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大そうじへの備え
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1979年12月、ソ連は国境に集結させた部隊をアフガニスタンの領域に侵攻させ、アメリカを含めた西側諸国を驚かせました。この時のアフガニスタンで革命評議会議長として権力を掌握していたのはハフィーズッラー・アミーンでしたが、彼は12月27日に大統領宮殿でソ連の国家保安委員会が送り込んだ特殊工作員によって暗殺されました。アメリカは、このソ連の軍事行動に対して反発し、安定の方向に向かっていた米ソ関係は1979年以降に新冷戦と呼ばれるほど悪化の一途を辿ることになりましました。 冷戦終結後、ソ連がアフガニスタンに侵攻するに至った理由を探るために、さまざまな調査が行われています。その研究は今でも続いていますが、ソ連の首脳部、具体的にはソ連共産党政治局でアフガニスタンに侵攻するという選択肢はもともと避けるべきだという見解が支配的だったことが分かっています。しかし、1979年の間に相次いで発生した政変で政治
19世紀から20世紀の初頭まで続いたイギリスの覇権国としての地位は、一般的に海上戦力を中心とするシーパワーで維持されていたと考えられています。しかし、この海上戦力を地球規模で運用する上でイギリス人が情報の重要性をいち早く認識し、電気通信の研究開発を推進していたことにも注意が向けられなければなりません。電信は国際通信の分野で特に重要なテクノロジーであり、海底ケーブルがその通信路の構成に大きく貢献しました。 19世紀の後半に海底ケーブルの重要性が増すにつれて、その保護が国際政治の問題となりました。1884年では国際的ルールの整備が模索されており、海底電信ケーブル保護協定(Convention for the Protection of Submarine Telegraph Cables)が署名されています。この協定の表向きの目的は海底ケーブルを国際的に保護することでしたが、フランスやドイツは
アメリカとソ連の冷戦構造によって東西に分断されたドイツは、両陣営が活発に情報活動を遂行した地域の一つです。近年、東ドイツの情報機関であり、対外工作も行っていた国家保安省(Ministerium für Staatssicherheit)、通称シュタージの史料が開示され、東ドイツが西ドイツの平和運動の組織化を支援していたことが分かってきました。トマス・リッドは、『アクティブ・メジャーズ(Active Measures)』でこの長期にわたるシュタージの対外工作について記述しています。 シュタージでは、西側の平和運動を支援する工作をフリーデンス・カンプ、つまり「平和戦争」と呼んでいました(邦訳、p. 273)。東ドイツ単独で実施していたわけではありません。これはソ連のKGBの指導の下で東ドイツとブルガリアが連携して実施した積極工作であり、ソ連の暗号ではマルス(MARS)と呼ばれていました(pp.
ベトナム戦争に深く関与したことは、アメリカ陸軍にとって大きな損失をもたらしました。多数の犠牲を出しただけでなく、士気の低下、規律の軟化、団結の弱化が発生し、その戦闘効率が低下したのです。 戦争の長期化によって国民から理解を得ることは難しくなっていき、徴兵制が廃止され、志願制に切り替わりました。それまでアメリカ陸軍を支えていた広範な人事的基盤が失われたため、新規採用の基準を引き下げたにもかかわらず、多数の部隊では欠員が慢性化しました。その間にも軍事技術は進歩していったため、アメリカ陸軍は新たな技術環境に適応するように、さまざまな改革を行っています。ここでは、その経緯について簡単に紹介したいと思います。 1970年代のアメリカ陸軍の営内生活は悲惨でした。人種間の暴力、薬物の問題、営内の風紀の悪さなどが深刻な問題になっていましたが、最も深刻なのは凶悪犯罪の増加でした。ベトナム戦争では戦場で部隊指
東洋的専制政治(oriental despotism)とは、ヨーロッパの政治学史で古くから使われてきた政治体制の類型であり、被支配者の恐怖心、暗黙の同意、そして奴隷的な無権利状態に依拠する「東洋的」な政治体制を指して使われます。この類型を使って地理が国家形成に与える影響を論じた研究として、カール・ウィットフォーゲルの主著『オリエンタル・デスポティズム(Oriental despotism)』(1957;邦訳1995)があり、これは大規模な農地を開発するため、農業用水の行政管理が行われた中国で、強大な権力に基づき、人々の行動を統制する「東洋的」な専制政治が成立したことが説明されています。 人間が生存を図る上で必要とする資源は、すべて自然環境の中で獲得されなければなりません。私たちが日々、利用する食料、衣服、道具も自然の中で獲得された穀物、繊維、鉱物から技術を用いて生産したものです。個人の力で
