに、limitter(一般用語ではなくオーディオ用語として): ノイズリダクションシステムとは異なる。ダイナミックエクスパンションシステムとは、原理や発想に類似点はあるが、録音時、圧縮した後に伸張するプロセスがあるわけではない。SONYが、不意の大音量入力に対応できる機構として、1970年代から生録カセットデッキに限らず、搭載したものに「Limitter」というのがある。伸張過程はなく、音量の上限を下げるものなので、ある意味寸詰まり的でなんとなくギリギリ歪みが抑えられてるような音質になるが、歪むよりマシということで使う保険。そんな感じだった。
 残念ながら、私は1980年代中期以降のSONY製品とは縁がないので、いつまで搭載されていたのか、分からない。CDプレヤー連携技術などが出来上がっていって、生録ブームもさり、録音ソースも一発録りが必要なシーンは減っていったと思うので、非搭載になっても、あまり困らないかもしれない。
 少なくともSONY生録カセットデッキの最高峰にして最終モデル、TC-D5Mには、もちろん搭載されていた。
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TASCAM DR-100III。全く何の調整もいらない。PCオーディオからのデジタル入力も簡単で、文句の付け所がない。
機械的な動きがあるのは、超音波域まで伸びているマイクロフォンぐらいか。

 ちなみに、TASCAM DR-100IIIは、デジタル時代の生録機だけれど、やはり不意の過大入力対策として、Limitterは標準装備だ。本機はICレコーダーとして考えると馬鹿でかいが、TC-D5/D5の1/3以下の体積だ。内蔵充電型電池に加えて、SUM-3が4本予備電源として入れることができる、コウモリの鳴き声など超音波領域まで拾う立派なマイクを内蔵していることもある。生録機としては万全だ。デジタル音源の録音再生には、基本的にこれがあれば十分だし、調整の進んだ生録用カセットデッキの名機は、SONY TC-2890SD/3000SD、TC-D5/D5M、Nakamichi 250/550、Victor KD2/3/4、Yamaha TC-800GL、Marantz PMD430、などなど全部ヴィンテージの贅沢品なので、どれもDR-100IIIの実売価格を軽く超える。CPどころか性能、得られる音源の音質も考えたら、特に生録になるとやはり変態趣味なのだ。

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AIイラストサイトが猫とカセットテープデッキだとおっしゃる画像。
猫は、ようやくチコ系のものになった。デフォルトがロングヘアレッドタビーになる。
ショートヘア、白いパッチを入れ、ダーク・ブラウン・タビーで指定してこうなった。
ここでもAIはカセットデッキは表現できなかった。壊れかけの昭和のラジオか。



⑤その他の機構、機能
a) 2head/3head
 できれば音楽ソースとの比較がリアルタイムでできて、バイアスコントロールも楽な3ヘッドが良いけど、2ヘッドの機体も良い音質のものはたくさんあるし、3headも調整などの問題もあって期待したほどではないものもあるようだ。自分はTEAC C-3という3headの今でも評判の高い名機を使っていたので(当時は比べるものが殆どなかったので、まあ満足してて終わり)、その感覚や記憶を思い出して、手に入れたものを評価してる。
 今のノーマル一択以外は長期保存の経年商品、かつての1回だけ会議録音に使った中古などのカセットテープを使うので、難があるテープは、録音開始してバイアス調整も早いしすぐに弾けるのは3headの利点だ。ここまでカセットテープ視聴用の機材を拡張する気はなかった。定評がある名機とはいえ、2headのSONYのTC-D5で、「うっそー、この半世紀前の製品が、未だにこんなに良い音で録音できるの?」って思ったぐらいなので、状態の良いものならやっぱりなんでもいいと言うのが基本。それでもマニアにはあまり評判が良くなくて、回路もコストダウンの影響を受けてるTEAC V-3000を使って、3headもピンキリだけれど、やっぱりそこそこは音がマシだし便利だなと思った。実際に、海外のカセットデッキマニアの濃い人にはゴミ扱いだが(日本にはそこまでのフリークは少ない)、自分の個体には十分満足していて、録音はそれを使っている。
 アジマス調整や消磁をやったが、周波数特性は16,000Hzどまりで、大幅に高域のスペックが出ていないので、多分、ヘッド内部が劣化している可能性を感じた。中古を手に入れるときには注意だが、周波数特性開示してヤフオクにアップしている人も寡聞にして聞かない。私の個体は録音性能が劣化しているだけのようで、まともなカセットデッキで20,000Hzまで帯域が保証されているもので録音したテープを視聴したところ、再生能力はまともだった。まあ、トーン調整でなんとか補正できるレベル。どうせBGMを流して使い潰す機体。他の部分はまだ、かなりかっちり動いているから気にならない。
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夜、闇の中で光るカセットデッキのメーターは一種の音の演出としてノスタルジーを誘う、みたいなのは私にはあまりない。
ただ、何となくダウナー系、鎮静効果はあるような気がする、単色の蛍光管

