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大そうじへの備え
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いまの日本社会では、仕事に楽しさや喜び、やりがいを見出したい、あるいは働くことを通じて価値観や自分らしさを追求したいと思っている人が多いと思います。 ただ、世界の歴史を振り返ると、人間が文明を築いて以来、労働は長く苦しみと見なされてきました。労働が肯定的にとらえられるようになったのは、ごく最近のことです。 古代ギリシャからローマ時代まで、労働は苦しみとされた ヨーロッパ文明の原点である古代ギリシャでは、生きるための糧を得るために活動することは動物が生きるために獲物を捕まえることと同一視され、不自由で非人間的な卑しい行為と考えられていたのです。 当時の人々が考えた、人間的で自由な活動とは「真・善・美」にまつわるものです。「真」は真実を追求すること、つまり哲学です。「善」は善いことの探求・実践ということで政治的活動であり、「美」は美しいものを眺めてきれいだなと感じること。こうした行為が自由を体
世界的にAIの社会実装が進む中で、役人の腐敗や不正を失くすためにAIに統治を任せた方がいいという声を聞くことがあります。中国でもそういう意見はありますね。実際、中国の巨大IT企業で働くエンジニアにもそういう主張の持ち主がいるようです。 さすがに国家の中枢では無理でしょうけれども、交通の規制など庶民に身近なところでは実現できるかもしれません。スマートシティの設計の発想は、人や乗り物の動きをアルゴリズムで制御するというものですよね。それまでは人が交通整理をしていたり、違反切符を切っていたりしていたけれども、そこには必ず恣意的な判断も入り込む。移動効率や安全性の追求といった面だけでなく、人間の判断の偏りをできるだけなくしていこうというところでもAIに期待する声があるのは確かなようです。 中国の市民がAIやシステムによる統治を歓迎する可能性 中国政府が「社会信用システム」の名の下に個人の信用情報の
いまや中国はデジタル大国として日本をしのぐ発展を見せています。中国の主なIT企業の設立時期は、アリババが1999年、テンセントが1998年、中国版の検索エンジン「バイドゥ(百度)」が2000年、中国版ツイッターともいわれる「ウェイボー(微博)」が2009年といった具合で、特に21世紀の最初の10年でインターネットが中国社会へ爆発的に普及していきました。 この時期にインターネット上で公害の反対運動が繰り広げられるなど、市民的公共圏の萌芽ともいえる動きが見られました。共産党が支配する社会構造が次第に変わっていくのではという期待が内外であったのですが、2013年に習近平政権へ変わったあたりからそうした動きが影を潜めていきます。 その背景としては、第一に政府の締め付けが強くなったこと、第二に読者がネットで記事を読むようになってメディアの経営が苦しくなり、リスクを犯してまで紙面を作っても採算が合わな
「大企業型」「地元型」「残余型」という働き方の3類型 [小熊英二]社会学者、慶應義塾大学総合政策学部 教授 著書『日本社会のしくみ』では、雇用の慣行に焦点を当て、大企業や官庁に勤める人の就労モデルが教育や社会保障の大きな規定要因になっていることを論じました。 働き方は「大企業型」「地元型」「残余型」に大別できる 日本の社会における働き方は、「大企業型」「地元型」「残余型」という3つの類型に大別できると思います。 大企業型は大学を出て大企業や官庁に勤め、「正社員・終身雇用」の人生を過ごす人たちとその家族を指します。収入はそれなりの額を安定して得られるけれども、進学や就職で生まれ育った地域を離れることが多く、また転勤もあることが多いので、地域との結びつきを養いにくいというデメリットがあります。従って、育児で頼れる人がいないとか、定年後の生き方に迷うといった困難に直面しやすく、ローンで家を買うな
日本経済にとって、生産性の向上は大きな課題です。G7の中で日本の生産性は一番低いとされていますし*、アベノミクスでも生産性革命が看板の1つに掲げられています。企業関係者の間でも生産性を巡る議論は活発ですよね。 しかしながら、では生産性とは一体何か、どのような要素でとらえられるのかと聞かれて、明快に答えられる人は、企業にも、また官公庁にも少ないという印象です。生産性の概念自体は知っていても、実際にどう測るのか、どうすれば生産性を上げることができるのかということになると、さまざまな誤解や俗説があると感じています。 生産性をとらえるためのさまざまな指標 生産性を測るときによく使われる指標は「労働生産性」です。一定期間に1人の労働者が1時間当たりどれだけの付加価値(金額もしくは物理的な生産量)を生み出したかを示すものです。ここでいう付加価値は、経済全体の場合にはGDP、企業単位では利益や賃金を足し