支配者はイデオロギーでいかに人々の意識を操作するのか、マルクス・エンゲルス『ドイツ・イデオロギー』の書評 19世紀の革命家カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルス(以下、マルクス・エンゲルス)の共著『ドイツ・イデオロギー』は未完に終わったこともあって難解な著作です。 しかし、『ドイツ・イデオロギー』は、イデオロギーを初めて政治学の概念として位置づけ、これを分析する視座を準備した文献であるため、素通りするわけにもいきません。マルクス・エンゲルスがこの著作で論じた支配の道具としてのイデオロギーの機能は、政治に対する理解を深める上で非常に重要な意味があったことは事実です。 この記事では、マルクス・エンゲルスの共産主義には特に触れていません。彼らのイデオロギー分析に焦点を絞って説明してみたいと思います。 そもそもイデオロギーとは何かもともとイデオロギーはフランスの哲学者アントワーヌ・デストゥット
ジャック・レヴィ(Jack S. Levy)とウィリアム・トンプソン(William R. Thompson)は戦争の研究で数多くの業績があるアメリカの政治学者であり、2010年に『戦争の原因(Causes of War)』という著作を出版しています。これは戦争の原因を説明するために構築されてきた理論を系統的に整理し、紹介したもので、これまでの研究成果を概観するときに役に立ちます。 Levy, J. S. & W. R. Thompson. (2010). Causes of War. Wiley-Blackwell. 1 戦争学の序論 2 システム・レベルの理論 3 二国間の相互作用 4 国家と社会のレベル 5 意思決定:個人レベル 6 意思決定:組織レベル 7 内戦 8 結論:分析レベル、原因、戦争戦争は「広義には政治的組織の間の持続的か組織的な暴力」として定義されますが(p. 5)、
なぜ国家は他国からの脅威を適切に認識できなくなるのか?:Perception and Misperception in International Politics (1976)の紹介 世界では日々、さまざまな出来事が起きており、そのすべてを知り尽くすことはできません。国際政治で対外政策を選択する指導者は、目の前の問題を解決するためにさまざまな情報を利用しようとしますが、情報が十分に利用できることは少なく、また情報が十分に利用できるとしても、指導者が何らかの理由でひどく誤解することもあり得ます。 これは対外政策の選択に重大な影響を及ぼす恐れがある重要な要因であり、アメリカの政治学者ロバート・ジャーヴィスの著作『国際政治における認知と誤認(Perception and Misperception in International Politics)』(1976)で詳しく分析されています。この
結論から述べると、あらゆる軍拡競争が大規模戦争のリスクを高めるわけではありません。軍拡競争はある特定の状況下において国際的な紛争をエスカレートさせるのであって、それ自体が戦争の原因であるかのように見なすことは誤りです。軍拡競争がどれほど戦争のリスクを高めるのかに関しては諸説ありますが、1980年代の論争を通じて一定の結論が得られています。この記事ではその論争の展開を概観し、軍拡競争と戦争のエスカレーションとの関係をどのように理解すればよいのかを解説してみたいと思います。 論争の発端となったのはWallaceが1979年に出した「軍拡競争とエスカレーション(Arms races and escalation)」と題する論文でした。Wallaceは1833年から1965年までに発生した99件の大国間の紛争に関するデータを使って、軍拡競争が激しい場合には大国間の紛争が戦争に拡大する確率が82%で
イギリスの研究者ルイス・フライ・リチャードソンは軍拡競争という国際政治の問題を理解する上で数理モデルから有益な示唆を引き出せることを示した研究者です。代替的なモデルも数多く考案されているのですが、この記事ではリチャードソン自身が提唱した古典的モデルを一から解説し、それを使った分析の例をいくつか示してみたいと思います。 モデルの基本的な特徴リチャードソンの軍拡競争モデルは、国家主体だけで構成された世界を想定し、それぞれが軍備を保有していると想定します。この記事では説明のために、青国と赤国の2か国だけが存在している状況を想定しますが、3か国以上の国家主体の相互作用を分析することも可能です。青国と赤国は自国の軍備の水準を決定しますが、その際に相手の軍備の水準に関する正確な情報を踏まえていると考えます。このような場合、二国間の相互作用は次の2本の微分方程式によって模式的に表現できるとリチャードソン
