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某月某日。ここのところ二十代、三十代の若い古本屋さんが増えている。そんな一軒から届いた古書目録の「当店の蒐集分野」に「宮武外骨、酒井潔、梅原北明」という近代の畸人たちに並んで「赤軍、過激派」とあった。なるほど、赤軍派は近代日本変わり者の系譜に収まるのであった。 調べごとがあって東京古書組合の機関誌『古書月報』のバックナンバーを読んでいたら昭和三十一年の一冊に「古本屋弾圧事件の思い出」(中村春雄)という一文があった。そんな事件を私は初めて知った。 昭和十七年のことだ。その頃、厳しい統制の中で発売禁止の古本の枠はどんどん拡がっていたが、それでも古本屋にはそうした本が集まってきたらしい。というのは、出征する若者が蔵書を整理するときに、発禁の思想書や哲学書の処分も古本屋に任せたからだった。そうやって引き取った本は信頼できる常連客にそっと売ったり、やはり客から頼まれている同業に回すこともあったという
▲【あまみや・まみ】1976年、福岡県生まれ。AVライター。投稿系エロ雑誌の編集者として働いた後、2002年からフリーに。AVレビューやAV監督へのインタビュー記事の執筆はもちろん、女性限定のAV紹介イベントを開催するなど、「女性のためのエロ」というテーマの掘り起こしにも余念がない。『女子をこじらせて』(ポット出版)は初の単著。 「女子」というものは「こじらせる」可能性があります……そのことを世間に知らしめた雨宮まみは偉い! 偉すぎる! 女子の自意識に巣食うモヤモヤ感、より具体的には「なにをやっても”いわゆるフツーの女”からはほど遠いんだよなぁ、わたし」という感覚。ぶっちゃけ自分より劣るような女子だって堂々と「女やってる」のに、なぜわたしはこんなに「女/メスである自分」に違和感をおぼえてしまうのか。それをうまく言い当てることができずにいた人々に向かって彼女は「それはね、女子をこじらせている
配本に頼らない仕入本来の役割を愚直に追求――「1年やって評価が最低ならば交代することもある。『仕入れた以上は売り切る』というのはそういうことだ」 ■毎週平均約1400点という膨大な数の新刊書籍がどのような経路を経て、図書館に届けられているのか――。これまでは、多くの図書館に書籍を納品する図書館流通センター(TRC)の図書装備の心臓部・新座ブックナリー、書籍の詳細な情報を付与したMARCを製作し読者と書籍の架け橋となっているTRC本社データ部の状況をレポートしてきた。本シリーズの最終回は、取引する図書館の目や耳となって出版社と書籍の仕入交渉をするTRC本社仕入部を直撃。仕入部長を務める田辺明彦氏に話を聞いた。 ■近刊情報を仕入れて発売前に商品を確保 東京・文京区の東京メトロ丸ノ内線の茗荷谷駅前にある図書館流通センター(TRC)本社ビルの4階に仕入部はある。所属する社員は16人。取引する取次は
■東京で大雪、などというと雪国の方は鼻で嗤うだろうが、先月の雪で都心の積雪は6㎝だった。その6㎝が通勤を直撃し、交通機関には大幅な乱れが生じた。大幅な乱れと一言でいえばそれまでだが、会社に着くのに普段の三倍の時間を要し、着いてからもすっかり疲弊して、車内の阿鼻叫喚や鉄道会社への呪詛を誰でもいい、話したくて仕方なかった。そうして不条理な疲労と折りあいをつけようとした。 絲山秋子『薄情』は大雪の場面から幕を開ける。二〇一四年、群馬や山梨で観測史上例を見ない積雪といわれた「あの大雪」である。 物語の中心人物である「宇田川静生」は群馬の実家に暮らす青年だ。無職だがいずれは伯父の神社を継ぐことになっている。定まらない日々のなかで後輩の「蜂須賀」や、「変人工房の鹿谷さん」らと、ゆらりゆらり繋がっていく。 「自分の内側になにかが足りない気は、ずっとしていた」。宇田川は冒頭で語る。「なにが」「いつから」足