保守やリベラルといった従来の枠組みではとらえきれない、個人の自由を徹底的に追求する「リバタリアン」(自由至上主義者)が、アメリカ社会、中でも若い世代で存在感を増しています。 個人の自由や所有権を起点に社会のあり方を考え、個人の幸せにとって一番いい状況を目指すというのがリバタリアンの基本のスタンスです。細かいところでは立場や解釈によって違いはありますが、最大公約数としては、「自由市場」「最小国家」「社会的寛容」を重んじる姿勢が挙げられます。 市場にはできるだけ国家は介入するべきでない、規則や規制は極限まで排除すべきだというポリシーのもと、彼らは自由な市場の形成を目指します。また、国家や自治体などの公権力を最小化することで、個人の自由を極大化しようとします。さらに、個人の生き方は本人が選ぶべきものであり、民族や人種、宗教で可能性を閉じてしまうようなことは許されないという意味で、社会的寛容も掲げ
CGやメディアアートに取り組み始めたのは、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(現・情報科学芸術大学院大学、以下、IAMAS)に通ったことがきっかけです。ここで出会ったアーティストと意気投合して、その人についていく形で2003年にロンドンへ渡り、公共の場でインタラクティブアートを行ったり、デザイン会社でメディアアートを手掛けたりといった活動を続けました。 でも2007年くらいからメディアアートの市場が急成長してきて、大規模で派手で多くの人の興味を瞬間的に奪うようなものが増えていったんです。いわば最大公約数的なところで類似品が次々と出てきた。そうなると、規模のビジネスの話になっちゃうんですね。大きいプロダクションのプロデューサーになって、いいクライアントを探し、大きいお金を引っ張ってきて、いいプログラマーを確保すれば、それなりのものができるわけです。 でもそれは作品のクオリティとは違うところの
オフィスを横断する全長240メートルの「ストリート」 [テア・フォン・ゲルダーン]Allied Works Architecture アソシエイト プリンシパル 2019年4月4日、虎ノ門ヒルズフォーラムにて、働き方やワークプレイス、不動産、テクノロジー、イノベーションの未来を探るフォーラム「WORKTECH(ワークテック)19 Tokyo」が開催された。 本稿では登壇者の一人、テア・フォン・ゲルダーン氏のプレゼンテーションを紹介する。 アライド・ワークス・アーキテクチャーでは、株式会社ユニクロの有明本部「UNIQLO CITY TOKYO」(以下、ユニクロシティ)の設計に携わりました。 先方から依頼を受けたのが2015年10月のこと。プロジェクトのリーダーは、会長兼社長の柳井正氏と、株式会社ファーストリテイリングのグローバルクリエイティブ統括、ジョン・C・ジェイ(John C Jay)氏
料理人としては、僕の経歴はちょっと変わっているかもしれません。サッカーの練習生、小学校教員を経て、32歳で未経験から料理の世界に飛び込みました。 いくつかのお店で修業した後、フレンチレストラン「Gris」(グリ、東京・代々木上原)のシェフになったんです。ここで働いているうちに飲食店の働き方は変えることができるし、従業員の報酬も上げることができるんじゃないか、と考えるようになりました。もちろん料理や見せ方の面でも挑戦したいことがたくさんありました。それでGrisを買い取り、僕がオーナーシェフとなってお店を衣替えして、2018年7月に「sio」(シオ)をオープンしたんです。 料理と向き合うリテラシーを高める「おいしいを超えた感動」 sioのコンセプトは、「素材の本質を見極めた料理で、おいしいを超えた感動を提供する」というものです。 例えばsioではコースの最初にスープを出しています。これ、単体
翻訳家になる前は投資顧問会社でファンドマネジャーとして働いていて、海外の大学でMBAも取得しました。ハードなビジネスの世界に身を置いていたわけですが、そこから翻訳家へ転身したのは、アリソン・ピアソン(Allison Pearson)の『I Don’t Know How She Does It』* という小説に出合ったことがきっかけです。 主人公はグローバル展開する投資顧問会社でファンドマネジャーを務める35歳の女性です。2人の子育てを巡るドタバタ、夫との軋轢、多忙でストレスの多い仕事を続けることの迷いや葛藤などが、軽妙なタッチで描かれているのですが、それがまるで我がことのようなんですよ。仕事内容もポジションも私と同じで、年齢もほぼ一緒。日々のてんやわんやもそっくりで、作者はどこかで私のことを見ていたのかと思うくらい(笑)。面白くて一気に読み終えました。 それまでも英語の本はたくさん読んでい