政治家の収入源を知ることが、政治史の理解を深めることを示した『合衆国憲法の経済的解釈』(1913)の紹介 一見すると政治の世界で起きている対立は価値観や主義主張をめぐる対立のようですが、その背後にあるのは人々の生活であり、特に経済的な利害が関係していることが少なくありません。 19世紀末から20世紀初頭にコロンビア大学で活躍したチャールズ・ビアード(1874~1948)教授は、アメリカ史を専門領域とする政治学者であり、それぞれの政治家が自身の経済的な利害に基づいて政治行動を選択していたことを実証的に検討したことで知られています。 ビアードは『合衆国憲法の経済的解釈(An Economic Interpretation of the Constitution of the United States)』(1913)では、アメリカの建国に携わった憲法制定者たちが、それぞれの保有資産によって政治
軍事史では、平時に高い地位についた軍人が、戦時にひどい失敗を重ねた事例が数多く記されています。このような軍人は一軍の司令官として大きな権限を持っているにもかかわらず、戦地で発生した問題を適切に解決できず、何ら有効な手を打たないか、あるいは非現実的な対策を講じて事態を悪化させ、軍隊に損失を与えます。 このような事象が起こる要因に関しては、軍事社会学や軍事心理学の分野で議論されていますが、ひときわ大きな影響を及ぼした研究者の一人にノーマン・ディクソン(Norman Dixon)がいます。第二次世界大戦(1939~1945)に陸軍将校として従軍した経験を持つイギリスの心理学者であり、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの教授を務めました。彼の『軍事的無能の心理学』(1976)は出版された当時から多くの論争を引き起こした著作として知られています。 Dixon, Norman. 2016(1976)
政治制度の重要な機能の一つは、政権を維持したい勢力と、政権を奪取した勢力との間で生じる政治的対立の規模と頻度を制御することです。少なくとも社会の安定と経済の成長を考えるのであれば、暴力的な対立が起こり、多くの犠牲者が出るような事態は避けなければなりません。 権威主義国の政治制度の特徴は、体制派に圧倒的な優位を与え、反体制派の政治的活動を抑圧し、仮に現体制に挑戦しても世の中が変わることはないと思い込ませることで、政治的暴力を抑止していることです、しかし、民主主義国の政治制度は逆の発想で設計されています。選挙制度を通じて反体制派に挑戦のチャンスを与え、平和的に政権を獲得し、世の中を変えることができるのではないかと期待させることで、政治的暴力に参加することを思いとどまらせます。 ニューヨーク大学のアダム・プシェヴォスキ教授は、このような民主主義の政治制度が適切に機能し、政治的暴力を回避するために
自分が属する組織に未来がないことに気が付いたとき、そのメンバーが選択できる行動は2種類に大別することが可能です。一つ目は組織から逃げ出すこと、もう一つは組織に留まり、内部から声を上げて、変革を促すことです。政治学の研究領域で、この状況をモデル化し、分析した先駆者としてドイツの研究者アルバート・ハーシュマンが知られており、彼の『離脱・発言・忠誠:企業・組織・国家における衰退への反応(Exit, Voice, and Loyalty: Responses to Decline in Firms, Organizations, and States)』(1970)は古典的な価値がある業績です。 Hirschman, A. O. (1970). Exit, Voice, and Loyalty: Responses to Decline in Firms, Organizations, and S
