1 カール・ポパーの生い立ちと哲学 伊勢田哲治 1 生い立ち カール・ライムント・ポパー (Karl Raimund Popper, 1902-1994) は 1902 年にオーストリアのウィ ーンで生まれた。両親はプロテスタントに改宗したユダヤ人だった。ポパーの自伝によれば、彼の将 来の思想の萌芽は十代のころにすでにあった。17 歳から 18 歳のころ(1919 年ごろ) 、ポパーは第一次 世界大戦後のオーストリアで流行していたマルクス主義の運動団体に加わったが、その活動中、警官 隊との衝突で何人かの活動家が殺されたことがマルクス主義そのものをポパーが見直すきっかけとな った。また、アドラーの診療所でアルバイトをするなどして、フロイトの精神分析学やアドラーの個 性心理学理論に触れたのもこのころのことであった。さらに、エディントンの調査隊がアインシュタ インの一般相対性理論の予測を確認した