玉ねぎは炒めないことにした。 今年の新刊でそう書いたら、一部の読者をざわつかせてしまったらしい。そりゃそうだ。これまで僕はスパイスカレーにおける“炒めるプロセス”の重要性について、延々と語ってきたのだから。 強火で焼きつけるように! は、どこへ行った? キャラメリゼは、メイラード反応は、どうなった? 脱水が大事なんじゃなかったのか? こんなことを繰り返していると僕は狼少年になってしまいそうだ。だからこの際、一度、徹底的に“炒めない”ということを突き詰めてみようと思った。 ……というのは、嘘で、ひょんなことから炒めずにカレーを作る羽目になったのである。10,000人カレーというイベントがあった。カレーを仕込まなければならない。のだけれど、ラボは地方からの参加者に貸し出すことにしていたから、僕が作業する余裕はない。鍋だけ持って買い出しへ行き、自宅で作ることにした。ところが、帰宅したときに大事な