陰謀論とは、社会的、政治的に重大な出来事の原因を強力な集団による陰謀として説明するものであり、客観的な検証が不可能なもの、あるいは検証された上で事実に反していることが判明したものを指します。2016年のアメリカ大統領選挙でロシアがアメリカの有権者の世論を誘導しようと試みたことから、陰謀論が外交的手段として利用される可能性に研究者の関心が集まっています。 ウクライナはロシアの偽情報や陰謀論にどの程度の影響力があるのかを考える上で興味深い事例です。特に東部のドンバスにおけるロシア系メディアの活動は活発であり、かなり多くの市民が陰謀論を信じるようになっていたとされてきました。地理学者のMichael Gentileと政治学者のMartin Kraghは2020年にドンバスの南部にあるマリウポリの市民を対象とした社会調査を実施し、その実態解明に貢献しています。 Michael Gentile, M
社会科学の研究者は、さまざまな研究領域で合理的な行為主体を想定することで、モデルを構築してきました。合理的な行為主体は、ある問題を解決するときに複数の選択肢が与えられた場合、最小の費用で最大の利益を得ることが期待できる選択肢をとる人物であることを意味します。 もう少し具体的に述べると、合理的な行為主体は、あらゆる意思決定の場面で、自分の選択肢をすべて列挙できるだけでなく、それぞれの選択肢から期待できる利得や損失を一貫した基準で評価できる認知能力を持ち、またそれらの情報を総合することで自分の利益を最大化できる選択肢を特定できる計算能力を発揮できる人物が想定されています。 これは人間の認知能力の限界を考慮すれば、あまり現実的ではないのですが、軍隊のように意思決定の最適化を図りたい組織は、合理的な意思決定をモデルとして位置づけており、その実行を推奨しています。 アメリカ軍が採用している軍事意思決
2022年2月24日、ロシア軍はウクライナで攻勢を発起しましたが、本稿を執筆している3月3日現在に至るまで首都キエフの占領には至っておらず、各正面でウクライナ軍の激しい抵抗を受けています。ウクライナ軍に対してロシア軍が今でも定量的、計数的に優勢であることは確かですが、それにもかかわらずロシア軍がこれほど苦戦している理由は何でしょうか。 この記事では、軍事の観点からこの問いに答えてみたいと思います。ロシア軍の能力を人事、情報、作戦、兵站という4つの側面から分析し、それぞれの側面から見えてくる軍事的弱点を説明します。また、今後のプーチン大統領がロシア軍の弱点に対処するため、どのような行動をとる可能性があるかを示し、これから起こり得る事態について予測します。 人事:作戦の開始直後から低下している士気部隊の戦闘力を維持し、また増進するために軍隊が重視すべき機能の一つが人事です。人事は幅広い業務から
世界の平和は人類の理想ですが、現実に戦争は起きており、近い将来になくなる見通しも立っていません。 もし自国の周辺で他国が武力に訴える兆候を示したならば、その意図と能力を正確に見積もり、将来に起こり得るあらゆる危険を予測し、最悪の事態を回避する手を打たなければなりません。国家が行政活動を通じて達成すべき最も基本的な目標は安全保障であり、軍事学はその達成を支援するために研究されてきた学問といえます。 現在、日本で軍事学の調査、教育、研究の主体になっているのは防衛省・自衛隊です。しかし、平時から国民全体に研究成果を広く知らせ、知識の向上に努めることも大事だと思います。このような観点から、軍事学がどのような学問なのかを一から解説する記事を作成することにしました。 あくまでも軍事学を知らない方が、その内容を大まかに見通せるようになることを目標としているので、あらゆる研究領域を網羅することはできません
軍隊で新兵訓練を受けた兵士は、まず教練に従って機械的に動く方法を身に着けます。この訓練を通じて兵士は個人ではなく部隊として行動する規律を習得するのですが、だからといって武装した敵を目の前にして冷静沈着でいられるわけではありません。 銃口を向けられた際に恐怖を感じ、戦友が次々と戦死する状況で混乱することは当たり前の反応です。だからこそ、敵と戦うためには、兵士一人ひとりが強い意志を持って臨むことが欠かせないのです。 研究者Anthony Kellettの著作『戦闘動機づけ:戦闘における兵士の行動(Combat Motivation: The Behavior of Soldiers in Battle)』(1982)は心理学の理論で兵士がいかに戦う意志を形成しているのかを分析した研究成果であり、戦場で部隊が士気を保つために必要な要因を考える上で有意義な知見です。 社会心理学では兵士の士気を動機