クラウドファンディングの礎を作り、いまや世界最大級のプラットフォームになったキックスターター。同社は映画、音楽、ゲームなどクリエイティブなプロジェクトを中心に広く資金調達を実施しており、これまでに世界1,400万人以上の支援者から35億ドルを超える資金を集めている。 多くの人の目には、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長するハイテク・ベンチャーそのものに映るだろう。だが内実は違う。近年、キックスターターはいちベンチャーからPBC(Public Benefit Corporation)にシフトした。これは公益と株主利益のバランスを求められる企業形態であり、現在のキックスターターはつまり、公益法人ということになる。彼ら自身の言葉を借りるなら「文化機関」なのである。 「考え得る限り一番クリアな方法で、絶対に会社を売却しないこと、株式公開をしないことを表明したのです」とキックスターター・インターナショナル・デ
地方や途上国のような場所では、資金や人材、技術が十分でないということでイノベーションは望めないと見られがちです。しかし、地域に自生する天然資源や観光地のような文化的・歴史的資源も含めて、イノベーションの足掛かりとなるリソースはどんな場所にもあるのではないでしょうか。 埋もれたものを掘り起こし、そこへスキルやナレッジ、さらに顧客やパートナーといった社会的資源も加えてリソース全体を統合することで、新たな価値を創出できるはず。すなわち、イノベーションの創出は地域や途上国でも可能であると、僕は考えています。 リソースの発見・統合・拡大を通じて、新たな市場を紡ぎ出す 地域の人々が身の回りにあるリソースを元に新たなプロダクトをデザインし、新たな事業を紡ぎ出す。このモデルを僕は、「リソース・ドリブン・イノベーション」と呼んでいます。僕自身が途上国でイノベーションプロジェクトに携わる中で、その経験をベース
委ねることで新しい価値が生まれる [豊田啓介]株式会社noiz パートナー、株式会社gluon パートナー、株式会社AI-feed共同代表 設計デザイン事務所「noiz」や、都市とテック領域でのコンサルティングを手掛ける「gluon」など活動の場をいくつか持っていますが、起点はnoizです。コンピュータプログラムを活用してデザイン、設計、構造、環境性能などをシミュレーションする「コンピューテーショナルデザイン」を積極的に取り入れているのが特徴です。 デザインの可能性を飛躍的に高めるコンピューテーショナルデザイン 僕はコンピューテーショナルデザインを米国コロンビア大学で学び、その後ニューヨークの SHoP Architectsに勤めて実務に導入するようになりました。この手法をアジアベースで展開してみたいと考え、日本に帰国してnoizを立ち上げたんです。 設立してしばらくは、社内で作ったプログ
前編で、リクルートホールディングス在籍時の働き方改革について話しましたが、グランドデザインが描けないのはイノベーションに通じます。ですから、僕らは当初「ワークスタイルイノベーション」と言っていました。働き方を再発明しようというスタンスです。 ウォーターフォール方式で精緻に計画を練り上げることはできないし、練り上げたところでトライアルで新しい兆しが出てきたら常に作り替えていかないといけない。とりあえず着手して、失敗も糧にしながら進めていくことが働き方改革の要諦だと思います。 それぞれの部署にマッチする人事制度があっていい しかし、失敗も糧にしながら推進すると聞くと、多くの企業の推進側の人が尻込みしてしまうんですね。「改革の必要性は分かるけど、うちでは無理だ」と。それに対して僕は、「ご自身が無理だと思い込んでいるだけじゃないですか?」と応えます。 リーダー自身がそう思っていては現場も動きません
