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岸田首相もたたかれているうちに鍛えられてきた? FRANCK ROBICHONーPOOL/GETTY IMAGES <今の政治の状況は自民党が民主党に政権を渡した2009年の総選挙の時に酷似しているが、違うのは自民党に代わる受け皿が割れていること> 失敗をしたわけでもないのに、何をやっても盛り上がらない岸田政権。決着しない自民党の裏金問題。これまで旧民主党の残党に国政は任せられないと思い込んできた日本人も、「自民党でも大同小異。ならば」と、そろそろ考え始めるかもしれない。 衆議院議員の任期は来年10月末に切れる。現状は、2009年8月の総選挙で自民党が181議席を失い、民主党(193議席も増やした)に政権を渡した時に酷似している。その時と違うのは、自民党に代わる受け皿が割れていること。やるのなら、派閥を解消して液状化した自民党が割れ、小池百合子東京都知事や野田佳彦元首相などを核に、野党の一
昨年末、東部ドネツク州の前線を訪れたゼレンスキー(左から2人目) UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICEーHANDOUTーREUTERS <現状での停戦はプーチンには利益になるかもしれないが、ゼレンスキーは辞任を求められることになるだろう> この年末年始、欧米メディアは「ウクライナは領土を諦めてでも早く停戦しては?」という論調でにぎわった。米議会がウクライナ支援予算を止めていることもあり、ウクライナの財政は破綻の様相を強める。東部の戦線は膠着状態で、ウクライナ軍もロシア軍も前進が難しい。ドローンの発達によって、前進を企図して大軍が集結すれば偵察用ドローンで察知され、攻撃用ドローンやミサイルで精密攻撃されて戦力を大量に失ってしまうからだ。 ロシアでは徴兵が貧困地域、そして囚人の使役にほぼ限定されているため、大都市では戦争の実感が乏しい。それでも筆者のロシアの
ウクライナ軍の反転攻勢は成功するのか(同国南部での演習、3月) MUHAMMED ENES YILDIRIMーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES <極右・ネオコン・利権が原因で始まった侵攻は、プリゴジンの乱が呼び水となり終わるかもしれない。本誌「世界の火薬庫」特集より> 帝国の崩壊は古来、無数の紛争地帯を生み出してきた。強い力の抑えがなくなると、以前からの対立が諸方で噴き出す。ソ連の場合(1991年崩壊)も周縁地域でいくつも紛争が起きたが、ロシアはその失った領域の回復に乗り出して、自ら紛争の種となっている。 それが今のウクライナ戦争だ。昨年2月のロシア軍の侵攻と戦線膠着、今年6月初めからのウクライナ軍の反転攻勢とその挫折と推移して、今また6月23日に起きた民間軍事会社ワグネルの「反乱」で、戦争はロシア自身の安定性を揺るがすものに転化した。ソ連崩壊というビッグバンはロシア
<中世までの中国は西欧をしのぐ経済発展を遂げていたが、そこから産業革命が生まれることはなかった> 中国がどこまで伸びるか、それは今後の世界の姿、日本の政策を大きく左右する。 歴史上、中国の成長が停滞、あるいは腰折れしたことは何度もある。その多くは、戦乱や異民族支配によるものだ。その中で、中世の宋朝から明・清朝にかけての繁栄から停滞への道、それがこれからの中国の行方を暗示するものとなっている。 北京の故宮博物院に、『清明上河図』という北宋の首都・開封の情景を描いた図が陳列されている。西暦1000年頃、イタリアはともかくアルプス以北の西欧はまだ中世にやっと入ろうかという原初の時代。この絵図からは、宋が後の西欧中世商業都市に匹敵、いやそれをはるかに上回る規模と水準の経済を築いていたことが分かる。 『清明上河図』では妓楼(ぎろう)、料理屋、茶屋などが軒を並べている。宋の時代には羅針盤、紙、火薬だけ
