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灼熱の一日が終わろうとしている。利根川の川面は西陽をぎらぎらと反射して、河原に作られたゴルフ場では帰り支度の男たちが、和やかに声をかけ合っている。しばらく川沿いを歩き回ったけど、渡し場の痕跡らしいものは見つからない。土手の草の上に僕は腰を下ろす。 当然だけど惨劇の余韻などどこにもない。一陣の風が汗ばんだ頬を撫でる。たぶん78年前のその日も、きっと同じような風は吹いていたと思う。 大正12年9月6日、関東大震災から6日過ぎたこの日、千葉県葛飾郡福田村(現野田市)で事件は起きた。大八車に日用品を積んだ15人の行商人の一行がこの地を通りかかった。福田村三ツ堀の利根川の渡し場に近い香取神社に彼らが着いたのは午前10時ごろ。 この行商人の一行は五家族で構成されていた。一人が渡し場で渡し賃の交渉をする間、足の不自由な若い夫婦と1歳の乳児など6人は鳥居の脇で涼をとり、15メートルほど離れた雑貨屋の前で、
晶文社の編集者である安藤さんからランチをご馳走になって、ホームページに何か書いてみないかと誘われたのはもう一ヶ月も前だ。題材は自由。文字数も厳格な制限はない。つい一年前までは原稿の依頼など皆無に等しかった僕にとってはありがたい申し出で二つ返事で引き受けたけど、締め切りの月末までもう数日しかないのに何も書けない。筆が進まないというレベルではなく全く着想すら浮かばない。理由は分かっている。制限がないからだ。テーマを与えられていたのならたぶん三日で書き終えていたと思う。エッセイでよいと言われたけどたぶん僕のエッセイなど誰も読まない。とにかくキーボードに向かう。書いているうちに何とかなるだろうとすがる思いで書き始めたのだけどやっぱり何も浮かばない。でもせっかくの機会を失いたくない。今回は無理やりにでも書く。 小人のことを書こうと思う。 9年前、僕はフジテレビで放送された「ミゼットプロレス伝説」とい
いままで繰り返し、言葉と「シニフィアン」との関係性について話してきたけれど、これはラカンの言葉でいえば、「象徴界」についての話ということになる。近い内に詳しく話すつもりだけど、ラカンは人間のこころを作り出しているシステムを3種類に分類したんだね。それが「現実界」「象徴界」「想像界」だ。 ものすごく単純化して説明しよう。今ヒット中のディズニー映画『モンスターズ・インク』は、フルCGのアニメーションだけど、このCG画面を例にとって考えてみる。このとき画面上に映し出された女の子やモンスターたちの画像イメージが「想像界」にあたる。ところで、そのイメージを作り出すには、何万行ものプログラムが背後にあるわけだ。もちろん、プログラム言語をどんなにじっと眺めても、イメージのかけらも浮かんでこない。それはどこまでも、無意味な文字の羅列にしかみえないだろう。この文字列が「象徴界」にあたる。さらに、プログラムが
中上健次、美空ひばり、松田優作、上月晃、景山民夫……わたしたちの記憶に深くきざまれた今は亡き人たち。おなじみ高平哲郎さんが20世紀最後の年に贈る、「想い出の人びと」の人間味あふれる姿をあざやかに蘇らせる短期集中連載「あなたの想い出 ──Memories of You 」。第3回は、映画、ジャズ、ミステリー、散歩、買物……。70年代、子どものような好奇心と驚くべき博識で若者たちを虜にし、いまでも影響をあたえつづけている植草甚一さんの登場。 昭和四一年、「ファンキーおじさん」として雑誌で紹介されたとき、植草甚一は五八歳だった。ぼくが初めて植草宅を訪れたのが、一九歳で二浪したその年だった。その翌年、初のジャズ評論集が出版されてから本格的植草ブームになる。東宝の調査部に所属していた昭和二一年、植草さんは三八歳でいまの梅子夫人と見合い結婚をした。夫人は京都の大きなホテルのお嬢さんで、結婚と同時に植草
さて、この連載では「シニフィアン」という言葉がこれから何度も出てくるだろう。さしつかえない場所ではふつうに「言葉」とするけれど、ある程度以上厳密に語る場面では、どうしてもシニフィアン、つまり言葉の「意味」ではないほうの、純粋に「音」としての側面を押さえておく必要がある。繰り返しになるけど、シニフィアンなんていうややこしい言い方をわざわざするのは、言葉と記号を区別するためなんだ。前回もちょっとふれたように、記号にはすべて意味がある。意味がないものは記号ではない。無意味な記号もあるじゃないかって? それは、まだ意味が知られていない記号か、あるいは「無意味」そのものを意味する記号に違いないよ。そして、この場合、記号に意味を与えているのが言葉なんだ。記号は、言葉によって保証されなければ、意味を持つことが出来ない。「バツ」が否定を意味しているのは、その意味を言葉をつうじて教わったことがあるからだ。