前編で、自宅兼シェアハウスである「Miraie(ミライエ)」を建てた経緯を話しましたが、このMiraieの運営を続けるうち、個人の活動にもっと時間を割きたいと思うようになりました。そこで在籍しているガイアックスの許可を得て、会社の籍はそのままに、シェアを中心とした個人事業を2013年から始めたんです。キャリアの大きな転換でした。 会社は会社でシェアリングエコノミーの可能性に関心を持ち、事業の柱にシェアリングエコノミーを追加。僕はシェアリングエコノミーのイベントを開催したり、メディアを作ったり、ネットワーキングのイベントを開いたりといったシェア関係の業務を手掛けるようになりました。 そんな流れでシェアリングエコノミー推進派の政治家や官僚と縁ができて、業界団体を立ち上げてみてはとアドバイスされました。そこで2016年に立ち上がったのがシェアリングエコノミー協会でした。 Airbnbやウーバーで
デジタルノマドやスタートアップがラップトップを叩く隣で、ダイムラー、シーメンス、ボッシュら大企業がブースを構えている。これは一体誰のオフィスか? 旧来のコワーキングスペースのイメージとかけ離れた世界が広がる。ドイツ最大の鉄道会社DB(ドイツ鉄道)までがここを訪れて「スタートアップと一緒に働かないと革新的なものは作れない」と言うと、誰が思っただろうか。「10年前にはありえなかったことですが、最近はそういう大企業が増えていますね」と創業者のクリストフ・ファーレ氏。 「近い将来、この建物もリノベーションするつもりです。今度、アウディがここに入ることが決定したんですよ。まったくクレイジーでしょう?」 2009年オープンのベータハウスは、ベルリン市内では老舗にして最大級のコワーキングスペースだ。建物は、もともと新聞の印刷所だった5階建てビル5000㎡を改修したもの。内部はさまざまなフロアにデスク、大
ニューヨークを代表するコワーキング・サービスといえばWeWorkがあまりにも有名であるが、新しいアプローチで近年注目を集めている事業者がある。2015年に誕生した「Knotel」だ。現在、ニューヨークやサンフランシスコ、ロンドンに40カ所以上展開している。 ただ厳密に言えば、ノーテルはコワーキングスペースではない。WeWorkなど既存のコワーキングスペースが主に小規模の企業やフリーランス、学生たちに向けてデスクやスペースを提供するのに対し、ノーテルは、50人以上のスタッフを抱え、「本社」を探している会社を対象にサービスを提供しているのだ。 創業者でありCEOのアモル・サルバ氏はこのように語る。「過去にオフィスを運営した経験を通じ、企業のサービス自体はスピーディであっても、その企業の本部機能がそうでないことがあると気がついたのです。各社のCEOが本社のリースに費やす時間と資金を観察し、伝統的
働き方はいま社会で大きなテーマになっていますが、学生を始めとする求職者にとっても就職先を選ぶ際の一大関心事であることは間違いありません。 企業側が等身大の姿を求職者に見てもらうことはリアリティショックを防ぎ、仕事へのモチベーションをかき立てます。ですから、社員の働き方をオープンに見せることは意味があるでしょう。 働き方のモデルを示すことは学生にとって価値がある 特に学生は会社で働くことがどんなことなのかピンと来ません。学生生活とも違うし、アルバイトとも違う。自分の親の世代ともおそらく違うだろうということで、どんな仕事をするのか、どれくらい忙しいのか、残業がどれくらいあるかといったことがイメージできないんです。従って、働き方のモデルを示すことは学生にとって価値ある情報になりますし、そこが不透明だと企業への信頼感が損なわれます。 ちなみに学生の大企業志向はここに由来すると思いますね。有名な企業
ベルリンのコワーキングスペースといえばファクトリー、ベルリンではもちろん世界的にもそう評価が定まっているはずだった。にも拘わらず「COWORKING IS DEAD(コワーキングは死んだ)」という物騒なコピーを自社広告に打ったのだから、インパクトは大きかった。それも、ベルリンのテックシーンに最も影響力のあるフリーペーパー『Berlin Valley』に出稿したのである。 もっとも、彼らのメッセージは明快だ。肝心なのはそこにコミュニティを育てることであり、スペースではない。 ファクトリーのプロジェクトは2011年に始まる。当初の構想は、テック企業が集まり、スタートアップや起業家を助けるキャンパスの役割を果たすこと。不動産や投資に精通するファウンダーが、新たに開発の進むベルリンの壁跡地に隣接する1万6000㎡を取得し、複数のビルの中にテック企業を集めた。2014年にはグーグルの起業家支援プログ