<日本もドイツも戦後長らく、戦勝国からの多大な圧力にさらされてきた> ドイツは1月25日、その工業力の華、「レオパルト2」戦車をウクライナに供与することを決めた。アメリカも「戦車M1エイブラムズを供与する」と表明したが、これでロシアから「主要敵」扱いされ、ウクライナ戦争調停の権利を失うこととなった。 戦車があれば戦局が変わるものでもなく、今回ロシア軍はウクライナから横流しされた対戦車ミサイル「ジャベリン」を持っているという報道さえあったのだが、供与を渋るドイツはNATO内部で孤立。ロシアの天然ガスをドイツに輸送していたバルト海底パイプラインも爆破され、国内需要の実に40%以上の天然ガスを求めて世界中を走り回らされる羽目となった。 これを見て、「敗戦国はつらいよ」とつくづく思う。軍事力を低い水準に抑え込まれているから発言力は限られるし、道理を言っても、最後は戦勝国からの圧力でつぶされる。19
ロシアのウクライナ侵攻後、存在感を増すエルドアン ADITYA PRADANA PUTRAーG20 MEDIA CENTERーHANDOUTーREUTERS <ウクライナ戦争でロシアが退潮するなか、トルコはかつてのオスマン帝国の勢力圏だった中東や中央アジアに手を伸ばそうとしている> ウクライナ戦争で、トルコの出番が増えている。エルドアン大統領は11月1日、プーチン大統領に電話し、「ウクライナは穀物輸出船にドローンを載せてロシア軍艦を攻撃した。ついては、ウクライナ穀物輸出の封鎖を再開する」と言うプーチンを説得。軍艦攻撃からわずか4日で、穀物封鎖を解除した7月の国際合意に復帰させた。トルコはNATO加盟国だが、ロシア制裁には加わっていない。他方、ウクライナにはドローンを販売しており、双方に貸しがあるので、これまで何度も停戦の斡旋に乗り出している。 ウクライナだけではない。このごろ旧ソ連の南辺地
ウクライナ軍に破壊されたロシアの戦車が草原に(今年8月) ALEX CHAN TSZ YUKーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES <もともと経済力がないロシアの地位が沈んでも、世界に与える影響はほとんどない。むしろ重要なのは、この「帝国」崩壊後の東アジアと世界の勢力図が大きく変わること> 9月5日、ロシアの東端カムチャツカで若者の開く環境問題フォーラムに出席したウラジーミル・プーチン大統領は、「(日本ではなく)ロシアこそ日出ずる国」なのだと宣明した──。 そんな子供じみたことはどうでもいいが、ロシアのこれからはむしろ「日没する国」になるのであるまいか。 ウクライナ戦争で、ロシアの勝利は遠のく一方。中国も中央アジア諸国もロシアから距離を置く。プーチン大統領は、ウクライナを勢力下に止めようとして、かえってロシアの地位低下を速めている。 それでもロシアは外交
<現代の日本人はまだ自分たちをまとめる原則を持っておらず私権のカラに閉じ籠もっている> 安倍元首相銃撃事件を見ていると、「現場力の低下」が顕著だ。警察官は警護で立っているが、肝心の元首相の安全確保を合目的的に考えていない。警護の人数が少なくても、前後左右に目を配る人員の配置くらいは現場の判断でできたはずだ。 奈良県は安全だから訓練が不足していたからか、上からの指示がないと動かない存在に堕していたのか――。格好を付けて任務を果たしたつもり、は悪しき官僚主義の最たるものだ。 日本では毎日殺人やひどい事故が起きているのに、なぜか「日本は安全」マインドが染み着いている。 筆者の家の近くでは、信号のない横断歩道を左右も見ずに渡る歩行者が引きも切らず、何十人もの人間を乗せたバスがその前で立ち往生している。規則のとおりなのだろうが、バスや公共性の高い車両には歩行者が自分の判断で譲るべきではないか。 戦前