b) ノーマル/オートリバースモデル
 オートリバースは、カセットデッキ終焉期では、ダブルデッキとともに当たり前になっていた。その手の製品として、最初の頃CDミニコンポの一部となっていたDENON DDR-M10を手に入れた。録音レベルは本体CDセットだときちんときめてくれる機構があるのだが、基本ラジカセの録音と同じ自動レベル録音で、レベルメーターも存在せず、単体で使うにはしんどいものがあった。個体のワウフラは視聴性能ぎりぎりで(ダメダメではなかったが)、流石に思ったよりも音も性能も良くなかったので、録音には使っていない。ここで検討するのは、あくまでまだカセットデッキという単独の商品として作られていた時代の製品と思った方が良い。それらはカセット両面の録音再生に音質的違いが出ないようにするための各社肝いりのメカが内蔵されていた。
 一方向のノーマルモデルに比べて往路と復路のヘッドやメカにコストがかかるから、同じ値段帯の製品で見れば、普通に音質的には不利になることが予想されるが、その分販売価格を抑えるように各社色々努力が行われたはず。ただ、Nakamichiだけは、機械的に一回カセット自体を外して、反転させてはめ込むという見世物としても有名なメカのお陰で、その批判を回避している。また、録音再生ヘッドを反転させず、往路と復路の4トラックを持ったヘッドなど、各社のオートリーバースモデルの音質や発想が楽しい部分ではある。ダブルデッキも同様に音質的に不利になるのが見えている上に、製造発売時期が、IC化によりディスクリート回路の遺産が色々切り捨てられた時代であることも、マイナス要因だ。でもまあ、普通に聴ければ良いぐらいの目的なら十分だ。
 というわけで、マニアは狙わらないので、中古の値段も高騰しすぎることはなく、私のような天邪鬼にとっては、オートリバースモデルで、当時そこそこのクラスだったモデルで、状態が良くて割と敬遠されてオークションでも値段がつり上がらないモデルは狙い目と考えていた。

c)ダブルカセット
 流石にダブルデッキは、音質的に無理だろうと思ってワウフラッターやS/N比などのスペックですら一段落ちてて、そんな感じだが、ダブルカセットタイプでも評価が決して低くはないモデルもある。ダブルカセットデッキはカセットデッキがオーディオの主力の一つだった時代の製品にはない。ラジカセも含めて製品群の延命のために出てきた一種のサービス品だと思う。
 そもそも複数同時、相互テープダビングの容易さや連携による長時間録音や再生の演出によりアドバンテージにしていた製品で、自分には必要な機能ではないので、最初から手に入れようとは思わない。
 