■年間7万6000点もの書籍が発行される昨今、多くの図書館には毎週平均約1400点の書籍が掲載された選書カタログ「週刊新刊全点案内」が届けられている。この膨大な数の新刊の中から図書館で司書が選ぶ書籍は、どのような経路を経て、普段目にする“図書”に装備されて図書館に入荷するのか。それを探るために、図書館流通センター(TRC)の取引先・公共図書館に納品される書籍の8割を装備・出荷しているTRCの物流拠点・新座ブックナリーを訪問した。大量に納品される図書の入荷・検品、在庫から図書館用図書として装備・出荷されるまでの一連の流れを、TRCの物流管理部を管掌する関口弘氏と松本百充部長に解説してもらった。 ■在庫と装備を一体化 まずはTRCがどのような体制で図書館向けの書籍を在庫しているのか、倉庫の概要をみてみたい。JR武蔵野線新座駅(埼玉県新座市)から約1キロ離れた場所に、TRCの物流の心臓部にあたる
「多数決の読書」から「個」のための読書を取り戻す――出版社、図書館、書店、読者で出版不況の根底を考えるべき ■江戸川区立西葛西図書館(東京)は11月1日、河出書房新社の小野寺優社長を招き、「出版社と図書館をつなぐ」シリーズの第3回講演会を同館3階会議室で開催した。同シリーズは図書館と出版社との相互理解を促進するために海老名市立中央図書館(神奈川)が昨年に実施した講演会を引き継いだもの。小野寺社長は出版不況の根底には「多様な本に触れる機会の減少」と「本の情報が不特定多数の読者に届かない」という2つの原因があると指摘。出版社と図書館だけでなく、書店や読者も交えた4者で「これらの問題を考えていかないと図書館と出版社を巡る議論は解決しない」と訴えた。 講演要旨は次の通り。 ■ロングセラー壊滅 新刊本は二極化 本の多様性失われる 出版業界は非常に厳しい。1996年の2兆6564億円をピークに出版市場
■佐賀県の武雄市立図書館に続いて、海老名市立図書館(神奈川)でも選書問題が取り沙汰された〝TSUTAYA図書館〟。愛知県小牧市では、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と図書館流通センター(TRC)の共同企業体による新図書館建設構想を白紙撤回する事態にまで発展した。さらに、海老名市立図書館の運営をめぐって、共同企業体として協業するTRCがCCCに関係解消を申し入れる騒動も起こった(結局、両社は共同運営を継続)。この一連のTSUTAYA図書館問題の根本にあるのは、図書館のあり方であり、方針に基づく選書や蔵書の問題である。また、選書や蔵書をめぐっては、出版界と図書館のシンポジウムにおいても「図書館は文庫やベストセラーではなく、個人では購入できない高額な本を蔵書してほしい」などの意見が挙がることも多い。ここでは、『図書館の現場9 図書館を計画する』(勁草書房)の著者で逗子市立図書館の小川
■2014年、改正学校図書館法案が国会で成立し、「学校司書」の立場が法律で位置づけられた。新設された第六条では、努力義務ながらも、学校には学校図書館の職務に従事する職員「学校司書」の設置、さらに国と地方公共団体には学校司書の資質の向上を図るための研修などの措置を講じるよう求めている。今年4月1日からは同法施行を受け、設置していなかった小中学校が学校司書導入の検討を始めるところが出てきた。また公共図書館から学校に司書を派遣する「学校支援」に取り組む自治体も増えている。東京都の文京区もそのひとつ。今年4月から区立の小中学校30校に対して、公共図書館から週4日、4時間、図書館司書の派遣を行うことになった。公共図書館5館(小石川・本駒込・目白台・湯島・大塚公園みどりの図書室)を指定管理者として運営している図書館流通センター(以下TRC)が15校、本郷・水道端・千石・根津図書室を運営しているヴィアッ