<近隣諸国との血みどろの戦いで巨大帝国を築き上げたロシア。ウクライナ侵攻から垣間見える不可解な権威主義の源泉とは> 容赦ないウクライナへの攻撃を続けるロシア。毎日殺されていくウクライナの民間人、そしてロシアの将兵に対して、これっぽっちの哀悼の意も見せない。この人間軽視のメンタリティーはどこに発するものなのか――。その謎を解くには、1000年を超えるロシアの歴史をひもとかなければならない。 「苦難のロシア」という言葉がある。何も隔てるもののない大草原に住むロシア人は古来、周囲の諸民族と戦い、殺し殺されてきた。13世紀のモンゴルの来襲以後は200年余りにわたる支配を受け、17世紀初めには約4年にわたってポーランド軍にモスクワなどを占領された。その後も1812年のナポレオン軍、1941年のナチスドイツ軍の来襲と続く。 そしてロシア人の大部分は17世紀以来、農奴としてほとんどの権利を奪われ、186
渦中の製鉄所を所有するアフメートフのもくろみは? BERND VON JUTRCZENKAーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES <表面的な動きに目が奪われがちだが水面下ではウラ事情がうごめいている可能性が> ウクライナでは戦争が続くが、この2カ月半、何か物事の表面だけを見て騒いできた感じがする。奥で動く見えない力があるのかないのか、考えてみる。 最近日本のテレビを見ていたらこんな場面があった。 ある人がロシアの知人にウクライナ戦争の実態を伝える記事をSNSで送ると、「そんなの知ったこっちゃない」という書き込みがあったという。 ロシア人の反応を解釈すると、「ウクライナが悪いんだろ。ウクライナは俺たちの領域。俺たちの生活も大変なんだ。がたがた言うな」という意味。 これがロシアの大衆レベルの気持ちだ。ロシア人にもいろいろあって、インテリ層とは対話が可能。しかし大衆レベルに
<時代錯誤の野心を見せたロシアは200年前に拡張主義に走り没落した英雄に重なる> 2月24 日、ロシアはついにウクライナに武力侵攻した。「ソ連帝国」の心臓部だったウクライナは絶対NATOに渡さない、というわけだ。 だが、かつてオスマン帝国だったトルコが旧領土であるクリミアに同じことをしたらロシアはどう思うだろう。第2次大戦後は民族自決が世界の習い。ロシアがウクライナにしたことは、時代錯誤なのだ。 2月15日、ロシアの知識人ドミトリ・トレーニンは、こう記している。「30年前ロシアは周辺からの退却を始めたが、その時代は終わった。国益上、必要な箇所では、拡張に訴える政策に転換したのだ」と。 そのとおり。だがロシアはそれでやっていけるのか? やりすぎは失敗のもと。ナポレオンは約200年前、周辺諸国の圧力に抗して攻勢に出たものの失敗し、配下の将軍たちに詰め腹を切らされた。ロシアはこれから、ウクライナ
ビッグマック指数で比較すれば日本のGDPは6割増し YU CHUN CHRISTOPHER WONGーS3STUDIO/GETTY IMAGES <物価安を理由に生活水準の低下を嘆く声もあるが、視点を変えれば日本の経済規模は6割増> この頃よく知人から、「日本は貧しくなりました」というグチを聞く。どうしてかと聞くと、アメリカやヨーロッパのホテル代は日本の3倍くらいするからだと言う。 確かに近年、日本はGDPでアメリカや中国にどんどん差をつけられ、今やドイツに追い抜かされそうだ。だが、それはどうも実感に合わない。2年前アメリカに行って地下鉄の荒れ方に仰天した。「中の上」以上の人の暮らしは日本の上流並みでも、中流以下の暮らしはとても豊かとは言えない。 以前は「ウサギ小屋」とさげすまれていた日本の住宅も、欧米に比べて小ぶりではあるがインテリアは欧米の平均を確実に上回っている。敢えて知人の逆をいけ