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e) ダイレクトドライブ・クローズドループデュアルキャプスタン
 カセットデッキのノイズは、変調ノイズで、周波数によるものと時間的変調の2つがあって、後者がワウ・フラッター性能として測れるもので、これはキャプスタンの回転ムラを最小化することで低下させることができる。前者は、カセットテープの宿業みたいなもので改良の限界がある。それ故に後者の対策のために、LPプレーヤー同様、高性能の電子制御モーター軸をそのままキャプスタン(ピンチローラーとテープを挟んでテープを送る回転軸)してしまってワウフラッターを極小化するメカニズムが出てきた。Victorが1970年代の終りに、ダイレクトドライブ機を一挙に何台も投入して、いきなりスペック競争に王手を掛けた。音の善し悪しなんてそんなに誰でもわからないけど、ピアノの音が気持ちよく聴こえるか聞こえないかみたいな音の違いはわかりやすいし、後者は高音質を標榜する以前に、性能が悪ければピアノ曲全滅とか、使い物にならない。人間の感知限界が0.15%当たりで、その半分ぐらいの性能が担保されていれば、私の場合は、高額になるのでダイレクトドライブ機にこだわるのは諦めた。実際、モーター制御のトランジスタが狂ってる機体は時々あるのと、症状がすぐには出なかったりするので、難物だと思う。
 クローズドループデュアルキャプスタン機構は、キャプスタンが二個、両側にあってそれで、テープをきっちり固定してヘッドへのタッチや変調ノイズ低減を行ったわけで、驚くべきことにSONYからこれを搭載したTC-2260SD(¥69,800)が1974年には発売されている。カセットデッキのモーターのクオーツ制御技術が出てくるはるか前で、ディスクリート回路技術とメカの精度を上げることだけで達成したわけで驚かされる。少しでも両方のキャプスタンの回転がずれれば、テープが緩んだり最悪ちぎれたり、ヘッドからズレたり物理的にまずいことが起きるわけで、これが生まれたのは、かなりの制御技術における技術革新が進んだ結果と言える。その後の日本製オーディオ帝国の台頭を支える下地は、それ以前から確実になっていたと思われる。
 自分もこの機構には憧れていたし、仕様通り動いていないとトラブルにしかならないわけだから、製品性能の自信の現れでもあるのだが、さて中古機体となるとその通りのスペックが出ないと、むちゃくちゃになるだろうことが容易に想像できる。この機構を奢ったものは、当然人気機種で、まともに動いているものは中古価格も高いから、狙うとしたらよく吟味して手に入れる必要はある。知らなくても良い知識だが、価値や値段の吟味の上では参考になる。

追記ーなお、一点だけ注意すべき問題があって、磁性体のバンディングが弱いものや古くカセットテープでは使用後、ピンチローラーの汚れを確認した方がが良いという話。物凄く汚れるようだったら、そのテープの使用は避けたほうが良いと思う。


f) 倍速録音再生、4トラック、ピッチコントロールなど
 1979年に、ティアック社はオーディオカセットテープを使用した、4トラックのマルチトラック・レコーダー「TEAC 144 Portastudio」を発売してて、これは、ミニマムのプロ、セミプロ用のスタジオ録音装置だった。これでデモテープを作るミュージシャンは、当時かなり居た。カセットテープはどんな機材でも共通した規格として再生できるようにしたフィリップス社の規定を破る9.5cm/s速度で4 トラック4チャンネル片道トラック構成で、クロームテープ専用設計、dolby B設定固定。ワウフラッター0.04%(WRMS)、S/N比はdolby C並みの68dBを達成、という仕様だったが、これでそのまま録音して作品化したBruce Springsteenの'Nebraska'というアルバムが有名だ。当時の音楽ニュースでは誤報で、「ブルース・スプリングスティーンがラジカセで録音」みたいな話も出回っていたが、2track, 38cm/sec.のオープンリール録音でなくても、アコースティックなギター一本の曲つくりに対して、インスピレーションとライブ性を重要視した場合、十分なスペックを持ったプロ用の録音機だったと思う。この9.5cm/sec.の倍速録音再生技術は、同社の民生用カセットデッキであるC-3XやC-2Xにフィードバックされている。
 ちなみにYAMAHAからも同様に、4トラックのスタジオ録音ミニ・コンソールのようなデザインの倍速も使える競合製品(MT-400等)は出ていた。両者ともオークションで時々カセットデッキカテゴリーで見るけど、オーディオというよりは、エフェクターやギターアンプ、楽器等と同じミュージシャンの演奏機材カテゴリーのカセットデッキだと考えた方が良いし、オークションでもそちらのリーグから出品されることが普通のようだ。ちょっと手に入れてみたくなったが、それで録音したそれなりの良い音のテープは、他のデッキでは使えないし、当然録音時間は半分になる。私はミュージシャンでもないので、多分、気楽に音楽を楽しみたい人間のオーディオとしては多分、あまり意味がないと思った。普通の速度でも十分な音質で視聴できるレベルまで、日本のカセットデッキメーカーは頑張ったのだから。
 装備が大変になる、重いオープンリールを持ち込まずに、作品を録音したいというような、まさに、アーティスト、ミュージシャン向きの仕様であったのだと思う。