兵站(logistics)の目的は、軍隊が移動し、武装し、給養することを可能にすることにあります。政治的な目的を達成するために軍隊を運用する方法を指定する戦略(strategy)や、戦闘において個別の部隊をどのように展開、機動、運用すべきかを指定する戦術(tactics)に並ぶ第三の軍事学の中核的な研究領域であり、管理、補給、輸送、衛生、整備などの機能で成り立っています。 この記事では、兵站の基礎的な知識として兵站支援の3つの方式をまとめてみました。兵站学の研究課題がどのようなものか、なぜ軍事学においてそれが重要なのかを知りたい方のための内容です。 兵站支援の3つの方式軍隊は数万名、数十万名の兵士と、多種多様な武装を組み合わせた複雑な組織であり、それが戦地で整然と一つの計画に沿って行動できるようにするためには、さまざまな所要を満たさなければなりません。砂漠で戦うためには給水を考えなければな
現在、アメリカ政治の研究では分極化(polarization)という現象が注目されています。分極化とは国内の政治、社会が異なる党派によって分断され、妥協が困難になっている状態であり、政治の不安定化を引き起こす効果があります。 経済的な不平等など国内の社会的、経済的な要因が影響していることが指摘されていますが、国外に軍事的な脅威が存在しないことも分極化の重要な一因であるという見解も有力視されてきました。その見方によれば、ソ連崩壊後のアメリカは外部から脅威に晒されなくなったため、政策、法案、予算をめぐって超党派的な対話が難しくなったと説明されています。 以下に紹介する論文は、この見方に反論した最新の研究成果です。そこでは外部に脅威が存在するかどうかにかかわらず、アメリカの分極化は進んできたのであって、仮に脅威が新たに出現したとしても、アメリカの分極化が解消されるとは限らないと主張されています。
2013年、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領はロシアとの関係を重視する姿勢を打ち出し、欧州連合との友好協定を締結しない方針を決定したことで、大規模な抗議運動を引き起こしました。ヤヌコヴィッチ政権は警察、治安部隊で鎮圧を試みたものの、2014年2月22日にロシアに脱出しています。これ以降、ロシアは親ロシア派を通じてウクライナの政界に影響力を行使することが難しくなりました。 ロシアはウクライナの対外政策に対する影響力を回復するため、軍事的手段を行使することを決定しました。2014年2月から3月にクリミア半島へ軍事侵攻し、2014年2月から5月には東ウクライナで反政府組織の形成と活動を支援しています。この一連の行動でロシアは自らが望む政治的な成果を上げることができたのかは曖昧であり、研究者も検討すべき課題として位置づけています。 Kofman, M., Migacheva, K.,
ある授業でロシアとウクライナの関係を取り上げたついでに、戦役分析として行った結果を研究メモとして公開しておきます。ただ物騒な内容なので期間限定とします。あらかじめ申し上げておくと、資料的、分析的な価値がある分析ではありません。『ミリタリー・バランス』のいくつかのデータを使って予備的な分析を行ったにすぎません。 ただ、基本的なデータは一通りまとめているので、これから国際ニュースを追いかける方の参考になるかもしれません。より詳細な分析が必要となることがなければよいのですが、いずれアップデートした分析が必要になるかもしれません。 基礎的能力の比較ウクライナの2020年の国内総生産は1420億ドルで、総人口は43,922,939人、労働生産性を考慮した一人当たりの国内総生産に換算すると3,425ドルです。同時期のロシアの国内総生産は1兆4600億ドル、総人口は141,722,205人で一人当たりに
2014年にウクライナのクリミア半島と東部のドンバスでロシアが軍事行動を起こしたことで、ヨーロッパ各国では安全保障に対する懸念が大いに高まり、国防政策の見直しが進められました。アメリカとの同盟を強化することも、防衛体制の強化の一つとして重視されていました。 ところが、2017年にヨーロッパの防衛をアメリカが負担することに対して繰り返し不満を表明してきたドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任し、ヨーロッパではロシアの脅威に対応する上でアメリカに期待を寄せることに政治的リスクがあることを認識するようになり、どれほどヨーロッパ諸国が自主的な防衛努力に取り組むべきか議論が行われるようになりました。 さまざまな議論が出されましたが、アメリカの軍事力に頼らずにヨーロッパを防衛することは難しいのではないかという見方は根強く、イギリスのシンクタンクである国際戦略研究所が出した「ヨーロッパを防衛する:シナ