<頭打ち状態の中国が後退すると内部分裂は起きる?日米同盟はどう変わる?台湾への影響は?> 大手民間IT企業に対する締め付け、30兆円超規模の負債を抱えた不動産大手の苦境、そして相次ぐ停電――。中国の集権経済は、逆回転を始めた。 中国の長い歴史では、皇帝の権力維持が至上命令。台頭する商人は抑えられ、役人は民がどんなに困ろうが皇帝の指示を大げさに遂行することで昇進を図る。今回もその伝で、共産党政権は政治優先。金の卵を産む鶏=経済を絞め殺し始めたのだ。 その折に、10月1日付のフォーリン・アフェアーズ誌は「中国崛起(くっき)の終焉」と題する記事を掲載。「中国の台頭」が頭打ちになったと指摘し、それを前提に戦略を組み立てることを提唱した。隣国の日本としても中国の後退で何がどうなるのか、頭の体操をしておかないといけない。 まず極端なシナリオから行くと、経済の後退をきっかけに中国国内で権力闘争が起きて中
<政府が悪いと言いたくなるがそれは思考停止。どこがどう悪いのかを知り改善できることを検討せよ> 新型コロナ禍での東京パラリンピックが始まった。外国の選手や役員に感染が続発したら病床を確保できるのか? その時の通訳はどうする? ボランティアに生命の危険を冒させるのか──。 思考が麻痺、あるいはIPC(国際パラリンピック委員会)にろくにものを言えないから、危ないと分かっていてもそのまま突っ込む神風パラリンピック。「政府が悪い」と言いたくなるのだが、それもまた別の形の思考麻痺だ。 民主主義の歴史が浅い日本では政府と言えば「お上」か「敵」かの両極端で、自分たちがつくったもの・使うものという意識が足りない。コロナ対策についても、政府のどこがどう悪いのかを調べないと問題の解決にはつながらない。 まず、政府のやることはどうしてこんなにのろく、生ぬるいのか。政府、つまり各省庁の手は、大きく言って法律と予算
<ライバルが去ってユーラシアは中国とロシアの天下とかき立てるロシアメディアだがアメリカに代わり地域諸国の餌食になる可能性も> バイデン米大統領の勇断で、アフガニスタンにいた2500人の米戦闘部隊は、7月には撤収をほぼ完了した。 2001年に米軍介入で政権から追われたイスラム原理主義勢力タリバンは巻き返しの勢いで、既に国土の85%を制圧したと称する。約20万人のアフガニスタン政府軍はもとから実力を欠き、これからは武器弾薬の補給と兵士への給料支払いもおぼつかなくなる。 このままでは首都カブールでも、1975年のベトナム戦争でのサイゴン陥落時の外国人脱出のような悲劇が起きる。避難できないアフガニスタン政府関係者や米軍への協力者たちは戦々恐々だろう。隣国タジキスタンでは既に、10万人の難民受け入れ準備を進めている。 タリバンの主流は、パキスタン軍の支援を得てきた。パキスタンは、アフガンの青年を教化
東京五輪を開催すればIOCも救われない?(バッハ会長)GREG MARTINーIOCーHANDOUTーREUTERS <移動や宿泊などのロジスティクスを考えれば現状下の五輪開催は無理。それでも多くの関係者が救われる方策はある> 筆者自身は新型コロナウイルスワクチンの接種予約をなんとか取れたが、この感染症は東京オリンピックまでには収まるまい。 菅政権と国際オリンピック委員会(IOC)は自らの存続を五輪開催に懸けているようだが、このままでは失敗して、かえって力を失うのでないか。東京オリンピックが実現可能なのか、シミュレーションしてみよう。 まず、空港で選手たちを出迎え、選手村に送るところから。会期を通じて1万人以上の選手と約6万人の関係者が、世界中から三々五々とやって来る。国ごとに感染対策が違うので、検疫も国ごとや一人一人にテーラーメイド方式による入念な対応が必要だ。 英語のできない選手や役員
<感染爆発のインドにも及ばない接種スピードは「人間を幸福にしない日本というシステム」に原因がある> この前、新聞を広げて驚いた。「ブータン、成人の9割(新型)コロナワクチン接種」の見出し。さすが「幸福度世界一」と言われる国だけのことはある。 そこで筆者の地元の市役所のウェブサイトを見ると、「85歳以上の方々の接種申し込みを(5月)7日から受け付けます」とある。 日本でワクチン接種を完了させた人の割合は0.8%で、インドの2.1%にも及ばない。昔、ある外国特派員が『人間を幸福にしない日本というシステム』という本を出し、当時外交官だった筆者はこの野郎と思ったが、やはりそれは本当だったのだ。 一体全体、どうしてこういうことになるのか......。政府は説明してくれない。そこで、断片的情報をこね合わせて、なぜこうなったか考えてみる。 まず、「技術大国」の日本でなぜ自前のワクチンが製造できないのか。