低コスト・高サービスという矛盾する運営課題が最も先鋭化する指定管理業務の現場――町おこしの中核か? 資料提供のみか?~図書館の相反する2つの見通し ■指定管理者制度、地方自治体の財政難、多機能化・多様化するサービス、出版業界との関係など、公立図書館を取り巻く環境が変化している。ここでは、図書館員として、公務員と民間の両方の立場を経験している苫小牧市立中央図書館(北海道)の菅野耕一館長に、指定管理者制度と地方自治体の課題・問題を中心に話を聞いた。 ■民間企業への移籍 夕張の破たん契機 ――菅野館長のこれまでの経歴は。 「旭川中央図書館(北海道)でパート、嘱託職員として勤務した後、北海道日高管内・新冠町に正職員として採用された。そこで6年間キャリアを積んだ後、2008年、35歳の時にTRCに移籍し、市立釧路図書館の館長として配属された。14年4月からは苫小牧市立中央図書館長として働いている。私
失敗を恐れず、失敗から学べ。どんなかたちでも夢は叶う――子育てをしながら3つの資格を取得し、館長に就任 ■幼少の頃から本好きで小学生のときに司書の存在を知り、それ以来、図書館員を夢見てきた佐藤由佳理さんは、2013年4月、福島・喜多方市立図書館の館長に就任した。仙台の専門学校卒業後は民間企業に就職し、その後に結婚。4人の子どもの子育てに追われていた最中、ふたたび司書の夢が頭をもたげてきた。育児の傍ら、図書館流通センター(TRC)での短期アルバイトをきっかけに、図書館周辺の仕事に従事。通信制大学に入学し、大学卒業と同時に司書、学芸員、社会教育主事の資格を取得した。資格取得の念願がかなった佐藤館長は子育てと主婦の経験を活かして、「地域に密着し、問題解決できる敷居の低い図書館」を目指している。佐藤館長に話を聞いた。 ■郷土文化把握し広く情報発信を ――100年以上の歴史がある喜多方市立図書館(1
図書館は制度によらない、人がつくるもの――指定管理者制度めぐり反対運動。「図書館思う気持ちは一緒」と対話続ける ■2003年に地方自治法の改正によって導入された指定管理者制度。公共施設の管理・運営を民間企業に任せることで、自治体の財政負担を軽減させて、サービスの向上を図るというのが狙いだ。図書館は、この指定管理と業務委託という形式で民間企業による運営が許されている。指定管理者制度がはじまって10年を経たが、図書館で働く職員やボランティア活動に従事する地元住民などが反対運動を起こす事例も少なくない。ここでは、自治体直営から指定管理などに運営が切り替わる際の立ち上げを各地で経験してきた兵庫県・三田市立図書館の前川千陽館長に指定管理者制度の導入にまつわる話を聞いた。 ■公開説明会を開く 「一緒に進めたい」 ――三田市立図書館は前市長の肝煎りで、2014年4月に直営から指定管理者であるTRC三田に
■1994年1月、埼玉県の宮代町に町民待望の宮代町立図書館が、東武動物公園の近隣に開館した。当時は町村レベルで東日本一の規模を誇り、地域住民のコミュニケーションの場として活用されてきた。しかし、景気低迷などで宮代町の財政運営が厳しさを迫られる一方、利用者ニーズはますます多様化していった。これらの課題を解決するために、宮代町は指定管理者制度を導入、2011年4月から図書館流通センター(TRC)が同館を運営している。元日本航空社員という異色の館長である山本茂樹氏(65歳)は、「この図書館の特徴は、町がしっかりとしたビジョンを持ち、図書館への住民参加という意識が定着していること」と話す。同館運営5年目に入り、13年度は町民1人当たり貸出冊数が埼玉県の市町村で2位を記録。利用者数や行事の参加者数も増え続ける同館を取材した。 ■図書館ビジョン 自治体が策定 ――指定管理導入前の10年度と比べて、20