とりあえず、なんで今カセットテープ&デッキ?ということについての蛇足としての長文の雑文が以下のもの。

 音源がアナログからデジタルに移った結果、メディアもテープからランダムアクセスが可能なディスクになり、最後はデジタルデータそのものが記録できるメディアも進化、変遷し、爪並みの大きさのカードや、電子部品に記録が可能になった。高性能とはいえ、数値性能が微妙なものも含まれるアナログソース音源のコピーも必要亡くなった。そうは言っても人の耳において2track/38cm/sec.のアナログテープの音は、凄まじい高音質ではあるのだが、もはやそのような大仰な機械自体を必要としなくなったのだ。そして、基本、標準的な「電話機」によって、いつでもアクセスできることになっているネット空間からアクセスできるようになった。その時点のはるか前に、カセットテープはその役割を終えてしまったという整理で終わるべきものだったかもしれない。音楽ファンは、友人やレンタル店からCDなどのメディアを借りる必要すらなくなった。。
 物理的なメディアが消滅方向に向かったことにより、カメラにおけるフィルムと同じ運命を辿るだろうという予想は全くおかしくはなかった。
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 しかし、ここで、カセットテープがカルチャーとして、存続というか、復活している状況がある。クロームテープやメタルテープなどの高音質タイプのテープは生産されていない。これは高性能カセットデッキの生産ラインやノウハウが消滅したのと似た部分かもしれない。それでも普及タイプのカセットテープやピンチローラーやカセットヘッドのクリーナーなどは、現行品として生産されており、ネットショップで買える(相変わらず、この製品の内キャップは外しにくい。半世紀前から)。一方で、高性能カセットデッキのメンテに必須とされていたヘッド専用の消磁器は、もう現行品は売られてない。
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AIイラストサイトが、猫とカセットテープデッキだとおっしゃる画像。完全に謎機械。
ちなみに猫の方はチコに近い体毛をスクリプトで頑張ったが、こっちもなかなか難しい。
この子は割と可愛く描かれた。

 それでも、新規のテープ発売と継続販売製品の改良が起きている。磁気研究所がオーディオ用カセットテープの国内生産を発表したのは、2021年3月。そして、マクセルなども、普及型の製品の生産は止まっていない。流石に今の若い世代が知らないいわゆるtype IIやtype IVなどの高性能テープ製品は消えてしまったが、生テープは今や普通にネットで買えるし、先の磁気研究所の製品も加わった。私の評価としては、カセットハーフやハブの作りはしっかりしている。音質はノーマルテープとして酷くない。普通に使える。磁性体がヘッドを汚しやすいとの評判もあるが、私はそういう印象は持たなかった。

カセットテープ ノーマルポジション 90分 4巻

磁気研究所

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 果たして、全盛期、普通に生ものとして生産されていた磁性体が、下手すると半世紀近く保存されていてどの程度まともに当時の性能を発揮するかわからない、既に生産が終了したクロームテープやメタルテープと違って、息の良い新鮮な生テープが買えるということで、このマクセルのノーマルテープを割り切って使うことにしたが、私の手元のカセットデッキでは、これらのテープで録音された音楽、とてもまともな良い音を奏でている。
 なお、マクセルのURについては2020年に改良型になり、S/N比ダイナミックレンジとも旧型に比べて良くなっている(向実庵 (kou-jitsu-an)ーレポート・マクセル UR 新しくなって音が変わった) ということに今更ながら、驚いてしまった。
  

maxell 録音用 カセットテープ ノーマル/Type1 90分 3巻 UR-90L 3P

Maxell(マクセル)

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 今回、カセットデッキで録音再生試験しよと思って、要らなくなったカセットテープ、未使用分も含めてを廃棄処分になってるものをあちこちからもらってきた。講演や会議資料など、ほとんど、当時も今も音楽向きではないとされているこれ。1本だけ間違ってクロームテープが混ざっていたが、120分、150分、みたいに長時間録音用の何度も視聴するに向かないものが大量に出てきた。間違ってもメタルテープなどは入っていない。処分された方のそれには入っていたと思うが、今更高性能テープ獲得に血道をあげずとも、とりあえず十分な音が鳴っているので、元々今のカセットデッキフリークでもないなと自覚しながら使っている。

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磁力研究所のカセットテープ。新製品だが、なんか昔よくあったカセットの英語教材みたいなデザインのラベル。
磁性体汚れが割とひどいと聞いたが、今のところ特にネガは感じない。
Fleetwood MacのライブLPを、一旦デジタル化してスクラッチノイズを除去したソースからデジアナ変換しながら録音した。