<現地政府に圧力をかけても逆効果になりやすい。G7や国連などの場で態度を表明するのが限度> 香港、ウイグル、タイ、ミャンマー(ビルマ)......。2000年代の旧ソ連諸国や中近東諸国に代わって、この頃はアジアで人権・民主化問題が目立つ。 そして「日本政府はもっと声を上げて、現地の市民たちを擁護しろ」という声が高まり、これら諸国に投資している日本企業も現地政府と市民運動の間の板挟みになっている。 しかしどの先進国の政府も、他国の人権・民主化問題について介入するのは及び腰だ。自国の企業や国民がその国で不当な扱いを受けるかもしれないし、それまで苦労して築いてきた外交・経済上の地歩を簡単に放棄していいものでもないからだ。 だから「制裁」しても骨は斬らず、実際、企業は制裁をかいくぐってビジネスを進める。「人権問題」は多くの場合、その実態や全容が見えない。運動家や政府双方が誇張した物言いをするからだ
台湾の防空識別圏(ADIZ)に中国機が立ち入る事例が急増してはいるが…… REUTERS/Dado Ruvic/Illustration <独立死守でまとまれない台湾・平和病の中国軍・防衛意識が微妙なアメリカ......通説とは異なる関係国の事情> 中国軍機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に立ち入る事例が急増している。いよいよ台湾危機か? 台湾が陥落すれば、次は沖縄の番。その次は、米軍は日本から去り、日本は極東の隅で孤立する──。 ......という時に折よく、「まともな」政権がアメリカに戻ってきた。しかもバイデン大統領は日本を重視して、初の外国賓客として菅義偉首相を迎える予定だ。 良かった、アメリカと手を携えて民主主義の台湾を守るのだ、と意気込みたいところだが、思い込みは禁物。能天気はばかを見る。 台湾の場合、それはどういうことか?まず米軍の腹づもりが分からない。以前なら、米空母が数隻出動
中国事業は遅れ気味?(写真はパキスタンの港湾施設) ASIM HAFEEZーBLOOMBERG/GETTY IMAGES <採算性を考えないプロジェクトで返済が遅延。政権交代で対中関係を見直す国も増えている> 昨年10月、アメリカのボストン大学が出したリポートは、中国の一帯一路の退潮を指摘した。 「一帯一路におけるインフラ投資の主役である国有の国家開発銀行と中国輸出入銀行による2019年の融資額は39億ドルで、ピークだった16年の750億ドルからは94%の減少」だという。 筆者は駐ウズベキスタン大使を辞した翌年の05年、北京のある研究所を訪問し、中央アジア専門家の話を聞こうとしたことがある。すると向こうは所長が自らお出まし、日本の(当時、日本は中央アジアで経済協力大国だった)対中央アジア政策を根掘り葉掘り聞いてきた。 何かたくらんでいるなと思っていたら2013年、習近平(シー・チンピン)国
安倍政権時代には領土問題の進展をうかがわせたが……(写真は2019年) Yuri Kadobnov/Pool via REUTERS <領土問題が大きく動くのはロシアの国力が大きく低下したとき、あるいは中国がロシア極東地方に野心を示す場合だ> ロシアは昨年7月の憲法改正を受け、領土の割譲に関与した者に懲役刑を科すことができるようになった。プーチン大統領が今年2月半ば、日本との関係でこれらの規定に反することはしないと述べたことで、日本ではプーチンが変節したと騒ぎになっている。 だが、彼は何も変節していない。騒いでも、日本の独り相撲になるだけの話だ。 確かにプーチンは彼を後継に指名したエリツィン元大統領に義理立てして、当初は前向きの話し合いに応じた。エリツィンは1993年10月の来日時の「東京宣言」で、北方四島の帰属が両国間で問題になっていることを認め、これを歴史的・法的事実、法と正義の原則に