■『断片的なものの社会学』(以後、『断片』と略す)は、分析も解釈もできない、ありきたりな、たわいもないような事柄について語られ続ける本だ。全裸のおじさんとの出会い、女性の背後をつける若者など、人々の小さなエピソードが魅惑的に語られていく(街を生きる「普通の人々」へのインタビュー集となる前著『街の人生』と相補的な著作といえる)。『断片』を読む人は、エッセイとも、ノンフィクションともいえないような独特の趣に魅せられることだろう。評者は、『断片』に魅せられた人々が語らされてしまう感想や評に、強く頷き、相槌を打ち続ける。しかし、一言そっと、付け加えてしまいたくなる。「この書は魅力的なエッセイでありながらも、何より全く、社会学の本だ」と。 社会学といえば、次のようなイメージを持つ人もいるだろう。「日常性を問い直す」「自明性を疑う」等々。一見して、魅惑的に思える。そして実際、社会学はそのようなイメージ
■一部の文芸出版社や文芸作家は、図書館の本の貸出数の増加が出版社と著者の利益を侵害している、と図書館を批判する。また、図書館と取引のない書店なども本を無料で貸し出す図書館を敵視する。その一方で、ある書店員は図書館と書店の役割は違うので共存は可能と訴える。さらに児童書や専門書出版社は、もはや図書館抜きの出版活動は考えられないとも公言する。出版界の中でも様々な意見が飛び交うが、図書館問題の本質とは何なのか。シュリンクする出版市場の中で、出版社や書店は、図書館とともに共存共栄を模索していくべきではないのか。ここでは、多くの図書館に書籍を納品し、指定管理業者としてもシェアナンバーワンの図書館流通センター(TRC)の谷一文子代表取締役会長に、出版界と図書館の課題を整理してもらい、両者の連携策などを提言してもらった。(聞き手=諸山誠) ――今年1月以降、一部の出版社が、図書館の貸出数の増加が出版社と著
生徒が本に目を輝かせる、そんな読書環境をつくっていかないと――学校図書館への司書委託、積極的な障害者雇用を率先して実践 ■栃木県南東部に位置する真岡市は総人口約8万人の地方都市である。その市民の知の拠点となる真岡市立図書館は市民会館や市民公園、総合体育館など公共施設が集中する一角にある。現在の建物になって、すでに30年以上が経過。当時はモダンであったろう外観からは威厳が漂ってくる。この館の主人である新井一郎館長は「受動型から能動型図書館に変えていく」を合言葉に、学校図書館への司書委託や公共図書館での障害者雇用など同県内でも珍しい取り組みを率先して実践している。新井館長に6年にわたる取り組みを聞いた。 ■館長室は不要 大胆に配置変え ――新井館長は2008年後半に、半導体製造装置の製造・販売会社を55歳で早期退職し、館長候補として図書館流通センター(TRC)に入社。09年4月から指定管理を受
子どもたちに飛行機を見せたいんですよ――調べる学習コンクールを起爆剤に、来てもらえる図書館づくりに奔走。アイデアマンとして数々のイベントで成果を挙げてきた ■大手小売業に長年在籍し、第2の人生として図書館員の道を選んだ、鴻巣市立鴻巣中央図書館の小野寺勝郎館長(62歳)。図書館員歴は6年半だが、小売業での33年間の経験を活かした自治体との折衝に加え、アイデアマンとしても多数の図書館イベントを企画し、成果を挙げてきた。鴻巣市長の快諾のもとネスレと提携して、同図書館がコーヒーを有料提供するサービスも話題となった。貸出し一辺倒の図書館から脱却し、「どなたにも、来てもらって、使える図書館」を目指す小野寺館長に話を聞いた。 ■外に発信を意識 待ちの姿勢ではダメ ――大手小売業を55歳で退職して、2008年秋に図書館流通センター(TRC)に入社。09年4月から東京・新宿区立中町図書館の館長として5年間勤
想像し、創造できる場としての図書館を目指して――出版社や書店に図書館で本を販売してもらうというのはどうだろうか? ■ここ数年、出版界と図書館との協業・コラボレーションをテーマにするシンポジウムやセミナーが増えてきた。一方で、今も一部の出版社から図書館に対して、「発売6カ月後から貸し出してほしい」などと訴える声が上がっている。児童書や専門書などの出版社にとっては、すでに図書館は〝お客様〟という認識だが、それ以外の出版社にとって、その距離はまだ遠い。そこで、今回、名物の図書館長やライブラリアンを紹介する隔週連載「図書館に会いにゆく――出版界をつなぐ人々」をスタートする。第1弾は、このほど青弓社から初の単著『29歳で図書館長になって』を上梓した東京の江戸川区立篠崎図書館と篠崎子ども図書館の吉井潤館長に図書館の運営方針や出版界との協業などについて話を聞いた。 ■土地柄を意識して自治体情報の収集を