しばらく想像界の話が続いたので、今回はちょっと流れを変えてみよう。 ラカン、というよりも、ラカニアンの書いたものを読んでいると、よく目に付く言葉に「対象a」というものがある。ちなみにこれを「タイショウエー」と読んではいけない。「タイショウアー」と読むのが”通”だ。もっとも、完全フランス語読みで「オブジェプチター」とか読むのはやりすぎ。「a」はイタリック体じゃなきゃ、というこだわりも、ちょっとカルトくさいかな。まあ空気を読んで使おう。 これもラカンが難解と思われる原因の一つなんだろうけどね、こういうナゾの言葉が出てくるのは。でも、ラカンを語る上では、やっぱりはずせない言葉なんだ。もっとも、外見の割には、そんなに難解な言葉じゃない。要するに「対象a」とは、「欲望の原因」のことだ。欲望については、これまで何度も触れてきたから、なんとなくイメージはつかめていると思う。つまり人間は、「本当の欲望の対
前回はたしか、欲望と言葉の関係を話すって約束したよね。 えーと、今回は僕の話が、手前勝手な解釈で変なことになっている「俺ラカン」じゃないことを証明するために、ちょっと引用からはじめてみよう。だいたいはラカンの主著『エクリ』って本からだけど、それ以外の本も少し混じってる。今回は「欲望」に関してね。 欲望は、他者の欲望である。 欲望の根源は、他者の欲望である。 男の欲望は、他者の欲望に似せて形作られる。 人間のあらゆる知は、他者の欲望によって媒介されている。 人間の欲望の満足は、他者の欲望と働きによって媒介されるほかはないものである。 人間の欲望は、他者の欲望において意味をもつ。なぜなら、その第一の目的が、他者に よって認識されることであるから。 他者の欲望の根源にファルスがある。 ファルスは、他者の欲望の象徴である。 ちなみにファルスってのは「ペニス」のことです。いやいや、今はなんだかわかん
この世界に意味なんてない じぶん探しに答えなんかない こころが癒されました 生きていて良かった こころが傷ついた 絶望だ、死んでしまいたい、でも それはみんなナルシシストのはかない幻想 そう、たとえそれが「愛」であってもね ほんとうに愛されていたのは鏡に写った自分の姿 でも、ふと気がつくと 鏡のこちら側には誰もいない とまあ、いきなり絶望的なポエムではじめてみたのだが、どうだろう。猛烈に腹が立ったり、ひきこもりたくなったりしただろうか。 でも、これは僕の考えでも流出した326の本音原稿でもなくて、フランスの精神分析家ラカンの思想を、とりわけその邪悪さを2倍くらい増量してまとめたものだ。このジャック・ラカンという名前、ちょっとくらいは聞き覚えがあると思う。フランスで一番えらい精神分析家、というよりも、ポストモダンの思想家として有名だった人。うーん、そうだな、精神分析を発明したのがフロイト、こ
今回は難問だ。前回「ヒステリー」からの流れで、今回のテーマはいよいよ「女性」をあつかう。これこそは、人類史上永遠の謎の一つ。こんなむずかしいテーマを、ここで扱いきれるものなのだろうか。もちろん、そんなことは無理だ。じゃあ何で取り上げるかって? ラカンの「誠実さ」を知ってもらいたいからだ。彼はラカン派哲学者のスラヴォイ・ジジェクみたいに、なんでも早口で調子よく説明してしまおうとはしない。むしろ精神分析が扱いきれない対象には、その限界をきちんと踏まえて、限界がなぜ存在するのか、そちらのほうを指摘しようとする。けっして「精神分析で何でも切れる」と考えていた人じゃないんだ。いちおうそのことは、知っておいてほしいな。 で、彼が精神分析の言葉で語り得ないとしたもの。その一つが「女」だ。 女が語り得ないって? ちょっと辞書を引いてみよう。「岩波国語辞典 第五版」には、たとえばこんなふうに書いてある。「人
マンガ批評というジャンルを確立させたのは、まちがいなく夏目房之介氏の功績だ。批評としてのクオリティを保ちつつ、エンターテインメント性をも兼ね備えた夏目氏のマンガ論は、マンガについて語ることの面白さを一般に認知させたのみならず、元となるマンガ作品そのものの地位をも向上させた。その夏目マンガ論の集大成とも言うべき『マンガの力』をまとめた氏は、これからのマンガの方向性をどうみているのか。いまや海外のメディアからも注目される稀代のマンガ伝道師=夏目房之介が、90年代のマンガをめぐる状況について、マンガ作品の著作権問題について、行き詰まりをみせるマンガの市場について語った。 ■マンガ市場の飽和がマンガ批評の定着をもたらした ――『マンガの力』はマンガ文庫などの解説として書かれた文章が中心ですね。小説やノンフィクションでは文庫解説を集めた本は少なくないけれども、マンガ文庫の解説を集めた本は珍しい。新作
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