<ペスト禍は社会構造を変えた。コロナも世界を変えつつあるが、新時代は感染症と関係なくもたらされている> 新年早々、新型コロナウイルスでまた緊急事態宣言だ。この疫病はまるで戦争のように有無を言わさない。 ただ有無を言わさぬ疫病と言えば、中世欧州のペストに勝るものはない。1347年から数波にわたって欧州を襲ったペストは、同地の人口の実に3分の1から3分の2を亡き者にした。こんなに人がいなくなったら、社会・経済はとても回らないと普通は思う。だが歴史は逆に動いたようだ。 人口激減で農民の取り分や職人の賃金が上がり、多額の遺産が少数の生存者に残された。そして地価下落などで新たなビジネスチャンスが生まれ、社会の流動性が増す。 そのなかで農村から都市に進出して流通・金融で財を成したフィレンツェのメディチ家などは、富と地位を誇示するために文化人士を重用、ルネサンスの華が咲く。そして何より、国王─領主─農民
<台湾総統府への襲撃準備まで進める中国だが、そうなれば想定以上の苦戦と自国経済の崩壊が待ち受ける> 今年の1月、台湾で民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)が総統に再選される前後から、中国は台湾への攻撃的言動を急速に強化している。 習近平(シー・チンピン)国家主席は2019年1月の演説で、武力行使の可能性までにおわせて台湾に恭順を迫ったし、今年の夏以降、中国軍機は台湾空域への異常接近を繰り返す。 これは、蔡総統が台湾「独立」の方向に進むのを牽制するためだけなのか、それとも台湾、そしてバイデンのアメリカに隙あらば、一気に武力制圧にまで進むことを考えているのだろうか。 折しも来年の7月は、中国共産党創設100周年。習としては、次の節目となる2049年の中国建国100周年まではとても待てない。しかしうっかり手を出せば、台湾ではなく、中国にとっての黙示録、終末を意味するものとなりかねない。どういうこ
<旧社会主義国や途上国は「トランプ敗退」に民主主義の力を感じたかもしれないが、先進国での選挙は暴力を誘発したり単なるセレモニーに堕するなど意味が問われている> こんな笑い話を聞いた。アメリカの大統領選挙開票のありさまをじっと見ていたロシア人が驚いて言ったそうだ。「たまげた。奴らはマジで票を数えている!」 ロシアでは選挙はあっても、開票結果は事前に決められている、という意味だ。国家主席を選挙で選ぶこともない中国人は何も言わないが、心の中では驚いているに違いない。「強力なリーダーでも、選挙で代えることができるんだ!」と。 だから今回の米大統領選は、旧社会主義国や途上国でボディーブローのようにじわじわと効いて、公正な選挙や民主主義を求める動きにつながるかもしれない。これらの国では、「選挙」はまだ理想の輝きを失っていない。 ところが先進国では、選挙という制度は賞味期限を迎えている。選挙というのは、
<近代西欧を特徴づけた国民国家や自由・民主主義は絶滅危惧に瀕している。日本はアメリカ依存で「ちまちま飯を食う」時代から脱却せよ> トランプ時代も、もう終わり? この4年をつくづくと見直すならば、それが示す裂け目の深さ、人間の業の暗さに誰しも身震いする。 それは、「近代」の民主主義の価値観、そしてもろもろの社会的装置がもう利かなくなっていることを示しているからだ。アル・カポネの時代から抜け出てきたようなトランプ米大統領が、メキシコや中国を敵に仕立てて反則攻撃。ポイントを挙げては困窮白人層の喝采を得る。 「自由・民主主義」など一顧だにせず、むき出しの力の勝負、ジャングルの掟の中世に世界を引き戻した。「産業革命で生まれた広汎な中産階級が投票権を得ることで皆が権利を享受しながら、まともな生活水準を享受する」という、近代西欧の自由・民主主義は居場所を失う。アメリカの産業が移転した先の中国も近代の価値