「区別」という名の「差別」――遠藤正敬著『戸籍と国籍の近現代史――民族・血統・日本人』(明石書店、2013年)に見る、「戸籍制度」の持つ矛盾 ■イスラム過激派「ISIS(Islamic State of Iraq and Syria)」による「日本人」の「人質殺害事件」が起こった。この事件をめぐっては多くのことが語られているが、私には特に次の事柄が印象に残っている。それは「人質」となった男性と、その母親の名字が異なるという点を取り上げ、彼ら/彼女らを異常者=「日本人ではない」と語る言葉の数々であった。 「戸籍」に「異常」(らしきもの)を感じさせる者たちは「日本人」ではなく、それゆえ救うに値しない存在として貶められている。「姓」が違うから彼ら/彼女らは「在日」なのではないかということをつぶやく元航空幕僚長や彼への追随者を思い起こしてみれば、いかに「日本人」というものが「戸籍」と強固に結びつけ
ここまでして本屋を続けるのは未来をつくる「子どもたち」のため ~超有名店がなぜ閉店危機に追い込まれたのか~ 二次卸、教科書、自社ビル~絶頂期の昭和時代 ■「なぜだ!? 売れない文庫フェア」や「本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読めフェア」などで話題を集めた、札幌市西区琴似の書店・くすみ書房。同店は2009年の札幌市厚別区大谷地への移転後、13年に閉店の危機を迎えた。今年に入ってようやくその危機から脱したものの、経営環境はいまだ厳しいという。超有名店・くすみ書房を経営難に陥れたのは何だったのか。さらに危機的状況をどのように脱し、今後をどう考えているのか、くすみ書房の生い立ちから今後までを2回に分けてレポートする。 くすみ書房(社名は久住書房)は1946(昭和21)年、現在社長を務める久住邦晴氏の実父が札幌市西区琴似で創業した書店である。当初は地元の琴似小学校に紙を納品するのが主な仕事で
■リレー・エッセイ「ヘイトスピーチ・レイシズムを考える」を始めるにあたって このリレー・エッセイは、昨年来注目されているマイノリティへの差別表現「ヘイトスピーチ」と、その背景にある差別問題を考えるための手がかりを皆で出しあうことを目的にしている。特に、この問題についてなんらかの関心はあるが、どこから手をつけていいか分からない方に、3分で読める役に立つ「知識」「考え方」を、知的に面白い読み物として提供することが企画者である私の狙いである。 というのも、「ヘイトスピーチ」は昨年流行語になり、良質な「新書」や「専門書」も幾つか出されるようになってきているものの、それを手に取る人はまだまだ少ないと思われるからである。「差別」という問題に関わるのは敷居が高い、そんな逡巡を覚える人は多いはずであるが、そんな読者とともに第一歩を歩み出すための場を作りたいというのが昨年来の私の考えであった。 もちろん、基
100分の90も支えるのが図書館の存在――出版界もプラスの役割を理解し、再生産の循環の一員という認識の共有を ■「出版(業)の今、変わるものと変わらないもの」 ベストセラーの複本問題を契機に、一部の出版社から無料貨本屋と揶揄されている図書館。しかし、それは出版社も図書館も互いを理解していないからこそ生じる誤解なのではないか――。図書館流通センターの谷一文子代表取締役会長は「出版社と図書館をつなぐシリーズ」と題した講演会を、自身が館長を務める神奈川・海老名市立中央図書館でスタートさせた。毎回、出版社の社長を招き、図書館関係者に出版界について理解を深めてもらうのが狙いだ。第1回のゲストに招かれた、みすず書房の持谷寿夫社長は「出版(業)の今、変わるものと変わらないもの」と題して、出版社を取り巻く環境変化のなか、経営者としてどのような考えで舵を取っているかなどを語った。ここでは主な要旨を掲載する。