 CDが音楽ソースとしてメインとなった時代以降、私自身、カセットへの録音はしなくなった。むしろ音楽をどこでも聴きたい人間は、手軽に持ち出せて、車中でもしっかり作動するCDプレーヤーに投資していた記憶がある。カセットテープの方は、会議や特別な生録などを別にしてほぼ使命が終了した時期だと思う。その後、録音機はMD/DACテーププレーヤが中継ぎになり、すぐに安価なmpg/PCM録音機、さらにはノートパソコンで動くソフトがその役目を担うようになった。今、ほとんどの人は会議の録音ならスマホ&アプリを使うだろう。アマチュア、セミアマチュアの音楽の録音現場では、TEACの子会社であるTASCAMやYAMAHAの充実した録音機材、PCMレコーダーが活躍しているだろう。いや、意外と映画の撮影現場などで、オープンリールはまだ現役という話も聞いた。オープンリール用のテープメディアを製造している会社も健在だ。
 話が逸れたようだが、アナログ録音については、ノウハウがたくさんあるし、それが追い込んだアナログベースの音質は、例えようもなく深く高性能な世界に到達していたので、そのノウハウや人員も一挙に消えることはない。ちょうど写真の世界がそうであったように、デジタル音声技術で、そのアナログ時代に開発した技術がすべて代替可能になる状況を見て消えていくのか、それがいつになるのか、何しろ、カセットテープもだがLPレコードが盛り返したりしている状況なので、私にはちょっとわからない。音楽に連なる世界に選択肢が多いのは、ある意味豊かな状況に思える。

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ピアノの音は、ワウフラッターチェックにもダイナミックレンジのチェックにもわかりやすいので、デッキが来ると一番最初に録音してみる。
Kieth Jarret / The Köln Concertは、最初に出たCDは、名曲でファンが多い、Part IIcが削られていた。最初の頃は、あれを1枚に入れることができなかったのだ。

 それで、酔狂とは思ったが、カセットデッキの補強をした、TC-D5がいつまで動くかは博打だし、修理はとんでもなく費用が掛かる場合がある。次に入れたマニアが見向きもしないTEACのオートリバースのdolby B/C、dbx搭載機種も、実際に悪くない音で鳴ってしまう。もちろん、安価なノーマルテープだが、レンジの狭さを感じる音ではない。可聴域はドロップせず詰まったりしていないのだ。ノスタルジー補正もあり、デープに録音して、レーベルも最低限の手間をかけてこうやって打ち出して、くるくる元々のレーベルを芯にして巻いて体裁を整えたものを作ってみたりした。学生時代を思い出す、アナログオーディオ遊びだ。 
 LPレコードをソースとして、アナログーデジタル変換した24bit/48kHzのデジタルデータを、アプリケーションでスクラッチノイズや帯域のイコライジング補正をやったものを再びデジアナ変換でテープに入れてみたりしている。想像以上に良い音で聴こえる。しかし、カセットデッキを久しぶりに使うようになって、カセット全盛期の時と何が違うかというと、LPやFM放送には頼る必要がない、圧倒的な音源の音質の高さだ。
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私の横で、音楽を聴きながら寝てしまうチコはもうそこにはいない。


 カセットテープ復活の理由については、私が十分な分析ができるとは思ってないが、背景にあるものとして、音楽ソース自体のコモディティ化は一員としてあるかもしれない。好きなアーティストの音源は動画付きレベルのものまで、サブスクリプション型サービスで、ほとんど視聴可能になった。いつでも、どこでも、という状況だ。一方で、思い入れのあるアーティストの作品はそれらを通してスマホ、パソコンで共有できるので、それしか知らない世代にはそれで十分だろう。ポケモンもコレクションは電脳空間の中だ。話が逸れるけれど、最近、自分の論文の別刷を専門行政官に渡したら、「すいません、翻訳ソフトでざっと読みたいので、古い方は、ちょっと有料になってて手に入らないので、pdf版で共有さえてもらえませんか?」って言われて、ああ「共有」って言葉が今は使われるんだな、流石に若いなって思ったりした。

 今の時代、カセットテープデッキを手に入れてそれを試聴する意味はあるかと言われると、上の世代ならなおさら好意的に見たとしたら、それをあまり知らない世代が特殊なちょっと変わった楽器を鳴らしてみたくなる以上の意味を見出せない人もいると思う。