アメリカは「再出発」できるのか(独立戦争のワシントン)PHOTO12ーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES <共和・民主による妥協なき不毛な争いを終わらせるため新たな有力政党をつくる時が来た> あと1週間で米大統領選だ。予想ではバイデン前副大統領と民主党が有利ということになっている。 この4年、トランプ大統領の下で熱に浮かされたようなポピュリズムの米国に付き合わされた世界は、やっとまともなアメリカを相手にできるようになるのだろうか。 いや、多分そうはなるまい。民主党が勝てば勝ったで、「勝利の配当」を求める動きで国内、外交はずいぶん荒れるだろう。低所得層への対策強化、大学教育の無償化などが次々に求められ、トランプが異常に膨らませた財政赤字は解消されるどころか増えていく。加えて、民主党の唱える最低賃金の引き上げ、労組の復権、法人税強化が経済の活力を下げるかもし
<学者まで役人扱いせんとする菅政権の強権ぶりと、いつまでも兵器技術研究を忌避し続ける日本学術会議> 日本学術会議が推薦した新規会員候補6人の任命を菅義偉首相が拒否したことが大きな問題になっている。政府は予算を与える相手は誰でも支配しようとして、「学問の自由」を掲げる側と正面衝突している。 俗に「日本の国立アカデミー」とも称される日本学術会議は、六本木の国立新美術館と青山墓地の間に立つ壮大な建物にある。アカデミーとはもともと権威ある学者の自発的な集まりで近代欧州に発するが、今ではちょっとした国なら同種の機関がある。 日本学術会議には210人もの会員が6年の任期を務め(その間の身分は特別国家公務員)、さまざまの分野について声明・提言・勧告などを発表する。なかには政府の方針に反対・批判するものもあるので、政府にしてみれば「カネを出すなら口も」という誘惑に駆られる。 これに、明治時代からの因縁が絡
<自民党も民主党も駄目となっていたから、安倍政権は「官邸」主導の政治を繰り広げた。今回の「後継選出」がしらじらしい背景には、いくつかの問題が横たわっている> 9月16日、日本の国会で新たな首相が選出される。だがこれまでのニュースを見ていて、どこかしっくりこない。何か本質的な問題があるのを知っていながら、それを隠して無理に騒ぎ立てている感がある。 本質的な問題は、今の日本の統治体制は死に体になっている、ということではないか。世論は2009年に自民党の政治と人に愛想を尽かして民主党政権を生んでみたものの、消費税を増額されて幻滅し、2012年に民主党を政権からたたき落とす。つまり自民党も民主党も駄目となったこの時点で、日本の統治体制は死に体となったのだ。2012年に返り咲いた安倍政権は、だから「自民党」はできるだけ表に出さず、「官邸」主導の政治を繰り広げた。 政権が長期化するにつれて自民党は再び
<資本主義が終わり工業を失いドルは紙切れになると揶揄するが......> 新型コロナウイルスの拡大に反人種差別デモ――。アメリカで何が起きても、トランプ米大統領は対立を鎮めるのではなく、あおることで喝采を得る。 その中でコロナ禍は広がり、社会は行き詰まる一方だ。これでは「アメリカ崩壊、アメリカ分裂も間近」という気分になるというものだ。この国が今の中南米のようにばらばらでないのは、歴史上の1つの偶然だったのだから。 古来、「帝国」の崩壊は、いくつか共通の症状を示す。西ローマ帝国では、有力者たちが大規模な荘園を構えて税金を払わず、周辺辺境の征服も終わって新たな金銀鉱山も手に入らず、国は軍閥に分かれてそれぞれが皇帝候補を推戴し、首都は格差と腐敗、そして陰謀と堕落が横行する場所となった。 そこを、おそらく中国方面からやって来た天然痘などの疫病が襲い、人口は激減する。同時に、ゲルマン諸族やフン人が領
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