第3部 棚への執着と書店経営 4月25日に店舗を閉めた、時代小説のパルナ書房。その約2週間前に敦史氏に閉店を決意した理由を聞いた。「棚づくりをして、POPも色々工夫して書いた。出版社等の業界人からは『良い売り場』と評価もされた。偉そうな言い方だが、時代小説に関しては、他の書店の社長に頼まれて売り場をテコ入れしたり、出版社に売り方を指南するまでにもなった。そこまでやっても駄目なのか。それ以外、一体何をやったらいいのか」。いきなり、留めようのない疑問や困惑といった感情が溢れ出した。 続けざま、「パルナ書房の最大のポイントは街の本屋でありながら、新刊・ベストセラーがきちんと揃っていたことだ。版元に棚づくりをアピールして、個人的に信頼関係を築いて、新刊発売前に注文書を送ってもらえるようになった。配本ランクを上げてほしいと言っても『実績で』と返す出版社も中にはある。実績ではどうにもならないから、PO
▼京都のJR丹波口駅前の書店・パルナ書房が4月25日に閉店した。出版業界では「時代小説のパルナ書房」として名が通った同店がなぜ閉店することになったのか。代表取締役の久野敦史氏は、日本のマクロ的な社会状況の変化やインターネットの普及、近代家族という問題が相まって閉店という「決断」を余儀なくされたと言う。その話を聞く一方で、書店が抱える永遠のテーマ「棚と経営」という問題も改めて浮き彫りになった。ここではパルナ書房の生い立ちから閉店までの経緯を辿りながら、「棚と経営」について考えてみたい。 ◆第2部 時代小説のパルナ書房 ハードカバーの単行本をすべて返品してコミック売り場に――という改装計画がきっかけで、2006年から提案型書店の道に踏み出したパルナ書房は、書籍売り場全体で「娯楽としての歴史コーナー」を展開し始めた。 「20坪という小さなスペースを逆手にとって、これまで別々の分野で陳列されていた
▼京都のJR丹波口駅前の書店・パルナ書房が4月25日に閉店した。出版業界では「時代小説のパルナ書房」として名が通った同店がなぜ閉店することになったのか。代表取締役の久野敦史氏は、日本のマクロ的な社会状況の変化やインターネットの普及、近代家族という問題が相まって閉店という「決断」を余儀なくされたと言う。その話を聞く一方で、書店が抱える永遠のテーマ「棚と経営」という問題も改めて浮き彫りになった。ここではパルナ書房の生い立ちから閉店までの経緯を辿りながら、「棚と経営」について考えてみたい。 ◆第1部 パルナ書房の歴史 パルナ書房は、1945年の終戦直後に久野敦史氏の祖父が創業した新刊書店。敦史氏は1996年、父の他界後に3代目として事業を継いだ。「どうして祖父が本屋を始めたかは聞いていない。当時の記録がないので、祖父の代のことは分からないことが多いが、京都・西院の六角にあった長屋の一角で本屋をや
本が人を呼ぶ、とはしばしば耳にする表現だが、ほぼ迷信だと思う。 ぼくにも、書店から出てきた時には、入った時には思いもしなかった本を買っていた経験は幾度もあって、それを「呼ばれた」と言ってみたくもある。けれどもぼくがそのときその書店の中で、もっとも切実な呼び声を逃さず聞き届け、その書店にある未知なる本のうちで自分にとってもっとも大切な一冊を選んだかと言えば、それはたぶんちがう。 書店員は日々、数百点のはじめて出会う本に触れ選別し棚に蒔いてゆく。新刊既刊を問わず、はっとした本は手にとって眺め、琴線に触れた本は記憶に残し、その中から選び抜いた本を読み、商品知識を増やしていく。問い合わせを受けた時、すかさずタイトルと作者を暗誦まではできなくとも、ちょっと検索しさえすれば特定できる、おぼろげながらご案内には充分な知識を含めれば、数十万冊程度の商品知識を持った書店員はざらにいるはずだ。 売れてもいない
