私の通っていた大学はその昔、近所でお墨付きのお嬢様学校だった。平民の私が通えている事からお察しの通りだが、現在では普通の大学である。しかしそこに勤める先生は圧倒的にお嬢様育ちのそれはそれは上品な方が多かった。 その中でも私が特に大好きだった人が文学の教授、タドコロ先生だ。上品という言葉がそのまま人間になったような人で、会話では美しい日本語を巧みに操り、所作の一つひとつも実にエレガント。そしてたとえ500m離れた所に居ても「あ、タドコロ先生がいらっしゃる」と分かるくらいに素敵なお洋服をお召しになっていた。お洋服、お帽子、お鞄、お靴は全て同じ色味でコーディネートされ実に鮮やかで、どれもタドコロ先生のために作られたかのような個性的な逸品ばかりだった。 ある日私が先生のお召しになっているしなやかなレザーのヒールを見て「すてきな靴ですね」と声を掛けると、 「こちらの靴は、あたくしが20歳の頃に買った