[Axel Springer Plug & Play Accelerator]Berlin, Germany アクセル・シュプリンガー。創業者の名を冠するこの会社を一大メディア企業に押し上げたのは、1952年創刊のタブロイド誌『ビルト』である。一時は500万部以上を発行し、ヨーロッパで最も読まれる新聞となった。 アクセル・シュプリンガー プラグ&プレイ アクセラレータ(以下、アクセラレータ)は、デジタル出版社への脱皮を図る同社が世界的なイノベーションプラットフォームであるプラグ&プレイと共に立ち上げたベンチャーキャピタルだ。アーリーステージにあるテクノロジー・スタートアップを選抜し、100日間の支援プログラムによって成長をプッシュする。投資額は1社につき2万5000ユーロ。アクセラレータは5%のシェアをとり、自らの成長の糧とする。 この建物1階(日本の2階に該当)がプログラムに参加するスタ
仕事の「時間」だけでなく「質」も含めた議論を [山口周]コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社 シニア・クライアント・パートナー グローバル企業がアートスクールで幹部トレーニングを行ったり、ニューヨークやロンドンの知的専門職が美術館のギャラリートークに参加したりと、海外のビジネスパーソンの間で「美意識」を高めようとする動きがあります。 経営の世界ではこれまで「分析」「論理」「理性」が重んじられてきました。しかし、こうした「サイエンス」に比重を置いたままでは、今日のように複雑で不安定な世界で適切な意思決定をすることができません。論理的・理性的スキルに加えて、「直感」「倫理」「感性」「センス」「真・善・美を問う姿勢」――すなわち「美意識」を鍛えることで、彼らはこの混沌とした時代においてビジネスを牽引する力を得ようとしているのです。 したたかな戦略のもと、功利的に美意識を鍛える ビジネスで美意識
個人のウェルビーイングと組織のウェルビーイングを行ったり来たりする [渡邊淳司]NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 主任研究員(特別研究員) ウェルビーイングは個人によっても違いがありますが、文化によっても異なると思います。そこで各分野の専門家と共同で、日本的ウェルビーイングを促進する情報技術のためのガイドラインを作ろうと活動しています*。 技術がうまく使われるためのサンプル集を作っていく ガイドラインといっても、これをしなければならない、これをしてはいけない、という四角四面の枠組みを作るというよりは、持続的ウェルビーイングのためにどんなことを考えるといいか、そのときに役立つ技術として何があるか、それを実現するのは誰かといった関係性を示すことに重心を置いた方が、結果的にうまく行くと思っています。 ある問題が持ち上がったとき、誰かが「こうしたら解けることが実験で示されてい
身体性に根差した「自分のウェルビーイング」を求めて [渡邊淳司]NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 主任研究員(特別研究員) 人工知能(AI)やバーチャルリアリティ(VR)など、このところのテクノロジーの進化、実用化は目をみはるものがあり、多くの人が高い関心を寄せています。技術の発達で機能性が格段に高まったのは事実です。しかしそれを使う人間の心の状態はどうでしょう。 情報端末の普及で昼夜問わず仕事に追われる人も少なくありませんし、そういう時間的、身体的な負荷の他にも、マルチタスキングな状況や膨大な言語記号の意味を自分事として理解することの難しさなど、心理的な負の影響も増大しているように感じます。テクノロジーが高度に発達したことで本当に僕らが幸せになっているかといえば、ウンと言えない面もあるのではないでしょうか。 個人や社会に幸福をもたらすテクノロジーを探る「新たな時代」
サービスは、それを提供する側とされる側の「闘争(struggle)」によって成り立つものだ――こういうと、みなさんは驚かれるでしょうか。もちろん、店員と客がけんかをするわけではないですよ。勝負のつく戦い(fight、combat、battle)ではありません。 一般的にサービスは顧客を満足させることが最も重要な変数であり、そのために笑顔、迅速さ、分かりやすさ、情報の充実などが求められます。しかし、高級なサービスであればあるほど、これらはサービスの価値を低下させることになるのです。意外なことかもしれませんが、サービスの根源は客を否定することにある。それがすなわち「闘い」ということです。 敷居の低いサービスは、客にとってそれほど価値がない 例えば、東京で高級な鮨屋に入ったときのことを考えてみてください。愛想のない親方がいて、品書きもなく、値段も分からない。この時点ですでに、親しみやすさや分かり