第22回 水戸喜世子氏(元救援連絡センター事務局長)に聞く 聞き手=小嵐九八郎(作家・歌人) ▼ゴクイリイミオオイ(獄入り意味多い)の電話番号で広く知られる救援連絡センター。その初代事務局長を務めた水戸喜世子さんに作家・歌人の小嵐九八郎氏がインタビューした。1960年代・1970年代は、学生と労働者、市民による激しいデモと警察権力の弾圧、全国に広がった救援戦線を抜きに語ることはできない。救援運動のさまざまな体験と苦労話、その教訓を語っていただいた。(編集部) ◆幼子3人を連れてベトナム反戦の座り込み 小嵐 今日は、インタビューを受けて下さり、心から感謝します。一九六七年一〇・八羽田闘争を闘った私たちにとっては、一九八六年一二月に北アルプス剣岳で、御子息二人と共に遭難し、亡くなられた御夫君・水戸巖氏(註 文末に略歴掲載)の必死にして切実な生き方がどうしても忘れられません。闘って逮捕された学生
二〇一一年に第一歌集『たんぽるぽる』(短歌研究社)を上梓し、歌壇にとどまらず、広く読書界の話題をさらった雪舟えまが短篇小説集を出版した。『タラチネ・ドリーム・マイン』(PARCO出版)と題されたその本の発売を待ちわびて、ほんとに遠足まえの子どものような気もちで手に取ったのだった。 さっそくもくじをめくると、 1「モンツンラとクロージョライ」 2「越と軽」 3「ワンダーピロー」 4「さおるとゆはり」 5「モズ・ラファ」 6「電」 7「草野ずん子」 8「瞬」 9「明大前ゆみこ」 10「水晶子」 11「ことざくら」 12「タタンバーイとララクメ」 という一二の短篇小説のタイトル(丸数字は評者)が目に飛びこんでくるのだが、いったいどんな小説なのか、これではまるで見当もつかない。 じつはこの一二篇すべてのタイトルに共通点があるのだけれど、はてさて、なんだかおわかりだろうか? 正解は、すべて登場人物の
フクシマの廃墟は、放射性物質を吐き出しつづけている。深刻な被曝は東北や関東一帯におよぶだろう。広島、長崎、スリーマイルやチェルノブイリとは比較にならないほど巨大な都市圏が核の災害にさらされている。 この「例外状態」の常態化のなかで、原子力政策がせまっているのは諸権利の放棄である。その領域はおおむね二つに分類できる。(1)生産領域の権利(土地、生産設備、住宅等の財産権、入会権、顧客、事業取引と雇用関係など)。(2)再生産領域の権利(健康、出産・育児、教育、遊びなど)。財産にかかわる前者を放棄すれば(退避すれば)健康な生活がかろうじて残されるだろうし、生命にかかわる後者を放棄すれば(退避しなければ)当面の収入や財産は維持できるだろう。 低線量の被曝について、政府は「ただちに健康に影響を及ぼすものではない」とくりかえしているが、これは判断を住民にゆだねたものと解することができる。つまり従来の「生
福島県中通りでは、子どもの身を案じる親たちが政府・自治体と対峙している。脱原発運動の一部には、闘う姿を英雄視する者もいるだろう。だが、いま必要なのは「英雄」のスペクタクルを演じることではなく、他人に何をいわれようと、子どもを逃がすことである。福島からの避難を受け容れる態勢はすでに各地にできている。親が動けないというならば、すくなくとも子どもだけでもよそにやるべきである。 矢部自身の「東京砂場プロジェクト」(首都圏の砂場の放射線量の全数調査)からも、関東はすでに低線量被曝地帯であることがわかる。首都圏の巨大な人口こそ、もっとも多くの被曝者を生み出すだろう。しかもその実態は政府に認定されることなく、被曝被害の裾野をつくるだろう。 だから、逃げられるひとはさっさと逃げてほしい。政府や自治体のグズのために犠牲をはらう必要はない。住民運動なんて面倒くさいことに費やすエネルギーがあるなら脱出してほしい
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