 種のノスタルジーとして、旧車を維持してそれを楽しむのと似たようなものかもしれないが、音というのは不思議なもので、めちゃめちゃいい音で鳴ってるなって思うだけで、めちゃめちゃいい音で鳴っているオーディオ装置になるのだ。な… 何を言っているのか わからねーと思うが おれも 何を言っているのか わからなかった…。だ。少なくとも、その領域で楽しめる機材であれば、カセットデッキなどなんでも良いと思われるが、思いの外、いい音でなるのに驚くというのが、良い部分かもしれない。特にワウフラッター性能が高く、dolbyBを超えたdolbyCを持ち、ヒスノイズがほぼ抑え込まれたソースとして流していると、平凡な耳の持ち主なら、ヘッドフォンで丁寧に視聴しない限り、判別はかなり苦労すると思う。少なくとも、スペックが出ているそれなりの性能のカセットデッキであれば、悪い音として切り捨てられるようなレベルの音源なんてものではなく、え?これカセットなの?って思うくらい、十分以上のクオリティを持っている。
 なお、高性能ヘッドフォンとヘッドフォンアンプでデジタル音源を当たり前のように音楽試聴するのがスタイルの人は、違和感はあるかもしれない。個人的な資質によるが、アラが色々目立ちすぎるかもしれない。

 少し思うこととして、カセットテープは、音楽ソースのリアルフィギュア化みたいなところはあるのかもしれない。ポケモンもあのカプセルの代わりに、microSDカードにデータとして入ってます、だと、誰もうれしくないかもしれない。それは、まあ、コピーして作れるという部分は法的に自分以外で楽しむ領域を超えるとグレーゾーンを越えるのはともかく、CDやLPともちょっと違うだろう。初めてその音質に触れた世代は、特定方向のオーディオファンでなければ、試聴するには十分な音質であると知るだろう。他に、親世代のFMエアチェックなどからの膨大なソースは既に廃棄されたものもあるだろうけど、残っていたりする微妙なタイミングでもある。彼らが、それをデジタル化して残そうと思ったりしたら、凝った人間なら、少なくともそれなりのクオリティで再生したいと思ったりする場合だってある。それは多分、LPレコードではでかすぎて、CDも大きさは中途半端。手にして弄り回したりしないディスクではなく、くしゃみで飛び散るMicroSDカードでもない。ポケットに入り手で握れる、ポケモンじゃなくてプラスティックの塊としてのカセットテープは、スマホの中に入るジャケットサムネイルと音楽データではなく、カセットテープはお気に入りのアーティストの音楽そのもののキャラ化、物質化というアドバンテージもあるのかも。それを放り込むと音楽が聞こえる。その音質も、先人の努力のおかげで、最高水準でなくてもそこそこの音で聴ける。そう考えると特異なオーディオ装置とメディアという気がしてきた。上の世代は、デジタルオーディオ世界でその存在を忘れて捨て残った過去の資産もある。ノスタルジーとして手頃な大きさと形。
 まあ、こんなストーリーなのかどうか知らないし、各自の目的と思惑で構わないだろう。
 ただ、試聴するためのハードウェアがここでちょっと問題になる。

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1970年代の高級デッキとなると、ディスクリートの集積で10kgもあったりする。整備性は最悪機械的な部分、ドアのダンプなど、これ、長く使えば壊れるよなぁっていう仕掛けが多い。
フィーリングによる高級感演出とトレードオフだった、シリンダー空気クッションのものは、半世紀を経て、大抵ダメになっているし、メーカーによっては必ず壊れる基盤みたいなのはある。
「SONYタイマー」と良くいわれたが、他のメーカーも凝った仕掛けのものはメンテなしで使い続けること自体不可能な製品。思わぬ出費をしないために、情報収集は必要。


 LPプレーヤーは、全盛期の製品なら、ターンテーブルと直結されたスピンドルを持つかプーリーを介して繋がってモーターにより、一定速度で回転すること、トーンアームは機械的に共振を最小化して、インサイドフォースに抗するキャンセル力を発生するバネか電磁石の制御を持つ、後は簡単な回路による、出力というパーツが確かであれば、問題のない構造で、「マイクロフォン」的な出力信号を平坦に補正するイコライザーアンプも音質にこだわらなければ大した回路を必要としない。
 カセットテープの再生装置は、かつて作られたものは、とても機械制御的なカラクリとアナログ的なディスクリート回路(個別部品)の組み合わさった複雑な塊で、高級機であるほど、長くノーメンテナンス状態では、使用に耐える構造を持っていない。複雑な電子と機械動作の組み合わせによる「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」だ。そんなのわざわざ維持して、メンテして使用できる個体を何十年も正常に動くように維持できるのかとなると、他のヴィンテージオーディオのアンプやLPプレーヤー、スピーカーなどと比べると圧倒的に難問だ。
 で、上記のオーディオ装置は一応、現行商品も生産されて販売されているが、音質にこだわらないラジカセレベルだって、今のデジタルオーディオになれた人向けの製品が生産できるのかって考えると、ちょっと無理ゲーな気がする。そして、それは実際にそういう話になっている。