国際政治学の理論的研究では、合理的な行為主体がそれぞれの利益を最大化できる最適な戦略を選択するはずだと想定することが一般的になっていますが、戦争の歴史は、このような理論が通用する状況ばかりではなく、むしろ通用しない場合の方が多いことを示しています。 以下の論文の著者らもこの問題に取り組んでおり、戦争が差し迫った状況に置かれると、人々は合理的選択理論で予測できない判断を下すようになると指摘し、その理由を人間の心理的メカニズムで説明できると主張しています。 Johnson, D. D. P., & Tierney, D. (2011). The Rubicon Theory of War: How the Path to Conflict Reaches the Point of No Return. International Security, 36(1), 7–40. doi:10.11
政治学の研究者は戦争の原因を説明するためにに、いくつかの要因が作用していることを理論的に想定することが一般的です。国際システムの要因が作用していると想定する場合は、勢力均衡の安定性や国際レジームの有効性を調べ、国内の政治システムの要因が作用していると想定する場合は、政権の支持層の意向や民主的な権力分立の程度を調べます。 しかし、意思決定に関与した個人、つまり政治家の性格や属性を調査する研究者はこれまで多くありませんでした。Horowitz、Stam、Ellisはこの研究テーマに取り組み、計量的アプローチを駆使することで、どのような特性を有する政治家が戦争を始めやすいのかを解明しようとしています。 Horowitz M.C., Stam A.C., Ellis, C.M. 2015. Why Leaders Fight. Cambridge: Cambridge University Pre
ウィスコンシン大学の准教授ジェシカ・ウィークス(Jessica L. P. Weeks)は国内政治が対外政策に与える影響を分析してきた研究者です。2014年にコーネル大学出版会から出版した著作『戦争と平和における独裁者(Dictators at War and Peace)』は独裁的な政治システムを持つ権威主義国がどのように武力行使を決定するかを説明するモデルを提示し、計量的アプローチや事例分析で裏付けを行った研究です。 Jessica L. P. Weeks, Dictators at War and Peace. Ithaca, NY: Cornell University Press, 2014. 著者の理論によれば、権威主義国が武力行使を決意しやすいかどうかを判断するために注目すべきポイントは二つです。一つは政権を率いる指導者が行使できる権力の強さであり、もう一つは政権を構成するエ
脅迫とは相手に自分の要求を受け入れさせるために、武力を背景とした威嚇を行うことをいいます。現状維持を目的とした抑止とは異なり、現状打破を目的としており、しかも武力紛争になった場合のコストを負わずにすむという利点があります。 アメリカの政治学者スティーヴン・ウォルト(Stephen Walt)は脅迫を成功させるための条件を4つのポイントにまとめており、交渉で相手から譲歩を引き出す上で参考になります。 1 相手より弱くても脅迫はできるウォルトによれば、脅迫を成功させるために必要なことは、相手よりも軍事力で優位に立つことではありません。大事なことは、相手に何らかの恐怖を与えることであり、たとえ自分より相手が全般的に強かったとしても、相手が恐れていることを何か一つでも引き起こせるのであれば脅迫は可能です(Walt 2002: 152)。 例えば、北朝鮮はアメリカに比べて軍事的能力ではるかに劣ってい
国際政治学を学ぶための基礎として政治地理に関する基本知識を持っておくことは非常に重要なのですが、大学教育の現場でその意義はあまり認識されていないかもしれません。この記事では、国際政治学の研究で特に古典的な業績を残しているハンス・モーゲンソー、ロバート・ジャーヴィスの著作、論文を取り上げ、それぞれの議論で政治地理が国際政治に与える影響がどのように分析されているのかを紹介してみたいと思います。 国力の要素としての地理モーゲンソーは地理という要因が国家の勢力を構成する要素の一つであると考えていました。例えば、アメリカの領土がどれほどの広さを持っているのか(規模)、ヨーロッパの他の国家とどれほど隔てられているのか(立地)、どのような地勢であるのか(形態)などを幅広く考慮に入れるべきであると論じています。 世界最大の領土を持っているのは今ではロシアですが、モーゲンソーの時代にはソ連が最大の面積を誇る
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