空間ネットワーク分析を得意とするコンサルティング会社 [Space Syntax Limited]London, UK Space Syntax(スペースシンタックス)という言葉をご存じだろうか。1970年代にロンドン大学バートレット校のビル・ヒリアー教授らによって提唱された理論であり、空間のあり方を数学的に分析する手法だ。それからさらに研究が進み、独立した企業として1989年に設立されたのが、その分析手法の名前を冠した「スペースシンタックス」である。 まずは分析手法であるスペースシンタックスについてしばらくご紹介しよう。スペースシンタックス社のアソシエイト・ディレクターを務める登張絵夢博士がこのように教えてくれた。「現代はパソコンや携帯電話さえあれば、どこででも仕事ができるようになり、オフィスという物理的な場所の意味合いも変わってきています。しかし、一部の産業、特に知識集約型産業において
大企業にオープンイノベーションの重要性が叫ばれる中、ユニークな活動で注目を集めている施設がある。北欧家具ブランドであるIKEAのイノベーションラボ、SPACE10だ。ここは、“To create a better everyday life for the many people(より多くの人により良い生活を)”というIKEAのビジョンに新たな視点から取り組み、アイデアを生み出していく場所として2016年にコペンハーゲンに開設された。ユニークなのは、SPACE10がIKEAから独立した外部ユニットであり、IKEAのコア・ビジネスとは一線を画した形で活動をしているという点だ。 SPACE10のコミュニケーション・ディレクターを務めるサイモン・キャスパーセン氏はこのように語る。「話は5〜6年前にさかのぼります。当時、私は「Art Rebels」というクリエイティブ・スタジオで働いていました。A
ある製品やサービスを手放せないと思うとき、それはまるで恋に落ちているような状態です。他では代替できないという唯一無二の存在になれるのは、その製品やサービスに何か意味があるからです。他よりベターな機能を持っているというだけでは、そこまでほれ込むことはできません。自分にとって絶対的な価値となるその意味を人々は愛するのだと前編で説明しました。 では、どうやって意味を作っていけばいいのか。アイデアがあふれる中で正しい方向を見出すにはどうすればいいか。留意すべき原則が2つあります。 新しい方向を探るとき、ユーザーの意見は頼りにならない 原則の第一は、「内から外へ」です。意味を創出するには自分自身から出発するということです。ユーザーや識者など外部の人を巻き込んでいくのはその後なのです。 イノベーションを起こす手法として、デザイン思考やオープンイノベーションが人気を集めています。新しいソリューションを作
私はミラノ工科大学の経営工学研究所で、マネジメントとデザインについて教鞭を取る一方、デザインやイノベーションに関する企業との共同プロジェクトにも取り組んでいます。その研究内容やこれまで得られた知見について話す前に、まずはエピソードを1つ紹介しましょう。 シカゴ大学の教授であったミハイ・チクセントミハイが、ある心理実験を行いました。「自宅が火事になったと想像して、何か1つ持ち出すとしたら何か」と人々に尋ねたんです。答えとして多かったのは、ラジオや家族写真でした。1980年代の話です。* いまなら携帯電話やスマートフォンという回答が多いでしょうね。私が質問した人の中には、イヤリングと答えた女性もいました。いわく、「高いものではないけれども、子どものころ母親が買ってくれたもので思い入れがあるから」と。また、実際に火事に遭遇したことがあるという女性は、冷蔵庫からハムとパンを取って逃げたと教えてくれ
医療にまつわる諸問題はデザインの力で解決できる——。本気でそう考え、問題解決に向けて取り組むプロジェクトがロンドンにある。ヘリックス・センターだ。 ヘリックス・センターは、世界トップレベルの理系大学であり医療系にも強いインペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London/以下、ICL)と、同じく世界にその名を轟かせる美術・デザイン大学であるロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art/以下、RCA)とのジョイント・プロジェクトだ。その拠点は、イギリスの国民保険サービス(National Health Service/以下、NHS)トラストの一部であるセント・メアリー病院の構内にある。 「ヘリックス・センターのアイデアは、RCAとICLの間で行われた共同プロジェクトがきっかけで生まれました。プロジェクトの一つに救急車のデザインの見直し
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