 使い物になる新品のカセットデッキを探すと、もちろん今は、選択肢などない。
 TEACは現行デジタルオーディオ製品もまともなものを作っているメーカーだし、ここのTASCAMブランドのデジタルPCM録音機は、「現代のカセットデンスケ」として使える製品群で、その中でもDR-100IIIはお気に入り、自分の研究領域と重なる超音波域の録音まで可能にしていて、圧倒的に安価で、高性能な製品だ。
 でここがTEACブランドとして出している現行商品として唯一のものがある。kakaku.comでも話題になってたが、そのスペックは過去の高性能機と比較しても相当落ちる。大体、1980年台のステレオラジカセのレベル。おそらく、こだわりによる造り込みとは無縁な時代になって、特に合理的な大陸や台湾のサプライヤーのモジュールがそのレベルで頭打ちなのだろう。ワウ・フラッターなど測定のフォーマットが変わったなどと言われるけど、実際にピアノの音がふらつかずに聴けるのかギリギリの値だ。実機については、信頼できるyoutubeのアカウントからレポートが出たらそれを見たらいいと思う。海外ので幾つか視聴評価を見たが、この分野のフリークが全盛期の日本メーカーの高性能機に基準を置いているために、非常に厳しいことはさておきつ、なかなか辛らつだ。今のカセットデッキフリークは、究極の集まりみたいなところがあって、特にTEACマニアは、1990年代以降、海外生産になってからの同社のカセットデッキすら全く評価していない人たちもおられるので、まあ、そうなるわな。

 それでも保証の効く新品として購入できる製品として、選択肢として選ぶ人の覚悟がレビューのコメントに出ている。精密機械制御と凝りに凝ったディスクリート回路やオリジナルLSIチップで構成されるカセットデッキは、生産インフラと技術と人が消滅したら、もはや再現できない。
 往年の名機に比べると音質が悪いとしても、今、現行品として生産されているカセットデッキがなくなった時が、とりあえず、カセットテープの歴史の区切りかもしれない。

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追記ーダラダラ書きすぎてて、肝心のテキストが抜けていた。CDからのダビングテープで、特にワウ・フラッターチェックに最初に利用もしている。有名なKeith Jarrettの「ケルン・コンサート」。彼も体調の不調から現役を引退してしまった。脳卒中を2回発症して麻痺状態となり、2020年10月の時点でも左半身が部分的に麻痺してしまったとのこと。とても残念。自分にとって彼はクラシック音楽とジャズを結んでくれた人で、プログレやロック中心であった私がその後、広大なクラシック音楽空間にも楽しみを見出せるようになった飛行石そのものみたいな人。自分の知人、友人の大学オケのメンバーにもファンは多かった。

このシリーズ、かなりつらつら書いてきているのだが、なぜか、この#2だけが物凄く読まれているのがちょっと不思議。
とりあえず、以下はこのシリーズのエントリと直リンクと概要。
 どれも適当なベタ打ちで、防備的に書いているのでTypoも多く、気がついたら修正している。丸ごとコピーされない暗号仕様?みたいなものでもあるのでお許しいただきたい。

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デジタル時代にカセットデッキを手に入れる話 #1

現在のカセットデッキを取り巻く状況

中古カセットデッキを手に入れるための基礎知識

現在のWalkmanタイプのカセットプレーヤー

中古カセットデッキのアジマス調整、メンテナンス周辺

廉価イヤフォン性能とカセットデッキをカセットプレーヤーにする

デジタル時代にカセットデッキを手に入れる話 #6

Walkmanタイプのカセットプレーヤーとポータブルカセットデッキ

デジタル時代にカセットデッキを手に入れる話 #7

ワウフラッターと中古カセットデッキ

カセットデッキのヘッドの種類と調整の話

中古カセットデッキでは何をどう選定するか



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by complex_cat | 2024-06-15 20:57 | My Tools | Trackback | Comments(0)

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